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還元の在り方

さて、先月の話になるが某名門宴会場の株主優待バイキングに行って来た。個別に此処のレストランで食べれば一皿4~5千円する品がいずれも食べ放題で伝統の味を存分に堪能してきたが、この株主優待といえば先週末の日経紙夕刊一面には「株主優待、3年で50社減」と題し、自社製品の送付などの株主優待制度を廃止する企業がここ3年で50社減るなど廃止企業が相次いでいる旨が出ていた。

当欄でも7月末に「還元の軸足」と題して書いた際に末尾で少し取り上げていたが、優待廃止に関しては株主総会でのお土産廃止と共に数年前から度々報じられているところで、2019年まで増加の一途を辿っていたものが19年をピークに3年連続で減少となっている。この背景にはこれにかかるコストや投資家の公平性もさることながら、4月の東証再編で株主数規定が緩和されたという事も一因か。

これまで個人株主増加ランキング企業など飲料大手キリンHDやJALやANA等の大手航空会社、オリックス等がランクインしているあたり何れも優待狙いが窺えたものだが、廃止の流れでオリックスなどは再来年には不動の人気を誇ったカタログギフトの廃止意向を示しており、他の企業もこうした動きに倣う動きが出て来るか否かその動向が注目される。

上記にも書いた通り個人株主の確保策としての優待制度の優先度が下がって来たとも取れる事で、今後は企業側も還元の軸足が配当や自社株買いに移ってゆく動きが顕著化するかどうか、先月の自社株取得枠の設定は8月として過去最高となった模様だが個人投資家もこれらから認識の変化が出て来るか否かとも併せこの辺の動向は注目しておきたい。


相次ぐ外形外し

本日の日経紙投資情報面には「HIS、税負担減へ切り札」と題し、先月末に長崎のテーマパーク、ハウステンボスを香港の投資ファンドに売却したエイチ・アイ・エスが、決算期末直前に臨時株主総会を開いて約250億円近くあった資本金を一気に1億円まで圧縮する減資を決めハウステンボス売却で得られる利益をフル活用しようとの思惑がある旨が書かれていた。

同じ旅行業界ではこのエイチ・アイ・エスに先駆けてJTBが昨年に約23億円の資本金を1億円に、日本旅行も40億円の資本金を1億円に、今年に入ってからはKNT-CTホールディングスが約80億円の資本金を1億円に、国内航空3位のスカイマークも90億円の資本金を1億円に減資している。これらいずれも減資後は税制上の中小企業となる事による外形標準課税の支払い回避が狙いだろうか。

ただ中には減資後に資本増強を行い、その後に資本金が増えた分を資本準備金に振り替え再び資本金を1億円にするなどフルに二重取り?の特典活用を敢行する兵も。自治体側としても税収の変動は好ましくない筈でこの辺を総務省はどう思うかだが、いずれにせよふるさと納税なども然りで公平性から見た税の原則が問われる場面も出て来ようか。


景気浮揚力の変化

さて、円安止まらずというところで外為市場では一時1ドル142円台と1998年8月以来、約24年ぶりの円安水準を記録した。日米の真逆のオペを背景にここ1ヵ月一寸でも約9円の急落を見せているが、今年の円の下落率は先週段階で約18%とかれこれ25円も円安が進み下落率の大きさは1979年の19%以来、43年ぶりのことで73年の変動相場制移行の後では2番目を記録する。

日本はエネルギーや食料を輸入に頼っており、この140円台の円安が続いた場合の今年度の家計負担は政府の物価高対策のよる軽減効果を含めたとしても前年より8万円近く増加するとの試算も明らかになっているが、余談ながら英国はハンバーガーセットが3000円を超え、来月からは標準世帯の光熱費が現在から実に8割も上がり年57万円になるというから我々はまだまだマシな方かと錯覚しそうになる。

しかし日本はエネルギー自給率が1割と主要国での低さは否めないところで、上記の現状等を見るに先の「サハリン2」の継続が承認されたとしてもロシアの一存で供給が左右される構図には危機感を覚える。ともあれこの24年ぶりの円安現象に生産や調達において国内回帰の動きも出て来たが、今後各企業も円安とどう向き合うかが問われることになるか。


長月の値上げ

猛暑も漸く治まりつつある長月入りだが、原材料や包装資材の価格高騰に加え物流コストが上昇している事を背景に生活に身近な商品値上げのラッシュは止まらない。今月も食品では日清製粉ウェルナとニップンが冷凍食品の価格を値上げ、雪印メグミルクとJオイルミルズはマーガリン類を、飲料ではサントリーが輸入ワインを、霧島酒造は焼酎、ネスレ日本とUCC上島珈琲はコーヒー製品等を値上げする。

また食品以外では電気料金も2社でまた値上がりとなり、東電ではかれこれ13ヵ月連続で値上げが続くことになる。またガス代も3社が値上げし、予てより言われていた自動車のタイヤも主要メーカーで値上げが始まり、ブリジストンが4月に続き今月出荷分から今年2度目の値上げを発表し、住友ゴム工業もダンロップ製品を値上げする。

こうした中、1日付の新聞折り込みには低価格で人気の業務スーパーが冷凍食品類など200品目以上を値下げする「総力祭」のチラシが入っていたが、他のPBとも併せ個別の企業努力も窺える。帝国データバンクによれば今月だけで2000品目以上が値上げ見通しで1品あたりの平均値上げ率も15%を上回っているというが、ピークを迎えると言われる来月で一旦の一服を見せるか否かが注目される。


恒久化への道

金融庁が昨日2022事務年度の金融行政方針を発表しているが、これまで報じられているようにNISA(少額投資非課税制度)の設計改革など投資から貯蓄への道筋作りがポイントとなる。周知の通り現行では一般NISAが2028年末までの期限付きで年間120万円までの投資が最長で5年間非課税となり、つみたてNISAは2042年末までの期限付きで年間40万円までの投資が最長で20年間非課税になる。

斯様にNISAは株式や投資信託等の配当や売却益にかかる税金を一定期間免除される制度だが、余談ながらかつて立憲民主党の某議員がNISAに対してまで課税を匂わすトンチンカンな失言があったのを思い出した。ともあれこのNISA、そもそも創設の際にモデルとなったのは英で国民に定着したISAだが、既に英国ISAの非課税期間は無期限に恒久化されている。

また先に当欄で単元株を取り上げた際に「~NISAの啓蒙こそ喧しいものの積み立てより上限が高い一般モノでも120万円の枠と、最低単元買うのに約870万近くが必要になるファーストリテイリング級の銘柄は足元にも及ばない計算になる~」と書いたが、こうした極端な値嵩モノは兎も角も現行枠では如何にも心許ない上限額なのは否定出来ないところだろう。

上記に鑑みNISAの期限撤廃と上限引き上げを来年度の税制改正要望に盛り込む方針で年末にかけて具体的な額を詰める。何れにせよこれで1000兆円規模の個人貯蓄を投資へと後押ししたい考えだが、今週アタマの日経紙に金融庁が全世代を対象とした金融教育の必要性を提言する旨の記事があった通り広くリテラシーを身に付けるための金融教育も併せて必要なのは言うまでもないか。


それぞれの思い出

さて、本日をもってお台場のランドマークとして長く人気を集めたパレットタウン大観覧車が営業を終了した。この大観覧車がオープンしたのは1999年、当時は此処が世界一の高さを誇りそのロマンチックなロケーションから1周約16分のなかで時にカップルたちのプロポーズも見守り続けてきたであろう大観覧車、開業当時は5時間待ちの日もあったが終了間近のここ数日も待ち時間が1時間超えの行列が出来ていた。

行列といえば閉店人気から連日の行列で順番待ちシステムまで導入して営業をしていた国内最後のアンナミラーズ高輪店もこの日、とうとう約40年の歴史に幕を下ろすこととなった。また銀座では日本で初めて高級ブランドを集積させた店舗の名鉄グループのメルサ銀座二丁目店もこの日閉店し、その51年の歴史に幕を下ろしている。

何れも再開発計画に伴うもの、国交省による整備事業に伴う移転要請、新型コロナウイルスの影響の長期化や施設の賃貸借契約終了に伴うものなどその理由はさまざまだが、あの良き日を過ごして来たそれぞれの名所が無くなってしまうと思うと寂しい限り。今は昭和レトロがZ世代などに新鮮に映るというが、共に時代を過ごして来た世代には感慨も一入だ。


実績重視

昨日はNECが300億円を上限に自社株買いを実施すると発表、現状の株価に満足していないという経営の意志を明確にするという事で取得株数の上限は発行済み株式総数の2.46%にあたる。取得期間は来年の年度末までで、取得後の消却は想定していないというが、NECが自社株買いを実施するのは初めての事である。

一先ずこれが好感され同社の株価は本日急反発していたが、先の日経紙ではニッセイ基礎研究所算出の自社株買い発表企業動向では18~19年度は上半期に想定を上振れる買いが入ったものの、21~22年度の実行率は8~9割とやや低調な旨が出ていた。確かに自社株買い発表組でもその後一向に買い付けが見られない企業が往々にしてあるが、こうしたところはやはり株価を見ていても上値重い推移となっているのは自然なところか。

逆に有言実行組の株価は上昇軌道を継続させているケースが多くその実績如何で明暗だが、米でも今回の決算シーズンではこれから景気後退かといった不安根強いこのタイミングでもナイキ、ペイパル、シェブロンなど大手各社による大規模な自社株買い発表の動きが目立っている。斯様に企業が挙って自社株買いを発表している事は心理的な株価下支え効果は高いものの、上記の通り買い付け実行率に注視するなど選別眼は持ちたい。


タカ派姿勢維持

さて、3年ぶりの対面開催で注目された米ワイオミング州で行われた経済シンポジウム、所謂ジャクソンホール会議でのFRB議長講演は成長鈍化などの痛みを伴ったとしてもインフレが抑制されるまで当面金融引き締めが必要という見解が示された。これを受けてNY株は1000ドル超の急落となり、主要3指数はこの日の急落で8月上昇分を全て吐き出した格好となった。

市場ではこのところインフレがピークを越えればFRBの利上げペースが鈍化するとの楽観的な見方から、VIXも20ポイントに絡んだ動きが継続されていたが週末は3.78ポイント高の25.56と急伸、終値としては6週間ぶりの高水準を記録する事となった。これらを受け国内株式市場も本日は東証プライム銘柄の約9割が下落し、日経平均は約3週間ぶりに28,000円の大台を割り込んでいる。

マーケットは株価など往々にして先回りした動きをとるものだが、利上げ途上での将来の利下げ織り込みの動きは政策効果の面からあまりよろしいモノではなかったというところか。斯様に市場と対話しながらの金融政策の舵取りもその匙加減が難しく映るが、次に注目される8月の米雇用統計から次回のFOMCまでまだ折に触れ振らされる場面も出て来ようか。


再度のパリティ割れ

今週の外為市場は再度ドル高が勢いを増し22日にはユーロドルが7月中旬以来となるパリティ割れを示現、以降は本日こそ等価水準を回復する動きがあったが弱保ち合いが継続している。予てより再度のパリティ割れの可能性が指摘されていたが、FRB高官によるタカ派的な発言を背景にドルが堅調持続する一方でエネルギー供給不安や欧州景気減速懸念を背景にユーロは軟調地合いを強いられている構図だ。

余談ながら今週ワールドカレンシーショップでドルとユーロを同一単位でそれぞれ円価に替えた際、ドルの手取りがユーロの手取りより多かったのを見て久し振りに今から数十年前を思い出した。モノ自体が全く違うので比較するものでは無いが、彷彿とさせるケースとしてゴールドとプラチナも長年にわたるプラチナ上鞘時代の憶えから逆鞘に転じた際も早晩の修正論が出ていたがもう長らくプラチナの下鞘が定着している。

というワケでこんなパリティ割れが一時的な現象に終わるのか否かだが、ここ強いタカ派のメッセージを先取りしドル買いの動きも勢いを増して来たものの、仮に市場が期待していたほどのタカ派的な発言がなければ一旦の調整が入る可能性がある。何れにしろ目先は週末のジャクソンホール経済シンポジウムが最大の焦点となるだけに、FRB議長はじめ関係者のメッセージに注目としたい。


ミーム株乱高下

先週には34,000ドル回復した米株式も金融引き締めへの警戒感強くはや1000ドル以上の押しを入れてきているが、米株といえば今月に入ってから一際目を惹いていたのがAMC等のミーム株群か。中でも生活雑貨販売のベッド・バス・アンド・ビヨンドは今月に入ってからその株価が実に約5倍に大化けしたのも束の間、先週末にかけその株価が2日間で半値以下まで急落の憂き目に遭っている。

この背景には同株式を10%強保有する大株主RCベンチャーズの保有全株売却報道があるようだが、このRCベンチャーズを率いているのはかつてのミーム株の代表格であった米ゲーム専門店ゲームストップの会長を務めた人物で、このゲームストップ株も今月は約3割の急騰を見せていたがベッド・バス・アンド・ビヨンドの急落を受け上記のAMCと共に値崩れしている。

しかし終盤で大株主によるディープアウトのコールオプション購入話が喧伝されこれが個人投資家らに信任投票と受け取られ株価が佳境に入ったところで大量売却が行われたとしたらとんだ梯子外しだが、いずれにせよ来月にFRBはQTの上限額を月950億ドルに引き上げて資産圧縮を加速する。カネ余りでミーム株も幾度となく乱高下を繰り返してきたが個人の投機熱の持続性も試されそうだ。


消えぬデフレ圧力

さて、昨日はあの一口サイズで知られる「チロルチョコ」が原材料価格の高騰や物流コストの上昇を理由に1993年以来、29年ぶりの値上げに踏み切る旨の発表があったが、本日も大塚製薬が「オロナミンC」ドリンク等の小瓶ドリンクを原材料価格やエネルギーコストの高騰を理由に11月1日出荷分から25年ぶりに値上げすると発表している。

食品の値上げといえば昨日の日経紙総合・経済面では「食品値上げ「未達」3割」と題し、1月~5月に値上げのあった食料品16品目の動向調査ではメーカーが公表した値上げ幅と7月の店頭価格の前年同月からの上昇率比較では3割にあたる5品目が表明幅の下限にも届いていないなど値上げがメーカーの思うように進んでいない旨が出ていた。

成る程同紙に掲載されていた5品目もさることながら、冒頭のオロナミンCも近所のスーパーで10本入りが500円台で売られているのをつい最近見た。改定では税抜きで120円になるというが、上記の安売りでは一本約60円弱でありメーカー公表の約半値という計算になる。エネルギー価格が否応なしの値上げ断行が為されている一方で、デフレ圧力がいまだ色濃く残るこの業界の構造を垣間見た気がする。


インフレ功罪

先週に総務省から発表になった7月の家庭で消費するモノやサービスの価格の動きを示す指標である消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除いた指数が去年より2.4%上昇した。上昇率の2.4%は消費税増税の影響を除くと13年11か月ぶりの水準で、日銀の目標としている2%を超えるのは4ヵ月連続となる。

斯様に消費者物価指数が2%を超える伸びを続ける中、更に高い伸びとなっているのが企業同士で取引される原材料等のモノの価格である企業物価指数で、先に発表された7月のそれは前年同月比で8.6%の上昇と17カ月連続で上昇、依然として乖離も大きなものとなっており企業側が仕入れコスト上昇分を吸収し価格への転嫁が進んでいない事を示している。

しかし国内事情はそれとして欧米では高いインフレが広がっている。米の7月消費者物価指数は8.5%の上昇、英のそれに至っては10.1%の上昇と40年ぶりの高水準となっている。個別で比較しても日本では目立ったところで電気代が19.6%、ガス代が18.8%の上昇であったが、英のそれは電気代が54%、ガス代に至っては95.7%とケタ違いである。

欧米は景気に勢いがあるので賃上げも進んでおりインフレの良し悪しも難しいところだが、売り上げ増や賃上げ実現という経済の基盤になるのも事実。企業は何とかコスト上昇分を出来るだけ価格に転嫁する事で適正な利益を確保し、少しでもスタッフの賃上げに繋げてゆくなど経済の好循環を作る事を目指すのが引き続き課題となるか。