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あれから五年

先週末で東日本大震災が発生してから丸5年が経過した。この日に合せ各地のイベントからテレビや各紙報道、広告等々震災追悼の人々の輪が広がったが、改めて各所の爪痕を見るにその当時が思い出され、各所での復興の進展が報じられる以上にその裏で取り戻せない喪失感もひしひしと伝わって来る。

日経紙一面では「この5年でこう変わった」として震災前後と現在の比較表が出ていたが、マーケットは株価が約2倍、為替も円相場が約5割の円安となった。今月の日経紙「私の履歴書」のアイリスオーヤマも被災地企業だが、この間に被災地に本社を置く企業の株価は9割弱が震災前を上回り中には5年で4倍になった薬王堂などの例もあった。

とはいえ被災地同様にこの3.11ショックで制御不能に陥り暴走したデリバティブマーケットなどがトリガーとなり、金融界では体力の無い企業パンク寸前の状態に陥り、当然ながら個人もそれまで安泰だったFXやオプションのセルボラ等の小銭稼ぎで再起不能な致命傷を負ったのは記憶に新しいところ。

渦中の東電もディフェンシブ優良株から一時は紙屑寸前まで売られいまだ終わる事の無い償いを背負い生かされている状態が続いているが、折しも週末には大津地裁の司法判断からの高浜原発の運転差し止めで関電も急落の憂き目に遭っていた。斯様に原発事故の処理も入り口に立っただけで先の見えない展開が続くが、昨年も書いた事だが原則を忘れず臨むことが肝要だ。


誘われる香り

さて、今週の日経紙では日本原産のミズナラ樽をはじめて使用したウイスキーの全面広告を見かけたが、このウイスキーといえば朝ドラ「マッサン」の影響もあってか海外では日本のウイスキーが恒常的に品薄状態になっている旨が以前からいわれており、希少ウイスキー需要はここ数年急激に高まっているという。

どこかで日本の年代モノのレアウイスキー価格を表しているという指数がここ数年で4倍近くまで急騰している旨の記事も見かけた事があったが、世界ベースでもレアウイスキーを指数化した物も過去一年で15%以上上昇し今年もそれが継続している模様。

ネットショップでは当該ウイスキーの一部が定価の数倍にも跳ね上がっていたのを確認したが、この機に乗じてウイスキー債を発行する向きも出てきている。これより先に香港で組成された世界初のウイスキーファンドは昨年夏の段階で30%を超える評価益を挙げたというが、ウイスキーの投資指数はリーマンショック時から2012年までの間に300%近くにもなっており成る程という感だ。

ところでウイスキーほどではないにしろ新興国需要の高まりで値段が高止まりしているモノにワインもあるが、今週初めには日本唯一のワイン投資ファンド運営会社を標榜していたヴァンネットが破綻した報が舞い込んできている。安愚楽ほどの規模ではないが一部には不安説が出ていた経緯がありこの手はやはり情報薄者には手出し無用だろうか。


官の影

さて、事実上最終入札となった先週の第二次入札実施を経て、今週何所が買収するのかが注目されていた東芝の医療機器子会社である東芝メディカルシステムズだが、午後の報道では応札していた三陣営のうち本日の日経紙一面でも有力視されていたキャノンが買収する見込みとなった模様だ。

この話題に関しては、ちょうど昨日某大手総合病院で医長をしている医師と話しをしていたのだが、入札以前から既に関係者の間ではキャノンの線がコンセンサスとなっていたらしい。一次入札を通過した物産とファンド陣営など二次を見送ったが、これまで一連の入札劇も既定路線というか背景には官の意向も色濃く働いていたという。

官の意向といえば、一頃民間を遮ってまで官民ファンドが受け皿になろうとしていたシャープもモラルハザードという世論を背景に偶発債務発覚などあるものの鴻海精密が一応悲願の買収契約を結んだが、官から見る両社には隔絶の隔たりというか全く異質のモノという。不祥事が霞む他のゴシップ記事が躍り、当局の対応もまたこの辺を色濃く反映しているともいえようか。


鞘の変化は基調の変化

本日の日経紙総合面には「資源価格に底入れ感」と題して、中国の財政出動による需要拡大期待の浮上や産油国の増産凍結を目指す動きが広がり、商品価格の動きを総合的に示すロイター・コアコモディティーCRB指数が約2ヶ月ぶりの高水準になるなどコモディティー全般の国際価格に底入れ感が広がっている旨が載っていた。

個別では鉄鉱石が約9ヵ月ぶり、原油は米国指標のWTIが約2ヵ月ぶり、銅は4ヵ月ぶりの高値を付けるなどしているが、特にこの原油は先月中旬にオプションマーケットで45ドルのコールのロングが3月物で1月末に比べて5割増に膨らむなど投資ファンドや需要家が反発を睨んでヘッジを掛けている旨が同紙で報じられていた。

此処までの戻りでこうした向きは思惑通りとなった訳だが、先物では「鞘の変化は基調の変化」なる言葉があり、コンタンゴでも微妙な変化を感じ追ってショートする気味の悪さを感じ取っていたのだろう。斯様な嵩上げで崩落していた資源株も内外問わず戻りに入っているが、こちらも比率の高かったモノのカバー一巡後が焦点といえようか。


再編機運と壁

先週末の日経紙社説には「魅力ある取引所づくりを急げ」と題して、海外取引所が国境を越えた合併に向け再度動き出した旨が載っていた。やはり直近ではLSE(ロンドン証券取引所)グループとドイツ取引所の経営統合に向け交渉を開始した旨が旬なところで、仮にこれが実現すれば時価総額で世界大手の米CMEグループや米ICEグループに匹敵する規模になる。

そんな中、先週は上記のニューヨーク証券取引所を傘下に持つ米ICEグループが当のロンドン証券取引所に対して買収を検討している発表をした報道や、米CMEグループも同取引所に関心を持っている旨の報道も出てさながら国際的な買収合戦に発展する可能性も出てきている。

この辺の背景にはやはりデリバティブ分野が厳しい国際競争の渦中にあり、またETFが急拡大する中で参照する指数分野で擁するブランド力などの観点からのメリットを同紙では謳っていたが、折しもEUからの離脱の是非を問う英国民投票が決まり、離脱した場合国際金融センターであるロンドンの地位低下は避けられないとの見方も多くその危機感も想像に難くない。

とはいえ規制当局の壁もあり国境を越えた合併は一筋縄ではいかないのは周知の通り。事実両者の統合話は今回が初めてではなく、LSEグループとTMXグループもかつて統合話が白紙になった経緯があり、ドイツ取引所もNYSEユーロネクストとの統合話がやはり白紙になった経験済みで、他にもシンガポールや豪証取等々事例は幾つもあり実現までのハードルを見守りたいところ。


今年の雛人形

本日は周知の通り毎年恒例のひな祭り。街の彼方此方では本日に合せてひな人形の登場頻度が増し、それにちなんだイベントも各所で目白押しとなっている。女子の行事だけに近年ではJALが女性スタッフだけの特別フライトをこの日に実施したり、東証等もたまたまなのかこの時期になでしこ銘柄を選定している。

ところで雛祭りといえば雛人形であるが、過日は一寸したついでの流れで今年の新しい作品を見る機会があったのだが、イメージでも普通になっている今の左に男びな、右に女びなの位置は元々が逆であったとか、三人官女の眉の相違等々知らなかった事が意外に多い事に気付かされた。

しかし以前に五月人形がスワロフスキーをあしらったものなど現代風にアレンジしたモノが近年人気と書いた事があったが、雛人形も今年は裝束がヒョウ柄になっていたり、名匠の新作も黒い衣装を着せたゴスロリバージョンからウエディング調のものまで登場するなどこちらも平安朝の宮廷装束からかけ離れた創作モノが増えてきたなと改めて感じた次第。


官製相場の死角

各紙で報じられているが、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が公表した2015年10〜12月期の運用成績で運用益は4兆7,302億円であった。この直前の中国ショックから中央銀行の追加金融緩和を受けて減速懸念の一時後退で株価が回復していた事に因るところが大きい。

とはいうものの周知の通り年明けから先進国中での暴落を牽引しあっという間にアベノミクス始動直後の水準まで往って来いとなってしまっており、加えて円の急騰もあり15年度通期では5年ぶりの運用損失は避けられない公算が大きい。ましてや今流行りのブル型ETFよろしく一昨年には株式比率を2倍化しておりその影響度もこれからはかられるところ。

GPIF審議役は「短期でみれば収益のブレは大きくなるが、年金財政上、必要な額を下回るリスクは小さい」と強調し改めて運用は長期的観点から評価すべきだとしているが、この「リスク」の定義もいろいろ工夫された言葉へ変換されているケースもあり、将来的な年金給付金減額もあり得るとの首相の仄めかしもいろいろ読み解く必要があるそうだ。


依存度

本日の日経紙商品面には「東京原油市場 拡大続く」と題して、先月の東京商品取引所のドバイ原油先物の月間売買高が68万5,000枚と前年比で3倍に増え、中旬には市場規模を示す建玉で国内商品先物市場では金を抜いて一時最大になるなど拡大傾向にある旨が載っていた。

この原油、ちょうど一カ月前の当欄でも「負の間接効果」と題して取り上げていたが、やはりETNの発行が起爆剤になったといっても過言ではないだろうか。主力モノなど約3年前の上場当時は売買代金も数十位億円が継続するなどここまでの拡大を予想してはいなかったが、参加者の構成如何でマーケットも変わるものだ。

その参加者といえば、東京商品取引所が先月纏めた売買動向では1月の外国人売買高が124万枚と前月から2割増え、全体に占める割合は前月比2.5ポイント高の50.8%と初めて5割の大台を突破している。冒頭のドバイ原油売買のうち実に約67%は海外勢の売買となっており、そうした一辺倒傾向も今後課題として俎上に載ってこようか。


モノ扱いから手段へ

さて、先週23日の当欄では仮想通貨について触れ、「〜仮想モノは既存の通貨や有価証券といった金商法が及ぶ範囲の外側に位置しているという部分が大きいだろうか〜ビットコインも金融商品としての性格をより強めそうでこちらも当局の出方を睨みながらの展開になろうか。」と末尾に書いたが、その翌日24日の日経紙一面には「仮想通貨を貨幣認定、金融庁、法改正へ」と題してタイミングよく記事になっていた。

今通常国会に資金決済法の改正案を提出し成立を目指すとしているが、貨幣機能を持つと認定する事で決済手段や法定通貨との交換に使えると正式に位置づけ、取引所は登録制とし、顧客資産と自己資産を分ける分別管理等の導入等も含めて金融庁が監督官庁になり目を光らせるとしている。

そんな報道もあってこの日から株式市場では関連銘柄が急騰、ビットコイン関連を展開しているところに投資しているポイントサイト運営のセレスがストップ高、同じくポイントサイト運営のGMOメディアは2日連続のストップ高、更に圧巻は昨年7月にビットコイン取引所を世界的に運営する米社と業務提携したマネーパートナーズグループに至っては先週末まで3日連続ストップ高の余勢をかって本日も年初来高値を更新してきている。

マウントゴックスの汚点があるとはいえ日本のコイン利用者は数万人に上り、世界でも利用者はこの1年間でほぼ倍増するなど急速な拡大を遂げており、まさに利用者保護は焦眉の急といった機運が背景にある。また昨今のフィンテックとも絡めこれからの普及速度にも注目である。


いずれも正しい

さて、文化審議会漢字小委員会においては近年のパソコンの普及等で多用な印刷文字が使われる中、手書きの正誤の判断が分かれるようになったことから様々な字形が認められている事を解説した指針案を大筋で了承することになり、来週開催の親部会の国語分科会で報告する運びになった旨が先に報じられている。

この辺は一昨年あたりから指針が議論されていた事ではあったが、いずれも正しいと表記された漢字の中には親世代が習った当時なら、テストでは間違いなく先生からバツを付けられてしまうであろうモノが多く目に付く。

これに限らずローマ字もパスポート等では標準のヘボン式に双璧の訓令式も存在しこの辺は一部で長年議論が展開されてきた経緯があるが、このローマ字も今の小学生の教育現場では一律教育用文字で進めているので宿題等チェックした親の中には子供とぶつかり一寸戸惑う向きも多いのではないか。

何れにせよ長年使用しその経緯も解る大人なら兎も角も、初めて頭に擦り込む小学生などは教科書に準じていない書き方に対する混乱の懸念や、書道等どう対応するのかなど興味深い部分が多々あるが、めっきり手書きとご無沙汰になった今改めてこうした事例が出てくるとやはり想うところが色々とあるものである。


マイナス金利の功罪

本日の日経平均は円高から3日ぶりに再度16,000円大台を割って続落となったが、日銀のマイナス金利政策に伴い相対的にREIT関連は比較的堅調で、とりわけオフィスREITは賛否両論あるもののまだ魅力的との見方が多い。さてマイナス金利と言えば一般でも家計への影響が一段と広がっている旨が各所で報道されている。

預貯金などの金利引き下げも続きそうだが、昨年上場を果たしたゆうちょ銀行も貯金金利をもう一段引き下げる検討に入る。このゆうちょ銀行だが郵政グループ3社の中でも稼ぎ頭だったワケだが、10年物国債の利回りが一時マイナスになるなど利回り低下で収益悪化が懸念されている。

そんなワケで株価も今月は上場来安値まで沈む憂き目に遭っているが、こうなると前にも書いたように政府が計画する追加売却計画も暗雲立ち込める。しかし賛否両論あるこのマイナス金利政策、GPIFも一頃の勢いに対し持続性が疑問視されているなか、はたして期待するような政策効果が実現するのや否や注意深く今後を見守るしかない。


抜け穴

本日の日経紙アジアBizには中国景気の減速を背景にMGMが年内予定していたカジノ開業を延期する旨が出ていたが、さて賭博といえば仮想通貨界でも既存のデリバティブを模倣したハイリスク・ハイリターンのサービスが増え、賭博性との関連が議論されている旨も先週末の同紙に出ていた。

これまでも相対取引業者で裁判所が賭博と認めた金融派生商品は多数あったが、これら現行流通しているモノと異質性が著しかったものの最近は上記のようなモノも登場、こうしたビジネスが広がるのは、マウントゴックスが破綻した際にも議論された事だがやはり仮想モノは既存の通貨や有価証券といった金商法が及ぶ範囲の外側に位置しているという部分が大きいだろうか。

いずれにせよ法的裏付けが不十分なままその枝葉の広がりは加速度的になるのが世の常だが、ビットコインもこうなってくると金融商品としての性格をより強めそうでこちらも当局の出方を睨みながらという展開になろうか。