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10年前と異なる株高

週明けの日経平均は先物への売りから反落して引けたが、それでも週末まで開いた日銀金融政策決定会合にて大規模緩和継続が決定した事を好感し序盤に年初来高値をまたも更新と騰勢は衰えない。昨年末から振り返ってみると本日の引けまで日経平均株価は約7,300円、率にして約28%も上昇してきている。

1990年以来、約33年ぶりの高値水準というフレーズが毎日のように飛び交った先週であったが、この間にこの間に時価総額日本一のトヨタ自動車も節目となるPBR1倍台を回復したのが話題に。斯様な動きから東証も2022年4月の市場再編でプライム市場が誕生してから初めてその時価総額が800兆円の大台を超えてきており、旧東証一部も含め最上位市場として過去最大となった。

これら時価総額増加が顕著な個別銘柄を見てみると、年初の日経紙恒例の「経営者が占う2023年」にて経営者が選んだ有望銘柄がズラリ、昨年末と先週段階での比較で上記の有望銘柄第3位のトヨタ自動車が5.8兆円増加、同1位のソニーGは4.8兆円増加、同7位の東エレクは3.2兆円増加、同4位の信越化学は2.9兆円増加、同8位のファストリは2.8兆円増加等々、嵌れば大ヒットのこの類である。

10週連続で前週末より高く終えた日経平均は第2次安倍政権時の12年末から13年にかけての12週以来、約10年ぶりの長さになったが、当時と比較するに今は予想PERも低く予想配当利回りも高い。トヨタのPBR一倍割れ解消現象は今後起こり得る局面変化を示唆すると日経紙の一文にあったが、資本コストを意識した経営の浸透による企業収益力の向上がいよいよ注目される段階になって来たか。


真摯なアクティビスト

さて、一昨日の日経紙にあったユニークな全面広告が目を惹いた。アクティビストファンドのストラテジックキャピタルによる投資先企業への株主提案や課題が綴られたものがそれで、そこでは東証プライム市場上場の日本証券金融、極東開発工業、文化シャッター、ワキタ、有沢製作所及び東証スタンダード市場上場のダイドーリミテッドの6社が挙げられていたがいやはやどれも辛辣な見解が述べられている。

このうち既にワキタの提案は否決されているが、とはいえこれら目を通してみるにその辺のディスクロを一瞥しただけではわからないようなデータや問題点が非常に簡潔に纏められており当該企業の株主なら一読の価値はあるだろう。おりしも東証が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等の要請を出しているなか、一部経営トップが株価はROEや純資産とは何の関係も無いなどの発言をしているのは残念でもある。

今月は3月期決算の上場企業が株主総会を開くが、先月末の段階で82社にこのストラテジックキャピタルはじめ314議案が提案されており本日段階で更に増加していることを勘案すれば過去最高を更新する見込みだ。それぞれ冒頭のストラテジックキャピタルの資本効率に関するものから、先月に当欄で書いたような環境に関するもの、企業統治に関するものなど多岐にわたっている。

ちなみに冒頭の6社は本日段階でPBRが低いところで0.60倍、一番高い企業でも0.83倍といずれも1倍割れに甘んじている。コーポレートガバナンスコードによりアクティビストファンドの提案は整合性を持つようになり、株主提案でも企業価値向上につながるとの判断なら賛成票を投じるなど機関投資家の姿勢もまた変わってきている。首の皮がつながった経営トップも賛成票減少が顕著になってきた事例も多く、真摯に彼らの意見に耳を傾けざるを得ない時代になったのは間違いのないところか。


2023年上半期ヒット商品

さて、毎年恒例で先週は日経MJより2023年上半期のヒット商品番付が発表されている。先ずは上位からということで東西共に関脇はアニメ。東のザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーに西はTHE FIRST SLAM DUNK、共に世界中で大ヒットとなっているが、今後も日本初の人気ゲームが続々と映画化される話が水面下では囁かれている。

そして東の大関はChatGPT、公開からわずか2か月で月間利用者が1億人を突破、世界を席巻したが期待と懸念が交錯するなか欧米では早くも規制論が広がっている。そして西の大関はインバウンド復活、足元の円安が外国人の消費意欲を刺激し観光庁によれば1~3月期の訪日客の1人あたり旅行支出は2019年から3割増加しているという。

そして東の横綱が5類移行、西はWBC世界一とハレ消費を刺激する。また複数ある前頭には全戸億ションや伊勢丹バブル超えなどがあったが、4月には芝にアジア最大級のフェラーリのショールームがオープンし、7月には千葉南房総にコーンズ運営の正会員3600万円のプライベートサーキットもオープンする。先週末の日経紙にも高級時計メーカーのパテックフィリップ展示会の全面広告が踊るなど株高を背景に富裕層の消費意欲を擽る試みもまたぞろ復活してきたか。


値上げ耐性

昨日は日清食品冷凍が想定を超えた食材や人件費、物流コストの上昇を背景に家庭用冷凍食品40品目の出荷価格を9月1日納品分から約5~20%引き上げると発表している。同値上げは今年の3月以来のことであるが、40品目というと同社ブランドの家庭用商品の約半分の規模にあたる。

再値上げとはいえこの冷凍食品、他とは違って相次ぐ値上げでも高い値上げ耐性を誇り国内生産や消費量などその市場規模は昨年には過去最高を更新している。先週末の日経紙でも「冷凍食品、食卓の主役に」と題し冷凍食品を取り上げていたが、以前に当欄でも取り上げた大手スーパーや百貨店など小売も冷食に商機を見出している旨が書かれていた。

そういえば春先に銀座三越が地下の食品フロアを2010年のオープン以来、初めて大規模リニューアルさせたが、そこで特に力を入れたのが冷凍食品類であった。本来のお店の味を再現するためにそれぞれ解凍方法が湯煎、氷水、流水などその食材の本来の姿に戻る最良の解凍方法を提案し天婦羅や鮨からラグジュアリーホテルの味まで気軽に食する事が可能になった。今後も値上げ耐性を武器に枝葉の広がりで市場規模の更新劇が続くのは想像に難くないか。


トレーディングカード狂騒曲

さて、先週末には千葉の幕張メッセでポケモンカード日本一を決める「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2023」が開催されていたが、このポケモンカードといえばつい最近も有名デザイナーとのコラボカードがランダムでもらえるというキャンペーンで、怒号が飛び交うなか棚からあらゆる商品が消える阿鼻叫喚の光景がTVでも報じられていた。

これを見て思い出したのが大手雑貨チェーン3COINSの「KIDS節分」なる商品に大勢の客が押し寄せ店内が地獄絵図になった今年の節分の光景か。まさに同じ光景であったが、毎度の事ながらポケモンといえば上記の通りレアカードを狙ってカードの最新作発売日など各地で数百人の行列が出来るのが今や風物詩?になっている。

コロナ禍でカードをコレクションする人が増加しているというが、20年以上前に発売された世界で39枚しかないというカードはそのお値段1億8千万円。上には上があるもので世界最高額でギネスに認定されたモノはなんと7億円という。まあ億の単位は兎も角もポケモンカード1パック5枚入りで180円だが、SARなどはこれが数百から数万倍に化けるというから挙ってこれを狙いに行くのもわかる気がする。

そんなワケでポケモンカードをはじめとしたトレーディングカードの市場規模は年々拡大し、2017年では1000億円に満たなかったが、18年に1000億円を抜いて以降21年には1782億円まで拡大してきているという。これに伴いせどりビジネスも拡大しているというが、年々拡大するオルタナティブモノの次期投機対象をいち早く発掘する嗅覚が問われるところか。


出口戦略考

今週の日経紙グローバル市場面で「日銀、甘くない緩和出口」と題し、日銀がこれまでの金融緩和の大号令のもと買い入れたETFが時価53兆円にもなり先週公表された2022年度決算ではその分配金等が1兆1000億円に達し、保有割合が50%を超える国債からの利息収入に肉薄するほど膨張している旨の記事があった。

ここでは出口戦略についても言及されていたが、当欄でも既に3年くらい前に日銀勘定から別の機関等に移管・分離させイグジットを探るというさながらバブル期に証券会社で大流行した所謂「飛ばし」のようなスキームや、相応のインセンティブ付与を前提に売却制限付きで個人への譲渡案などの案を書いたことがあった。

この後者の案はここでも再度取り上げられていたが、文中で「日銀が持つ含み益を有効活用してほしい」と述べていたニッセイ基礎研究所の井出氏自身もETFの出口戦略については政府が財投債でもって日銀からETFを買い取ったうえで個別株に置き換え、入って来る配当金を子育て支援などの成長投資に充てる案などに言及している。

なるほどこれなら年間の少なくない信託報酬も削減出来、個別株となる事で優劣によるリバランスが効く規律も働くことで東証が求める活性化策との親和性も非常に高くなる。同頁では今後金利を上げる政策正常化を進めるのとこの処分という2つの出口政策の両立は簡単ではないとの指摘も書かれていたものの、いずれにせよこういったことを考えてゆく時期に来ていることだけは間違いなさそうだ。


踏み上げ

本日の日経紙マーケット総合面にはFX(外国為替証拠金)取引を手掛ける個人投資家が予想外の円安が継続しているために追い詰められている旨や、日経平均株価と逆方向に2倍の値動きをするETF(上場投資信託)の投資家が日本株の上昇が続いていることで戦略の見直しを迫られている旨が出ていた。

ドル売りのポジションに、日経平均ダブルインバースインデックスであるから日経平均の売りといういずれもショートポジションがこの度のドル高、日経平均高という上げ相場で「踏み」を強いられているという構図だ。確かにFXなど値幅もさることながらスワップポイントも昨年1-3月期に比較すると軽く10倍以上になっているから体力消耗の激しさは想像に難くない。

ちょうど株に置き換えて言ってみれば信用倍率が極端に低くなり高額の逆日歩が日々発生している銘柄を辛抱して抱えている状況という事になるが、日経平均ダブルインバースも円買い・ドル売りポジションも共にまだ踏み切れていないポジションが残っているとみられるだけに、双方共に相場が一旦のピークを迎えるのは最後まで残った向きが降参し踏んだ場面となるか。


株式インセンティブ彼是

さて政府が今月中に決める「新しい資本主義」の実行計画改定案の概要が明らかになっている。この辺はカギとなるスタートアップ振興では株式報酬の一つであるストックオプション(株式購入権)の従業員への付与期間の制約を撤廃するなど、購入権を発行し易くなる規制緩和を検討する旨などが日曜日の日経紙総合面に出ていた。

一方で多くの企業が使う信託型の株式報酬について、直近で国税庁が給与としての税務処理が必要だとの見解を示している。これまでも外資系企業の役員等がストックオプション絡みで国税とヤリ合う場面を多く見たが、企業側としては権利行使で得た株式売却に対し税金は譲渡所得で20%との認識であったものの、同見解では給与所得とし最大55%の税金が課される事で企業想定より税負担が増加する事になる。

冒頭のストックオプションの付与期間の制約撤廃など大企業に比較して福利厚生等の面で見劣りするスタートアップ企業の人材獲得には追い風となるものの、この度の国税の見解で信託型を導入している各社に見直しの動きが広がるのは想像に難くない。財務に余裕の無い企業でも活用し易い同制度を新たに導入する企業は近年増加し続けているが株式インセンティブの在り方が改めて問われるか。


アウトパフォームする値上げ企業

雨天の日も多くなり蒸し暑くなる鬱陶しい梅雨入りの水無月だが、この蒸し暑いなか経産省が大手電力7社による規制料金の値上げを認可した事で今月から電気料金の大幅値上げが始まっている。新電力の一部も追随する模様だが7社の引き上げ率は各社平均で15~43%、東京電力で標準的な家庭の場合ひと月でおよそ881円の値上がりとなる。

値上げといえば食品の値上げラッシュも止まらない。ちょうど1年前の6月には日清食品のカップヌードルが3年ぶり値上げした旨を書いていたが、同社はカップヌードルやチキンラーメン等をおよそ10%から13%再値上げする。またハウス食品もバーモントカレーなど家庭用食品205品目の値上げ、明治のきのこの山・たけのこの里も約8%値上げするなど今月は約3600品目が値上げ予定となっている。

しかし一寸前までスーパーなどで100円前後で買えたカップヌードルだが、今月の再値上げでいつの間にか2.5倍である。また再値上げといえば代名詞格なのがシーチキン類で、こちらはこの1年で4度目の値上げと凄まじい。それは兎も角もこうした価格転嫁力の強さが意識されてか、日清食品や伊藤園などの株価は日経平均をアウトパフォームしている。今後も各社の値上げと併せ、引き続き関連各社の株価にも注目が怠れないか。


池坊展2023

昨日は豊臣秀吉が戦国時代の武将、藤堂高虎に授けた褒美との伝承が残る「黄金の茶道具」一式のオークションを取り上げたが、豊臣秀吉といえば池坊専好が前田利家邸で秀吉に披露したといわれる「大砂物」から生まれた伝説に着想を得て作り上げた今から6年ほど前に公開された映画「花戦さ」が思い出される。

この年の「池坊展」は本当に圧巻で、この映画の公開記念という事で映画の中で描かれた様々な生け花のシーンなど実際に撮影で使われたものが展示されており特に昇竜松を主体にした大砂物の迫力は今でも鮮明に残っている。そんな池坊展だが、今週月曜日まで「とらわれのない美」をテーマに開催されていた池坊東京花展に行ってきた。

池坊展は19年の東京都美術館での花展以来で今回は初夏の花材を用いた延べ約440作が展示されていたが、毎度の事ながら器もひな壇のようなものからコルク栓を敷き詰めたものなど斬新で難しい和と洋の花の組み合わせと併せ縦横無尽であったが、次期家元の専好氏のスプリングを多用した作品もまたユニークなものであった。

そしてやはり圧巻は家元の専永氏の作品か。「隠れているもの秘されているもの、それらは無ではない。有を支える根源なのである。」と解説があったが、大きな竹筒下部から伸びる力強い根に「生の力」を改めて感じさせられた。コロナ禍で不安が世界を包み日々の生活や価値観も大きく揺らぐ時代の変化のなか、常に時代を感じて今をいける池坊に改めて力をもらった今回の展であった。


受け継ぐ意味

本日の日経紙商品面には、中国による宝飾品と地金・金貨の1~3月の需要は前年同期に比べて16%増加し、中国人民銀行も4月まで6か月連続で保有量を増加させるなど個人や中銀の強い購入意欲が明らかになった旨が出ていた。個人は人民元建て資産を不安視し、人民銀行には米ドル離れの狙いがあるのが背景にある模様。

インドと並ぶいかにも金嗜好の強いお国柄といった感じだが、この金といえば国内では話題になっていたところの豊臣秀吉が戦国時代の武将、藤堂高虎に授けた褒美との伝承が残る「黄金の茶道具」一式が先週のオークションで出品され、競り合った末にはれて茨城の美術館が3億円で落札した模様だ。

かつて日本美術の少なくない数が散逸したが、近年では若冲のコレクターで有名なジョー・プライス氏の旧蔵品を出光美術館が購入した事により纏まって日本への里帰りが叶っている。今回の黄金の茶道具も主催のシンワオークションは事前に真贋の保証はしないとしていたが、曲がりなりにも国宝級の逸品であろうと思われるものが日本の中できちんと受け継がれてゆく一歩となったのは一先ず一安心か。


商社系金融サービス

本日の日経紙ビジネス面には三菱商事が来年にも小売りや生活インフラの支払いなどに金融サービスの提供を始める旨の記事が出ていたが、大手商社系の金融サービスといえば昨日も三井物産グループが今まで機関投資家に限定されていたような不動産やインフラなどのオルタナティブ資産に対しスマホで完結できる小口投資に関する全面広告が日経紙に出ていた。

この全面広告には金価格に連動することを目指す暗号資産の「ジパングコイン」も出ていたがこれは既に昨年の2月に当欄でも取り上げており、これに新たに加わったのが「ALTERNA」で高額な不動産などの資産を小口化してスマホより1口10万円から手軽に投資出来るデジタル証券のサービスとなっている。

なるほど目利きが要るうえに一棟数十億円するプロ向け物件がブロックチェーン技術により少額資金で狙えるのはなかなか興味深く映るが、この手のサービスは丸紅も賃貸住宅のデジタル証券サービスを来月に募集する予定だ。斯様に商社系が続々と新しい投資の形を展開してきているが、商社ブランドに加え小口化で若年層世代の投資需要を喚起するトリガーとなるかどうか注目しておきたい。