17ページ目   株式

不可解な引け商い

昨日まで4月以来の連騰記録の8日続伸を演じていた日経平均であったが、本日は年初来高値を更新した後さすがに息切れで9営業日ぶりに反落して引けた。各種テクニカル指標の過熱を横目に前日までの8日続伸で2000円近くも上昇しただけに漸くの一服といった感じだが、そんな中で本日はトヨタ自動車の引け際の急落が市場の話題となっていた。

寄り付き後早々に年初来高値を更新しあと後場は前日終値近辺での値動きで推移していた同社株だが、大引け商いで1400万株以上と日中の売買高の4割近くが集中し引けてみれば約5%安の急落での引けとなった。言わずもがな東証プライム市場で時価総額トップを誇る同社だけにこの引けの下落分だけで約1.5兆円が飛んだ計算。

これだけ纏まった売り注文であれば株価への考慮から時間外等の選択もあった筈という事で各所では誤発注の憶測まで飛び交っているが、引け後も特に何の発表もなされていないだけに思惑が募る。ここ相場の過熱感が意識されていたなかで思わぬ冷や水となったが、これだけでTOPIXの約4ポイントの下落に寄与するなど影響は少なくなかっただけに真相が待たれるところ。


33年ぶり

さて日経平均の騰勢は週が明けても衰えず本日で8日続伸となったが、大引けで31000円台をつけたのは1990年7月以来、実に約33年ぶりのことでバブル経済崩壊後の高値を更新することとなった。この日経平均の高値に先駆け同じく33年ぶりの高値を付けていたのはTOPIXであったが、斯様に今回の急騰は大型株が牽引している色合いが強い。

大きな節目の3万円大台を破った背景には先に発表されたGDPも一役買っている。内閣府発表の2023年今年1-3月のGDP速報値伸び率は年率換算で1.6%の増加、プラス成長となるのは3四半期ぶりで市場予想を上回った。全体を押し上げたのが内需の柱でGDPの半分以上を占める個人消費ともいえるが、こちらもまたバブル期並みの光景が徐々に復活してきた。

三越伊勢丹の購買データでは昨年の年間100万円以上の購買顧客が約50%とコロナ禍前を上回り、中でも年間1000万円以上の買い物をしている人の比率は倍以上に膨らんでいるという。なるほど確かに三越の逸品会など訪れた際には各ブースで高額品が次々と成約され、顧客が満足気にふるまわれたシャンパングラスを傾けている光景が彼方此方で見られたものだ。

今から3年前には米の所謂GAFAMのたった5社だけで東証上場全企業の時価総額を上回ったのが話題になっていたが、先週末には株式時価総額が1兆円超となった企業が過去最多となった旨が日経紙で報じられていた。33年ぶりの株価水準と併せいよいよ失われた30年を取り戻す時と期待は膨らむが、この間に欧米の主要株価指数は9倍~12倍に化けているのを見るに本邦はまだ東証改革のゴールに向け漸く緒に就いたばかりという感だ。


募る思惑

先週末は決算発表のピークであったが、なかでも目についたのがソフトバンクGの決算で2023年3月期決算は9701億円の赤字となっていた。2年連続の赤字は実に18年ぶりの事となったが、要因はやはり昨年に続いてのビジョン・ファンド。世界的な金利上昇による投資先の株価下落や、景気減速による業績悪化が決算に大きく影響を及ぼした。

昨年の決算会見を思い返せば徹底した守りに入る旨を強調していた経営トップであったが、虎の子のアリババGの株式放出で5兆円近くもの利益を出すも要のビジョン・ファンドの5兆円を超える損失によりこれをカバーするには至らなかったか。一方で今年の会見ではCFOが攻めのタイミングを見極めてゆくと守り一辺倒からニュアンスの変化も見られた。

ところで同社といえばアリババに取って代わる主要資産を狙い、直近で傘下の英半導体設計アームの米市場でのIPOを申請している。これが実現して高い評価を得られれば上記の経営方針変化とも併せ、予てより囁かれている同社を巡るMBO観測の現実味も一段と増すというものだがそれら含め今後も同社の動向には要注目としたい。


業界再編第二弾

さて、先週の東証プライム市場での値上がりランキングトップとなり目を惹いたのはスーパーのいなげやであった。比例配分でのストップ高を交え一時は2,000円の大台変りを示現する急騰を演じたが、これは周知の通りイオンが同社を連結子会社化するとの発表から子会社化に向けイオンによるTOB実施も想定されTOBプレミアムへの期待が先行する格好になったことが背景にある。

しかしいなげや株の急騰を見るに思い出されるのはかつてバブル期に秀和が流通再編を唱え仕手戦さながらにいなげや株を20%超まで買い進んだ事件か。あの時はいなげやと共に忠実屋の買い占めも行われていたが、両社は相互の株式発行で抵抗し不動産融資総量規制も直撃し結局はこの仕手戦?に提灯を付けた一部投機家だけが儲かり同社が描いた再編劇の青写真は未達に終わった経緯がある。

結局この時の株がイオンに流れたワケだが、このイオンによるスーパー再編の動きは今から10年近く前にもあり当時も当事者のマルエツやカスミの株式が物色され急動意となったものだった。今や株式市場から両社の名前は消えたが、上記の秀和事件で助け舟を出して収拾したダイエーも今やイオン傘下に収まり市場からはその名前は消えている。

コロナ禍を経て巣ごもり需要の反動や物価高騰による買い控えを背景に足元厳しく、来るデジタルシフト化も睨み効率化待ったなしの業界再編第2弾といったところだが、上記と並行し買い占めの憂き目に遭った百貨店もその後再編が進んだ。いなげやも経営統合となれば市場からその名前が消えるはこびとなるが、そうなるとこれまでの再編劇において市場で戦った面子はイオン以外全て株式市場から名が消えるなんとも諸行無常な感だが今後も流通業界の合従連衡の波は続くか。


金庫株消却

本日の日経紙投資情報面には「自社株消却、過去最多に」と題し昨年度の自社株消却件数が前年比で18%増加し302件と2年連続で過去最多となった旨が出ていた。自社株買いで積み上がった株式を消却する事で株主資本は減額されROE(自己資本利益率)が上向く事となり、市場への再放出懸念も払拭され株価の底上げが狙える事などが背景にある。

予てより東証が低PBR企業などに対し資本効率の改善を求めるなか企業側も1株利益等を高めるべく余剰資金などで自社買いを加速させており、東証が今月に発表した投資部門別売買動向では昨年の事業法人の買越額は5.5兆円と前年度から約2倍に増加し1983年度以降で過去最高を更新している。

新しいところでは先々週にホームセンターのDCMホールディングスが総額50億円の自社株買いと発行済み株式総数の4.78%に相当する750万株の消却を発表しており、先月には双日が過去最大の300億円上限の自社株買いと同社としては初めてとなる約1500万株の自己株式の消却を発表している。

これらいずれもPBRは本日段階でDCMが0.82倍、双日は0.78倍と1倍割れだが、株価の方は水準訂正し今月に入って共に年初来高値を更新してきている。昨年の市場再編で上場維持基準として流通株式比率が導入されこの達成を狙った自社株消却の動きも見られるが、上記の通り株価も含め株主還元としては良いネタになるだけに今後も各社の動きが注目される。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

カテゴリー

アーカイブ

2024

11

1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30