堕ちた円?

本日の日経紙グローバル面では「対ドル円以外円安止まらず」と題し、米長期金利が今週はじめに4.6%台まで低下し円安を主導してきた日米金利差の拡大が止まった事でドル円では円安進行にブレーキがかかったように見えるものの、米ドル以外の通貨に対してはダラダラと下落が続く隠れ円安が進んでいる旨の記事があった。

「隠れ円安」と同紙では書いてあるが、もはや「隠れ」どころの水準ではなく、ザッと挙げても欧州通貨ではユーロ円が今週は161円台を付け08年以来の円安・ユーロ円高水準を更新、ポンド円も180円台と7年前のブレグジット投票を思い出す水準まで戻し、スイスフランは168円台と史上最高値水準となっている。

かつてトランジットでたっぷりと時間のあったチューリッヒ国際空港でのショッピングが毎回楽しかった思い出があるが、当時はスイスフランが80円台であったから今なら当時の半分しか買い物が出来ない計算になるか。また欧州以外のアジア圏でもシンガポールドル円は今週111円台と1985年以来、38年ぶりの安値圏に沈み、お隣の韓国も1ウォン0.11円台半ばと2008年以来、15年ぶりの安値圏に沈んでいる。

いまや世界中で円より弱い通貨を探すのが困難な状況になってきているが、こうなると広く完封が困難な前に財務省の円買い介入も虚しく見えてくるというものだ。円の実質実効レートは2年連続で過去最安値を更新しているが、落ちた購買力が是正される日は来るのかどうか、経済構造改革は喫緊の課題か。


ハロウィーンと為替

本日は毎年恒例のハロウィーン、今年は新型コロナの5類移行やインバウンド復活でピーク時を上回る人出が予測された事もあって、渋谷では「来ないで」と異例の呼びかけが行われ警視庁は機動隊員を動員しシンボルの「ハチ公」まで封印するなど例年にない厳戒態勢の中で静かな当日を迎えることとなった。

さてこのハロウィーンといえば市場関係者が今でも思い出すのが為替に絡んだ出来事か。ドル円が75円台の戦後最高値を更新したのは2011年のハロウィーンの日であった。また2014年のハロウィーンの日には日銀が突如として追加緩和を実施しわずか2営業日で日経平均が1200円も急騰、市場に予想外の「お菓子」をプレゼントした格好になったのが鮮明に思い出される。

ところで本日は日銀が金融政策決定会合を終え大規模な金融緩和政策を修正している。先の7月の会合で運用を柔軟化したばかりだが、長期金利変動幅の上限を現在の1.0%から一定程度超える事を容認とわずか3か月で再修正を迫られた格好に。マーケットに催促されての再修正という感は否めないが肝心の為替は1年ぶり円安水準にまで更に進行、緩和姿勢が試される相場が予想されるなか日銀が目指す賃上げと物価上昇の好循環は叶うのか否か今後も難しい舵取りが求められる。


Higher-for-Longer

さて、先週の金融政策ウィークではFRBが20日にFOMCを開き2会合ぶりに利上げが見送られ政策金利の据え置きを決定した。続く英でもイングランド銀行が政策金利を5.25%に据え置き2011年11月以来15会合ぶりに利上げを見送った。ただ僅差での見送り決定で、米も半数を超える参加者が年内のあと1回の追加利上げを示唆している。

また同時に公表したFOM参加者による政策金利見通しの中央値は2023年末5.6%と前回6月時点予想を維持した一方、2024年末の見通しは5.1%と6月時点の4.6%から0.5ポイントの引上げ、また2025年末の見通しも3.9%と6月時点の3.4%から0.5ポイント引き上げ利下げのペースは従来の予想と比べて緩やかになる見通しを示した。

タカ派との受け止め方で米長期金利の指標となる米10年債利回りが反応し約16年ぶりの水準まで上昇、また日本の長期金利も10年ぶりの水準まで上昇する中で始まった日銀の金融政策決定会合は全会一致での現状維持を決めた。斯様なスタンスの違いから本日も約11か月ぶりの149円台と円安が進行中だが、物価安定に目標を置いているだけに円安を止めるための引き締めを日銀が敢行するかどうか?

実際、昨日の関西経済団体幹部と日銀総裁の懇談会でも中小への悪影響を懸念する声が相次いだが、総裁は円安是正の為に政策修正をする考えはないと答えている。とはいえ既に円の8月実質実効為替レートは過去最低となっており、政府内でも物価高を助長する円安警戒感が日増しに強くなっているだけに日銀は今後も難しい舵取りを迫られるのは想像に難くないか。


伝家の宝刀効果は

注目の金融政策ウィークが終ったが、プラス金利入りが注目されていたスイス中銀は大方の予想通り6月に続き0.75%の利上げでマイナス金利政策を解除、このプラス金利入りで日本のみが世界でも際立つマイナス金利継続国となった。また英国は0.5%の利上げを発表しこれで利上げは7回連続、14年振りの水準となった。

最大の注目FOMCでは一部に1%予想もあったものの下馬評通りに3会合連続で0.75%の利上げを発表していたが、特に注目されたのは政策金利の見通しを示すドットチャートでピークの2023年が4.625%となるなどいずれも6月から上方修正されている。経済見通しの方は下方修正されており、このドットチャートと併せて見るに景気を多少犠牲にしてでもインフレ抑制の為に利上げを継続して行くという強い姿勢が窺える。

さて日銀だが、こちらも下馬評通り金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持する方針を決めた。今更の感が強いとはいえ金融政策の違いが改めて鮮明となり円相場は1ドル145円台後半まで円安が進んだが、政府・日銀は22日、1998年6月以来、約24年ぶりとなる円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。

遂に伝家の宝刀という感じだが、当欄で以前に俯瞰して見ると日銀と政府とで各々の政策が整合性の取れないものとなっていると書いた通り、日銀が大規模緩和の現状維持を決めたその日に円買い介入を敢行する違和感は否めず。その効果も一時的に5円ほど円高に振れたものの本日は一時144円台示現と往って来いまで指呼の間、円安の背景にあるものが不変な限り方向性は変らないワケでここは流れを受け入れ円安メリットを生かし日本に投資を呼び込む政策が喫緊の課題だろうか。


動くに動けず

さて、歴史的な円安水準が続くなか先週末にかけては日銀に財務省と金融庁など情報交換の三者会合を開催し為替市場の動向や今後の対応についての意見交換をしている。これに絡んでは財務省の財務官が斯様な相場の動きが継続すれば必要な対応を取ると明言、更に翌日にも日銀総裁と総理大臣が会見を行い急激な動きを牽制している。

後者はトップ同士の会見ということで介入警戒感からやや円を買い戻す動きが出たものの、威勢よく明言した財務官のように果たして実際にこの段階で円買い介入に踏み切る現実味は如何ほどだろうか?円買い介入に際しては外貨準備を取り崩して介入に充てる事になるが、米国債なども絡むためにかつてよく行われていた円売り介入とは桁違いのハードルが控える。

また周知の通り日銀は頑なに金融緩和を続けているが、これだけ頑なな緩和継続の一方で円安は困るから何かしようという事自体にそもそも無理がある。マクロ政策が円安になるような時に介入を敢行すれば目敏い投機筋の格好の獲物になるのは火を見るよりも明らかで、この辺は90年代後半にやった円買い介入の結果が物語っている。

しかし近所でミサイルを飛ばされたり軍事演習をされたりのやりたい放題に「断じて容認できない」とか「誠に遺憾」とのコメントを繰り返す事しか出来ない日本だが、この為替市場でも必要な対応を取る準備があるという表明も空虚感漂う。このまま為す術なく98年安値さえ更新してしまうのかどうかだが、何れにせよ先ずは明日の米8月CPIに注目というところか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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