56ページ目

値上げ疲れ

さて月初め恒例の値上げ品目チェックだが、この11月に値上げされる食品は前年同月比で約9割減の131品目にとどまり、これで4か月連続で前年同月を下回った。原材料価格の高騰が落ち着いたことや、消費者の買い控えなどを背景となり月別では値上げラッシュが本格化した2022年1月以降で最小となる見通しだ。

項目別では缶コーヒー等の酒類・飲料が76品目で約6割を占め最多だった。次に調味料の32品目、次の菓子は18品目と今年最も少なく、バターやパック牛乳等の乳製品は10ヵ月ぶりにゼロとなった。値上げ疲れから値下げに踏み切る動きも一部に出ておりこれまで約2年にわたり続いてきた値上げの動きは年内に鎮静化するとみられる。

厚労省発表の毎月勤労統計調査では働く人一人当たりの物価の影響を考慮した実質賃金は17ヵ月連続でマイナスとなっており、26か月連続で上昇している消費者物価指数の上昇に追いついていない現状等も背景に消費者側も買い控えが顕著になってきた。中東情勢の悪化による原油価格の変動や円の相場水準如何で更なる値上げ要因になり得るものの、各企業の価格戦略見直し等がどの程度出てくるのかこの辺にも注視したい。


治療薬争奪戦

さて、新型コロナとインフルエンザの同時流行で解熱鎮痛剤や咳止め等の薬が全国規模で不足する事態となり薬局が対応に追われている状況が続いているが、もう一つ最近では糖尿病薬のGIP/GLP―1受容体作動薬が本来使われるべき2型糖尿病患者以外にもダイエット目的でこれを求める向きが急増しこちらも同様に品薄となっている旨も度々報じられている。

その抑制効果だが確かに解りやすいデータがあり、米市場で代表的なオゼンピックを服用している患者の食品購買量の変化を前年比較でみると、ポップコーンが27.4%減少(米全体では3.5%減少)、チップスが18.8%減少(同0.7%減少)、ソフトドリンクが15.1%減少(同3.9%減少)、など高カロリー食品の購買量が大きく減少している。

国内でも自由診療を謳う美容クリニックなど今やオゼンピック様サマで、英でもデンマークの製薬大手ノボノルディスクが肥満症治療薬ウゴービの販売が開始されているが、このオゼンピックと合せ強い需要を背景に同社の収益は過去最高水準に達し、その株式時価総額も先月はあの仏高級ブランドのLVMHを抜いて欧州で首位に躍り出ている。

これとは対照的に人工透析サービスや血統監視装置メーカーの株価は下落の憂き目に遭い、上記データにある通り米では食品メーカーにとっては逆風になるとのモルスタのリポートも出ている。これに対しペプシコーラのCEOはほとんど影響無しと述べているが、現在のところこれらが長期的な消費行動の変化に影響を及ぼすかは未知数、世紀の発明ともてはやされているバブルがいつまで続くのかと併せ注目してゆきたい。


ハロウィーンと為替

本日は毎年恒例のハロウィーン、今年は新型コロナの5類移行やインバウンド復活でピーク時を上回る人出が予測された事もあって、渋谷では「来ないで」と異例の呼びかけが行われ警視庁は機動隊員を動員しシンボルの「ハチ公」まで封印するなど例年にない厳戒態勢の中で静かな当日を迎えることとなった。

さてこのハロウィーンといえば市場関係者が今でも思い出すのが為替に絡んだ出来事か。ドル円が75円台の戦後最高値を更新したのは2011年のハロウィーンの日であった。また2014年のハロウィーンの日には日銀が突如として追加緩和を実施しわずか2営業日で日経平均が1200円も急騰、市場に予想外の「お菓子」をプレゼントした格好になったのが鮮明に思い出される。

ところで本日は日銀が金融政策決定会合を終え大規模な金融緩和政策を修正している。先の7月の会合で運用を柔軟化したばかりだが、長期金利変動幅の上限を現在の1.0%から一定程度超える事を容認とわずか3か月で再修正を迫られた格好に。マーケットに催促されての再修正という感は否めないが肝心の為替は1年ぶり円安水準にまで更に進行、緩和姿勢が試される相場が予想されるなか日銀が目指す賃上げと物価上昇の好循環は叶うのか否か今後も難しい舵取りが求められる。


土壌整備が急務

さて、先週は新宿でスターアップと大企業をつなぐ都内最大のマッチングイベント「ベンチャーサミット」が開催された。スターアップといえば長い間にわたりその重要性が叫ばれてきた日本だが、スターアップ企業数の国際比較を見てみると1位は断トツで米の7万6821社、次いでインドが2位で1万6006社、3位が英で699社、そこで日本はというと24位で608社に甘んじているのが現状。

米と比較するに約120分の1と計算するのも嫌になってしまう差だが、長い間スターアップの重要性が叫ばれてきた日本だがこれが育つ土壌がいまだに整っていないのが背景といえる。この辺は意識や風土などもあるが、それらと並行して金融機関やVCが本質的なリスクを取らず結果起業家がリスクを取っているなど資金調達の部分も大きい。

そういった事も背景に有望どころも海外に活路を求める動きが出ており、今年に入って不動産テックなど5社がナスダック上場をはたしている。他にも複数企業が米での上場を目指す動きがあるが、上記の土壌という部分では米市場は元々リスクよりも成長の可能性に着目する投資家層が厚くスタートアップ企業を相対的に高く評価する傾向がある。

また数年前に当欄でも取り上げたSPAC(特別買収目的会社)など上場への箱の選択肢なども多彩だが、成長戦略としてこの解禁方針が盛り込まれた一件はあれからどうなっているのだろう?いずれにせよ斯様に先行して米上場を果たす企業の増加で、これまでコンサバとされてきた日本企業文化が変化してゆくのかどうかにも注目しつつ国内の土壌整備にも期待したい。


是非を諮る

さて、今年の株主総会シーズンに当欄が取り上げた企業の一つにアクティビストの買い増しに備えた買収防衛策発動の是非を諮ったコスモエネルギーHDがあったが、同社は一昨日に筆頭株主の村上氏側に対抗すべく買収防衛策を発動するために12月に臨時株主総会を開催すると発表している。これで村上氏らを相手に買収防衛策を総会議案にするのは二度目である。

ちなみに前回の買収防衛策決議ではMOM(マジョリティー・オブ・マイノリティー)を採用したが、今回は村上氏側が趣旨説明書を提出している事などを勘案し普通議決となっている。前回で仮に村上氏側も入れた普通議決だったら賛成比率は約46%にとどまり、村上氏側が反対票を投じていれば賛成票が過半数に届かず否決となる票差であっただけに今回の行方に関心が向かう。

しかし村上氏といえば今週月曜日の「資本の歪み」にも書いた通りかつてのフジテレビジョンとニッポン放送の「親子関係資本のねじれ」を狙い再編を果敢に仕掛けた経緯があるが、この石油業界でもかつて出光興産と昭和シェルの経営統合において泥沼化した出光経営陣と創業家側の間に入り対立緩和に一役買った存在でもある。

他に富士石油株の筆頭株主になっていた経緯もありこの石油業界再編にも思い入れがある様子だがこの富士石油などPBRは本日で0.3倍台、コスモエネルギーHDも村上氏らの保有が刺激となり8月には増配発表、中期経営計画では総還元性向目標60%以上とENEOSや出光を上回るものを出しているがなおPBRは1倍割れの状態にある。東証の改善要請も背景に先週書いたドラッグストア業界同様にこの石油業界の今後の動向にも注目だ。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

カテゴリー

アーカイブ

2025

4

1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30