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弁済順位逆転の衝撃

先週末の日経紙一面では「AT1債、国内富裕層に」と題し、先の経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイス・グループの無価値となったAT1債(永久劣後債)を三菱UFJモルガン・スタンレー証券が約950億円分、国内富裕層の個人投資家などに販売していた旨の記事があった。

近年の低金利下で引き合いが多かった劣後債のリスキーな面が改めて露呈してしまった格好だが、国内ではこの三菱UFJモルガン・スタンレー証券以外でもまだ数社がこのAT1債を販売していたとみられる。余談ながら胡散臭い外資に買収された後に経営破綻の道を辿った某取引員も最後の頃は高利率の劣後債を一部顧客に勧めていたのを思い出した。

ところで教科書的な弁済優先順位を無視した処理の副産物が後々マーケットに影響してくるか否かとCSの破綻時に書いていたように、クレディスイスブランドのファンドからは既に約7500億円が流出したほかAT1債の発行コストが上昇し欧州では一部銀行も早期償還の見送りを決めるなどの影響が広がっている。

とはいえ斯様な逆風下で三井住友FGは明日起債予定のAT1債の発行に向け先週から本格的な需要調査に入っているほか、三菱UFJFGも5月下旬以降にAT1債の起債を予定しているなど果敢に新規発行を目指す動きも出ている。はたして日本の大手行によるこれらの発行が世界のAT1債市場回復のトリガーとなるかどうか注目しておきたい。


割安?日本

さて、先週は米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が来日し、日本株への追加投資をする意向を明らかにした件が話題になっていた。バフェット氏の来日はこれで2回目となるが、19年から発行している円建て社債を今回も1644億円の発行を表明したことで日本株への一段の投資拡大も期待され、既に投資が知られているところの商社株中心に物色の矛先が向かうところとなった。

確かにバフェット氏の目から見れば世界の主要株価指数の中でも実績ROEは10%にも満たず、実績PBRも1倍そこそこ、世界株との益回りの乖離をみても割安感漂う日本株は魅力的に映ったのだろう。年利1%そこそこで発行出来るであろう円建て債で為替リスク無くこれを上回る魅力的な配当を享受出来るワケだからなるほどという感もある。

とはいえこの円建て債の調達には発行済み社債の借り換え(償還)に充てる金額も含まれるということで実際に日本株に充てる金額は1000億円一寸になる計算だが、それでも冒頭の通り株式市場では5大商社株が前回の憶えもあって一斉高に、中でも伊藤忠商事は昨年の上場来高値を約5か月ぶりに更新し、丸紅も先月に付けた上場来高値を更新してきた。

それもそのはず、前回に商社へ投資表明した際に殺到した提灯買いは三菱商事など既に大化けしており大ヒットとなった。今回もこれらへの保有比率を揃って高めたとの報でこれに対する提灯買いから先週は商社ポストが沸いたが、前回の商社株への投資表明報道の時から大幅に値位置が上がった今回もここで提灯を付けた二匹目の泥鰌狙いの向きがはたして報われるか否か見ものである。


日経紙で思い出す怖い絵

さて、今週の日経紙夕刊の文化面「こころの玉手箱」はドイツ文学者の中野京子氏の連載だが、第一回目の10日付け月曜日には中野氏が監修した美術展について書かれていた。2017年に上野の森美術館にて開催された「怖い絵展」がそれだが、当時はこの美術館に隣接する上野動物園もつい最近中国に返還したパンダのシャンシャン誕生に沸いていたのを思い出す。

その辺は兎も角も、文中で最初に出てくる目玉作品としたわずか9日間の女王を描いたドラローシュの大作「レディ・ジェーン・グレイの処刑」、末尾の方に書かれていたアートショップで販売された布製ブックカバーの表紙に使われたという「オデッセウスに杯を差し出すキルケー」などの不倫モノ?等々、いずれもホンモノの迫力を前にしばし見入ってしまったのを思い出す。

他にも複数存在するといわれるクレオパトラの毒蛇を使った自害を描いた艶めかしい絵や、主人公が居ない空間を描いたシッカートの「切り裂きジャックの寝室」など、本で見ていたモノと実物とではやはり全く別モノと実感したものだ。願わくは作品の背景から怖さを味わい、作品に恐怖を読み解くヒントがあるという中野氏の視点から選りすぐられ世界中から作品を集めた美術展の第2弾が待ち望まれる。


ウルフパック戦術

一昨日の日経紙法税務面には「不意打ち買収に規制の隙」と題し、複数の投資家がひそかに協調して企業の株式を買い集め、時期をみて一気に経営権奪取を図るいわゆるウルフパック戦術なる動きが日本でも注目されている旨の記事があった。これと似た名のレストランが思わず頭に浮かんでしまうが、現在の大量保有報告制度などの制度の緩さが背景にあるとの指摘があるようだ。

買収防衛策として新株予約券の無償割当が盛り込まれこれが発動されるケースがあるが、このウルフパック戦術を使えば上記発動のケースでも一般株主を装って新株予約権を行使して株式が交付され、この経営権奪取を試みるグループ全体としては議決権の希釈化リスクを回避する事が可能になる構図だ。

会社側もこうした工作を暴くべく躍起になって証拠を押さえる作業に奔走するワケだが、日経紙に事例としてナガホリと共に挙げられていた東証スタンダードに上場するプラスチック成型の三ツ星のケースでは、新株予約権無償割当の対象外となる非適格者が広範に及んでいた事などが問題視され会社側の買収防衛策は裁判所から差し止めされた経緯がある。

斯様に株主間の協調行為を第三者が立証するのは難しさを極めるだけに、金商法の改正を視野に入れ大量保有報告制度含めたルールの見直しなども喫緊の課題となってくるが、これまでに狙われた企業などをみるに低PBRの中堅上場企業がターゲットにされているケースが多く企業側もこれらの指標向上を図るべく経営意識を変えるのに努めるべきだろう。


セーフヘブンラリー

今年に入って上昇が鮮明なビットコインだったが、本日はその価格が3万ドルの大台を突破してきた。この大台超えは昨年の6月以来10ヵ月ぶりの事となるが、先月だけでも上昇率は2割を超え年初からの上昇率ではかれこれ80%超えとなっている。これに続く時価総額2位のイーサリアムの価格も昨年8月以来、初めて1900ドルの大台を突破してきている。

これら仮想通貨といえば昨年はあの大手交換業者FTXトレーディングの破綻が記憶に新しく、それ以外でもテラUSDの崩壊等々複数の不祥事を背景に信用低下から総じて価格は停滞していたものだが、米シリコンバレーバンクはじめ数行の中小銀行破綻やFRBの利上げサイクル打ち切りの思惑を背景に投機マネーが急速に戻ってきている。

上記の銀行混乱を受けこの利上げ転換点の早まりへの賭けがホットマネーを呼び寄せているといったところだが、過去10年以上底辺からのボラタイルな復活は何度も繰り返されてきた光景でもある。明日にはFOMCに先立つ重要指標の一つでもある米3月CPIの発表があるが、早くも今年のベストパフォーマンス資産と囃される鉄火場はまだしばらく続くか。


新総裁体制始動

さて、日銀の第32代総裁に経済学者で元日銀審議委員の植田氏が就任した。これに先立ち先週末に退任した黒田総裁の退任記者会見が行われたが、2%の物価安定目標が達成出来なかったことは残念としながらも、総じて先月の衆議院財務金融委員会での発言同様に総じてこれまでの政策運営の成果を強調する自画自賛?に終始した会見となった。

思い起こせば10年前の就任当初に2%の物価目標は2年で達成出来ると豪語していた姿が鮮明に蘇るが、大量の国債購入と資金供給拡大の所謂黒田バズーカでもってマネタリーベースは約5倍の水準に拡大、途中から調整対象をこれら量から金利にも手を出し始めたが上記の通り今なお物価目標の安定的達成は出来なかった。

確かにアベノミクスの支柱をなしたのはこの異次元緩和であったのは異論のないところだが、やはり物価上昇目標の自縄自縛に陥り今や日銀の国債保有割合は50%を超える水準まで膨れ上がり、ETFの累計買い入れ額も37兆円を超えるなど将来に残る弊害のツケを膨らませたのも間違いの無いところだろう。

これらを市場に混乱を与えないように処理して解決するには実に170年かかるとの試算も一部に出ているが、イグジットについて前総裁は最後まで言及を避けて来た。目先は月末の27、28日に開かれる新体制初となる金融政策決定会合でこれら長期金利の上限引き上げ等の政策修正が議論されるのか否かが先ずは注目されるが、いずれにせよ難しい舵取りの宿題?は新総裁へ丸投げされる格好となる。


街のお別れ風景

年度末から新年度にかけての時期は出会いと別れの季節でもあるが、今年は身近な街の風景にもこれが当て嵌まる感がある。最近では東京駅周辺で再開発の起点ともいえる大型商業施設「東京ミッドタウン八重洲」が先月華々しくグランドオープンとなったが、この並びに位置した「八重洲ブックセンター本店」が先月末で約44年間の営業を終えた。

初めて同店を訪れたのはまだ大学に入学したての頃であったが、社会に出てからも他では探せなかったかなりマニアックな本も100万冊以上もの在庫を揃えるここに来ればほぼ見つかったものだった。2028年度に完成予定の超高層複合ビルへ再出店の予定とのことで復活が待たれるところだが、これからしばらくは丸善あたりに足が向かうことになりそうだ。

それともう一つ、夏場は特にお世話になっていた「東京辰巳国際水泳場」もまた上記の八重洲ブックセンター本店閉店と同じ日に30年の歴史に幕を下ろし閉館した。メインプールは長水路で他と違って飛び込みも出来るところも良く、ここへ来たらわざわざ北島康介氏の世界記録樹立プレートのあるレーンで泳いだりしたものだが、存分に泳いだ後にゆったりとジャグジーが満喫出来るのもよかった。

こちらは2年後の秋にアイスリンクとして装い新たに再開業の予定というが、どこかシドニーのオペラハウスを彷彿させる名建築が無くなってしまうのはやはり残念な思いだ。そうそう、名建築といえば帝劇ビルも2025年度をめどに閉館の予定という。此処もまさに昭和の名建築だったが、ステンドグラスや昭和モダンな細部の装飾等々同じ物はもう見られなくなる可能性もあるだけに閉館まで時間の許す限り目に焼き付けておきたいものだ。


ヤレヤレの本気度

さて、先週は東証プライム上場の東京都競馬が突如としてストップ高を演じる場面があったが、この背景には直近の大量保有報告書で香港投資ファンドのオアシス・マネジメントが8%超の株式を保有していることが明らかになった事がある。オアシス・マネジメントといえば直近ではフジテックの取締役解任劇を巡っての大バトルがなかなか見応えのあるものだったのを思い出す。

斯様な実績のあるアクティビストの登場だけに株価の方も期待値先行で反応したとも思えるが、いわゆる物言う株主が保有している企業群の意欲的な中期経営計画発表がここ相次いでいる旨が先の日経紙にも出ていた。いずれの企業も総還元性向において具体的な数字を挙げてきており、株価の方もそれに準じて少なからず上昇を辿っている。

冒頭の東京都競馬のPBRは昨日時点の東証プライム全平均のそれを超えてはいるが、上記のアクティビストが保有している銘柄群のPBRはいずれも1倍を割り込んでいるものが殆ど。先の株主総会でも多くの企業で増配や自社株買いの還元要求提案が目立った模様だが、東証のPBR是正要請とも相俟って世界基準との乖離を埋めるべく今後も要求が強まるのは想像に難くなく各企業の本気度もまた試されそうだ。


4月IPOスタート

本日より4月のIPOがスタートしたが、その第一号となったのが本日東証グロース市場に新規上場となったキャッシュレス決済サービスのトランザクション・メディア・ネットワークス。注目の初値は公開価格930円を49.2%上回る1388円と好調なスタートとなったが、公開株式が多い割に下馬評を覆す意外?な初値が付いたといえよう。

このTMNはそこそこな吸収金額であったものの直近公開モノは小粒だったこともありなかなかの化け具合となっており、先週末に東証グロースに上場したAI活用DX事業のFusicは初日は買い気配で値が付かず、週明けに寄った初値は公開価格2000円の実に約3.3倍となる6530円のロケットスタート。あと利食いでダレて引けるも本日は改めて買い直され一時ストップ高を示現した。

これに限らず3月上場組のIPOは破竹の勢いが目立ち、ソフトウェア検証の日本ナレッジや同日IPOのスマホ向けアプリ開発のアイビスは共に初日は買い気配で値付かず、その初値は公開価格に対し前者は約2.5倍、後者は約2.9倍に化け。また同じく23日IPOのハルメクホールディングスはスンナリと寄ったもののあと連日ストップ高を演じるなどどれもすこぶる回転の良さであった。

ということで今月は冒頭のトランザクション・メディア・ネットワークスはじめ10社がIPOの予定だが、12日に上場予定のispaceは月面開発事業と宇宙関連ベンチャーとしては初のIPO、またその後には今年最大の案件ともなる楽天銀行もIPOを控えている。更にその後にはひふみ投信のレオス・キャピタルワークスとどれも話題な案件が控えているだけに引き続き新興市場からは目が離せない展開になりそうだ。


新年度の値上げ

今年も新年度がスタートした。今年は4月から主産育児一時金が現在の42万円から8万円引き上げられで50万になるなど新たな支援もあるが、一方で新年度が始まっても止まらないのは値上げラッシュだ。帝国データバンク調査では5106品目の食品が値上げとなるが、日本ハム、伊藤ハム、プリマ等のハム含む加工食品類は単月全体の4割を占める。

値上げの増加ペースは早まっており今月中にも計画ベースで年内値上げ累計2万品目を突破するとみられているが、食品以外でも4月は関西鉄道大手6社、JR西日本などの運賃、ヤマト運輸や佐川急便も揃って相次いで値上げへ、ヘアカットのQBハウスの料金も値上げされるなどモノだけでなく我々の身近なサービス部分も上がってくる。

資源高が一服はしてはいるものの、今年は春闘などで大幅な賃上げ回答という事例が出ているだけに企業側もそれによる購買力の高まりという期待もあり、それらを踏まえ家計がより値上げを受け入れてくれるという計算も相俟ってコスト上昇分をより転嫁しようとする動きが今後も出て来る可能性もある。

5月以降も2022年を上回る水準の値上げが予定されており、来月5月は前年比3倍の食品値上げが予定されているという。伸びの鈍化もいわれてはいるものの、値段が下がるというワケではないので今後も値上げに伴う体感物価は消費者物価指数をはるかに上回る状況が当面続くことになるか。


個人の判断

本日の日経紙ビジネス面にはマスク・出張制限撤廃3割と題し同社の実施した国内主要企業社長へのアンケートで、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5月8日から「5類」とし季節性インフルエンザと同じ分類とはなったものの、社内でのマスク着用等を撤廃する企業は3割前後にとどまった旨が出ていた。

周知の通りこのマスク着用に関して政府が示した新たなルールでは13日から「個人の判断」となっている。初日は近所の三越のライオン像のマスクが約2年10ヵ月ぶりに外され、空港でも受付カウンターのパーティションが外される光景を目にしたが、百貨店やレジャー施設なども概ね上記企業とほぼ同様な対応となっており5類移行まで各所明確な判断がし難いだろうか。

半ば生活の一部になってしまっている一番難しいマスク問題だけ唐突に個人の判断にすると半ば責任放棄とも取れる政府のガイドラインだが、改めて勝手にどうぞと言われるとはたしてマスクやパーティションにどれ程の効果があったのだろう?とも思う。時にはスーパーコンピューターまで持ち出しその効果を謳ったのが記憶に新しいが、その辺の科学的な知見とはいったい何だったのだろう?

日本は一度決めたことが効果のある無しがわからないままなお続けてしまうキライがあるが、世界中でマスクを外した日常が戻るなか日本だけ頑なに政府のガイドラインを守りマスクを付け続けた効果が諸外国と比較し顕著だったかどうか、せめて政府は検証すべきだろう。いずれにせよ5類移行でコロナ前の生活様式が直ぐに戻るのはなかなか難しそうだ。


堂島限日取引始動

今週から堂島取引所では金、銀、白金の先物「限日取引」がスタートしている。先物取引には通常限月が存在するが、これは限月制ではないので決済期限が無く無制限に売買のポジションを持ち続けることが出来る。貴金属先物といえばJPX傘下のOSE(大阪商品取引所)が知られたところだが、こちらは取引単位を更に小口化しているのが特徴となっている。

限日取引は上記のOSEでも「東京ゴールドスポット100」が8年前からスタートしているが、限日取引自体はこれより更に5年前に「日経・東工取指数」がこの取引形態で上場していた事がある。ただ残念ながら値洗いにおいて理論価格との乖離が著しくなるなどでリクイディティーの低下を招き、限月取引へ回帰するも結局は上場廃止となってしまった経緯がある。

それは兎も角もこの堂島取引所、周知の通り2011年にコメ先物の試験上場を開始し以降10年にわたり5回の期限延長してきたものの結局農水省の認可を得られず事実上の取引ゼロ状態であった。このコメ先物の再上場も目指す同取引所だが、先ずは再始動となるこの貴金属の限日取引がコメ先物に代わる柱となり得るかどうか今後に注目したい。