23ページ目

5年ぶりの歓喜

さて、一昨日の日経紙夕刊・明日への話題は作家の林真理子氏の執筆で、「コロナが終焉を迎えるにつれ、海外のオペラ劇場が次々と来日し始めた。」という書き出しであったが、この手では先月に大盛況のうちに東京公演が終了した世界的エンタメ集団のシルク・ドゥ・ソレイユの5年ぶりの日本上陸が個人的に感慨ひとしおであった。

前回の「キュリオス」以来の日本公演になるが、思えばちょうど3年前の今頃に飛び込んできたシルク・ドゥ・ソレイユ・エンターテインメント・グループが会社更生手続きに入るとの報は本当に衝撃であった。そんなシルク・ドゥ・ソレイユがパンデミックの嵐のなか再建復活を果たし、その最初の日本上陸の演目が「アレグリア」=歓喜になったのは1996年のこの演目の第1回目からのファンにとって嬉しい限りであった。

今回はノベルティグッズのラゲージタグに旧ビッグトップテントの生地を使用するなどSDGs喧しい今ならではという感じであったがやはり各演技が圧巻、定番のパワートラックなど体操競技経験者だけについその目線で観てしまうのは毎度のことだが、エアリアル・ストラップなど初回公演及びアレグリア2とは異なる情趣に富む艶が非常に新鮮であった。そして生の歌や演奏もまさに歓喜、東京公演では来場者が50万人超となった模様だが新生シルク・ドゥ・ソレイユの今後の活動が楽しみで仕方ない。


節税包囲網

一昨日は相続税などの基準となる土地の価格「路線価」が公表されたが、全国の調査地点の平均は2年連続で上昇しその上げ幅も大きくなるなどコロナ禍からの回復傾向が鮮明になっている。ところでこの路線価などを基に計算しているマンション等の評価額に絡み国税庁はその評価額を見直し新たな相続税の算定ルールを先月末に発表している。

この所謂タワマン節税を巡っては当欄では2016年に「美味しいタワマン」と題し、富裕層を中心とした相続対策として高層階との値鞘を利用した評価額のトリックについて触れていたがあれから7年、漸く国税も重い腰を上げたという格好になっている。現在の評価額は全国平均で実勢価格の約4割に抑えられているが、最低でも実勢価格の6割とする方針となる。

しかし節税を巡ってはこのタワマンより前に会社経営者などに大ヒット?したモノに逓増定期保険もあったのを思い出す。保険特有の課税ルールの穴を利用したモノであったが、法人から個人への名義変更で自らの実質の支払い額に対して実に約4倍近くのものを受け取れるなんとも美味しい保険であった。相続税の裾野は富裕層に限らず広がってきており市場変化に対応する柔軟な運用が求められるものの、今後も抜け穴をつくいたちごっこは続くだろう。


22年通年超え

今年も早くも折り返して後半戦に入るが今月も値上げラッシュが止まらない。帝国データバンクによれば3500品目以上が値上げ予定だが、今年は現時点で記録的な値上げラッシュとなった22年通年を超えたという。とりわけ今月は輸入小麦の政府売り渡し価格が4月に引き上げられた事で、パン製品だけで1500品目以上と全食品分野で約44%を占め最多となるのが特徴的だ。

これらザッと挙げても日清製粉ウェルナが家庭用小麦粉・ミックス等で約2~4%、ニップンが同約3~15%、昭和産業が同約2~6%、パン類では山崎製パンが食パン・菓子パンなどの出荷価格を平均7.6%値上げ、フジパンも同約7.7%値上げ、敷島製パンも同約5~7%値上げする。こう書いてみるとちょうど1年前にも小麦値上げで同じ品目を当欄で書き綴っていたなと思い出される。

また外食系ではちゃんぽんのリンガーハットが5日から値上げ、マクドナルドでは19日から都心部の約180店舗で一部商品を値上げするが、1年も経たずに3度目の値上げとなる。そういえば電力会社からは料金値上げの知らせが過日届いたが、今月の値上げ品目のうち電気代を理由にするモノは2割超となっており今後こうした部分の負担も徐々に増してゆくのは想像に難くないか。


株主総会2023

国内の3月期決算企業の株主総会は先週に集中日を迎えたが、先に挙げたアクティビスト絡みの企業に続き注目されていた東芝株主総会では会社側提案の取締役が可決され投資ファンドによるTOBの受け入れ決定が一定の理解を得られた形となった。今後TOBが順調に進行するかどうか注目されるが、TOB絡みではもう一つ、TOBを目指す株主提案が一部可決されたマリコン大手の東洋建設の株主総会もなかなか注目度が高いものであった。

同社の大株主となり1株1000円でのTOBを提案していたのが任天堂創業家の資産管理会社YFOであったが、これが1年以上を経て決裂した結果この度の取締役候補を掲げた経営陣の刷新であった。これを迎え撃つ形で会社側も現在の経営陣を軸とした取締役候補を提案していたが、はたして接戦の末に選ばれた取締役候補のうち過半数をYFOが占め実質的な勝利を勝ち取ることとなった。

今後同社は新たな経営陣によってTOBを検討してゆく事になろうが、先週取り上げた日本証券金融もアクティビストファンドの提案こそ否決されたものの、同ファンドが日銀の天下りと批判をしていた社長人事に関して次期社長については同社上場以来続いてきた日銀などの公的部門出身からは選ばない方針を明らかにしている。まだ提案の否決が大勢のなかにあっても株主主導の経営改革が少しずつ具現化してきている胎動を感じた今年の総会であった。


分断の影

昨日の日経紙投資情報面には「ESG株主提案、支持低く」と題し、米国の株主総会で今年初めから今月12日までに米企業に出されたESG(環境・社会・ガバナンス)提案への平均賛成率が22年通年から低下し、ESG投資が本格化する前の16年以来の低さとなるなどこの推進を求める株主提案への支持率が下がっている旨の記事があった。

既に企業側も気候変動対策などESGへの対応を進めており株主提案に賛成する意義が薄れたと考える株主も増えているようだが、確かに過去最高益を叩き出しその株価も1年で4~6割の上昇を演じ過去最高値を更新した米エクソンやシェブロンなど、それぞれ二酸化炭素の排出削減や、二酸化炭素回収・除去技術開発への投資を拡大するなど脱炭素投資への拡大を既に表明している。

ESGを巡る社会的分断については当欄でも先月に取り上げていたが、賛成票の低下には共和党等による反ESGの主張が議決権に影を落とし政治的圧力から株主がESG提案への賛成に慎重になっている可能性もあるというが、反ESGを掲げるウェストバージニア州やフロリダ州から取引を停止されたり、運用資金を引き揚げられた米ブラックロックのCEOはESGという用語が攻撃材料として使われる為に自身としてはもう使うつもりはないと公言している。

運用会社が政治との距離感で苦慮する様がブラックロックCEOの発言に表れているが、それぞれの層からの圧力のなか最良のパフォーマンスに繋がるのは理想主義なのかどうか、上記の各企業の気候変動対策等の動きに引き続き注目しつつ今後米以外でもこの手の株主提案に頭打ち感が出てくるのかどうかも注視しておきたい。


業界と当局

来年からの新しいNISA(少額投資非課税制度)の「成長投資枠」で投資出来る第1弾が発表されているが、昨日の日経紙金融経済面にはこの選定基準を巡って詳細なその条件面などが厳しすぎるなどとして運用業界と金融庁との間で不協和音が生じている旨の記事が出ていた。

この中でも信託期間や毎月分配型など約款変更や追加などを施せば条件をクリア出来る状態になるものもあるが、除外商品を金融庁の条件に合うように作り替えるのが難しいモノとして挙げられるのがデリバティブ系か。侃侃諤諤の末にヘッジ目的に限定したデリバティブ使用の旨を約款に記載すれば条件を満たすことになった模様だが、デリバティブは現場で携わった人間でしか理解出来ない投機の解釈があるだけに何とももどかしい。

今後も上記のように約款を変更するなどして条件を満たしたファンドを毎月追加してゆくはこびとなるが、現場と当局の解釈を巡る温度差をどう縮めてゆくかも課題か。いずれにせよ新生NISAの厳しいとされる「ふるい」が投信の選別を今後加速させることになってゆくのかどうか、この先も注視してゆきたい。


LGBTとマーケティング

先週の当欄ではLGBT等の性的少数者に配慮するダイバーシティへの関心が高まる中、物議を醸し出したジェンダーレストイレ等を取り上げたが、今月は性的マイノリティへの理解を促す「LGBT理解増進法」が成立し23日に施行されている。この手では国際的に日本の取り組みの遅れが指摘されており、更に理解を広げる事が必要とされている。

折しも今月は、今から54年前のちょうど今日(27日)にLGBTが集っていたNYのバーに不当な踏み込み捜査を警察が客と衝突した事件を起源としたLGBTQの権利向上を目指す「LGBTQプライド月間」とされる。先進国の米ではNYでパレードが開催されたが、国内でも各所でこの月間にちなんだマーケティングがなされている模様だ。

ところでマーケティングといえば米では小売り大手のターゲットやバドワイザーを販売するアンハイザー・ブッシュ等がLGBTを象徴するレインボーをテーマにした商品販売や、広告にトランスジェンダーのインフルエンサーを起用したところ、それぞれ保守層による不買運動が広がり株価の急落から時価総額を大きく飛ばすハメになっている。

こうした分野はコア層の分布にも注意しなければばらないが、支持層と保守層に挟まれ「あちらを立てればこちらが立たず」となんとも難しい。先に破綻したシリコンバレーバンク始めとした連鎖破綻然り、SNSが恐ろしいほど進化し顧客の行動が急速に動く環境下では企業も改めて顧客戦略を練り直す必要がありそうだ。


捻れの賛否

今週は株主総会がピークを迎えるが、先週もいくつか注目された株主総会が執り行われた。21日は香港のオアシスマネジメントと創業家の対立が続くフジテックの株主総会があったが、前会長側が株主提案した社外取締役の推薦が否決された。またこの翌日22日には先週の当欄でも取り上げた日本証券金融の株主総会があったが、ストラテジックキャピタル側の提案はいずれも否決されている。

そしてこれと同じ22日に執り行われたコスモエネルギーHDの株主総会ではシティインデックスイレブンズの買い増しに備えた買収防衛策発動の是非を諮る議案が可決している。ココが注目されたのがその採決手法で、大株主であるシティ側を除外して採決をとる方式であるMOM(マジョリティーオブマイノリティー)という特別な手法を今回用いた点である。

これと同じパターンで記憶にあるのが東証スタンダード上場の東京機械が一昨年の買収防衛策導入時に実施した時の光景か。この時も最高裁まで争った結果認められたものだったが、今回も同様にシティ側が訴えた資本主義にあるまじき株主平等の原則に反するとの意見もあながち間違いではなく一般株主の利益保護をどこまで盾に出来るのかどうか賛否両論あろう。

今回の買収防衛策を巡っては米議決権行使会社のグラスルイスやISSも反対推奨しており、総会後に提出された臨時報告書によればMOMを用いなければ否決されていた賛成率であった事も判明している。経産省が取りまとめ中のM&Aに関する新たな指針の案ではこのMOMによる買収防衛策の発動は非常に限定的で例外的な場合に限られるとしているが、今後の日本の上場企業のコーポレートガバナンスを占う上でもこれらの事例は試金石となろうか。


株主優待廃止と創設

先日JTより株主優待品が届いた。同社にはこれまで長年にわたりレトルトカレーやカップ麺、魚沼産コシヒカリ等の自社商品を送っていただいていたが、残念なことに今回が最後の優待となる。これに伴い年末には優待事務局も閉局となるが、既に昨年にプレスリリースの通り株主への公平な利益還元の在り方という観点から廃止の決定に至った模様だ。

まあ確かに大株主級の法人などからすれば小口の株主に優待品を配るのは不平等だということになるワケだが、此処に限らずオリックス等も人気だった(ふるさと納税)ならぬ(ふるさと優待)を廃止するなどプライムの大手どころの廃止が近年目立つ。とはいえこのJT然りオリックス然り両社共に優待廃止と同時に増配を発表している。

当欄では昨年秋頃に「還元の在り方」と題し、「今後は企業側も還元の軸足が配当や自社株買いに移ってゆく動きが顕著化するかどうかこの辺の動向は注目しておきたい。」と書いていたが、4月以降に本決算を発表したプライム市場の企業で増配した企業は5割近くにのぼり、日経紙集計でも予想配当額は過去最大更新の見込みで、自社株買い計画の公表も過去最高に迫るペースという。

一方でグロース市場などの新興勢の中には株主優待を創設、または復活させる向きが目立つ。しかしこちらもまた東証絡みで再編により上場基準も厳しくなったことで何処も株価が欲しいところだが、機関投資家の資金が入ってくるのが限定的な中小型株では個人投資家の存在が大きくIRも重要になって来るというもの。再編を打ち出した当初は代わり映えのない市場と散々揶揄されたものだが、その景色が今まさに変わりつつある。


何でもジェンダーレス?

さて、某所でジェンダーレストイレなるモノを初めて見たが、一昨日の日経紙夕刊には「公共トイレにも「多様性」の波」と題し女性や社会的弱者、LGBTなどの性的少数者に配慮するダイバーシティーへの関心が高まるなか、今年4月に開業した東急歌舞伎町タワーの誰もが使えるというフレコミの所謂「ジェンダーレストイレ」が多様性に配慮しようと逆に画一的になってしまったことで対立の構図を招き炎上騒ぎとなった旨の記事があった。

この末尾には「多様性の時代とはいえトイレには改善すべき課題がまだまだ残っているようです。」とあったが、個人的には男女の区別が求められるこのトイレや浴室などの場所と、そうでない男女の区別が求められない場所とのジェンダー差別問題は分けて考えるのを前提としないとこの手の炎上は今後も起こり得ると思う。

トイレといえば日本は設備機能や清潔性など世界一を誇りココはインバウンドの外国人も多く訪れる場所だけに何とも残念な事態なワケだが、しかしトイレに限らず最近は運動会にまでジェンダーレスに重きを置いて本末転倒な例も出ているようだ。先の東京五輪でもトランスジェンダー選手は公平か?と物議を醸し出した一件もあったが、画一的に処理出来るほど簡単な問題ではないだけに各所でのリスクマネジメントが要になってくるか。


アメリカンブレックファーストの憂鬱

昨日の日経夕刊一面には「オリーブオイル大不作で最高値」と題し、主産地スペインの干ばつ等から昨年に続いての大不作の影響でオリーブオイルの価格が5月下旬時点で昨年の2倍近くに急騰し史上最高値を付けている旨が出ていた。地中海料理がユネスコの無形文化遺産に登録されて以降、オリーブオイルはますます注目され今や朝の食卓には欠かせない向きも多いではないか。

しかし朝の食卓といえばここ最近はオリーブオイルと共に朝食に欠かせない食材の高騰が相次いでいるなとつくづく。昨年から問題になっている鳥インフルエンザのタマゴはいわずもがなで、小麦高からパン、南米の大雨でコーヒーも急騰、それに入れる砂糖の原料粗糖も11年ぶり高値、直近ではこれまた主要原産国の不作でオレンジが争奪戦になりキリンビバレッジや雪印メグミルクはとうとうオレンジジュースの販売休止に追い込まれている。

オレンジといえば鳥インフル同様に既に昨年から病害による減産が顕著であったが、これに目を付けた米運用会社の一部などアメリカンブレックファーストの食材等で構成される「ブレックファースト・ストラテジーETF」の目論見書をSECに提出した一件も思い出される。朝食コストの上昇でエンゲル係数もまた高まりそうだが、上記のようにそれらに商機を見出す向きもあり枝葉の広がりに寄与しているともいえるか。