還元の軸足

さて、先週の日経紙投資情報面にて「トヨタ、株分割で31万人増」と題し、東京証券取引所の株式分布調査で2021年度の延べ個人株主数が手厚い株主優待や高配当利回りなどを背景に、日経平均が下落する中でも好機と見た買いを集め8年連続で増加する事となり過去最多となった旨の記事を見た。

毎年日経紙では年初めに恒例の「経営者が占う」シリーズがあるが、その中の今年の有望銘柄の頁では判で押したようにベストスリーに入って来る表題のトヨタ自動車は誰もが知っている優等生銘柄だが、如何せん単元購入単価が人によってはこれまで逡巡する金額であったが5株の分割実施で一気に手が届き易い存在になった事で個人株主増加ランキング1位となっている。

このパターンでは他にTDK等も挙げられていたが、今年は低PERかつ高配当利回りの海運株等も分割実施のパターンで増加組に入って来る事が予想される。斯様に手が届き易くなるケースの他には株主優待もまた重要なポイントで、同ランキング3位のキリンHD、9位のANAHDに同10位のJAL、同12位のオリックス等はどれも優待狙いといえる。

ただオリックスは好評だったカタログギフトを2024年3月末時点の株主送付で最後にするほか、同18位のJTも食品詰め合わせを廃止するなど優待廃止組もこのランクインしている中から出ている。JT等は優待廃止でもなお高配当という武器があるが、何れにしろ先の東証の市場再編での基準株主数引き下げの影響もあり今後は還元の軸足も配当等に移ってゆく事になるか。


価値と価格

本日の日経紙総合面には「鉄道運賃 変動制に」と題し、国土交通省が時間帯によって価格を変える所謂「ダイナミックプライシング」の導入に向け、鉄道各社が運賃を変えやすくするための法改正など制度設計に入る旨の記事があった。通勤時などの混雑緩和は長年の社会的課題となっているだけに斯様な柔軟性を持たせる部分で少し前進の期待がかかるか。

このダイナミックプライシングは既にこうした交通インフラの分野では航空会社や高速バスなどに導入され広く知られているところだが、他にも東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどレジャー施設からホテルの予約サービス、身近なところではアマゾン等のECまで幅広く導入されている。

近年ではこの動きはBtoBからCtoCサービスにまで広がりを見せてきているが、とりわけこのコロナ禍では行動様式の変化がこれまでとは違って顕著なだけにパラダイムシフトが求められ、社会の変化と共にこれまで以上に価格の在り方というモノが今後もますます変って来るのは想像に難くないか。


双方乖離の審議会

厚生労働省の審議会は昨日から企業で働く全ての労働者の最低賃金を決める協議を行っていたが、果たして労使双方の主張には隔たりがあり合意する事が出来ないまま次の日程も決まらないという異例の事態になっている。最低賃金に絡んでは本日の日経紙総合面でも取り上げていたが、欧米に比べると本邦の水準はまだ大きく見劣りするのが現状だ。

今年度の協議は物価高を背景に、労働者側が生活費の上昇等を訴えて賃金の大幅な引き上げを求める一方、経営者側は原材料費の高騰等が中小企業の経営に悪影響を与えているとしてこれに難色を示している構図となっている。確かに原料費高騰を背景に値上げが行われているものの、実際は一部転嫁に過ぎず賃上げ出来るほどこれが為されているかといったら甚だ心許ない。

上記の通り日経紙では「最低賃金、欧米に見劣り」と題していたが、確かに世界中が賃上げするなかその名目年間賃金は日本だけが横這い推移となっている。毎年3%の引き上げが続けば24年度には政府が目指す水準に近付く云々も記事にあったが、日本の労働者の約7割が中小企業に勤めているワケでそうしたところにコンスタントに3%賃上げの余裕はないのが現状か。昨日取り上げた日銀の継続緩和も虚しく見えて来るものだが、税制等含めた政府支援は喫緊の課題か。


其々の政策

さて、周知の通り先週はECBが理事会で11年振りの利上げを決めているが、先月に0.25%という予告をしていたもののインフレ加速を受け果たして実にその2倍にあたる0.5%という結果となった。一方で同じ日に日銀は金融政策決定会合で予想通りというべきか大規模緩和を維持する方針を示している。

既に日銀のこうした政策の限界を見込んだ外人投資家の国債売りにも拍車がかかっており、日本証券業協会の統計では6月の国債売りはこれまで過去最大であった4月の2兆7000億円を上回る4兆5839億円を記録している。確かに日銀の国債買いは理論上無制限に可能ではあるものの、何時の日か出口に向かわないといけないのは明白で根比べの行方は如何に。

一方で円安が収益を圧迫している一部の企業などからは緩和策の修正を指摘する声も上がっているが、会見で日銀総裁は金利を引き上げるつもりは全く無いとし、金利を一寸上げたからといってそれだけで円安が止まるかというものは到底考えられないとも発言していたが、確かにECBの利上げがコンセンサスとなっていた今月中旬にユーロは対ドル20年ぶりのパリティ割れを演じている。

そうなるとドルが強いという事になるワケだが、いずれにせよ見えてきた自身の退任まで引くに引けぬジレンマの展開がまだ続くのは想像に難くなく、目先は明後日のFOMCの金融政策発表での利上げ幅やFRB議長の定例記者会見ではどういったメッセージを出してくるのかこの辺にも注目したいところ。


土用の丑2022

さてこの週末は「一の丑」だが、今年は周知の通り梅雨明けが殊の外早く加えて酷暑という事もあり丑の日のウナギ商戦も各所で盛り上がっている。また一の丑が土曜日でコロナ禍のなか家族指向が強まっていることで、大手スーパー等では複数人でシェア出来る特大サイズの蒲焼を過去最大で用意したほか白焼きも去年の5倍に増やしたが、既に先月段階で予約数は去年を10%以上上回っているという。

とはいえ今年はシラスウナギの漁獲量が昨年比で30%超以上減った為に、仕入れ値は昨年比で約50%高いとか。卸売市場での平均価格もキロあたり前年比で20%以上高くなっており一部専門店ではGW明けから値上げに踏み切った向きもある。ちなみに昨年の丑の日当日には日経平均が冴えない中を需要期待から吉野家やG-FACTORY等ウナギ関連株が逆行高を演じていたが、今年は先の三連休前に吉野家が年初来高値を更新する一方でG-FACTORYは年初来安値を更新と明暗であった。

ところでかつて東証マザーズに上場していた発電所建設のエナリスは発電時の温水でウナギの養殖事業に進出と報じられた時期があったが、近年北関東の一部太陽光発電所建設会社も太陽光発電を利用したウナギ養殖を始めている。ウナギ相場を読むのもなかなか難しいが、電気のコストが大幅に安く低価格でウナギの提供が可能になるという。これら確かに二酸化炭素の排出もゼロで環境にも優しく、ESGにも適っている事で今後裾野の広がりも期待出来るか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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