ファストトラックの是非

昨日の日経紙ビジネス面では米新興「アンソロピック」が米で株式上場を申請した旨の記事があった。未上場の同社は既に5月下旬の増資時の評価額が9650億ドルに達しているが、IPOでは1兆ドルを大きく上回る時価総額を目指すとみられる。米新興では先にスペースXはナスダックへの上場計画を発表しているが、これら含め「オープンAI」など有力3社の年内上場が濃厚となっている。

さてこういった“世紀の”IPOイベントを控え取引所もルール変更で対応の構えだ。上記のスペースXが上場予定のナスダックは、同取引所上場の主要企業で構成する「ナスダック100」に組み入れられる制度改正案を施行、一つはファストエントリールールで、時価総額がナスダック100指数の上位40社に相当する企業については条件を満たせばIPOから15営業日で指数組み入れが可能になる。

時価総額に次いでもう一つは浮動株比率要件の変更で、これまで指数に採用されるためには浮動株比率が最低10%必要だったがこれを撤廃する。上記の有力3社に関してはこの浮動株比率がいずれも10%未満となる見込みとなっており、こうした浮動株比率要件変更の背景にはいわずもがなこうした巨大ユニコーン企業を早期に指数に組み込みたいという狙いがあると思われる。

但しこれらの要件変更では指数連動型の機械的な買いによる需給の歪みに価格観察機能の欠如も指摘されているほか、年金基金からも不安の声が上がっている。加えて話題性こそ抜群だが、スペースXは1年で最終損失49億ドルを計上しているなどいずれも成長投資が先行する赤字企業なだけに、この辺と併せてどういった株価形成になるのか先ずはスペースXの上場初日が待たれるところ。


食品メーカーの憂鬱

さて中東情勢の影響が広がるなかで恒例の今月の食料品値上げ状況だが、帝国データバンクによる主要食品メーカー調査では6月値上げ予定の飲食料品は1078品目、前年同月比では約半分にとどまるものの先月比では約13倍と急増している。食品分野別では最多が調味料、次いで加工食品となるが、値上げ品目総数は早ければ今月中にも5年連続となる年間1万品目突破が判明する見通しという。

値上げもさることながら上記の主要食品メーカー各社にとっては中東緊迫が気になるところだが、27年3月期に中東情勢の影響でどの程度のコスト増を見込んでいるかの集計では主要8社で最大845億円になるという。こうした影響に対してはどの程度価格転嫁が出来るかが焦点となろうが、この物価高でただでさえ消費減退ムードのなか思い切った値上げは各社逡巡している感もあり、今後場合によっては業績予想の修正を強いられる向きも出てこようか。

とはいえ企業努力で賄えない部分では粛々と値上げは続く見込みで来月の値上げ商品は更に倍増予測だが、一部企業では従業員サポート手段として食事補助の非課税枠に注目据える向きも出てきている。いずれにせよ11兆円以上も投入した介入効果虚しく円安基調は変わらないうえ、中東情勢の影響も不透明なだけに引き続きこれらに注視しつつ身構える動きが続くか。


いよいよ配当株に

本日の日経平均は米とイランの停戦協議が停滞するなか3営業日ぶりに反落し下げ幅はザラバで1400円近くまで急落する場面もあった。そんな中で本日も逆行高で注目を浴びたのがやはりキオクシアHD株で、後場に入るとほぼ一直線の上昇を演じ連日の年初来高値更新となり、その時価総額も42兆円に乗せ昨日書いたソフトバンクGに次ぐ2位のトヨタ自動車をはやくも指呼の間に捉えている。

このキオクシアHDだが本日は投資家説明会が開催されており、その席上では半導体メモリー需要増に加えて財務体質の改善を背景に早ければ2027年3月期下期にも配当を開始する方針を明らかにしている。配当に関しては配当金を減らさずに維持するか増やす累進配当を導入の模様だが、予てより同社が配当株になる期待が囃されていたが早々にこれが叶った格好だ。

そういった事も追い風となった高値更新だろうが、大手金融機関の投資判断の上方修正などの追い風も吹く。先月末にはゴールドマンサックス証券が投資判断を最上位の買いにして目標株価も93000円に引き上げており、また香港のアレテイア・キャピタルに至っては目標株価を20万円と設定している。彼らの目論み通りまだまだ上昇の伸びしろがあるのか、“まだはもうなり”なのか高校生まで手を出す同社株の動向に注目が怠れない。


22年ぶり首位交代

本日の日経紙では「仏にデータ拠点14兆円」と題し、ソフトバンクグループがフランスで最大14兆円を投じてデータセンターを建設する旨の記事が一面を飾っていた。新設するデータセンターは同社として欧州発のAI拠点となるが、AI(人工知能)に必要な計算資源を米国だけでなく欧州でも確保することが目的で、将来的な収益寄与拡大を期待した買いの矛先が向かい本日も同社株価は大幅続伸し上場来高値を更新している。

このソフトバンクGの上場来高値更新によって同社の時価総額は終値でも49兆円に迫り、これで遂にこれまで時価総額トップを誇ってきたトヨタ自動車を上回り国内企業の時価総額トップに躍り出ることとなった。トヨタ自動車が首位の座を明け渡すのは実に22年ぶりのことになるが、一昨年には約50兆円も開いていた差がわずか2年で埋まり逆転したことになる。

当欄でも昨年の8月に一寸触れているが予てより同社は投資会社の色彩が濃くNAV(時価純資産)で大幅ディスカウントが指摘されてきており、本日の急騰の一因も仏のデータセンター新設と共に傘下の英半導体設計アーム・ホールディングス株が上昇したことも大きい。これら含め期待される成長部分が将来のキャッシュフローとして実現してくるかどうか、引き続き投資企業の動向含めこの辺を見ておきたい。


金の密・輸・出

今週あたまの日経紙総合・経済面では財務省の貿易統計による金地金などの金の輸出額が出ていたが、それによれば金の輸出額が昨年25年度に4兆884億円と1兆734億円増加した旨が出ていた。36.5%の増加だが統計で遡れる1988年以降で最大量という。25年度の輸出量と輸入量の差は200トン超えと金額換算では前年度から1兆円近く伸びているが、金の産出量等から勘案するに密輸品の流出拡大が推測されている。

先週も大阪で香港から金を密輸して日本で換金し国外へ持ち出す行為を繰り返していた疑いのある男らが税関から摘発されていたが、昨年の金密輸の摘発件数は192件となり20年の実に3.7倍、押収量も約425㎏と同2.8倍にのぼる。摘発の約4割を香港からの密輸が占めるというが、これはいわずもがな消費税の無い香港と10%の消費税がある日本の“鞘抜き”を狙ったものだろう。

この密輸、その方法も今だに体に巻き付けるなど原始的な輩も捕まっているが、年々巧妙化してきており国際線から国内線の切替わりで税関検査の無い部分を突いたり、上記の例では輸出手続きの為に出入り出来る許可証を悪用するなど如何に穴を見つけられるかが成功率のカギだ。こうした新事例が出る度にその都度税関とのいたちごっことなるわけだが、もう知恵比べの領域に入ってきている。

折りしも来月には平凡な主婦らが闇バイトを通じてこの“金の密輸”に手を染めるというストーリーの映画「マジカル・シークレット・ツアー」が劇場公開される。史上初ともいえる東京税関とコラボしたイベントまで行われ、映画化されるのはある種もう社会現象ともいえるのだろうが、近年の価格上昇で“うま味”は増しているだけに限界のある水際対策だけでなく受け皿も含めた包括的な対策が求められてこようか。    


世界最弱通貨?

本日の日経紙総合面には「円、「最弱」トルコに見劣り」と題し、様々な通貨に対する円の総合的な実力を示す「実質実効為替レート」が変動相場制移行後の安値を更新した旨が出ていた。一部異論が出ているものの元ゴールドマンサックスの為替チーフストラテジストであった米ブルッキングス研究所シニアフェローは「日本円がトルコリラを下回り世界最弱通貨になった」と投稿しているにも話題になっているという。

これと並んでもっとざっくりしたモノに「ビッグマック指数」があるが、当欄では2月に「指数に見る日本の位置」と題し今年の日本のそれは下から数えた方が早い48位に沈みウクライナにも及ばない状況というのを書いている。ウクライナにトルコとかつては比較対象の俎上にもあがらなかった向きが今や見上げた上に位置するという始末だ。

ところで冒頭のトルコといえば自国の通貨防衛のために各国中銀が金準備を積み増す中でこれら外貨準備を減らしていることが報じられているが、曲がりなりにもそれが奏功し実質実効為替レートは上昇し日本のそれとは明暗を分けている。片や日本は商いの薄い時を狙って対処療法的な為替介入しか打つ手が無くなってしまっているが、さて来月の利上げはどうなるのか日銀の判断とやらに注目したい。


沼るボラティリティー

本日の日経紙投資面には「株価の乱高下、新常態に」と題し、AI・半導体関連株にマネーが集中しボラティリティーが高まったことで日経平均の取引時間中の値幅が1000円を超える日が相次ぎこれが“新常態”となっている旨の記事があった。日中値幅が1000円以上になった日数では今年は昨日迄で41日と最多を記録、月間変動率も昨年10月以来、半年ぶりの高水準という。

上記の通りこれらを創り出しているのが一部のAI・半導体関連株で、筆頭格はやはりキオクシアHD株だろうか。本日も上場来高値を更新した後は反落となっているが、この値段だけに値幅も悪魔的で昨日は寄り付きで最低単元買っただけでも引けで約15万円の値洗い益が、反対に今日の寄り付きで最低単元買っていたら大引けの値洗いで約35万円が飛んだ計算になる。

こうした動きは若年層をも呼び込み本日の日経紙の別の頁ではバイトでためたお金でキオクシア株を買った高校生の話も出ていたが、これを見ていると分割ラッシュと話題性で沸いたかつてのライブドア株を小遣いをためて買ったという小中学生の映像を思い出す。その後同社は上場廃止の憂き目に遭ったわけだが、勿論キオクシアの方はしっかり裏付けもあり全く別物とはいえマル信枠で目一杯張っている向きなど見るにチャレンジャーだなと感心する。

まあ余計なお世話だが、今のAI・半導体株はかつてのまだ上昇半ばにあったビットコインの如くなのかどうか?期待値から株価が業績に見合わないケースは多いが、今のこれらは逆で業績に株価が追い付いていないとみられている。なのでバリュエーションからまだまだイケるという理論だが、宴の行方をいましばらく見させてもらおう。


お茶の明暗構図

本日は抹茶を点てていただく場に招待いただいたのだが、抹茶といえば先週末の日経紙夕刊では「抹茶、海外向け増産」と題し、欧米を中心とした日本食の広がりや健康志向の高まりを背景に抹茶の引き合いが強まっている事で製茶問屋などが海外向け抹茶生産を増やしている旨の記事があった。そういった事も背景に農水省の方でも先にこれを増産する方針を発表しており、大手企業などでも生産能力を倍増させる動きも一部出てきている。

以前も書いたと思うが、一昨年の荒茶の価格は煎茶が1㎏1197円、対して抹茶の原料のてん茶は1㎏3278円と約2.7倍となっており生産量も10年前から2.7倍に膨らんでいる。そういった事で抹茶を含む緑茶の輸出額は約10年前の2015年で100億円くらいだったものが以降右肩上がりが続き、2024年には364億円、昨年2025年には前年比98%増の721億円にまで拡大している。

こういった事で国の動きもさることながら東京都も煎茶から抹茶への生産切り替えを支援し、茶農家の間では煎茶からの転向組が急増してきている。とはいえ茶葉に直接日光を当てる露地栽培とは違って、抹茶の生産では畑でカバーをかけ日陰で葉を育てる被覆栽培というカバーをかける手間がかかる作業が必須で高齢農家には厳しい環境になっている側面もある。

加えて若年層の茶離れや冠婚葬祭向け需要の減少など煎茶消費は縮小傾向になってきており、これと相俟って製茶業者の休廃業は過去最多になっている。抹茶人気の裏でこうした陰の部分も露呈しつつある構図だが、サプライチェーンの縮小に対し加工に注力など生き残りをかける動きもみられるが、いずれにせよ抹茶ブームが業界に多大なる影響を与え転換期に差し掛かっているのは間違いのないところだろう。


政府売上高目標と課題

さて、昨日からモスバーガーでは一部除く全国の店舗で「米粉入りバンズのアボカドバジルバーガー」なる新商品の販売を開始している。主要原材料に動物性食材を使わず植物由来の主原料を使用したモノというが、これまで同社ではバンズの代りに具材を野菜で挟んだ商品を展開し数年前からはソイパティ商品の販売をしているがこのラインナップに新顔が加わったかっこうだ。

ところで植物由来といえば、これらを使った食品やビタミンなどをバランスよく含む機能性・栄養食品について政府は2040年までに3兆円に売上高を伸ばす目標を作る旨の記事を昨日の日経紙経済・政策面で見かけた。高市政権が掲げる戦略17分野に含むフードテックの中に新規食品として位置付け、植物工場や食品製造機と並んで集中的に支援する意向という。

3月に東京ビッグサイトで開催された「FOODEX JAPAN」においても日本勢からはプラントベースフードの類が多数開発され出展されていたが、東証プライム市場に上場している食品大手も早くからこの分野に参入し売り上げ目標を計画に掲げている。これらに見られるように世界市場でもこのマーケットは拡大の一途にあり、数年前の約3兆円から2030年には5兆円超えの予測が出ている。

とはいえ国内の課題として“美味しさ”に加え価格面など解決すべきものは多いか。著名な料理人が商品をジャッジする某バラエティー番組があるが、かつてプラントベースフードを使ったメニューでは味の壁が立ちはだかり全員が不合格判定をした場面を見た事がある。日本は発酵調味料など素晴らしい食文化を持ち海外勢からも非常に注目されているだけに、健康志向という大義名分を超え“味”で選択される商品を如何に開発出来るかが焦点になろうか。


過去最高純益見込みでも年初来安値

長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが29年半ぶりの高さまで上昇しているなかで株式市場では不動産系が軒並み弱含み、今週はTOPIXの不動産業や東証REIT指数が揃って年初来安値を更新してきている。これらセクターには有利子負債の観点から売りの矛先が向いてしまうが、加えて建設費の高騰や中東情勢緊迫化で建設資材供給への影響も重なり新築マンションの引き渡しにも影響が出ている模様だ。

建設費高騰といえば先週は帝国ホテルが建設費やエネルギー価格高騰のあおりを受けて立て替えを予定している本館についてその時期を未定とすることを発表している。また西武ホールディングスも同じく先週に再開発のために今年中に営業を終えるとしていたグランドプリンスホテル新高輪の営業を建設費高騰のために計画を精査するとのことで来年4月以降も継続すると明らかにしている。

他、都内では各所での再開発が建設費高騰によって頓挫してしまったパターンも少なくないが、各社純利益が過去最高になるとの見通しのなかで先週は三井不動産、本日は住友不動産が年初来安値を更新している。REITも投資口価格の下落で分配金利回りが高水準になっており、いずれも補正予算財源やら中東情勢など不透明な環境の影響による業績への懐疑心の現れだろうがこの安値拾いが奏功するのか否か見極めも難しい局面だ。


早くも猛暑日続出

ちょうど1週間前に気象庁は夏までに地球規模で豪雨や干ばつ、高温といった異常気象をもたらすエルニーニョの発生確率が90%に高まっていると発表しているが、昨日に続き本日も都内はかなりの暑さに見舞われ東北でも今年初の猛暑日を記録している。既に今月の真夏日地点は5月中旬としては過去最多を記録しており、早くも熱中症対策に欠かせない“暑熱順化”の準備やエアコン使用の推奨と喧しい。

エルニーニョといえば先週末の日経紙ではさらにNOAA(米海洋大気局)で“スーパーエルニーニョ”が10年ぶりに発生する可能性が高まりを発表した旨の記事もあった。これまでにこれが発生した時期には特に豪雨や干ばつなどで作物の生産に甚大な影響を及ぼしているが、加えて足元では中東情勢の緊迫化で生産や輸送を頼る尿素肥料も値上がり急となっておりアジア圏ではこの肥料が不可欠なコメ作り本格化を控え世界の供給量に暗雲が漂う。

気温が上昇することによる経済効果もあるが昨今の猛暑や酷暑は経済損失の方が遥かに多く、上記の農産物への影響は24年以降の5年間で世界規模で5兆ドルの損失が試算されており、また労働生産性への影響では2030年度には2兆4000億円の損失との試算も出ている。上場企業なども開示項目でこれらに絡んだものも義務付けされているが、今年も未知の異常気象に身構える動きが続きそうだ。


自社株買いラッシュ

前回の当欄では分割ラッシュとして昨年度の株式分割の発表件数が前年度比で36%増加、今年も多くの企業が分割に踏み切っている旨を書いていたが、この分割よろしく自社株買いもまた盛んだ。先週は週明けから20銘柄に迫る発表があり、翌12日はKDDIほか30銘柄以上、13日は三井住友FGほか40銘柄以上、14日はニッスイほか50銘柄以上、週末は三菱UFJほか地銀勢多数で30銘柄以上が自社株買いを発表している。

ちなみに昨年設定された自社株買いの取得枠は全体で22兆3250億円と前年度比で18%増えてその増加は5年連続となった旨を先週日経紙が報じているが、依然として東証が企業に要請している資本コストや株価を意識した経営がこれらの拡大を後押ししているか。加えて近年では手元資金も潤沢になってきており、自社株買い規模も対時価総額比でかなり高いところを出してきている企業も出てきている。

この辺に関しては東証要請に加え今年は5年ぶりのコーポレートガバナンスコードの改定を控えているが、先に書いたように改定案では今回は特に現預金を含めた経営資源の配分による投資の促進など企業が抱える現預金を有効活用できているかどうか取締役会に検証を求める項目が盛り込まれ一段とその意識が問われる部分が意識されている部分も少なくないだろうか。

企業がこれまで内部留保を積み上げてきた背景には日常の資金繰り対応に加え災害や地政学リスクなど危機への備え等という部分が大きかったが、足元では中東情勢の緊迫も先が読みづらい状況が続く。これに絡んでナフサ不足の影響も日々表面化してきているが、今後この拡大しつつある自社株買いの伸びにもこうした部分が影響を及ぼしてくるかどうかにも注意しておきたいところだ。