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争奪戦の行方

さて、ここ関係者の間で注目を集めていた旅行大手HISによる旧興銀系不動産のユニゾホールディングスへの敵対的TOBであったが、これに反発し米投資ファンドのフォートレス・インベストメントと組むなどその行方が注目されていた一件は23日にこれが終了しHISに結局株主からの応募は無かったとの発表が為されている。

そもそもの株価がTOB価格を4割以上も上回っていた事で当然の結果とも言えるが、フォートレ・スインベストメントのTOB価格をも上回っているだけに今後買い付け期限までに投資ファンド側の価格引き上げはあるのか否か気になるところだが、この案件に限らず今年は買収案件に関して公の場での争奪戦が目立つ。

ガバナンスへの意識が高まっている証左でもあるが、今回の件は発行済み株数の40.21%を買い付ける予定であったといい、先にヤフーとアスクルについて当欄で書いたように半数に満たない保有比率で保有先企業の経営を狙う案件がここ最近は増加している。残りの過半を保有する少数株主の権利が蔑ろにされないかどうかこの辺に絡んだ論議がまた出てきそうだ。


需要と倫理

さて、現在スイスのジュネーブで開催されている絶滅の恐れがある野生生物の国際取引を規制するワシントン条約締結国会議の委員会は、その行方が注目されていた日本など象牙の国内市場を維持する国に早期の閉鎖を求める決議案の採択を見送る事を昨日決定したと報じられている。

象牙といえば春先に当欄で取り上げた際に国内での象牙取引厳格化の旨を書いたが、その一つである登録制度を盾に国内市場の維持を訴えたのが一先ず奏功した感じか。この登録制度を前に昨年から登録量が急増している旨が報じられているが、これらから明らかに駆け込みの用が窺える。

しかしこうした駆け込み登録の中にも違法取引されたモノを含んでいる可能性もあり、日本から違法に輸出された象牙が中国で押収されるケースが既に昨年1年間の件数を上回っており、禁止が先行している国への新たな供給源に化けている可能性も指摘されているだけに今回の決定に一部で批判も出そうだ。

ここ近年は象牙に限らず鰻や鮪から鯨まで世界中から厳しい視線が向けられているが、日本のマーケットはマニアックな需要からペット用に冒頭のような絶滅危惧種等の流入が度々事件にもなる。倫理より欲望が遙かに勝る一部の富裕層マニア等が存在する限り闇マーケットは存在し続けることは想像に難くないだけに今後も厳しい指摘は続きそうだ。


脱プラ機運

昨日の朝方のTVニュースでは今年春にタイの海辺で保護され人気となっていたジュゴンの赤ちゃんが残念ながら亡くなってしまった件が報じられていたが、その体内から大量のプラスチックが見つかった事でこれが原因となった可能性が高いとの事が波紋を広げている。

上記のような動物たちがプラスチックを飲み込んで傷ついてしまっている事が問題視されている件についてはこのTV放映があった日の日経夕刊ニュースぷらすでも「なぜ今、脱プラ運動?」と題し触れられており、遅れていた日本の規制も漸く30年までに使い捨てプラスチックの排出を累積で25%削減する事が決められた旨が載っていた。

脱プラスチックについては当欄でも数度触れているが、こうした機運を背景に日経産業紙纏めの今年上半期のスタートアップ企業の調達額ランキングにはプラスチック代替の新素材を開発する企業もベスト10にランクインしている。斯様に官から民も波が発生し消費者側もまた問題意識を持つ切っ掛けとなってくるか。


キャッサバ熱再燃

ちょうど一週間前から原宿では期間限定で「東京タピオカランド」がオープンしているが、今朝のTVでは複数の局であの富士そばが「タピオカ漬け丼」なるオリジナルメニューを売り出した事を取り上げており、もともとTwitterで注目を集めていただけあって限定メニューの同品は仕込みが追い付かずに売り切れとなっている旨が放映されていた。

ところで原宿といえば近所では同じく9月までの期間限定でリプトンの「Fruits in Tea」期間限定店も表参道にオープンしているが、今年はメインとなる様々なフルーツと共にカラータピオカがスペシャルアクセントとして底に沈んでいるなどまさに今がタピオカブームのピークの様相という感もある。

そんなワケで今年上半期の全国タピオカ輸入量は前年同期比で4.3倍、輸入額は約5.7倍といずれも過去最高となったという。しかし私などが覚えているタピオカブームといえばまだバブルが燻る90年代のティラミスの後くらいだったと記憶しているが、この手は時として繰り返しブームが再来するモノが本当に多い。利益率も比較的高くビジネス的にも障壁は低いものの何れまた訪れる終焉期はバブルの最中には誰にもわからぬものである。


次世代議決権行使

さて、先週末の日経紙総合面では「株主総会、ネットで出席」と題し、業の株主が議論の視聴だけでなく質問や議決権の行使も法律的に問題なく出来るようにするなど、インターネット経由で株主総会に出席出来るよう株主の利便性を高め形骸化しがちな株主総会の活性化を狙うべく経産省等が企業向け指針を作る旨が出ていた。

総会シーズンともなると彼方此方の企業から丁寧な会場案内図が記された招集通知が送付されてくるが、一寸遠隔地ともなるとなかなか躊躇われ更に昨今のお土産自粛機運から招集通知には赤文字でお土産のご用意はございません等ときっぱり謳っている通知もあり、これらが更に腰を重くしている部分もあるか。

これまで株主総会に出席できない場合は郵送で議決権行使というパターンであったが、もともと個人株主の行使比率は3割程度が相場、つまり個人株主の3分の2が議決権を行使していない状況であった。そんなワケで議決権を行使してもらいたい企業のニーズを背景に昨年から議決権行使をスマホで行えるサービス等が開始されているが、これらに枝葉を持たせることで行使率のアップなど総会の活性化に繋がるかどうか今後の進化にも注目したい。


コード9665

さて、一部では漸く収束の兆しもチラホラ見えてきた吉本興業のゴタゴタ劇だが、先週末の日経紙・真相深層では「芸能人は例外 変わるか」と題し、お笑い芸人の闇営業問題を機に始まった騒動が事務所と芸人との契約の在り方に飛び火しその見直しから経営の変革まで迫られはじめた旨が書かれていた。

ところで吉本興業といえば10年前まで曲がりなりにも東証一部に上場していた企業。現会長が社長就任後に元ソニー会長率いるクオンタムリープのTOBに賛同しMBO実施で非公開化に踏み切ったワケだが、各メディアなどを主要株主にしこれが渦中の芸人が強行した記者会見でテレビ局が株主云々との発言の背景になっている。

仮に上場していたらけっこう株価にとってはダメージを与えた事件?もMBO後にあったが今回の件もまたしかりでガバナンスが機能していたとは言い難い。とはいえMBOで反社勢力には一定の抑止力効果はあったものの、いろいろな意味で一強の権力集中を招く副作用も応分にあったか。働き方改革など世が変革しつつある時に旧態依然を踏襲する組織は自己変革出来るか否か、まだまだ今後が注目される。


時期尚早

本日の日経紙金融経済面には「SEC、承認判断を再延期」と題し、SEC(米証券取引委員会)が米3社の申請していた仮想通貨ビットコインのETF(上場投資信託)を承認するかどうかの新たな判断期限を、仮想通貨交換所がサイバー攻撃のターゲットになり資産流出事件が相次いでいる事などを背景に9〜10月にそれぞれ再延期した旨が出ていた。

ビットコインETFに関しては当欄でもちょうど昨年の今頃触れているが、当時は3度目の正直で悲願が叶うのか否かとしたCBOEに上場申請したビットコインが承認まであと1ヵ月というところであったが、結局延長が重なり年を跨いで米政府機関の一部閉鎖と併せCBOE自ら申請を取り下げる結果となった経緯がある。

それらを経て今回も承認判断再延期という事になっているが、先物が先行上場を果たしているだけにそれらを原資産としたモノなどへの期待も高く、フェイスブックの「リブラ効果」から価格も上昇してきているもののインフラ整備等がそれらに追い付いていないなどやはりその壁は未だ高いのが現状である。


大都市圏の苦悩

さて、昨日の日経紙・経済教室には近畿大学教授のふるさと納税と地方財政と題した項があったが、ふるさと納税といえば総務省は今月アタマに昨年度の寄付額が5127億円だったと発表している。これで6年連続の過去最高更新となったが、最高となったのは寄付額に限らずこれに基づく19年度の住民税控除額もまた記録となった模様。

昨年も同控除額が前年比で約4割増加した旨が総務省発表で為されていたが、今年も約3割増加となりはたしてというか東京の控除額が昨年の約645億円から今年は867億円と突出して多く、市区町村では横浜市の136億円はじめ大都市圏の自治体にとっては引き続き頭の痛い状況が続く。

しかし今回の新制度で外された全国最多を集めた大阪の泉佐野市含む4市町が寄付額の22%を占めるなど駆け込みが如実に表れた格好となったが、これを境に寄付額増加が一服し本来の姿への転換点となるか否か?19年度住民税控除対象者の割合は7%程度と同紙では書いてあり、除外対象からの流出分などと併せその伸びしろを勘案するにまだ地方交付税の恩恵の無い大都市圏の苦悩は続きそうな感もある。


TOCOM過去最高値

さて引けてみれば小反落であったものの一時は下げ幅を約600ドルに広げるなど米株式の動揺が続くが今週はNY市場が今年最大の下げ幅を記録し、人民元は2日続けて11年ぶりの安値を更新、FRBの利下げが予防的なものにとどまらないとの見方が日米金利差縮小観測に繋がり東京市場では円相場が1ドル105円台まで上昇する場面があるなど米中貿易戦争激化で世界の金融・証券市場が揺さぶられている。

そんな大揺れとは裏腹にCOMEXの金相場は大幅続伸し中心限月は2013年以来ほぼ6年4か月ぶりに1500ドル台の高値を付け、TOCOMも中心限月は連日の続伸から1982年の取引開始以来の史上最高値を更新、地金価格もまた1980年2月以来、約40年ぶりの水準に上昇とこちらは破竹の勢いである。

世界の投資マネーが高リスク資産を回避する動きのなか現物資産の裏付けがあり相対的に安全な資産とされる金に買いが集まる教科書通りの原点回帰の動きだが、先物主導のスペック的な動きのみならず先月も書いたようにETF残高等も6月末時点で6年3か月ぶりの高水準に達しているあたり冒頭の通りFRBの利下げが予防的なものにとどまらないとの見方の証左でもあるか。


官介入の是非

本日の日経紙企業面には「ルネサス新体制に試練」と題し、半導体需要の減少で本業のもうけを示す営業損益が赤字になるなど半導体大手ルネサスエレクトロニクスの業績が低迷している旨が出ていたが、かつて「日の丸半導体」と喧伝された同社の先行きに暗雲漂う状況が続いている。

同社といえば11年の東日本大震災で主力工場が被災し経営危機に陥った事から官民ファンド支援で再建を進めた経緯があるが、その後の産業革新機構の同社株売り抜けと対照的に経営トップはコロコロ変わり日の丸ではない資本に支援を求めるなど当初描いていた姿とは思惑外れの結果となっている。

ところでルネサスのような日の丸半導体と同様な「日の丸」モノとしてやはり直ぐに思い浮かぶのは「日の丸液晶」を謳い登場したジャパンディスプレイか。こちらもこの数年の崩落で株価は見る影もないが、斯様に鳴り物入りの政府主導で機構が旗を振ってもことごとく頓挫している様を見るに変化への機敏な対応が出来ない官の介入が正解であったのか否かは火を見るよりも明らかである。


取引所もスピードバンプ

さて、本日の日経紙金融経済には「取引速度あえて遅らす」と題し、HFT(高速取引)業者に対する他の投資家の不平等感を解消する事で活発な取引に繋げる狙いとして、世界の取引所で投資家の注文を受けてから執行までの時間を敢えて遅らせる「スピードバンプ」なる仕組みの導入が広がっている旨が書かれていた。

そうした動きに対し東証としてはテイカー型のみ不利になる差別する仕組みの導入には慎重姿勢というが、既に一般との機会不平等が混在するなか昨年の今頃にはロシア系の新興勢力HFT業者による東証での売買全体に占める比率が1割を超えている可能性も高い旨を書いた通り主力級プレイヤーに台頭した存在の扱いは課題か。

もう一つ当欄では今から2年前だったか、そのシステム開発負担の重さを背景にHFT大手米バーチュ・フィナンシャルが同業のKCGホールディングスを買収するなど再編機運から高速業界も淘汰の波が押し寄せてきている旨を書いた事があるが、このスピードバンプの実施が広がりを見せれば淘汰の波に更なる拍車がかかるのは想像に難くないか。


親子上場と利益相反

さて、親会社のヤフーに対しアスクルが資本・業務提携の解消を求め両者がザワついているが、果たして先週開催されたアスクルの株主総会では親会社のヤフーの意向でトップと独立社外取締役の再任が否決、この辺に絡んでは本日の日経紙社説で「看過出来なくなってきた親子上場の弊害」と題して問題点が挙げられていた。

この件でトップは兎も角も社外取締役の処遇が物議を醸し出しており、結果としてこの株主総会後にアスクルの独立社外取締役は存在しなくなってしまったが、今後親会社の意向が強く働くケースが出てきた場合には少数株主の利益が脅かされるなど不利に傾く可能性も出て来ないとも限らない。

先に政府も新たな指針を作成し子会社の取締役会で独立した社外取締役の比率を高めるよう求める一方、親会社には親子上場を維持する合理的な理由を開示させるなど親子上場している企業グループの利益相反を抑える仕組みを謳っているが、政府が大株主となっている一部の企業でも社外取締役が3分の1に満たない例があるのが現状でこの辺がまだ課題として残る格好になっているか。