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ノルマの亡霊

本日の日経紙には「かんぽ不正、信頼逆手に」と題し、かんぽ生命保険社員が故意に保険料を二重徴収した疑いが発覚したりするなどの保険業法に抵触する恐れのある不正販売の広がりが止まらない旨が出ており、その背景には収益源である金融事業が維持コストの大きい郵便事業を支えるという特異な企業構造もある旨が書かれていた。

そんな構図なだけに当然ながら局員には販売ノルマが課せられていたというが、ここでは顧客の3割弱が70歳以上の高齢者が占めるという。かんぽ生命に限らず証券会社でも銀行でも金融商品の販売ノルマが絡む不正では、もうお約束のように必ず高齢者頼みの構図が露呈するケースが多い。

ジレンマに陥り身動きが取れなくなった証券会社を横目に、ここ数年で一部銀行が販売手数料収入より顧客の運用残高を増やした社員を評価したり、解り易い商品の情報提供等をグループ各社に求める指針を作るなど営業改革に乗り出す動きが見られる。利鞘稼ぎの時代から其の先に活路を見出すも、金融庁の求める販売体制とのバランスをどう図ってゆくかが課題になるか。


期待とジレンマ

本日の日経紙金融経済面にはゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが、世界でETF市場が拡大するなか日本でも需要が高まるとみて、月内にも同アセットが注目するテーマ関連に絞り込んで投資する5本の販売を始めるなど国内でETF事業に参入する旨が出ていた。

このETFといえば先月も日中のETF相互上場で想定を超える需要が集まっている事で中国マネーの取り込みが期待されているが、一方で個人投資家の人気が高い所謂ブルベア型ETFは昨年2月のVIXショックが尾を引いて金融庁や東証などの当局が新規上場に慎重になっている旨も報じられている。

言われてみれば確かにこの手の新規モノはパッタリと見かけなくなったが、当時はS&P500のVIXインバースETNが早期償還となり、インバース型のVIX短期ETNに至っては一気に17分の1まで暴落するなどオプション市場並みの大荒れの波が襲ったものだが、このボラこそ人気を集めている部分なだけに投資家保護と市場活性化というジレンマをどう解いてゆくかが課題か。


ESGとGPIF

さて、先週末の日経紙総合面には「ESG投資に3.5兆円」と題し、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が環境や企業統治などを考慮したESG投資を増やし、5日に発表した2018年度末の資産残高が3兆5銭億円に達し1年前の2.3倍に増えた旨が出ていたがこの辺は先月末の当欄でも少し触れていた。

ちょうど同日の投資情報面にもGPIFの3月末時点での保有銘柄リストが公表されていたが、なるほど2018年3月末比で上昇が目立った武田薬品工業はサステナブルバリューレポート2018が環境省や「地球・人間環境フォーラム」主催の「環境コミュニケーション」で優秀賞を受賞するなど取り組みやディスクロが高く評価され、三菱商事の方はESGの観点から企業のパフォーマンスを図る目安として多数の投資家に参照されているFTSERussellが開発したインデックスの構成銘柄になっている。

GPIFの18年度運用利回りは1.52%で運用指標である1.92%を下回ったというが、ESGは短期目線で顕著な効果が出る性質のものではない。短期といえば近年はヘッジファンドの中でも成績が思惑外れとなったところも見受けられたが、こうした短期指向の一部は企業へのプレッシャーを通じ実態経済への悪影響を指摘される部分もあった。

それだけにESGの流れはこれらショートターミズムの問題解決にもつながると期待の声も一部にあがっているが、何れにせよESG投資は投資先の長期的な成長機会を捉えることにあるため長期にわたって巨額な公的資金を運用するGPIFがESGに着目する事はやはり自然な流れということか。


海外流出と保護対策

さて、昨日の朝のニュースでは青森県が開発したリンゴの品種「千雪」と見られる苗木が許可なく中国のネット通販サイトで販売されている件を見たが、同日の日経紙社会面でもこの件が不正に流出した疑いがあるとみて国に調査や販売差し止めのへの協力を求めた旨が書かれていた。

流出した日本のフルーツといえば、先の平昌オリンピックで注目を浴びたカーリング女子日本代表の所謂「もぐもぐタイム」で食べた韓国イチゴが美味しいとのコメントが話題になった事があったが、それが流出した日本のブランド苺であった事を農水相が指摘した事も別に話題になったのを思い出す。

韓国では他にブランドみかんも無断栽培されている報道もあり、これ以外でも時期的にこれから出回り始めるであろう日本の農研機構が10年の歳月をかけて育成した「シャインマスカット」もまた中国で品種登録の隙間を縫って生産が急増し大幅な廉価の影響で価格破壊が起きており、冒頭のリンゴもこのパターンになるのではと生産者は戦々恐々の状況である。

フルーツ以外でも最近では和牛の精子等を中国へ持ち出そうとした輩が刑事告発を受けた旨の報道もあったが、ブランドプレミアムから市場で高値取引されている物は逆輸入された場合の経済的損失は上記の通り可也の額になり何よりブランド価値の低下を招く。登録等の壁も各所であろうが、日本が総力をあげた成果であるブランドの保護対策は急務の課題だろうか。


不動の銀座

一昨日は東京国税局による路線価発表があった事から各紙でもそれらが報じられていたが、インバウンド効果なども寄与し全校平均が4年連続で上昇となり、東京都内はこれに加え人口や企業の一極集中もあって前年比で平均4.9%上昇と6年連続のプラスとなり上昇率も拡大することとなった。

そんななかで2019年分の日本一となった路線価はやはりというかお約束の鳩居堂前という結果となったが、これで日本一は34年連続となり19年は3年連続で最高値を更新している。やはり都内ではこの銀座界隈が安定の最強を誇っているがテナントの変遷など常に新陳代謝も著しい。

近年もGINNZASIXや東急プラザ、もう少し範囲を広げて界隈のミッドタウンなど新たな商業施設が誕生しているが、こうしたメジャーな場所は兎も角も大通りから逸れると途端にその前に鎮座していたビルなどなかなか思い出せないものだが、マロニエ通りでは退去した伊ボッテガ・ヴェネタが退去した跡地には英バーバリーが早速近場から移転で同所を手当てした旨が日経紙にも出ていた。

今から10年以上前に当欄では銀座は変遷著しく経済を肌で感じ易い街とし、20年の東京五輪も見据え内外の観光客を誘致するべく今後も再開発など継続してゆくのは想像に難くないかとしたが、五輪後も銀座の不動の人気が続くとの見方は多く引き続き活発な新陳代謝が継続しようか。


12年ぶりの改定

さて先週末の日経紙投資情報面では「株主保護に重点」と題し、経済産業省が株主に不利とならぬよう独立性を担保した委員会を設置して買収価格の算定根拠などを議論する事を求めるなど、MBO(経営陣が参加する買収)に関する改定指針を発表した旨が出ていたが改定は12年ぶりのことという。

このMBOに関しては当欄で先月に一度取り上げているが冒頭で日本において買収価格が低く抑えられがちな旨を書き、これまでMBOの実現適わずに終わった中堅印刷会社の廣済堂はじめ東栄リーファライン、アサツーDKから日立国際電気等々そのMBO価格の低さをアクティビストらに指摘されてきた経緯も挙げた。

素地としては企業側が資金調達に困るという環境下に無くMBOの誘因が高まる半面、総じてこれまで経営陣らによるディスクロが不十分であった為に株主側から待ったがかかったパターンが多くMBO件数が低迷している背景があるが、特別委員会の設置でこの辺の透明度も高まり低迷から抜け出せる切っ掛けになるのかどうか先ずはこの辺に注目しておきたい。


株主総会2019

さて、先週は上場する3月期決企業の約3割が定時株主総会を開催したピークの週であったが、問題企業には久し振りに長丁場となるケースが目立ち、株主から出された議案数は過去最多となった一方で経営側の出した議案に対しては広く株主の反対に直面するケースが見られるなど今年は例年に増して緊張感のある総会となった模様だ。

当欄では昨年の総会シーズンに「今年の争会」と題し、株主提案を受けた企業が過去最高の42社に上っている旨を書いていたが、19年の6月総会ではこれを大きく上回る54社となった旨が日経紙にも出ており、騒動があった一部企業では株主側が提案した取締役選任案が可決されるケースも出て来た。

上記の通り「争会」もかつての総会屋がすっかり鳴りを潜め、司法の壁の前に退場を余儀なくされたアクティビストの面子も変わり持ち合い株の減少が年々目立つ構造変化から真剣な議論が交わされ本来の意思決定という機能を取り戻しつつあると指摘する向きも多いが、総会屋が蔓延りシャンシャンと仕切っていた一昔とはほんとうに隔世の感がある。


ブランドカフェ彼是

さて、今月は中旬まで原宿でミスディオールなどブランドとコラボした期間限定のカフェが展開されていたが、ブランドカフェといえば同じくこの界隈では春先にティファニーが最上階にカフェを設けたコンセプトショップをオープンしたのも話題だ。これはNYに引き続き世界では2店舗目といい、今や惜しまれつつ閉店してしまった銀座のグッチカフェも世界でミラノと日本の2店舗しかなかったなと思い出す。

グッチカフェはそれこそコーヒー一杯からリゾットやカツレツなどしっかりした食事まで出来たが、こちらはブラウニーやクロワッサンなど軽食がメインでドーナツやクッキーなどティファニーブルーでコーティングされてあるものもあり、店内の至る所にあるフォトスポット同様にSNSを意識した作り込みに仕上がっている。

もう一つハイブランドのカフェといえばあのフランク・ミュラーもかつて羽田に出店していた時期があったなとこれまた思い出す。こちらも日本酒を合せた大吟醸ショコラやパウンドケーキなど手頃?なモノから20万円のけん玉まで売っていたが、これまた現在は閉店してしまっている。

しかし、こうしてみるとハイブランドのコンセプトショップというのは近年コト消費を軸にしたものが目立つ感がする。どこも体験を意識した作り込みの店舗でこれまでブランドにあまり関心を持たなかった層にも訴求する狙いが読み取れるが、今後も何所が一捻りしたコンセプトショップを出店するのかこの辺がまた楽しみである。


手段としてのESG

本日の日経紙オピニオンでは「ESG投資、普及の年に」と題し、今年米通信大手が10億ドル規模のグリーンボンド(環境債)を発行した際に発行額の8倍もの申し込みが殺到、調達コストも普通社債比で廉価になったのをはじめ大義ある活動以外の観点からも多くの注目すべき点がある旨を載っていた。

特集の頁でもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)理事長が戦略修正促すESG投資として、同行政法人が統合的ESGインデックスはじめ計5月の指数を設定し投資総額も3兆円超えの旨を語っているが、この辺は上記のグリーンボンドが発行された頃の当欄でもGPIFが一昨年あたりからこうしたセクターに絞った物色も始めている旨を書いていた。

冒頭の文中では大義ある活動以外にリスク管理の手段ともあったが、スルガ銀行の問題などを省みるにこの辺は現実味を増している。今週は株主総会ピークだがことESGに関してはテーマにもなりつつある動きが出始めており、株主優待含め投資家側と企業側がより向き合えるものとして世論に迎合するESGの重要性は増している。


脱棲み分けの課題

さて今週は株主総会がピークを迎えるなか、昨日は東京商品取引所も株主総会を開催していたが本日の日経紙商品面には「TOB価格決定 予定より遅れも」と題し、JPXと統合を控えるなか総会では社長がTOB価格の決定時期が予定されている下旬から以降にずれ込む可能性を示唆した旨が載っていた。

これが可也ズレ込むようだと秋口のTOBスケジュールにも影響が出てきそうな感じもするが、東京商品取引所といえば取引低迷に加えてJPXとの統合に向けた減損処理の影響もあり、前期7億円の赤字から先の2019年3月期では発足以来最大となる23億円の最終赤字を計上、これで4期連続の最終赤字となっている。

構造から10年を超える月日を経る間に疲弊し世界標準との距離も広がった形になったが、構想実現に向けた動きになってなお縦割り行政の部分の課題がやはり大きいか。コーポレートガバナンスが声高に謳われるなか、上場企業の傘下に入る事で改めて統治の在り方が問われようか。


暗号通貨の在り方

さて、先週末には代表的な仮想通貨ビットコインの価格が心理的節目の1万ドル大台を2018年3月以来、約1年3か月ぶりに回復となったたが、週明けの本日も騰勢は衰えずに一時1万1,000ドル台に続伸し株式市場でも仮想通貨関連株が再度の蒸し返しも含め軒並み動意付いていた。

中東情勢を巡る地政学リスクを背景に仮想通貨は一部投資資金の退避先になっている部分もあるが、米フェイスブックが発行を予定する仮想通貨リブラへの期待もまた大きいようだ。この辺は同じ仮想通貨でも価値の裏付けが無く投機色が強い上記のビットコインと違い、約27億人の潜在ユーザーに加え価格が安定しているステーブルコインの色を持つ点がポイントか。

しかしその規模を勘案するに銀行の聖域を侵食しかねない部分もあるだけに牽制の声も出て来ようし、各国の法制度との整合性も確保出来るか否かも課題となってくるのは想像に難くないか。その辺は兎も角、何れにしても月末に開催されるG20首脳会議でも仮想通貨に関する規制面の在り方についても議論されるとの一部報道もあり、この難題が各国でどう対応されてゆくのか注目される。