廃止という選択

今週は米投資ファンドのカーライル・グループが医療用不織布首位のホギメディカルに対してTOBを実施し全株式を取得、同社は非公開化される見通しとの報道があった。これでプライム市場からまた一つプライム市場から銘柄が消えることになるが、3日連続ストップ高から本日も続急騰を演じている同じくプライム市場のメディカル・データ・ビジョンも週明けに書いたように日本生命が全株式を取得しこちらもプライム市場から消えることになる。

上記は他社や投資ファンドによる買収ということになるが、他に今年は当欄で先月も取り上げたところのスタンダード市場のアヲハタのように親会社のキューピーが完全子会社化するパターンや、はたまたプライム市場のプロトコーポレーションのように創業家によるMBOというパターンのようにさまざまだが、そういったことを背景に今年は東証上場廃止の企業は昨年より30社多い124社となる見通しと昨日の日経紙一面でも報じられている。

東証といえば市場区分再編から順次基準を設け経過措置を講じている最中だが、未達企業としては来年の秋口以降には各々の身の振り方が迫られることになろう。9月にも一度書いた通り他のポストでも要請期間内に達成しようとすれば所謂“ロールアップ”などの動きや、ファンドが絡んでファイナンスを駆使した時価総額拡大計画の動きなども予測されるがこれは冒頭のファンドとはまた異質のモノか。

いずれにしてこれで昨年に続き2年連続で上場廃止は過去最多となる見通しだが、一昔前は「上場廃止」と聞くと今年の夏にグロース市場から上場廃止になったオルツの粉飾のような不祥事やら業績不振から破綻し上場維持出来なくなるような“後ろ向き”な撤退というイメージのほうが強かったが、昨今は東証要請などもあり企業も投資家と共により“前向き”な退出イメージのほうが強くなっているあたり東証の目指す質の変化は着実に進んでいるといえようか。


3度目の上場

さてSBIのグループ入りした段階で3500億円あった公的資金を今年7月に完済し農林中央金庫との提携も発表した「SBI新生銀行」だが、本日はれて東証プライム市場へ上場となった。注目の初値は公開価格の1450円に対し9.4%上回る1586円となりあと1680円の高値まであった。引けは1623円でその時価総額は約1兆4500億円となり今年のIPOでは最大規模となった計算だ。

思えばこのSBI新生銀行、かつての新生銀行時代にSBIホールディングスと繰り広げた熾烈なTOB劇が記憶に新しい。初の銀行を対象とした“敵対的TOB”として注目されたが、当時の新生銀行はこれに猛反対しSBIホールディングス以外の株主が無償で株式割り当てを受けられる新株予約権を発行する“ポイズンピル”などの買収防衛策を発表するも、分の悪さから後にこれが取り下げられ臨時株主総会も中止されあっけない幕切れでTOBが成立した。

いずれにせよ90年代に国有化されて以降も紆余曲折あったこの銀行も、東証への上場は長銀時代からこれで3度目となる。おりしもマイナス金利から脱し金利のある世界に突入した環境下での再上場はその舵取りもとりわけ注目されることになろう。ところで今年のIPOは数としては全体的に減少傾向だが、今回のSBI新生銀行、それに今年はJX金属やテクセンドフォトマスク等々の大型案件が調達の総額押し上げに寄与している。小粒量産時代から景色が変わってゆくのか今後この辺も見ておこう。


各店の矜持

さて、街がイルミネーションで彩られる時期になるとショーウインドーも競うように各店で工夫を凝らしたものが街ゆく人たちの目を楽しませるが、先の日曜日の日経紙・The STYLEの頁では「ショーウインドー、銀座を彩る心意気」と題し、日本で最も早くショーウインドーが登場した銀座の百貨店や老舗などのディスプレイにまつわるヒストリーが書かれていた。

同紙の頁で一番初めに出てきたのがまさに銀座の“顔”ともいえる「和光」だが、個人的には「資生堂」が好きだ。此処の5メートル以上はあるかとおもわれる縦に長いウィンドウは最初からショールームを意識して作られたともいわれているが、三年前だったか資生堂の創業150年の年に「生きる地層」が話題を呼んだのを思い出す。“接状剥離”という造形保存技術を用いて実際に本物の地層を剝ぎ取ってディスプレイにしたもので実に圧巻であったなと。

またその翌年には同紙でも出ていたが、伝統工芸が持つ日本古来の美意識をテーマとし京都の職人が手作りした和傘でクリスマスツリーを表現した「在る美」も話題を呼んだ。本来は傘の内側にあり使用者しか見ることのできない竹骨と飾り糸を敢えて露出させたデザインで、これは日本空間デザイン賞でグランプリを取っている。ついつい通り過ぎてしまうショーウインドーだが、たまには気にしてみると思わず心を奪われるモノに出逢ったりするのが実に面白い。


最大手生保の買収劇

本日の日経平均は値嵩株への売り物から急反落となったが、そんな中で医療データ分析のメディカル・データ・ビジョンが引けで5700万株以上の成り行き買いを残し比例配分でストップ高に張り付き異彩を放っていた。これはいわずもがな日本生命が同社へTOBを実施し全株式を買い取る旨の一部報道によるもので、同社は昨年も国内介護大手のニチイHDを買収しているが国内の現役上場企業に対してのTOBはこれが初の案件ということになる。

ところで生命保険会社による上場企業の買収は、昨年に当欄でも取り上げた第一生命HDのベネフィット・ワンが記憶に新しい。パソナグループの子会社だった福利厚生代行サービスの同社へは第一生命より先に医療情報サイト大手のエムスリーがTOBを実施中だったものの、最終的には第一生命が同社を手中に収めている。その辺はともかくも他には住友生命も医療データ解析大手のPREVENTを買収している。

いずれにせよ日本生命はこの日本最大級のデータ蓄積量を誇る企業買収でヘルスケア関連事業の基盤を固め、保険事業の基盤を強化したい狙いだ。前回も書いたが少子高齢化・人口減少で国内の生保市場は中長期的な縮小が避けられず、収益の多様化を図るべくその事業開拓が急務となっており、生保トップに君臨する日本生命でさえ斯様な買収劇に動くさまはこの辺を象徴しているといえ今後もこうした動きが続くか。


株高下で二極化

本日の日経平均は続落となったが5万円の大台は維持、日経平均の関税ショックの安値からの上昇率は60%を超え斯様な株高資産効果から大手百貨店では外商等の売り上げが前年同期比で増加し、輸入高級車も販売も伸びるなど高額消費が盛り上がっている旨が今週アタマの日経紙総合面で報じられていた。同紙によれば物価高と賃金の伸び悩みが続く中でも株高に伴って1兆5000億円の消費押し上げ効果を見込むとの試算もあるという。

そういえば先にロールスロイスは100周年記念ファントムをアジアで初めてお披露目しているが、同社の日本国内の販売台数は今年上半期で昨年の185台に対して228台と前年同月比123.2%増となっており先月は単月で過去最高を記録、一昨年はフェラーリがアジア最大級のショールームをリニューアルオープンしているが、同社も先月の新車販売台数が単月として過去最高を更新している。

以前に当欄で書いた三越伊勢丹の「逸品会」に行った際にはコーンズがエントランス付近でこれら輸入車の展示・販売を行っていたが、この時も過去最高を更新していたからそれ以降も毎年のように塗り替えていることになるか。その「逸品会」だが今年も9月に開催されており外商さんが走り回る中で文字通りの逸品を見て回るだけでも楽しいが、同時期の開催としては過去最高の売り上げを記録した模様だ。

斯様な高額消費喧しい裏では、株高など無縁な向きの物価高と実質賃金の伸び悩みに伴う節約志向は根強い模様だ。数年前に逸品会を書いたあたりからこうした傾向は強かったが、当時から日経平均は今や8割高の水準、この分の資産効果も消費に乗ってくるわけだから上記の記録更新も納得だが、そういった意味でも今後はますますこうした二極化の光景も定着してこようか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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