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ダイナミックプライシング拡大

さて、今月からJR九州は九州新幹線で最も利用客が多い博多・熊本間の割引切符で需要に応じて値段が変わる「ダイナミックプライシング」の仕組みが導入されている。ネット限定の割引切符「九州ネット早得7」が対象だが、従来の料金が3段階に変動するものでこの制度の導入による混雑の緩和が狙いという。

この鉄道関連では当欄で2年ほど前に国土交通省がダイナミックプライシングの導入に向け、鉄道各社が運賃を変え易くするための法改正など制度設計に入る旨を書いたことがあったが、既に交通インフラでは高速バスから航空会社まで導入されているほか、ホテル、エンタメや先週に書いた東京ディズニーリゾートでも3年前からこれを導入し来場者の分散が図られている。

最近ではウーバーのCEOも日本のライドシェア問題でタクシー料金にもダイナミックプライシングを導入し利便性を向上すべきとの考えを示していたが、コロナ禍を経ての社会の変化と共に行動様式の変化も著しくなりこれまで以上に価格の在り方も変化しているのは間違いの無いところで、今後も各所への同システムの広がりが予想されるところ。


インバウンド&外資進出

昨日は国税庁から相続税などの基準となる2024年分の土地の価格である路線価が発表されていたが、全国平均で去年より2.3%上がり3年連続での上昇となった。最高路線価地点のうち全国トップの上昇率となったのは26年以降にシンガポール系のバンヤンツリーの開業が周辺で予定されている長野県の白馬村で32.1%、インバウンド等が背景となり同様の理由で東京都内では浅草が16.7%でトップとなっていた。

また上昇率全国2位となったのは熊本県の菊陽町で24.0%の上昇となった。これはもういわずもがな台湾の半導体メーカーTSMCの工場進出でそれに関連する産業の集積が背景となっているが、前述したようにこれによって関連下請け業者から周辺の飲食系まで売り上げが倍増し、中には思わぬ借地料が舞い込むなどさながらバブル化の様相を呈しているところも出て来ている。

そういえば昨年の今頃はこの路線価を基に計算しているマンション評価額に絡み国税庁が所謂タワマン節税にメスを入れ始めた旨を書いた覚えがあるが、それは兎も角も今年はインバウンドとTSMCが大きく影響した。TSMCの進出で台湾では熊本ブームからツアー客も増加しこれがまたインバウンド活況に一役買っている。ちなみに全国の最高価格は1㎡あたり4424万円の東京銀座の鳩居堂前、此処は不動の3 9年連続である。


コストプッシュ型再燃

さて月初め恒例の今月の値上げ状況だが、帝国データバンクによれば主要食品メーカー195社における家庭用を中心とした7月の飲食料値上げは411品目、前年同期比では7か月連続で大幅減となったものの、今年値上げが予想される品目数累計は3年連続で1万品目を超えた。

今月に全食品分野で最も多かったのは「酒類・飲料」の199品目、メルシャンはワイン全商品の4割に当たる約130品目の出荷価格を引き上げるが、ワイン離れが言われるなかの値上げ敢行で消費に更なる暗雲が漂う。ほか「菓子」などは不二家のルックほかあのチロルチョコが内容量を減らすなど先月に続きチョコレート製品の値上げが目立った。

チョコといえばカカオ豆も生産地の異常気象と物流コスト、嗜好品の需要増大、投機マネーの流入などを背景に高騰、今年3月にはカカオ豆の先物価格がNY市場で初となる1トン1万ドル超えを記録している。当時の銅価格1トン9000ドルを上回る事態となり話題になったのが記憶に新しいが、オリーブオイルよろしく今後の更なる値上げは避けられないだろうか。

総じて値上げ要因として原材料高は言わずもがなやはりというか円安による値上げも約3割を占めたが、この円相場も前回の値上げラッシュ時より更に現在は崩落している。一頃の円安是正による輸入コスト低減への期待感も吹き飛び今年1月のビッグマック指数もマイナス46.5と過去最低を更新、購買力が落ち買い負けし易くなっている日本の消費者への影響が懸念される。


夢の国の新エリア戦略

さて、今月は東京ディズニーシーで8つ目となるテーマポート、「ファンタジースプリングス」がオープンしている。その投資額は実に3200億円、開業以来で最大の拡張ということでシーの総面積はこれでランドを上回る事になる。東京ディズニーリゾートもはや開業40周年という事でその客層も親子3世代に広がっており、高齢に差し掛かった世代にも認知度の高いピーターパンも取り入れているのが印象的だ。

この新エリア、入るためには新エリア内のホテルに宿泊するか先着順のパスもしくは短い待ち時間で利用できる有料パスを購入する必要があるが、予定より45分前倒しで開園した初日は早いところで4分後には一部のディズニー・プレミアアクセスが予定発行枚数に達し取得終了のアナウンスが流れるなど入場後にも新たな壁?が立ちはだかる。

新エリアといえばファンタジーシャトーとグランドシャトーの2棟からなるホテルも注目すべきで、これまでの直営で展開するバリュータイプ、モデレートタイプ、デラックスタイプに続き、今回のグランドシャトーは初の最上位となるラグジュアリーの位置づけとなる。この辺もまた冒頭の3世代を意識しており、楽しみ方の多様化を受けホテルで過ごす時間を重視するなど星野リゾートのコンセプト?に通じるところもあるか。

OLCはこのホテル事業も絶好調だ。昨年4-12月期売上高は約670億円とあのインペリアルを凌ぐ規模で、その営業利益率30%超とこのインペリアルやプリンス系の10%前後を横目に大きく上回る。今回の新エリアは売上高で約750億円の押し上げ効果を見込み、客単価も800円程度上がる見込みというがその客単価も昨年度は16644円、コロナ前から入園者数は減少している一方でこの客単は逆に40%上昇しているという。量から質への戦略は着実に奏功しているといえ、まだまだ夢が覚める気配は感じられない。


中元商戦2024

今の時期は各所より多くのお中元案内が届くが、斯様に今月から始まった中元商戦がたけなわである。今年のお中元市場は企業の贈答廃止等の影響もあって前年からわずかに減少し6560億円と見通しと言われている。とはいえ百貨店にとってはこれがスタートする6月は重要月に位置し、各社ともこの商戦の売り上げは前年並み以上とする目標を掲げている。

今年は何処も酷暑に対応すべく「冷」を意識し、例えば三越では二幸の冷やしておいしいカレーや有名パン店の冷やしパン、ホテルブランドの冷やし担々麵を、また高島屋でも有名イタリアンレストランとコラボした冷温いずれも美味しく食べられるというデザート系ピッツァや、冷やしでも食べられるフォンダンショコラなど変わり種のラインナップを展開してきている。

今年は上記の商品をコラボした有名店のシェフ直々に説明を受けそれを試食するイベント等も行われており、この時期だけのグルメを特別体験できるバレンタイン商戦よろしくトキ消費化の動きも出て来た。活況を呈する百貨店の物産展では試食やイートインが人気だが、この中元の類も今後各社の戦略如何ではその規模も物産展を追う規模への拡大も見込めるかどうか注目されるところ。


広がるソバキュリアン

先週末の日経紙夕刊一面を飾っていたのは「ワイン消費曲がり角」と題し、若者の酒離れや質を重視する傾向の強まりを背景に2023年の消費量がピークだった17年から7%ほど減った旨の記事だった。確か数年前のぐるなび総研が発表する今年の一皿では「ノンアルコールテイスト飲料」が選ばれていたのを思い出すが、ソバーキュリアスも若年層にまで広がって来たということか。

このソバーキュリアス、シラフを意味するSoberと好奇心のCuriousを合せた造語だが、飲酒に懐疑的なライフスタイルがZ世代にも受けているという。ある調査ではZ世代で日常的に酒が飲みたいと答えたのは今や22%、酒は効率よく時間を使いたいという若者の価値観とはミスマッチで、このほか健康への悪影響などデメリットの方が大きく感じられている模様だ。

近年ではラグジュアリーホテルのバーなどでも挙ってモクテルなどノンアルのバリエーションが多彩になってきており、下戸には敷居高かったこの手のバーのハードルが下がったのは朗報だろう。このノンアルもこれまでドライバー向けの代替品扱いで消極的な飲まれ方をされてきたものだったが、こうした動きにより今後も商機が増え積極的に攻めてゆく場面も多くなりそうだ。


株主総会2024

今週は株主総会がピークを迎える。株主総会といえば今年も今月上旬の日経紙には昨年同様にアクティビストファンドのストラテジックキャピタルによる投資先企業への株主提案や課題が綴られた全面広告が目を惹いた。ちなみに今年も昨年同様にダイドーリミテッドや極東開発工業のほか、新たに東亜道路工業、淀川製鋼所、大阪製鐵、日産車体、京阪神ビルディングの6社が挙げられていた。

特に昨年に続いてのダイドーリミテッドはほぼ一頁を使い詳細な調査分析のうえの反対理由が書いてあったが、総会を前にSC側の株主提案に賛同し電子投票にて会社提案の取締役選任に反対する旨を行った株主に対し会社側から反対は間違いではないのかとの連絡があった旨の公表もあり早くもバチバチな雰囲気だが、両者共に東京地裁に検査役選任の申し立ても為されておりその行方が注目される。

取締役選任といえばグラスルイスやISSといった米議決権行使助言会社が会長の取締役選任議案に反対するように推奨していたトヨタ自動車は既に先週総会を終えているが、はたして豊田会長は再任となったものの、その賛成比率は昨年84.57%だったものが今年のそれは71.93%と約12ポイント強低下、その賛成比率は取締役10人中最も低い結果となった。

こうした議決権行使助言会社やアクティビストの提案等により、近年では選任議案で再任とはなったもののその賛成比率が首の皮一枚といった取締役も多くなってきた。かつてアクティビストといえばハゲタカ呼ばわりされネガティブな印象が世間に蔓延していたものだが、今や徹底したボトムアップリサーチで企業改革やガバナンスに踏み込んだ提案が企業の変革を促す原動力の一つともなってきているだけに機関投資家の賛同も集めはじめており、経営側もより対話の重要性が増してきているといえようか。


上期ヒット商品と日本価格

さて、今月は毎年恒例の2024年上期(1~6月)の日経MJヒット商品番付が発表されている。ちなみに昨年は東の横綱が「5類移行」、大関が「ChatGPT」、そして西の横綱が「WBC世界一」、大関が「インバウンド復活」であったが、今年は東の横綱が「新NISA」、西の横綱は「円バウンド」と昨年の大関が昇格?したようなかっこうになった。

しかし円バウンドとはよく言ったもので、外国人観光客によるインバウンド消費のプレミア化が止まる気配を見せない。豊洲や築地では「インバウン丼」なる造語まで今や誰もが知るところとなった1万円前後の海鮮丼や1本3千円超の牛串が連日飛ぶように売れるほか、百貨店では購入者の6割以上を占めるインバウンド勢向けにミキハウスなど従来商品の約4倍の価格設定の高級ライン「ゴールドレーベル」を展開している。

4倍の価格設定とはいえ所詮子供服だろと侮ることなかれ、何せパジャマの16万円超からはじまり、今年の秋冬用に発売予定のモノではそれこそロロピアーナクラスのラグジュアリーブランドでしか見たことの無い「ビキューナ」の毛を使用したベビーポンチョが110万円、子供用セーターは約97万、ブランケットが165万円と振り切った値段を打ち出してきている。

斯様にインバウンド勢と日本人の金銭感覚に差が出るのはとりもなおさず円安の存在が大きい。日米金利差の影響が言われ久しいが、金利差がほぼ変化しない状況下で年明けから半年で円は対ドルで約16円も急落、ドルに限らずスイスフランに至っては私事ながらトランジットでチューリッヒ国際空港を利用していた頃の80円台の憶えから今や178円台と半値以下の水準だ。

冒頭の東の横綱「新NISA」にしても、雪崩を打ったような個人による海外投資の増加で家計の円売りを加速させ構造的な円安圧力の一因になっているからヤレヤレという感じだ。国内の客が手を出しにくい斯様な振り切った価格が映すのはデフレ慣れした安い日本の姿で、円バウンドという言葉の裏に取り残されている「日本の価格」という現実がある。


困難な舵取り

先週も幾つかの経済指標の発表があったが、注目された日銀金融政策決定会合は下馬評通り利上げは見送られ、これまた予想されていた国債の購入減額に関しては具体策決定が次回会合まで先延ばしされた。またこれより先に5月の企業物価指数速報値も発表されていたが、こちらは前年同月比で2.4%の上昇と39か月連続でプラスとなり1980年以降で過去最高水準となっていた。

川上のところでザッと3年以上もプラスの状態が続くとなると川下への影響も必至で、商品やらサービスの価格に転嫁されまもなく消費者物価指数にも響いてくるか。賃上げ圧力のなか企業間取引でも価格上昇が続いている状況で、この企業物価指数に先駆け発表されたGDP改定値でも企業の設備投資は0.4%減と2四半期ぶりのマイナスと経済活動のペースダウンも懸念される。

斯様に物価高騰への警戒感が高まるというものだが、理想とされる賃金と物価の好循環には暗雲が漂う。コロナ禍の反動もあって米では年内の利下げ想定が3回から1回に減るまで逡巡されるほど景気が過熱気味な状態にあるが、一方で日本はというとそれこそスタグフレーション懸念も一部台頭するなど対照的だ。賃金と物価の好循環が理想とされているがこれが叶う日は来るのか否か、的確な景気浮揚策の難しい局面を迎えている。


消えるか慣習

本日の日経紙投資情報面の一目均衡の頁では「持ち合い株が姿を消す日」と題し、資本効率の改善が求められるなか企業統治や資本効率の足枷とされる持ち合い株が姿を消す日は来るのかとの問題提議があったが、この項目に関しては東証プライム市場上場企業のうち7割がコーポレートガバナンス報告書で削減方針を示すなど近年は企業側の意識も高くなってきている。

そういえば今年届いた株主総会の招集通知では自己株式消却や株式分割に関するお知らせのほか、政策保有株についても言及する企業が何社かあったなと。株主総会といえば本日はトヨタ自動車の株主総会が開催されていたが、既に昨年から系列各社の相互持合いが見直されているほか、大手損保4社も政策株ゼロ方針を打ち出し三菱UFJと三井住友のメガバンク2行も同社の政策保有株売却観測報道がなされている。

こうした実際の動きもあり政策株の削減は年間4兆円程度ありこの10年で持ち合い比率は3.6ポイント低下したというが、適正化水準までこのペースで10年以上かかるといわれていたモノも、上記のメガ企業勢の相互解消などが促進される動きもあって適正化の道のりも半分程度に短縮するとの見方も一部に出ている。

複数の外資系証券試算では全ての政策保有株が自社株取得や消却で解消された場合では日本企業のROEが現状の9%から10%に改善するとの試算もあるが、この辺の自社株取得や消却も現状履行されてるのは未だ半分程度との見方もあるだけに今後も持ち合い解消のその先が注目されようか。


依然低ランクだが・・

さて、毎年恒例の世界経済フォーラムによる男女平等の実現度合いを数値にした2024年の「ジェンダーギャップ指数」が先週に発表されているが、今年の日本の順位は調査対象146カ国中で118位であった。前年は125位と過去最低を記録していたが辛うじて今年は7位ほど浮上したかっこうになる。

項目別にザッと見てみると、総合で評価を押し上げた政治分野の順位が前年の138位から113位に浮上しているものの、一昨年に1位であったものの昨年に47位へと大きく後退した教育が更に順位を下げての72位、また健康が58位、そして経済が前年の123位からほぼ横ばいの120位という結果になっていた。

ちなみにSDNSが毎年公表しているSDGsの達成度を評価したランキングの評価も日本は低くSDGs17の目標のうち5番目のジェンダー平等評価点の低さが目立つ。女性管理職比率の低さが言われて久しいが、それでも今年に入ってJAL社長に初の女性が就任し、金融では副頭取ポストに三井住友銀行で初の女性が就任するなど徐々に変化の芽は出てきている感はある。

折しも株主総会シーズンだが、この辺に絡んでは今月総会を開く日経500構成銘柄企業では女性取締役を2~3名以上選任する予定の企業割合は前年からそれぞれ増加している。それでも米S&P500や英FTSE350指数構成銘柄で女性取締役の居ない企業は無く、いずれも取締役総数の3割を女性が占めているのが世界標準だ。今や組織成長に欠かせない多様性は企業統治の必須条件で、投資家の目も女性登用の遅れに対し厳しさを増してきているだけにこの項目の浮上スピードが問われている。


相場連動事件

本日の日経紙商品面には「金属高騰で換金活況」と題し、金属価格高騰でのリサイクル活況は換金を狙った窃盗など負の影響も生んでいる旨の記事があった。直近では先の日曜日に相模原市の太陽光発電施設から銅線ケーブルの盗難事件が報じられているが、先月は茨城のデイサービス市施設でエアコン室外機の盗難が相次ぎ、足利市でも神社本殿の屋根材の銅板約270枚が盗難に遭うなど、特に毎度ターゲットになる北関東でそれが目立つ。

エアコン室外機の窃盗事件は外気を冷却する部分に使用されている銅狙いだが、この手の窃盗事件はコロナ禍の2020年の255件から一昨年には819件と3倍以上に急増、全体でも銅盗難事件は昨年の1万件そこそこから今年は16000件超えと急増している。もう数年前から相場に比例した盗難事件と書いているが、銅製品盗難が目立ちはじめた2021年の銅価格はトン当たり約87万円であった。

それが昨年に北関東で銅製の二宮金次郎像が盗難に遭った件を取り上げた時にはトン当たり約123万円と約4割以上も値位置を切り上げ、盗難事件が急増してきた先月の相場ではトン当たり約175万円と過去最高を更新してきており、上記の2021年からはちょうど2倍に化けている。直近では下落している国際相場も先月は一時11000ドル超とこちらも過去最高値を更新する場面があった。

脱炭素社会が叫ばれて久しいが、その通電特性からエンジン車比で4倍もの銅が使われる電気自動車はじめこれに関わる太陽光や風力等どれを取っても大量の銅が使用されるワケで斯様な社会の実現は銅無しではあり得ない構図と言っても過言ではないだろう。これに乗じての投機マネーが入る場面も近年は増えてきており、相場を睨んだ更なる盗難対策の強化も急務だろうか。