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辛勝に続く圧力

先週はJパワーが欧州機関投資家から受けていた株主提案に反対表明した旨を取り上げたが、これ以外にもここ一週間で多くの企業が所謂アクティビストの提案に反対表明を出している。任天堂創業家ヤマウチオファイスからTOBを受けている東洋建設、英投資ファンドニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドから株主提案を受けている日本精化、旧村上ファンド系から株主提案を受けているコスモエネルギーHD等々幾つも出てくる。

直近では成り行きが注目されていたセブン&アイHDは先週の株主総会で同社提案の取締役選任案が可決され、米バリューアクト・キャピタル側の提案は退けられた形になっている。ココは今から7年ほど前にも別の投資ファンドからも今回と同様の構造改革を迫られていた経緯があるが、これで何とか二度目も乗り切った格好となったか。

とはいえ昨年94.73%だった社長の選任議案の賛成比率は今回76.36%に減少、反対株主が約18%&増えた格好になる。総会前にグラスルイスなど議決権行使助言会社2社が再任への反対を推奨していた事も影響していると思われるが、一昔前のシャンシャン総会に慣らされた株主の質も近年はガバナンス改革を本気で考える層が増えつつあるようにも思える。

今年に入ってアクティビストから出された企業経営への提案数は43件にのぼりこれは2022年の同時点の27件を上回る。総じてまだ否決されるケースが大半だが、それらを受け別のアクティビストによる改革を訴える株主提案が続く可能性もあるだけに経営陣も喉元過ぎれば熱さを忘れるというわけにはいかず、今後も一定の圧力が続いてゆくのは想像に難くないか。


否決でも圧力

さて、ちょうど2週間前の当欄ではESGを巡る政治的分断を取り上げたが、ESGに絡んでは昨日にJパワーが欧州の機関投資家から受けていた脱炭素化の時期などを巡る株主提案2件に関し反対表明している。これまでも世界の石油大手で気候変動対策等の株主提案が話題になっていたが、近年では国内企業にもこの手の提案が活発化してきている。

ここ数年で提案を受けたのは大手金融期間ではみずほFGに三菱UFJに三井住友FGの3メガバンク、大手電力では東電HDをはじめ関西電力や中部電力、大手商社では住友商事や三菱商事といったところで、うち20%以上の賛成率を得たところはみずほFGや三菱UFJに三井住友FGの3メガバンク、冒頭のJパワーや関西電力に住友商事や三菱商事等の大手商社となっている。

とはいえこれら企業に対する定款変更を求める気候変動関連の株主提案はこれまで全て否決されている。定款変更には議決権の3分の2以上の賛成が必要とそのハードルは高いワケだが、否決されたとはいえ過去には住友商事が海外石炭火力事業からの撤退を表明し三菱UFJ銀行も日本の銀行として初めてネットゼロ・バンキング・アライアンスに加盟している。

これらの背景には株主提案の影響が少なからずあったのは否定出来ないところだろうが、今後も賛同を得た賛成票を基に企業との対話でプレッシャーがかかって来るのは想像に難くないか。ちなみに昨年6月の株主総会では株主提案が77件と過去最多であったが、今年も株主総会が近づくにつれ双方の緊張感が次第に高まってくる。


分割に一石を投じる

昨日はトヨタ自動車株に触れたが、同社といえば3月末時点の株主数が1年で10万人以上増加したと先週明らかにしている。昨年も個人株主数が8年連続で増加した旨が報じられていたが、2021年9月末を基準に1株を5株に分割しており投資に必要な金額が20万円程度と大幅に下がった点が個人投資家に浸透したとみられる。

ところでこの5分割どころではない分割を最近発表していたのはNTTで、7月1日を効力発生日として1株を25株に分割すると発表している。東証が示す望ましい投資単位の水準として5万円以上50万円未満が挙げられているが、本日の終値を基準とすると株価は実に160円台となりこの基準以下まで逆に下がってしまう事になる。

更には同一単位で株主優待も維持される事も明言するなど、これほどまでに大胆な分割をした真意のほどが今一つ分からない部分もあるが、24年から新たなNISAが導入されることなどを踏まえ投資単位の引き下げで投資家層を幅広い世代に拡大することなどを狙ったのは間違いの無いところか。個人投資家の厚みがないのが東証の弱点ともいわれてきたが、相次ぐ分割でこの部分が改善されてゆくかどうか注目である。


不可解な引け商い

昨日まで4月以来の連騰記録の8日続伸を演じていた日経平均であったが、本日は年初来高値を更新した後さすがに息切れで9営業日ぶりに反落して引けた。各種テクニカル指標の過熱を横目に前日までの8日続伸で2000円近くも上昇しただけに漸くの一服といった感じだが、そんな中で本日はトヨタ自動車の引け際の急落が市場の話題となっていた。

寄り付き後早々に年初来高値を更新しあと後場は前日終値近辺での値動きで推移していた同社株だが、大引け商いで1400万株以上と日中の売買高の4割近くが集中し引けてみれば約5%安の急落での引けとなった。言わずもがな東証プライム市場で時価総額トップを誇る同社だけにこの引けの下落分だけで約1.5兆円が飛んだ計算。

これだけ纏まった売り注文であれば株価への考慮から時間外等の選択もあった筈という事で各所では誤発注の憶測まで飛び交っているが、引け後も特に何の発表もなされていないだけに思惑が募る。ここ相場の過熱感が意識されていたなかで思わぬ冷や水となったが、これだけでTOPIXの約4ポイントの下落に寄与するなど影響は少なくなかっただけに真相が待たれるところ。


33年ぶり

さて日経平均の騰勢は週が明けても衰えず本日で8日続伸となったが、大引けで31000円台をつけたのは1990年7月以来、実に約33年ぶりのことでバブル経済崩壊後の高値を更新することとなった。この日経平均の高値に先駆け同じく33年ぶりの高値を付けていたのはTOPIXであったが、斯様に今回の急騰は大型株が牽引している色合いが強い。

大きな節目の3万円大台を破った背景には先に発表されたGDPも一役買っている。内閣府発表の2023年今年1-3月のGDP速報値伸び率は年率換算で1.6%の増加、プラス成長となるのは3四半期ぶりで市場予想を上回った。全体を押し上げたのが内需の柱でGDPの半分以上を占める個人消費ともいえるが、こちらもまたバブル期並みの光景が徐々に復活してきた。

三越伊勢丹の購買データでは昨年の年間100万円以上の購買顧客が約50%とコロナ禍前を上回り、中でも年間1000万円以上の買い物をしている人の比率は倍以上に膨らんでいるという。なるほど確かに三越の逸品会など訪れた際には各ブースで高額品が次々と成約され、顧客が満足気にふるまわれたシャンパングラスを傾けている光景が彼方此方で見られたものだ。

今から3年前には米の所謂GAFAMのたった5社だけで東証上場全企業の時価総額を上回ったのが話題になっていたが、先週末には株式時価総額が1兆円超となった企業が過去最多となった旨が日経紙で報じられていた。33年ぶりの株価水準と併せいよいよ失われた30年を取り戻す時と期待は膨らむが、この間に欧米の主要株価指数は9倍~12倍に化けているのを見るに本邦はまだ東証改革のゴールに向け漸く緒に就いたばかりという感だ。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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