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捻れの賛否

今週は株主総会がピークを迎えるが、先週もいくつか注目された株主総会が執り行われた。21日は香港のオアシスマネジメントと創業家の対立が続くフジテックの株主総会があったが、前会長側が株主提案した社外取締役の推薦が否決された。またこの翌日22日には先週の当欄でも取り上げた日本証券金融の株主総会があったが、ストラテジックキャピタル側の提案はいずれも否決されている。

そしてこれと同じ22日に執り行われたコスモエネルギーHDの株主総会ではシティインデックスイレブンズの買い増しに備えた買収防衛策発動の是非を諮る議案が可決している。ココが注目されたのがその採決手法で、大株主であるシティ側を除外して採決をとる方式であるMOM(マジョリティーオブマイノリティー)という特別な手法を今回用いた点である。

これと同じパターンで記憶にあるのが東証スタンダード上場の東京機械が一昨年の買収防衛策導入時に実施した時の光景か。この時も最高裁まで争った結果認められたものだったが、今回も同様にシティ側が訴えた資本主義にあるまじき株主平等の原則に反するとの意見もあながち間違いではなく一般株主の利益保護をどこまで盾に出来るのかどうか賛否両論あろう。

今回の買収防衛策を巡っては米議決権行使会社のグラスルイスやISSも反対推奨しており、総会後に提出された臨時報告書によればMOMを用いなければ否決されていた賛成率であった事も判明している。経産省が取りまとめ中のM&Aに関する新たな指針の案ではこのMOMによる買収防衛策の発動は非常に限定的で例外的な場合に限られるとしているが、今後の日本の上場企業のコーポレートガバナンスを占う上でもこれらの事例は試金石となろうか。


株主優待廃止と創設

先日JTより株主優待品が届いた。同社にはこれまで長年にわたりレトルトカレーやカップ麺、魚沼産コシヒカリ等の自社商品を送っていただいていたが、残念なことに今回が最後の優待となる。これに伴い年末には優待事務局も閉局となるが、既に昨年にプレスリリースの通り株主への公平な利益還元の在り方という観点から廃止の決定に至った模様だ。

まあ確かに大株主級の法人などからすれば小口の株主に優待品を配るのは不平等だということになるワケだが、此処に限らずオリックス等も人気だった(ふるさと納税)ならぬ(ふるさと優待)を廃止するなどプライムの大手どころの廃止が近年目立つ。とはいえこのJT然りオリックス然り両社共に優待廃止と同時に増配を発表している。

当欄では昨年秋頃に「還元の在り方」と題し、「今後は企業側も還元の軸足が配当や自社株買いに移ってゆく動きが顕著化するかどうかこの辺の動向は注目しておきたい。」と書いていたが、4月以降に本決算を発表したプライム市場の企業で増配した企業は5割近くにのぼり、日経紙集計でも予想配当額は過去最大更新の見込みで、自社株買い計画の公表も過去最高に迫るペースという。

一方でグロース市場などの新興勢の中には株主優待を創設、または復活させる向きが目立つ。しかしこちらもまた東証絡みで再編により上場基準も厳しくなったことで何処も株価が欲しいところだが、機関投資家の資金が入ってくるのが限定的な中小型株では個人投資家の存在が大きくIRも重要になって来るというもの。再編を打ち出した当初は代わり映えのない市場と散々揶揄されたものだが、その景色が今まさに変わりつつある。


何でもジェンダーレス?

さて、某所でジェンダーレストイレなるモノを初めて見たが、一昨日の日経紙夕刊には「公共トイレにも「多様性」の波」と題し女性や社会的弱者、LGBTなどの性的少数者に配慮するダイバーシティーへの関心が高まるなか、今年4月に開業した東急歌舞伎町タワーの誰もが使えるというフレコミの所謂「ジェンダーレストイレ」が多様性に配慮しようと逆に画一的になってしまったことで対立の構図を招き炎上騒ぎとなった旨の記事があった。

この末尾には「多様性の時代とはいえトイレには改善すべき課題がまだまだ残っているようです。」とあったが、個人的には男女の区別が求められるこのトイレや浴室などの場所と、そうでない男女の区別が求められない場所とのジェンダー差別問題は分けて考えるのを前提としないとこの手の炎上は今後も起こり得ると思う。

トイレといえば日本は設備機能や清潔性など世界一を誇りココはインバウンドの外国人も多く訪れる場所だけに何とも残念な事態なワケだが、しかしトイレに限らず最近は運動会にまでジェンダーレスに重きを置いて本末転倒な例も出ているようだ。先の東京五輪でもトランスジェンダー選手は公平か?と物議を醸し出した一件もあったが、画一的に処理出来るほど簡単な問題ではないだけに各所でのリスクマネジメントが要になってくるか。


アメリカンブレックファーストの憂鬱

昨日の日経夕刊一面には「オリーブオイル大不作で最高値」と題し、主産地スペインの干ばつ等から昨年に続いての大不作の影響でオリーブオイルの価格が5月下旬時点で昨年の2倍近くに急騰し史上最高値を付けている旨が出ていた。地中海料理がユネスコの無形文化遺産に登録されて以降、オリーブオイルはますます注目され今や朝の食卓には欠かせない向きも多いではないか。

しかし朝の食卓といえばここ最近はオリーブオイルと共に朝食に欠かせない食材の高騰が相次いでいるなとつくづく。昨年から問題になっている鳥インフルエンザのタマゴはいわずもがなで、小麦高からパン、南米の大雨でコーヒーも急騰、それに入れる砂糖の原料粗糖も11年ぶり高値、直近ではこれまた主要原産国の不作でオレンジが争奪戦になりキリンビバレッジや雪印メグミルクはとうとうオレンジジュースの販売休止に追い込まれている。

オレンジといえば鳥インフル同様に既に昨年から病害による減産が顕著であったが、これに目を付けた米運用会社の一部などアメリカンブレックファーストの食材等で構成される「ブレックファースト・ストラテジーETF」の目論見書をSECに提出した一件も思い出される。朝食コストの上昇でエンゲル係数もまた高まりそうだが、上記のようにそれらに商機を見出す向きもあり枝葉の広がりに寄与しているともいえるか。


10年前と異なる株高

週明けの日経平均は先物への売りから反落して引けたが、それでも週末まで開いた日銀金融政策決定会合にて大規模緩和継続が決定した事を好感し序盤に年初来高値をまたも更新と騰勢は衰えない。昨年末から振り返ってみると本日の引けまで日経平均株価は約7,300円、率にして約28%も上昇してきている。

1990年以来、約33年ぶりの高値水準というフレーズが毎日のように飛び交った先週であったが、この間にこの間に時価総額日本一のトヨタ自動車も節目となるPBR1倍台を回復したのが話題に。斯様な動きから東証も2022年4月の市場再編でプライム市場が誕生してから初めてその時価総額が800兆円の大台を超えてきており、旧東証一部も含め最上位市場として過去最大となった。

これら時価総額増加が顕著な個別銘柄を見てみると、年初の日経紙恒例の「経営者が占う2023年」にて経営者が選んだ有望銘柄がズラリ、昨年末と先週段階での比較で上記の有望銘柄第3位のトヨタ自動車が5.8兆円増加、同1位のソニーGは4.8兆円増加、同7位の東エレクは3.2兆円増加、同4位の信越化学は2.9兆円増加、同8位のファストリは2.8兆円増加等々、嵌れば大ヒットのこの類である。

10週連続で前週末より高く終えた日経平均は第2次安倍政権時の12年末から13年にかけての12週以来、約10年ぶりの長さになったが、当時と比較するに今は予想PERも低く予想配当利回りも高い。トヨタのPBR一倍割れ解消現象は今後起こり得る局面変化を示唆すると日経紙の一文にあったが、資本コストを意識した経営の浸透による企業収益力の向上がいよいよ注目される段階になって来たか。


真摯なアクティビスト

さて、一昨日の日経紙にあったユニークな全面広告が目を惹いた。アクティビストファンドのストラテジックキャピタルによる投資先企業への株主提案や課題が綴られたものがそれで、そこでは東証プライム市場上場の日本証券金融、極東開発工業、文化シャッター、ワキタ、有沢製作所及び東証スタンダード市場上場のダイドーリミテッドの6社が挙げられていたがいやはやどれも辛辣な見解が述べられている。

このうち既にワキタの提案は否決されているが、とはいえこれら目を通してみるにその辺のディスクロを一瞥しただけではわからないようなデータや問題点が非常に簡潔に纏められており当該企業の株主なら一読の価値はあるだろう。おりしも東証が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等の要請を出しているなか、一部経営トップが株価はROEや純資産とは何の関係も無いなどの発言をしているのは残念でもある。

今月は3月期決算の上場企業が株主総会を開くが、先月末の段階で82社にこのストラテジックキャピタルはじめ314議案が提案されており本日段階で更に増加していることを勘案すれば過去最高を更新する見込みだ。それぞれ冒頭のストラテジックキャピタルの資本効率に関するものから、先月に当欄で書いたような環境に関するもの、企業統治に関するものなど多岐にわたっている。

ちなみに冒頭の6社は本日段階でPBRが低いところで0.60倍、一番高い企業でも0.83倍といずれも1倍割れに甘んじている。コーポレートガバナンスコードによりアクティビストファンドの提案は整合性を持つようになり、株主提案でも企業価値向上につながるとの判断なら賛成票を投じるなど機関投資家の姿勢もまた変わってきている。首の皮がつながった経営トップも賛成票減少が顕著になってきた事例も多く、真摯に彼らの意見に耳を傾けざるを得ない時代になったのは間違いのないところか。


2023年上半期ヒット商品

さて、毎年恒例で先週は日経MJより2023年上半期のヒット商品番付が発表されている。先ずは上位からということで東西共に関脇はアニメ。東のザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーに西はTHE FIRST SLAM DUNK、共に世界中で大ヒットとなっているが、今後も日本初の人気ゲームが続々と映画化される話が水面下では囁かれている。

そして東の大関はChatGPT、公開からわずか2か月で月間利用者が1億人を突破、世界を席巻したが期待と懸念が交錯するなか欧米では早くも規制論が広がっている。そして西の大関はインバウンド復活、足元の円安が外国人の消費意欲を刺激し観光庁によれば1~3月期の訪日客の1人あたり旅行支出は2019年から3割増加しているという。

そして東の横綱が5類移行、西はWBC世界一とハレ消費を刺激する。また複数ある前頭には全戸億ションや伊勢丹バブル超えなどがあったが、4月には芝にアジア最大級のフェラーリのショールームがオープンし、7月には千葉南房総にコーンズ運営の正会員3600万円のプライベートサーキットもオープンする。先週末の日経紙にも高級時計メーカーのパテックフィリップ展示会の全面広告が踊るなど株高を背景に富裕層の消費意欲を擽る試みもまたぞろ復活してきたか。


値上げ耐性

昨日は日清食品冷凍が想定を超えた食材や人件費、物流コストの上昇を背景に家庭用冷凍食品40品目の出荷価格を9月1日納品分から約5~20%引き上げると発表している。同値上げは今年の3月以来のことであるが、40品目というと同社ブランドの家庭用商品の約半分の規模にあたる。

再値上げとはいえこの冷凍食品、他とは違って相次ぐ値上げでも高い値上げ耐性を誇り国内生産や消費量などその市場規模は昨年には過去最高を更新している。先週末の日経紙でも「冷凍食品、食卓の主役に」と題し冷凍食品を取り上げていたが、以前に当欄でも取り上げた大手スーパーや百貨店など小売も冷食に商機を見出している旨が書かれていた。

そういえば春先に銀座三越が地下の食品フロアを2010年のオープン以来、初めて大規模リニューアルさせたが、そこで特に力を入れたのが冷凍食品類であった。本来のお店の味を再現するためにそれぞれ解凍方法が湯煎、氷水、流水などその食材の本来の姿に戻る最良の解凍方法を提案し天婦羅や鮨からラグジュアリーホテルの味まで気軽に食する事が可能になった。今後も値上げ耐性を武器に枝葉の広がりで市場規模の更新劇が続くのは想像に難くないか。


トレーディングカード狂騒曲

さて、先週末には千葉の幕張メッセでポケモンカード日本一を決める「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2023」が開催されていたが、このポケモンカードといえばつい最近も有名デザイナーとのコラボカードがランダムでもらえるというキャンペーンで、怒号が飛び交うなか棚からあらゆる商品が消える阿鼻叫喚の光景がTVでも報じられていた。

これを見て思い出したのが大手雑貨チェーン3COINSの「KIDS節分」なる商品に大勢の客が押し寄せ店内が地獄絵図になった今年の節分の光景か。まさに同じ光景であったが、毎度の事ながらポケモンといえば上記の通りレアカードを狙ってカードの最新作発売日など各地で数百人の行列が出来るのが今や風物詩?になっている。

コロナ禍でカードをコレクションする人が増加しているというが、20年以上前に発売された世界で39枚しかないというカードはそのお値段1億8千万円。上には上があるもので世界最高額でギネスに認定されたモノはなんと7億円という。まあ億の単位は兎も角もポケモンカード1パック5枚入りで180円だが、SARなどはこれが数百から数万倍に化けるというから挙ってこれを狙いに行くのもわかる気がする。

そんなワケでポケモンカードをはじめとしたトレーディングカードの市場規模は年々拡大し、2017年では1000億円に満たなかったが、18年に1000億円を抜いて以降21年には1782億円まで拡大してきているという。これに伴いせどりビジネスも拡大しているというが、年々拡大するオルタナティブモノの次期投機対象をいち早く発掘する嗅覚が問われるところか。


出口戦略考

今週の日経紙グローバル市場面で「日銀、甘くない緩和出口」と題し、日銀がこれまでの金融緩和の大号令のもと買い入れたETFが時価53兆円にもなり先週公表された2022年度決算ではその分配金等が1兆1000億円に達し、保有割合が50%を超える国債からの利息収入に肉薄するほど膨張している旨の記事があった。

ここでは出口戦略についても言及されていたが、当欄でも既に3年くらい前に日銀勘定から別の機関等に移管・分離させイグジットを探るというさながらバブル期に証券会社で大流行した所謂「飛ばし」のようなスキームや、相応のインセンティブ付与を前提に売却制限付きで個人への譲渡案などの案を書いたことがあった。

この後者の案はここでも再度取り上げられていたが、文中で「日銀が持つ含み益を有効活用してほしい」と述べていたニッセイ基礎研究所の井出氏自身もETFの出口戦略については政府が財投債でもって日銀からETFを買い取ったうえで個別株に置き換え、入って来る配当金を子育て支援などの成長投資に充てる案などに言及している。

なるほどこれなら年間の少なくない信託報酬も削減出来、個別株となる事で優劣によるリバランスが効く規律も働くことで東証が求める活性化策との親和性も非常に高くなる。同頁では今後金利を上げる政策正常化を進めるのとこの処分という2つの出口政策の両立は簡単ではないとの指摘も書かれていたものの、いずれにせよこういったことを考えてゆく時期に来ていることだけは間違いなさそうだ。


踏み上げ

本日の日経紙マーケット総合面にはFX(外国為替証拠金)取引を手掛ける個人投資家が予想外の円安が継続しているために追い詰められている旨や、日経平均株価と逆方向に2倍の値動きをするETF(上場投資信託)の投資家が日本株の上昇が続いていることで戦略の見直しを迫られている旨が出ていた。

ドル売りのポジションに、日経平均ダブルインバースインデックスであるから日経平均の売りといういずれもショートポジションがこの度のドル高、日経平均高という上げ相場で「踏み」を強いられているという構図だ。確かにFXなど値幅もさることながらスワップポイントも昨年1-3月期に比較すると軽く10倍以上になっているから体力消耗の激しさは想像に難くない。

ちょうど株に置き換えて言ってみれば信用倍率が極端に低くなり高額の逆日歩が日々発生している銘柄を辛抱して抱えている状況という事になるが、日経平均ダブルインバースも円買い・ドル売りポジションも共にまだ踏み切れていないポジションが残っているとみられるだけに、双方共に相場が一旦のピークを迎えるのは最後まで残った向きが降参し踏んだ場面となるか。


株式インセンティブ彼是

さて政府が今月中に決める「新しい資本主義」の実行計画改定案の概要が明らかになっている。この辺はカギとなるスタートアップ振興では株式報酬の一つであるストックオプション(株式購入権)の従業員への付与期間の制約を撤廃するなど、購入権を発行し易くなる規制緩和を検討する旨などが日曜日の日経紙総合面に出ていた。

一方で多くの企業が使う信託型の株式報酬について、直近で国税庁が給与としての税務処理が必要だとの見解を示している。これまでも外資系企業の役員等がストックオプション絡みで国税とヤリ合う場面を多く見たが、企業側としては権利行使で得た株式売却に対し税金は譲渡所得で20%との認識であったものの、同見解では給与所得とし最大55%の税金が課される事で企業想定より税負担が増加する事になる。

冒頭のストックオプションの付与期間の制約撤廃など大企業に比較して福利厚生等の面で見劣りするスタートアップ企業の人材獲得には追い風となるものの、この度の国税の見解で信託型を導入している各社に見直しの動きが広がるのは想像に難くない。財務に余裕の無い企業でも活用し易い同制度を新たに導入する企業は近年増加し続けているが株式インセンティブの在り方が改めて問われるか。