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EVシフトへの逆風

先に日産自動車が米の新興EVメーカーであるフィスカーとの間で資本提携に向けた交渉を進めている旨が報じられているが、このEVといえば世界で近年進められてきた開発に陰りが見られる。欧州各国では補助金はじめ各種優遇策を繰り出してきたものの、諸々の大規模な構造転換などハードルも高く欧州委員会が推してきたEVシフト政策は破綻しつつある。

その欧州では独メルセデス・ベンツGが2030年までに市場が許す限り新車販売をEV車にすることを検討していたが、先に2030年以降もエンジン車の生産継続を明らかにしている。また、米アップルは27日、約10年にわたり開発したとされたEV開発プロジェクトを中止する方針が報じられ、同じく米ゼネラル・モーターズは2024年半ばまでのEV生産目標40万台断念が報じられている。

政府も一昨年だったか当時の菅総理が2035年までに新車販売でEV車100%を実現すると宣言し、東京都は更に前倒しで2030年までに都内販売の車を100%非ガソリン化し世界の潮流を牽引すると知事が表明していたのを思い出すが、ESG投資が逆風のなか欧州など環境に良い合成燃料等使用ならよしとするなど緩やかに後退しその潮流はニーズ連動型になりつつある。脱炭素の大義名分があるとはいえ、一気にEVへと舵を切る事が難しいという現実のハードルが見えて来たというところか。


ガリガリ君も再度

さて、今から8年前の新年度にあの“ガリガリ君”で有名な赤城乳業の値上げ告知の全面広告が日経紙に載った。当時は実に25年ぶりの値上げという事でわざわざCMが作成され値上げの歌を披露、テーマにするにはリスキーなモノに敢えて挑んだことから当時話題になったものだったが、そのガリガリ君が今月は8年ぶりに再度値上げに踏み切っている。

帝国データバンクによれば3月の食品値上げはこのガリガリ君も含めた728品目と発表され、前年同月の3503品目からは大きく減少した。ボンカレーなどレトルト食品や冷凍食品などの加工食品に、引き続きのトマトショック関連、2022年末から実に価格が約3倍にも急騰したカカオ豆相場を背景にチョコレート製品を中心とした菓子が中心で全体の7割を占めるという。

上記の通り今月こそ前年同期比8割の大幅減だが、来月は加工食品を中心に昨年の10月以来半年ぶりに3000品目を超える大規模な値上げとなる見通しだ。原材料コスト以外にも先月も書いたところの所謂“物流2024年問題”も差し迫っており、既に食品分野以外ではこれに対応した値上げが広がってきているだけに付随した値上げが続く可能性もまたありそうだ。


漸く最終局面

先週1日付けの日経紙総合面には「持ち合い解消 最終局面」と題し、先月末に損害保険大手4社が延べ5900社あまりの政策保有株、金額ベースにして約6.5兆分を全て売却すると表明した旨が出ていた。企業向け保険料の事前調整問題を受け、予てより金融庁が損保各社に対して政策保有株の見直しを要求していた件に対するもの。

当欄では、この政策保有株に関して2015年にコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が導入される前に今後は持ち合い株の最後のあぶり出しが促進される可能性が高くなるかと書いていたが、ここ数年で急速に壁が崩れてきた気がする。特にグループの持ち合い構造が強固な事で知られたトヨタグループが、昨年秋にアイシンが政策保有株ゼロを目指す旨を打ち出したのはこれを象徴する。

これらの好感度は解り易く株価に反映され、この記事が出た1日にはMS&ADが年初来高値を更新し、週明けの本日にはSOMPOHDが年初来高値を更新してきている。また昨年登場したアクティブETFでも「政策保有解消推進ETF」なる商品が登場し、上記のトヨタグループをはじめ東京海上日動火災保険など冒頭の損害保険大手もこれに組み入れられているが、これも先月に年初来高値を更新してきている。

この強固な壁が崩れ始めたのも東証や政府が本腰を入れたところによるものが大きいが、もともと持ち合いなるものは安定株主作りやら取引の継続等の目的から構築されたもの。総会屋が跋扈していた時代から時は過ぎ、今や持ち合い株は高度経済成長期時代の過去の産物になりつつあるだけにこれらが順次姿を消してゆくのはその要因はどうあれ自然な流れだろうか。


半導体デジャヴ

今週アマタに書いた通りで日経平均ははれて34年ぶりに1989年に付けた史上最高値を更新、曲がりなりにも記録は記録なだけに当欄でも「祝」とは書いたものの、この史上最高値更新はエヌビディア一銘柄の功績と言っても過言ではないだろう。なにしろ年初から日経平均は先週まで約5800円上昇したものの、225構成銘柄のうちエヌビディアに刺激された東京エレクトロンなど半導体の主要関連株寄与度はたった3銘柄で実に2000円以上、これで約4割寄与している計算になる。

となると仮にこのエヌビディアの好決算が無かったら日経平均はいまだ史上最高値更新は叶っていないかもであったが、半導体に沸いているのは株式市場だけではなく今月に開所したTSMC熊本工場周辺もまたバブル化してきている。既に昨年秋に基準地価が約2割も急上昇した旨が報じられているが、地元民の中には固定資産税が2割以上も上がったと困惑しているものの、思わぬ借地料が転がり込み野良仕事の軽トラがベンツのSクラスに化けた話まで報じられている。

他、関連業者の稼ぎが倍になったなどそれこそ1989年のバブル当時の光景の再来ともいえるが、当時を知る者には土地バブルに沸いた当時の株式市場のテーマであった「ウォーターフロント相場」を彷彿させる。最近では蔵前エリアが東京のブルックリンなどと若年層に囃されているが、当時は隅田川がハドソン川、豊洲エリアはマンハッタンと囃されNYのウォーターフロント再開発に見立てられて東京湾岸の土地持ち企業がさんざん物色されて囃されたものだった。

その後見事にこのウォーターフロント相場は崩壊したワケだが、勿論この幻影を囃した土地バブルと今の実態を伴った半導体ブームを同一視には出来ない。バブル当時と時価総額ベスト10が様変わりしたが日経平均の中身も時代の趨勢を表す。昨年末から先週まで世界の株式時価総額は170兆円以上増加しているが、そのうちの50%を超える約90兆円が半導体関連だ。生成AIが社会や経済を大きく変えようとしているが、その根幹にある半導体は少なくとも幻影でないのは言うまでもない。


エグジット手段の変化

本日は東証グロース市場に不動産テックのココリブと、立ち飲み形態飲食店の光フードサービスが上場している。ココリブは買い気配でスタートし後場に公開価格の約2.2倍の3990円で初値を付け、一方の光フードサービスも買い気配でスタートした後も気配値上限まで値を切り上げたまま初値は明日以降に持ち越されるロケットスタートとなった。

ところで彼らはエグジットでIPOを選択したパターンだが、ちょうど一週間前の日経紙には「MA&で投資回収最多」と題し、スタートアップのエグジット手段として2023年は他社によるM&Aを選ぶ動きが前年比で5%増加して過去5年で最多となった旨の記事があった。もう一つの手段であるIPOと比較するに約5倍の水準という。

日本におけるエグジット手段でM&AとIPOの比率はベンチャー白書によると、2020年度でM&Aが24%、IPOが76%なのに対し、米は同M&Aが90%、IPOが10%となっており対照的だったものだが、米欧の金利上昇による市況低迷など環境の変化も背景となっているか。IPOはこれまで資金調達額等で小粒上場が批判対象になるケースが度々あったが、大企業等もM&Aに及び腰になっているという素地もあった。環境の変化が後押しして今後もこの比率が変わってゆく動きが継続されるのか否か注視しておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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