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募る思惑

先週末は決算発表のピークであったが、なかでも目についたのがソフトバンクGの決算で2023年3月期決算は9701億円の赤字となっていた。2年連続の赤字は実に18年ぶりの事となったが、要因はやはり昨年に続いてのビジョン・ファンド。世界的な金利上昇による投資先の株価下落や、景気減速による業績悪化が決算に大きく影響を及ぼした。

昨年の決算会見を思い返せば徹底した守りに入る旨を強調していた経営トップであったが、虎の子のアリババGの株式放出で5兆円近くもの利益を出すも要のビジョン・ファンドの5兆円を超える損失によりこれをカバーするには至らなかったか。一方で今年の会見ではCFOが攻めのタイミングを見極めてゆくと守り一辺倒からニュアンスの変化も見られた。

ところで同社といえばアリババに取って代わる主要資産を狙い、直近で傘下の英半導体設計アームの米市場でのIPOを申請している。これが実現して高い評価を得られれば上記の経営方針変化とも併せ、予てより囁かれている同社を巡るMBO観測の現実味も一段と増すというものだがそれら含め今後も同社の動向には要注目としたい。


ESGを巡る青と赤

さて、ちょうど1週間前の日経紙国際面には「米フロリダで反ESG法」と題し、地方債を発行する際にESGの要素を考慮することが禁じられるなどESG投資の活動を制限する「反ESG法」が米南部フロリダ州で成立した旨の記事があった。署名したのは反ESGの旗頭ロン・デサンティス知事だが、他にも保守系17州で反ESG法案の準備が進んでいる模様だ。

日本では金融機関などESG投資への取り組みを強化し、自治体などもESG債の発行が近年では急速に増えてきているが、米ではこれに逆行する形で気候変動などを重視する民主党の支持者が多い州と、石油ガス業界や防衛産業を推進する共和党の支持者が多い州の間でESGを巡る社会分断が深刻な状況に陥っている。

積極推進派のニューヨーク州は公的年金運用を2040年までに温暖化ガスネットゼロ目標、またメイン州では2026年までに年金の化石燃料への投資撤退を表明するなどの一方、反ESGを掲げる冒頭のフロリダ州は昨年末EGSを意識すると掲げている世界最大の運用会社ブラックロックから20億ドルの資産を引き出し、同じく反ESGのウェストバージニア州は全米で初めてブラックロックとの取引を停止している。

ロシアのウクライナ侵攻等でエネルギー確保と安全の重要性が高まるなかで石油や防衛関連株などこうした産業への投資はESGの理念と矛盾するものの、確かに昨年はこれらの銘柄が運用成績に大きく寄与したのは否めない事実。運用において理想主義が最良のパフォーマンスにつながるのか否か? リベラル派からの圧力で投資の自由が奪われるという意見もわからないでもなく、政治的分断がエスカレートするなかESG投資にどうかかわるか運用会社も難しい選択を迫られそうだ。


脱米ドル依存?

一昨日は米地域金融機関の連鎖破綻を取り上げたが、そうした事も一部背景にあり安全資産とされる金が2000ドルの大台超え後も堅調持続している。この辺は先の日経紙総合面でも取り上げられていたが、ここでは特に新興国中銀を中心にした金買いが顕著で、先週発表された23年1~3月期の金買いは1~3月期としては10年以降で過去最高を記録している旨が書かれていた。

足元では特にトルコや中国の金の積み増しが目を惹くが、上記日経紙の文中では中国の3月時点の金の総保有量は約2068トンで過去5か月の間に100トン以上保有を増やした旨が書かれていたが、7日に発表された直近の保有量は約2076トンと更に8トン増加とこれで6か月間連続の増加でこの期間に6.6%積み増した旨が明らかになっている。

斯様に米と一定の距離を置く国は米ドル中心の既存の通貨の覇権に挑み脱米ドル依存を鮮明にしてきているが、確かに実質金利が上昇しているにもかかわらず金が史上最高値を舐めに行く動きを見せているのはこうした要因以外でも何らかのリスクプレミアムを乗せているともいえる。上記の背景以外にも目先では米債務上限問題等も控えているだけに、今後も折に触れ物色の矛先が金に向かう素地が整っているのは間違いの無いところか。


ほろ苦い缶珈琲

GWも終わり本格始動といったところだが、今月の食品値上げは主要食品メーカー195社で824品目を値上げする予定である。前年同月の3倍となる水準ながら、メーカー各社はゴールデンウイーク前後のかき入れ時の値上げを避ける動きに走った事で4か月ぶりに1000品目の大台を下回ることとなった。

今月はコーヒー豆や砂糖の値上がりを背景に缶コーヒーが目立っており、サントリー食品インターナショナルは主力のボスをメーカー希望小売価格115円から140円に引き上げ、同じくキリンビバレッジはファイアを125円から152円に、アサヒ飲料もワンダを124円から151円に引き上げるほかポッカやダイドードリンコも然りでこれら値上げは25年ぶりのことである。

冒頭の通り今月の品目数は一服となったが、6月以降は5500品目以上の値上げが既に決まっており日経紙調査ではコスト上昇分の価格転嫁の割合は5割未満が半数に上っている事などから、少なくとも秋までは断続的な値上げが続くとみている。また先の輸入小麦の政府売り渡し価格が22年4月~23年3月に比べ平均5.8%上昇しているが、今後はこの小麦粉の価格上昇がパンや菓子などの値上げにつながるかが焦点となるか。


米銀預金獲得競争

さて、予てよりその突出した預金流出から次はココではないか?と噂されていた米地銀ファースト・リパブリック・バンクがやはりというか経営破綻となった。これで先のシリコンバレーバンクが破綻して以降、このおよそ2か月足らずではや3つの中堅銀行が破綻に追い込まれたことになる。週明けのマーケットが開く前にJPモルガンによる救済とギリギリの決着となったが、この一連のスピード決着の流れは先のクレディスイス救済の時の週末を彷彿させる。

これら以外の銀行も戦々恐々だろうが、これまで預金の流出が軽微にとどまっている銀行でも先の決算では軒並み今後の業績を下方修正しているところが多い。この背景には今やMMFでも遜色ない金利が得られるようになったことで、SVB破綻以降は銀行よりも安全で安心なMMFが恰好の受け皿となっており、預金を繋ぎ止める為に金利を従来の想定予想以上に引き上げたことがある。

加えて直近ではアップルが先月から預金サービスを開始しているが、業界を騒がせたのはその預金利率で変動制とはいえ当初の利回りは全米の貯蓄口座の平均の10倍以上に相当する年4.15%。全米で1億人を上回るアイフォーン利用者をフィンテック分野強化で狙い囲い込む作戦だが、早速開始後4日間で10億ドル近くの預け入れがあったそうで中小銀行勢にとっては泣きっ面に蜂ともいえる状況だろう。

この二重苦、三重苦の状況のなかこの流れが今後も続いてしまうか否かだが、今回救済に動いたJPモルガンのCEOは中堅銀行の経営不安は終わりが近づいているとの認識を示しているものの、今後は資本規制強化に備えリスクアセットを縮小する動きが出る可能性から貸し渋りの顕在化も懸念される。株価の下落に身売りが報じられる銀行も出てくる視界不良のなか今後も暫くは中小銀行の憂鬱は続きそうだ。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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