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場当たり要請?

さて目下のところ緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が鋭意延長中だが、先週末から高級ブランド等の営業を拡大させていたそごう・西武など百貨店大手は都からの要請で20日から当面の間高級衣料売り場を休業すると発表している。実にわずか1週間ほどで再び休業の憂き目に遭った格好だが、他の老舗大手もどう対応すべきか検討しているという。

この辺に関しては当初は「生活必需品」のガイドラインを明確に定めておらず百貨店各社の裁量に委ねられていたものだったが、当欄で何度か取り上げたホテルの大広間で開催される「逸品会」などのイベントなら兎も角も百貨店の高級ブランドフロアで人が密になる光景は考え辛くこの辺も一括りで縛ってしまっている弊害だろうか。

また百貨店といえばテナントで入っている某サロンに施術の予約をしていたところ施術のメニューでもあるものはOK、しかし一連の施術延長線上にある別のメニューはNGでキャンセル扱い要請の電話があった旨の話を知人から聞いたが、当の現場スタッフもこの辺には甚だ疑問を感じているらしい。

生活必需品に限らず予てよりイベント関係は開催OKで美術館や動物園、映画館はNG等という線引きがわかりにくいとの指摘は多く、あまりに場当たり的と都や政府への憤りを感じている向きは多いだろう。人流抑制のエビデンスや宣言解除の目安となる明確な数値の提示も無く、押し付けの要請で振り回すやり方も何れ何処かで限界が訪れようか。


普及への距離感

さて先週はインフレ懸念が売りを誘い日米共に株価が大きく突っ込みを見せたが、株式と共に大きく値を崩したモノにビットコインはじめとした暗号資産もあった。この辺の背景の一つには2月にビットコインを15億ドル購入し翌月には米でEV等の自社製品についてビットコインンによる決済を受け入れ始めたものの、先週に一転してこのサービスを停止表明したところが大きい。

当初年内には米国外にも拡大すると意欲を見せていた話題のサービス導入発表からわずか3ヵ月での方針一転の背景には環境に大きな負荷をかけてはいけないとの理由があったようだが、今朝はテスラの売却否定発言で漸く下げ止まったビットコイン相場も発言直後には約10%ほど下落しテスラ本体も約3%下落し4日続落となっていた。

またマスク氏といえばわずか1ヵ月の間に800%の暴騰を演じた同じ暗号資産のドージコン支援も有名なところだが、こちらも米人気バラエティー番組内で詐欺とを発言したのを受けて同番組放映時間後に3割以上もの暴落を演じている。斯様な急変動を目の当たりにすると、他企業も挙って決済手段としての参入を計画しているもののその普及にはやはり疑問を感じざるを得ないのが正直なところか。

ボラティリティに対する仕組みの構築や関連手数料コスト、盗難リスクの問題等々課題は多いが、SECなどは予てより暗号資産市場へ監視を強めている。また直近では米司法省とIRSが暗号資産交換業者で世界最大規模のバイナンスHDに対してマネロンや脱税などの疑いで情報収集しているとの報も入ってきており先ずはこの辺の動向を注視しておきたい。


ダイハード4.0の現実化

今週は周知の通り米国最大の石油パイプライン運営コロニアル・パイプラインがハッカー集団らと思われるサイバー攻撃に遭いパイプラインの稼働停止にまで至ったとの報が世間を騒がせていたが、先の水道浄水施設のハッカー攻撃と併せ2007年に公開されヒットしたハッカー集団が金融機関やインフラを狙うという筋書きの映画「ダイハード4.0」が瞬時に思い出された。

14年前の娯楽映画がまさか本当に現実のものになってしまうとは当時は想像もしなかったが、これに限らず本邦企業も先月から今月にかけてだけでもゼネコン大手の鹿島、センサー機器大手のキーエンス、また直近では印刷機大手の小森コーポレーションなど続々とハッカー集団によるサイバー攻撃に遭い金銭の支払いを要求されるなどの被害に遭っている。

本日政府はサイバー攻撃を念頭にサイバー分野の防御力を強化するのが柱の次期サイバーセキュリティー戦略の骨子をまとめ昨日発足が正式に決まったデジタル庁との連携も進める構えだが、台湾など近隣諸国と比較しても先のコロナウイルス接触確認アプリのお粗末さに見られるようにデジタル分野でも心もとないのが現状。一昨日取り上げたワクチン同様にこの分野も後進国落ちと揶揄されぬよう官民共に対策強化が喫緊の課題なのは言うまでもない。


世界経済の覇者

さてインフレ懸念から直近でこそマネーが流出している米のテック株群だが、これらのうち主力のGAFAは先月末までに発表された21年1〜3月期決算ではアルファベットの純利益が1年前の2.6倍、アップルは同2.1倍、フェイスブックも同1.9倍、アマゾンは巣ごもり消費に加えクラウドサービス事業も好調で実に3.2倍と何れの企業も破竹の勢いとなっていた。

というワケではこのGAFAが3ヵ月で稼いだ利益は実に6兆4000億円とまさに前代未聞な数字となり何かと本邦企業と比較するのもあれだが、例えば日本を代表?するトヨタ自動車の昨年の純利益が約2兆円相当として考えると実に同社の3年分の利益をたったの3ヵ月で稼いだ計算になる。

昨年はテスラの時価総額がトヨタ自動車のそれを超えたのも束の間、わずか半年足らずであっという間にこのトヨタ自動車含めた日本を代表する自動車9社をも上回った旨を書いたのを思い出すが、改めて日米の新陳代謝の違いを見せつけられると共にイノベーション力を武器にビジネス拡大を狙っていたかつてのガムシャラさがすっかり色褪せてしまった感は否めない。


株もワクチンも

本日の日経平均は値嵩系への売りなどから4営業日ぶりに急反落となっていたが、先週の日経紙夕刊・投信番付で冒頭に「日本株の上昇率は中・長期で欧米株に見劣りし、いまだ史上最高値を更新できていない。」との一文があった通りでマーケット関係者は一様に口を揃えてこの出遅れを指摘する声が多い。

機関投資家需要含め様々な要因が考えられるが、ワクチン格差や直近の中国問題を挙げる声も多い。ワクチンに関しては昨日の日経紙・インサイドアウトに新型コロナウイルスワクチン開発で日本は米中ロばかりかベトナムやインドにさえ遅れを取っている旨が書かれていたが、果たしてその接種率も惨憺たるものでこの影響がサービス業のPMIなどに色濃く表れているところ。

もう一つの中国問題といえばやはり新疆ウイグル自治区問題だが、日経平均への寄与度の高いファーストリテイリングなどの主力がこうした渦中に居るだけにこの辺が足を引っ張っているか。何れにせよワクチンにしても生産拠点にさえなれない現状を見るに後進国に成り下がったと言われても止む無し。本日の日経朝刊には宝島社の考えさせられる全面広告があったが、マーケットも政治・行政劣化の影響を受けている部分も多分にあろうか。


親超え企業価値

さてGW期間で営業日が2日のみであった先週の株式市場だが、先週末の日経紙投資情報面にて「時価総額でキリンHD超え」と題し取り上げられていた通り、協和キリンの時価総額が同社株の5割を保有する親会社のキリンHDを初めて上回るという所謂「親子逆転」現象が見られた。

2008年にキリンHDが連結子会社として以来協和キリンの下鞘が通常であったが、昨今のキリンHDはミャンマー政変による事業影響への懸念から右肩下がりが続く一方、協和キリンは骨の病気の治療薬や新薬開発への期待を背景に値位置を切り上げ先週末には年初来高値更新と対照的である。

同紙ではこの手では他にGMOインターネット・GMOペイメントゲートウェイ等も挙げられていたが、これら以外でも例えば大型TOBが成立したNTT・NTTドコモも然り、またパソナグループが株式の50%を保有する傘下のベネフィットワンなどはその時価総額がパソナの5倍超となるなど冒頭の協和キリンどころではない格差だ。

これら極端にいえば親会社の株を保有している株主は会社解散で小会社の株式を現金化すれば利益が出る勘定とも成り得るワケで、企業価値の逆転現象に対しアクティビスト含めた投資家の視線も厳しくなるにつれ下鞘な時価総額に甘んじている「親」も企業統治の観点含めその身の振り方が問われる場面が出て来る可能性も今後高くなりそうな気がする。


オリジナル証明?

さて、前回は過剰流動性の受け皿となっている現代アートのオークションなどを取り上げたが、もう一つの受け皿として最近話題になっているモノにNFT(非代替性トークン)なるものがある。ちょうど4日の日経紙でも「高騰デジタル資産アートか投機か」と題しデジタルで作成したアート作品や音楽を売買する市場が個人間でも高値で落札されるケースが出て来るなど急速に拡大する旨が出ていた。

このNFT、なんとなくその存在を知ったのが一寸前に世間を騒がせたツイッター創業者の最初のツイートに3億円の値が付いた件か。またあの老舗クリスティーズが現代アートのNFT一作品をオークションにかけたとの報もけっこうな驚きであったが、それが実に約75億円という誰もが知る著名画家並みの値段で落札された報も衝撃であった。

これら巨額の案件はそれとして若手のVRアートやゲーム会社によるトレーディングカードなども瞬時に売り切れる鉄火場市場となっているが、上記の含めこうした熱には当然ながら暗号資産の高騰という背景がある。ブロックチェーンの絡みでビットコインと共に史上最高値を更新したイーサリアムもロスチャイルド・インベストメントがその投信を購入するなど枝葉の動きも顕著になってきている。

しかし普通に考えればデータそのものはコピー出来るモノに付ける値としては本質を無視したようにも思え、暗号資産バブル?終焉まで適正価格という部分に関しては疑問符も付くが、曲がりなりにもオークションにかけ難かったデジタルモノをNFTが解決しクリスティーズでさえテクノロジーを活用し新たしいマーケットに進出している事に改めて時代の潮流を感じるというもの。


投資対象としての受け皿

さて先週の日経紙夕刊でニューアートラボの「草間彌生展」の広告が載っているのを見たが、この草間氏の作品は言わずもがな何所のオークションでも人気で、ちょうど先週末に代官山で開催されたSBIアートオークションは2018年に360万円の値が付いた同氏を象徴する題材の「かぼちゃ(上海南瓜)」が今回約2倍の額の落札となった。

昨今の株高とも相俟って過剰流動性は投資対象の一つとしてアートの世界へもグイグイ侵食してきたが、この辺は当欄で2月に取り上げたニューオータニで開催された「春の逸品会」でも見られた通りで、外商さんが小走りに忙しく行き交う会場内の各ブースでは高額品が続々と成約され顧客が気分良さそうにシャンパングラスを傾けている光景が彼方此方で見られた。

この時も書いたがダイヤのルースから不動産、時計に至るまで現在のマーケットは投資対象としても裾野の広がりを見せ循環も効いており、冒頭のオークションも3ヵ月に1回程度開催されており登録制となっているがこの1年で新たに約2300名が登録したという。過去の金融緩和局面と比べてもコロナ禍でサービス消費に流れ難いぶん、高額品にこの手の富裕層のマネーが向い易い環境となっているだけにまだ対象範囲の伸び代はあるか。


メルカリ以来のユニコーン

先週木曜には新興市場で前人気の高かった銘柄がIPOとなったが、果たして何れも好スタートを切っている。先ず小粒の方からジャスダック上場のネオマーケティングは公開価格1,800円に対し初値は2.1倍の3,800円のロケットスタート、マザーズ組からはステラファーマが公開価格460円を54.7%上回る712円の初値形成となり、同じく同ポストでは注目のビジョナルの初値が公開価格5,000円を43%上回る7,150円とこちらも好スタートとなった。

この求人サービスのビズリーチを傘下に持つビジョナル、18年上場のあのメルカリ以来の規模のユニコーンで市場からの吸収金額が682億円ある巨大な案件であったものの公開株式の大半を海外販売している事から思われているほどの荷もたれ感は無く通過、何れにしろこれでIPO銘柄の初値が公開価格を上回る連続記録は20年12月から42社となって12年12月〜13年12月以来の数となった。

これより前にQUICK IPOインデックスも今月上旬で2か月半ぶりの高値を付けていたが、直近上場組で知名度の高いところでは紀文なども上場後もなお順調に値を上げておりこうした部分に一役買っている。ここまで値動きの良さに個人も物色意欲を刺激されてきたものの、GW前だけに冒頭銘柄など上場後の利確の動きは否めないところだが連休明け後に再度物色熱が戻って来るか否かこの辺にも注目しておきたい。


今度は電気

さて、最近では大手百貨店などからも各自治体の特選品を謳ったふるさと納税の案内がメールで頻繁に案内されるようになったが、返戻品ではこの1年間コロナ禍を映してマスクや非接触性グッズの人気が高まり、大手トラストバンク調べでは今年2月末までの衛生・感染対策品の寄付件数は前年同期比で約17倍に急増した模様だ。

地域色が豊かなマスクやユニークや非接触性グッズなど各々知恵を絞った跡が窺えるが、これに絡んでは先週末に一寸気になるニュースが舞い込んでいる。すなわち東北から九州まで全国九つの自治体で太陽光御発電や洋上風力発電、また地熱発電などにより出来た「電気」を返戻品としていたところ総務省から待ったが掛かったという件。

総務省の見解としては大手電力会社等が整備した電線を使った供給では他の地域で発電した電力も混じってしまう為返戻品としては相応しくないという事だが、他の自治体に無いものとして出していたアイデアで総務省の標的にされてしまった件ではこれまで資産性宝飾品で一括りにされてしまった真珠や他に家具の類も標的にされた事があったのを思い出す。

一頃過熱していた返戻品競争も総務省による例の3割規制で一定の歯止めがかかった経緯があったが、昨年のふるさと納税はコロナ禍を背景に外出自粛による巣ごもり消費等が影響してか寄付額が過去最高額を更新する自治体が相次いでいるという。飲食や百貨店向け販売の落ち込み分の格好の受け皿となっている形だが、総務省の杓子定規な判断が斯様な好循環に冷や水にならぬよう願うばかりか。


非公開化の是非

さて突如として東芝に対し2兆円超の買収提案をして世間をザワつかせた英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズだが、その直後には東芝の社長辞任にまで発展した挙げ句に昨日は果たしてというか東芝側がこのCVCキャピタル・パートナーズから東芝買収に関する検討を中断するとの書面を受け取るに至りこの案件は事実上の撤回となった。

このCVCキャピタル、プライベートエクイティファンドだけあって非公開化を前提にしていたワケだが、1月に東証二部から約3年半ぶりとなる東証一部へ悲願の復帰を果たしていた東芝が、そこから僅か数カ月でアクティビストと対立した挙げ句の上場廃止となりましたという事になったとしたらこれは東証にとっても立場を考えるに内心穏やかでなかったのは想像に難くないか。

複数のアクティビストからの耳が痛い要求の回避目的を狙っての非公開化の選択であれば現在進めている建設的な対話を通じての企業価値の向上を目指す協調を否定する事になるワケで、斯様な事から今回の案件はコーポレートガバナンス改革の有効性に疑義を挟むものであったが、今後日本市場の成熟が叶うか否か東証のプライム市場構想含め改めていろいろと考えさせられるこの2週間でもあった。