不透明な新時代を映す金

師走恒例の日本漢字能力検定協会による今年1年の世相を1字で表す師走恒例の「今年の漢字」は「金」と過日に発表されている。これで5回目の選出で過去最多となるが、パリ五輪での多くの日本人選手の金メダル獲得に、止まらない物価高騰や政治資金の裏金問題など光と影の2つが混在するさまを示した形だがもう一つ、金といえば“ゴールド”もまた特に注目を浴びた。

この金も今年は史上最高値を更新してきたが、背景には教科書的な定番材料に加え得も言われぬ靄も複合的に高騰要因として効いた一年でもあった。昨年にも増して地政学リスクが増すなか今年は世界各地で選挙が行われたが、年明けから1月の台湾立法院選、4月の韓国総選挙、6月のEU議会選、そしてインドの総選挙、7月のイギリスでの総選挙、フランスの下院選、などなど総じて与党がことごとく敗北、そして日本も周知の通りである。

選挙といえば11月には世界が注目した米大統領選挙ではトランプ氏が勝利。史上最大の復活劇とも謳われていたが、このトランプ新政権がはたしてどのような政策を行うのか予測不能な4年間が始まることになり早くも来年は世界の枠組みが大きく変わる年になる可能性もあるかもしれない。

毎年の如く年の最後の当欄では「来年こそ明るい世になるよう」と願いを込めるが、ウクライナ侵攻もいまだ継続され中東の地政学リスクも新たな拡大をみせ混迷を極める様相となっている。一段と輝きを増した金にはある意味こうした「影」が反映された部分も大きいが、また今年も来年こそは少しでも明るい世になるよう願いを込めて筆を擱きたい。

本年もご愛読ありがとうございました。どうか来年が皆様にとってよい年でありますように。


量から質への転換

さて、東京証券取引所の主要3市場に上場する企業数が2024年末時点で計3842社となり、前年度末から1社減る見通しであることが先週末に報じられている。上場企業数減少は大阪証券取引所の現物株取引が東証に統合された13年以降で初めてというが、この辺に絡んではちょうど1週間前の日経紙でも上場廃止する企業が今年は前年比33社増えて94社となる予定との記事が一面を飾っていた。

株式持ち合いが減少傾向にあり同意なき買収が成立し易くなっていることなどで企業買収が活発化し、経営の自由度を高めるためのMBOも増えている事などが背景にあるがMBOに関しては先月も当欄で取り上げた通り。東証が企業に対し資本コストや株価を意識した経営を求めている結果でもありその対応状況を開示するよう要請しているが、プライム市場の開示企業は先月末時点で約9割に達するなどこの1年で8割以上も増加している。

とはいえ取り組みの内容だけを並べる開示にとどまっているケースも多く、東証は先月に開示内容の質の向上を促す為「投資家の目線とギャップのある事例」を公表している。株価も正直なもので単に開示が進展するだけで上昇という局面は既に終わっており、具体性のない取り組みのみで定量的な説明が無いものは将来の企業価値判断にどのように寄与するのか判断が出来ないという点から一歩踏み込んだものだろう。

TOPIXにおいても今後は3市場を対象に入れ替え制が導入され、見直しに向けた判定として先ず来年2025年3月末に浮動株式数判定が控える。企業によっては政策保有株のような固定株売却等の動きが一層促進されるなどコーポレートアクションも出て来ようが、斯様に量から質への舵切りが鮮明になってきた事で米欧との比較で見劣り感の強かった新陳代謝も昨日書いたような上場銘柄の淘汰等も含め今後より一層促進されるか。


ガリバー参入

年末のこの時期はふるさと納税も駆け込みが目立つが、ふるさと納税といえば予てより参入の噂があったアマゾンが先週からふるさと納税仲介サイトをスタートさせている。開始時点で全国約1000の自治体が参加し掲載される返礼品は約30万点にのぼるが、アマゾンのマグカップからアマゾンミュージックのノウハウを生かして人気アーティストを能登町に招いての能登半島地震や豪雨災害の復興支援コンサートを返礼品として提供するなどユニークなオリジナル商品も見られる。

またアマゾンの持つ独自の物流・配送サービス網を自治体が利用し今月中に約1000点の返礼品の翌日配送が可能になるが、配送日の指定まで出来るのは他社には脅威だ。脅威といえば物流網に加え資本力も体力もある同社は自治体への手数料を低く抑えることも可能で、その分返礼品内容の向上が図られて顧客により魅力的に映る返礼品の提供が可能になることも予想される。

またふるさと納税といえば総務省の度重なる規制で来年は返礼品へのポイント付与が禁止の運びとなる。ポイント付与率で顧客を集めて来た大手の楽天は当然これに反対し署名活動まで実施したが、新規制でこれらの差異が無くなるとなれば利用者や自治体にとっても選択肢が広がることになる。既にふるさと納税は大手コンビニまで参入する激戦になっているが、1兆円を超える市場もこのアマゾンの参入で業界勢力図も大きく変わる可能性も出て来ただけにますます目が離せない。


幻の構想再浮上

本日の日経平均は海外投資家のクリスマス休暇もあり積極的な売買が見送られるなか個人などからの持ち高調整の売りが出たこともあって反落となったが、そんな冴えない市場の中でもホンダ株と日産自動車株の大幅続伸が目立った。さてこの両社といえば本日の日経紙一面で報じられていた通り、経営統合に向け協議を始めることで合意している。

今後の絵としては持ち株会社を2026年8月に設立し両社が傘下に入るかっこうになるが、日産が筆頭株主となっている三菱自動車も参画を近々決断するはこびとなる。仮にこの経営統合が実現すれば販売台数で独フォルクスワーゲンに次ぐ世界3位の自動車グループとなるわけだが、かつてまだ日産が仏ルノーに支配されていた頃にも今回の3社連合構想が噂されていた時期があったのを思い出す。

そんな幻の構想が時を経て再び当時とは違う背景で現実味を帯びて来たのも何かの因縁を感じるが、これとてこの歴史的な円安下にある中で深刻な業績不振に陥っている企業だけに今後手放しで明るい未来が待っているとも考え難い。ただ今回のケースのような合従連衡は自動車に限らず他のセクターでも起き得る可能性があるわけだが、そういった形での上場銘柄淘汰が促進されれば世界の投資マネーを呼び込むカタリストともなりそうだ。


DEIに逆風

今月に入って米ナスダック総合株価指数は11日に初めて2万ポイントの大台を超え史上最高値を更新したが、これと同じ日にナスダック証券取引所に対し米連邦巡回区控訴裁判所は同取引所が上場企業に女性やマイノリティーの取締役選任を求める取締役会多様性ルールを無効と判断している。米では経営でのDEI推進に対する保守派の反発が強まり、企業によるこれら取り組みの後退が相次いでいる模様だ。

ザッと挙げても小売り大手「ウォルマート」はDEIに基づく行動基準を縮小することが明らかになっており、「ボーイング」はDEIの担当部署を解散、「ハーレーダビッドソン」も今年4月以降DEIの取り組みは実施せず、女性やマイノリティーの採用枠を無くしており、「フォード・モーター」もDEI評価のため外部組織が実施する企業調査への参加を中止している。

これら以外でも飲食系では「スターバックス」が役員報酬のDEI連動分を廃止、「モルソン・クアーズ」もDEI施策の取りやめを発表するなどしているが、次期大統領のトランプ氏もかつてもし再選したらDEIを終わらせる旨の発言をしており、トランプ氏と蜜月なイーロン・マスク氏もDEIを逆差別とXで投稿しておりリベラル派との間で火花を散らしている。

こうした世界中でブランドが浸透している大手企業の重要な顧客には保守派も少なくないだけにこれら選択をした向きも悩ましい部分があるとは思うが、多数の雇用の受け皿となるこの手の大企業の従業員層には黒人やヒスパニック系なども少なくないだけにこういった施策変更で今後の人事面や待遇面で影響が出ないかこの辺がまた懸念されるところでもある。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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