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伝家の宝刀効果は

注目の金融政策ウィークが終ったが、プラス金利入りが注目されていたスイス中銀は大方の予想通り6月に続き0.75%の利上げでマイナス金利政策を解除、このプラス金利入りで日本のみが世界でも際立つマイナス金利継続国となった。また英国は0.5%の利上げを発表しこれで利上げは7回連続、14年振りの水準となった。

最大の注目FOMCでは一部に1%予想もあったものの下馬評通りに3会合連続で0.75%の利上げを発表していたが、特に注目されたのは政策金利の見通しを示すドットチャートでピークの2023年が4.625%となるなどいずれも6月から上方修正されている。経済見通しの方は下方修正されており、このドットチャートと併せて見るに景気を多少犠牲にしてでもインフレ抑制の為に利上げを継続して行くという強い姿勢が窺える。

さて日銀だが、こちらも下馬評通り金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持する方針を決めた。今更の感が強いとはいえ金融政策の違いが改めて鮮明となり円相場は1ドル145円台後半まで円安が進んだが、政府・日銀は22日、1998年6月以来、約24年ぶりとなる円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。

遂に伝家の宝刀という感じだが、当欄で以前に俯瞰して見ると日銀と政府とで各々の政策が整合性の取れないものとなっていると書いた通り、日銀が大規模緩和の現状維持を決めたその日に円買い介入を敢行する違和感は否めず。その効果も一時的に5円ほど円高に振れたものの本日は一時144円台示現と往って来いまで指呼の間、円安の背景にあるものが不変な限り方向性は変らないワケでここは流れを受け入れ円安メリットを生かし日本に投資を呼び込む政策が喫緊の課題だろうか。


祝日取引開始

さて、先の日曜日の日経紙総合面には「株安時の損失リスクを軽減」と題し、海外で大きく株価が動いた際などに損失リスクを軽減する機会を増やす事などを目的として、JPX(日本取引所グループ)が明後日の秋分の日より株価指数先物取引などデリバティブの祝日取引を始める旨が出ていた。
   
今週はまさにシルバーウィークだが、欧米に比べて取引所の祝日数がいつの間にか多くなった日本ではイベントや非常事態等で相場が荒れても対処が困難で、オプション取引では長期の連休などタイムディケイの影響も出る。そういった意味では売買できる機会が自ずと増えるのは機会損失の防止等含めメリットは大きい。

個人投資家の属性の違いから大手証勢はサービス導入を見送る模様だが、大手ネット系中心に20社強が参加を表明している。大晦日と年初2日は当分実施しない模様というが原則土曜・日曜日を除く全ての現休業日が対象日になる予定で、祝日営業日の日中立会終了後は値洗いによる追証判定は実施しない。デリバティブの口座を持っていない向きは新たにこの口座開設の必要が出て来るが、逡巡していた向きも勉強する良い機会となるか。

前にも書いたが、国内では実に70年ぶりに取引時間の延長が実施される見込みとなっているが、今回の祝日取引の開始と合せ日本の個人投資家の置かれた環境は更に改善してゆく事になる。こうなると其の先で現物との損益通算を求める声が益々高まりそうだが、そういった促進の意味でも今回の一歩は前進といえるか。


金融政策ウィーク

本日、総務省が発表した家庭で消費するモノやサービスの値動きを見る8月の全国消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除いて去年より2.8%上昇した。消費税増税の影響を除くと1991年9月以来、30年11ヵ月ぶりの歴史的な上昇幅となり、原油価格高騰の影響で都市ガス代金が26.4%と81年3月以来、41年5ヵ月ぶりの上昇率となるなどエネルギー価格の上昇が続いている。

また輸送費の高騰や急速な円安等の影響で食パンが15%、食用油も39.3%上昇しているが、先に日銀から発表された8月企業物価指数も2020年の平均を100とした水準で115.1と比較可能な1980年以降で過去最高を記録、前の年の同じ月と比べた輸入物価の上昇率も円換算で42.5%とこれもまた急速に進む円安が指数を押し上げている。

斯様に円安が数多の指数を押し上げる悪役?になっているが、この円にとって今週は注目の金融政策ウィーク。本日はスウェーデン中銀が1%の大幅利上げに踏み切っているが、来る22日にスイス中銀が利上げをしてプラス金利入りとなれば円だけがマイナス金利と世界で際立つ事になる。また更に注目されるFOMCにおいてはインフレ上振れリスクの顕在化でその利上げ幅を巡る予測が喧しいが、これを経てドル円の相場水準も壁越えとなって来るのか否か先ずはその辺に注目したい。


TOB乱戦模様

さて、青果物ネット販売のオイシックス・ラ・大地が給食運営のシダックスに対し先月末からTOBを始めているが、これがなかなかの乱戦模様となっている。そもそもの買付価格が開始時点の株価を大幅に下回るという稀なパターンで筆頭株主とも応募契約を結んでいないという何とも不透明なケースであったが、果たしてというか当のシダックス側からこのTOBへの反対意見が発表されている。

予てよりオイシックス以外の企業から協業の提案があり比較検討が必要な事や、株式の取得価格が時価より低い事などを理由に挙げていたが、この企業こそコロワイドを指しておりフードサービス事業買収の提案が為されていた。しかしこのコロワイドといえば2年前の大戸屋に対する敵対的TOBが記憶に新しいところで、大戸屋側の抵抗虚しく資本市場に長けたコロワイド側が粛々とTOBを成立させた経緯がある。

おまけにその過程で大戸屋側が苦し紛れの業務提携を発表した相手もオイシックスであったのも何かの因縁でこの参戦が注目されたものだが、つい昨日この買収提案をコロワイドが撤回するという意外な幕引きとなった。今後は取締役会や大株主の投資ファンドの対応が焦点となるが、何れにせよ株主間契約の有効性含め企業統治の在り方が問われるケースとして今後の動向にも目が離せない。


サプライズのコア上昇

注目された8月の米CPIが発表され果たして前年同月比8.3%の上昇となった。前年比ベースでの伸び率は前の月からやや縮小し2ヵ月連続で鈍化したがたが、前月比ベースでは横這いからプラスになった。コア指数は前年比、前月比共に前の月からは伸び率が拡大、ガソリン価格は下落するも指数全体のおよそ3割を占める住居費等コア指数が0.6%上昇したのは懸念すべき点となった。

下馬評ではインフレ上昇のピークが来た事を示す数字が出て、ピークアウトから鈍化に向かう方向に期待がかかっていたものだが斯様にこれが見事に裏切られた格好となった。これで次の市場の関心は来週のFOMCということになるが、大方が予想しているところの利上げ幅0.75%も今回の発表で一部証券会社など1%の大幅利上げへの可能性を指摘する向きも出て来た。

FRB議長は先のジャクソンホール講演でも「痛みを伴っても」という表現をしていたが、今回サプライズだったコア指数の項目が下がる程度まで景気が悪くなっても利上げ継続を敢行することになるのか。先の8月雇用統計も極めて強かっただけに、利上げで多少の雇用が失われても容認されるとも取れ痛みを伴うステージへの下地も整いつつあるか。


鎖国から開国へ

本日の日経紙マーケット面では、昨日の東証プライム市場で年初来高値を付けた銘柄の数が148銘柄と前営業日から32銘柄増えて6月8日以来、3か月ぶりの多さとなった旨が書かれていた。円安のプラス効果が意識される製造業などの輸出産業と並んでとりわけインバウンド関連の強さも際立つ展開となっている。

この頁の一覧でも挙げられていた小売りからは三越伊勢丹HDに高島屋の百貨店の双璧が年初来高値を更新し、旅行関連からはJALやハナツアージャパン、JR九州などがいずれも本日も続伸しこちらも年初来高値を更新していた。これらの背景にはいわずもがな日経紙一面にも載っていた政府の水際対策の上限撤廃報道がある。

しかし他のG7並みに円滑な入国が可能となるように水際対策を緩和すると首相が宣言したのが今年の5月のこと、その後新型コロナの新規感染者数が統計上世界最多と記録するに至り水際対策が如何ほどの意味を持つのか誰もが疑問符だったが、この期に及んで漸く上限撤廃への道筋が見えてきたか。

ともあれ足元の円安で海外からは日本はモノが安い国に映っているのは事実。今の円安にブレーキをかけるには金融政策の正常化か開国?しかないワケだが、意固地になっている金融政策が当面動きそうもない今、急激に進む円安対策という意味でもこの開国での爆買い復活に期待したいものだ。


動くに動けず

さて、歴史的な円安水準が続くなか先週末にかけては日銀に財務省と金融庁など情報交換の三者会合を開催し為替市場の動向や今後の対応についての意見交換をしている。これに絡んでは財務省の財務官が斯様な相場の動きが継続すれば必要な対応を取ると明言、更に翌日にも日銀総裁と総理大臣が会見を行い急激な動きを牽制している。

後者はトップ同士の会見ということで介入警戒感からやや円を買い戻す動きが出たものの、威勢よく明言した財務官のように果たして実際にこの段階で円買い介入に踏み切る現実味は如何ほどだろうか?円買い介入に際しては外貨準備を取り崩して介入に充てる事になるが、米国債なども絡むためにかつてよく行われていた円売り介入とは桁違いのハードルが控える。

また周知の通り日銀は頑なに金融緩和を続けているが、これだけ頑なな緩和継続の一方で円安は困るから何かしようという事自体にそもそも無理がある。マクロ政策が円安になるような時に介入を敢行すれば目敏い投機筋の格好の獲物になるのは火を見るよりも明らかで、この辺は90年代後半にやった円買い介入の結果が物語っている。

しかし近所でミサイルを飛ばされたり軍事演習をされたりのやりたい放題に「断じて容認できない」とか「誠に遺憾」とのコメントを繰り返す事しか出来ない日本だが、この為替市場でも必要な対応を取る準備があるという表明も空虚感漂う。このまま為す術なく98年安値さえ更新してしまうのかどうかだが、何れにせよ先ずは明日の米8月CPIに注目というところか。


還元の在り方

さて、先月の話になるが某名門宴会場の株主優待バイキングに行って来た。個別に此処のレストランで食べれば一皿4~5千円する品がいずれも食べ放題で伝統の味を存分に堪能してきたが、この株主優待といえば先週末の日経紙夕刊一面には「株主優待、3年で50社減」と題し、自社製品の送付などの株主優待制度を廃止する企業がここ3年で50社減るなど廃止企業が相次いでいる旨が出ていた。

当欄でも7月末に「還元の軸足」と題して書いた際に末尾で少し取り上げていたが、優待廃止に関しては株主総会でのお土産廃止と共に数年前から度々報じられているところで、2019年まで増加の一途を辿っていたものが19年をピークに3年連続で減少となっている。この背景にはこれにかかるコストや投資家の公平性もさることながら、4月の東証再編で株主数規定が緩和されたという事も一因か。

これまで個人株主増加ランキング企業など飲料大手キリンHDやJALやANA等の大手航空会社、オリックス等がランクインしているあたり何れも優待狙いが窺えたものだが、廃止の流れでオリックスなどは再来年には不動の人気を誇ったカタログギフトの廃止意向を示しており、他の企業もこうした動きに倣う動きが出て来るか否かその動向が注目される。

上記にも書いた通り個人株主の確保策としての優待制度の優先度が下がって来たとも取れる事で、今後は企業側も還元の軸足が配当や自社株買いに移ってゆく動きが顕著化するかどうか、先月の自社株取得枠の設定は8月として過去最高となった模様だが個人投資家もこれらから認識の変化が出て来るか否かとも併せこの辺の動向は注目しておきたい。


相次ぐ外形外し

本日の日経紙投資情報面には「HIS、税負担減へ切り札」と題し、先月末に長崎のテーマパーク、ハウステンボスを香港の投資ファンドに売却したエイチ・アイ・エスが、決算期末直前に臨時株主総会を開いて約250億円近くあった資本金を一気に1億円まで圧縮する減資を決めハウステンボス売却で得られる利益をフル活用しようとの思惑がある旨が書かれていた。

同じ旅行業界ではこのエイチ・アイ・エスに先駆けてJTBが昨年に約23億円の資本金を1億円に、日本旅行も40億円の資本金を1億円に、今年に入ってからはKNT-CTホールディングスが約80億円の資本金を1億円に、国内航空3位のスカイマークも90億円の資本金を1億円に減資している。これらいずれも減資後は税制上の中小企業となる事による外形標準課税の支払い回避が狙いだろうか。

ただ中には減資後に資本増強を行い、その後に資本金が増えた分を資本準備金に振り替え再び資本金を1億円にするなどフルに二重取り?の特典活用を敢行する兵も。自治体側としても税収の変動は好ましくない筈でこの辺を総務省はどう思うかだが、いずれにせよふるさと納税なども然りで公平性から見た税の原則が問われる場面も出て来ようか。


景気浮揚力の変化

さて、円安止まらずというところで外為市場では一時1ドル142円台と1998年8月以来、約24年ぶりの円安水準を記録した。日米の真逆のオペを背景にここ1ヵ月一寸でも約9円の急落を見せているが、今年の円の下落率は先週段階で約18%とかれこれ25円も円安が進み下落率の大きさは1979年の19%以来、43年ぶりのことで73年の変動相場制移行の後では2番目を記録する。

日本はエネルギーや食料を輸入に頼っており、この140円台の円安が続いた場合の今年度の家計負担は政府の物価高対策のよる軽減効果を含めたとしても前年より8万円近く増加するとの試算も明らかになっているが、余談ながら英国はハンバーガーセットが3000円を超え、来月からは標準世帯の光熱費が現在から実に8割も上がり年57万円になるというから我々はまだまだマシな方かと錯覚しそうになる。

しかし日本はエネルギー自給率が1割と主要国での低さは否めないところで、上記の現状等を見るに先の「サハリン2」の継続が承認されたとしてもロシアの一存で供給が左右される構図には危機感を覚える。ともあれこの24年ぶりの円安現象に生産や調達において国内回帰の動きも出て来たが、今後各企業も円安とどう向き合うかが問われることになるか。


長月の値上げ

猛暑も漸く治まりつつある長月入りだが、原材料や包装資材の価格高騰に加え物流コストが上昇している事を背景に生活に身近な商品値上げのラッシュは止まらない。今月も食品では日清製粉ウェルナとニップンが冷凍食品の価格を値上げ、雪印メグミルクとJオイルミルズはマーガリン類を、飲料ではサントリーが輸入ワインを、霧島酒造は焼酎、ネスレ日本とUCC上島珈琲はコーヒー製品等を値上げする。

また食品以外では電気料金も2社でまた値上がりとなり、東電ではかれこれ13ヵ月連続で値上げが続くことになる。またガス代も3社が値上げし、予てより言われていた自動車のタイヤも主要メーカーで値上げが始まり、ブリジストンが4月に続き今月出荷分から今年2度目の値上げを発表し、住友ゴム工業もダンロップ製品を値上げする。

こうした中、1日付の新聞折り込みには低価格で人気の業務スーパーが冷凍食品類など200品目以上を値下げする「総力祭」のチラシが入っていたが、他のPBとも併せ個別の企業努力も窺える。帝国データバンクによれば今月だけで2000品目以上が値上げ見通しで1品あたりの平均値上げ率も15%を上回っているというが、ピークを迎えると言われる来月で一旦の一服を見せるか否かが注目される。


恒久化への道

金融庁が昨日2022事務年度の金融行政方針を発表しているが、これまで報じられているようにNISA(少額投資非課税制度)の設計改革など投資から貯蓄への道筋作りがポイントとなる。周知の通り現行では一般NISAが2028年末までの期限付きで年間120万円までの投資が最長で5年間非課税となり、つみたてNISAは2042年末までの期限付きで年間40万円までの投資が最長で20年間非課税になる。

斯様にNISAは株式や投資信託等の配当や売却益にかかる税金を一定期間免除される制度だが、余談ながらかつて立憲民主党の某議員がNISAに対してまで課税を匂わすトンチンカンな失言があったのを思い出した。ともあれこのNISA、そもそも創設の際にモデルとなったのは英で国民に定着したISAだが、既に英国ISAの非課税期間は無期限に恒久化されている。

また先に当欄で単元株を取り上げた際に「~NISAの啓蒙こそ喧しいものの積み立てより上限が高い一般モノでも120万円の枠と、最低単元買うのに約870万近くが必要になるファーストリテイリング級の銘柄は足元にも及ばない計算になる~」と書いたが、こうした極端な値嵩モノは兎も角も現行枠では如何にも心許ない上限額なのは否定出来ないところだろう。

上記に鑑みNISAの期限撤廃と上限引き上げを来年度の税制改正要望に盛り込む方針で年末にかけて具体的な額を詰める。何れにせよこれで1000兆円規模の個人貯蓄を投資へと後押ししたい考えだが、今週アタマの日経紙に金融庁が全世代を対象とした金融教育の必要性を提言する旨の記事があった通り広くリテラシーを身に付けるための金融教育も併せて必要なのは言うまでもないか。