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空箱上場の是非

さて先の日曜日の日経紙一面には「膨れる高リスク資産」と題し、その一因には既存の金融規制の枠組みの外にあるシャドーバンクといわれる影の銀行がカネあまりの中でリスクの高い取引を膨らませている事などが記されていたが、文中には企業買収のみを事業目的とした「空箱」の特別目的買収会社(SPAC)の上場数が右肩上がりの旨もかかれていた。

このSPAC、当欄でも昨年10月に取り上げた際に米では同年7〜9月のIPOによる市場からの調達額のうち半分をSPACが占めるなど急増している旨を書いていたが、同年末にはSECが十分なディスクロを求めるガイダンスを出し、つい先月には一般向けに著名人の関与だけに基づいて投資を決めないよう警告している。

週明けに取り上げたCVCによる東芝買収案も利益相反の疑義が出ていたが、こちらもスポンサーと一般投資家との間に利益相反が起きる可能性が高い仕組みとなっている。そうした背景もあり日本では未だ解禁されていないがSGXは今年半ばにもSPAC上場を解禁する方向となっており、取引所間の競争の厳しさを鑑み今後慎重論に変化が出て来るのか否かこの辺も関心が向くところ。


快挙とご祝儀買い

周知の通り男子ゴルフ4大メジャーのマスターズ・トーナメントで、これまで青木功氏や中嶋常幸氏らの大物でさえ挑戦し成し得なかった厚い壁を松山英樹氏が10度目の挑戦で日本人初の優勝を飾った。日本人には出来ないというこれまでの常識を覆しコロナ禍で疲弊する世に希望を与えてくれたが、当然ながら株式市場もこれを囃し昨日は日経平均が安値引けとなるも関連株には物色の矛先が向いた。

松山選手が愛用するゴルフシャフトを製造するジャスダックのグラファイトデザインは昨日ザラバでストップ高まで急騰し年初来高値を更新、マザーズのプレー予約サイト運営のバリューゴルフもザラバ急騰し2000円大台を回復、また中古ゴルフクラブ専門店のゴルフ・ドゥもザラバで突飛高を演じ年初来高値を更新するなど地方、新興市場がピンポイントで賑わった。

テニスの大坂なおみ選手が2年ぶり2度目の全豪オープン制覇の時でさえここまで関連株は賑わっていなく、広義でスポーツ関連といえば東京五輪の開幕が決定した約1年前のアシックス等のストップ高はじめスポンサー企業群への物色以来の事のように感じる。これら所謂ご祝儀モノは息の長い相場へ発展する可能性は望むべくもないが、ウイルス関連や防衛関連が賑わうより遙かに平和的なのは言わずもがなだろう。


呪縛?からの脱却

さて、先週は英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ等が東芝に対し2兆円超の買収提案をした旨が話題になっていた。東芝といえばつい先月もアクティビストから臨時株主総会開催を要請されエフィッシモ・キャピタル・マネージメントの提案が可決されたのが記憶に新しいが、これを取り上げた当欄でも末尾にて「~株主構成など大きく変わりその影響から緊張関係が続いている〜」と書いていた。

この株主構成が大きく変わったのは言わずもがな債務超過に陥った危機の際に実施した巨額増資の際の受け皿が背景となっているが、現在の株主構成では半数以上を占める外国法人等のうち実に約25%がアクティビスト。上記の通り彼らとの対立が表面化する現状では株式が非公開になればアクティビストの影響下から脱却を果たせ、経営陣の思い通りのオペが出来るなど確かにメリットがあるというもの。

加えて昨年7月の株主総会では現社長再任の賛成率が57%まで低下しているという現状だが、各紙でも報じられている通り現社長はこの買収提案をしたCVCキャピタルの元会長という経歴、加えて現社外取締役の中にはCVCアジア最高顧問も居る。斯様な背景からアクティビストとの対立で責任問題が及ばないよう自己保身の為に仕掛けたのではとの噂が出るのも致し方無しか。

またフジテレビを傘下に持つフジ・メディアHDが外資規制違反云々でザワついていたが、東芝もこうした問題が絡む可能性もあり政府系金融機関等への協調を謳うのもそうした背景からだろう。他既存株主がどう出るかも気になるところだが何れにせよ株主の利益を考えての行動か否か、その辺が一番の焦点になってくるワケで先ずは今年の株主総会までに一定の方向性が示されるのか否かその辺が注目されるところ。


コロナ禍で変貌 

さて、新年度のスタートを切った今月1日の日経新聞朝刊には新社名になる多くの企業の全面広告が載っていたが、証券会社からも保有株の社名変更の告知メールが届く。スシローGHDなどFOOD&LIFE COMPANIESへとガラリと変るが、アイシン精機はスッキリとアイシンへ、一方で楽天やソニー等は従来の社名にグループが付くこととなった。

これら事業の多角化を物語っているが、上記のソニーなど2021年3月期の業績は純利益が過去最高の1兆円を突破する見通しと好調で、背景には部門別でこれまで要であったところが横這いの一方でやはりプレステ効果でゲームが約3割超、また鬼滅の大ヒットで映画などのコンテンツが利益に寄与する格好が今回は目立っている。

思えばリーマンショック後の低迷期では個人的にこの銘柄も保有株のヘッジでよく空売り対象にしてきたが、空売りといえば10年近く前の取引で売り玉の買い戻しをスロットよろしく単純な縁起担ぎで777円と出しっ放しにしておいたダメ元の指し値が約定した時は驚いたと同時に三桁に沈んでなお下げ止まらないさまに不気味さを憶えたものだ。

そんな時から今や株価は15倍以上に大化け、ショートカバーから途転ロングしなかったのがつくづく悔やまれるが、そんなことは兎も角も製品の売り切り型モデルからゲームや音楽等のサブスクへの移行が奏功した良い例だろうか。当欄でも約1週間前に「サブスク彼是」と題しモノを持たない暮らしが支持される旨を書いたが、デジタル化の加速でこのコロナ禍に躍進する企業群には今後も注目したいところ。


名店の灯がまた・・

さて、昨日の日経紙金融経済面には「消えた需要 老舗も降参」と題し、約230年の歴史を持つ東京・柴又の料亭「川甚」が今年に入って店を閉めたように、コロナ禍を背景とした政府の緊急事態宣言や外出自粛の長期化で宴会や観光客需要が消失などから事業の継続を経営者が諦め廃業や休業が目立ち始める旨が出ていた。

上記の川甚といえば利用した事はなくとも文学好きな向きならこれまで多くのの文豪たちに愛され、例えば夏目漱石の「彼岸過迄」、松本清張の「風の視線」、他にも谷崎純一郎などの小説にも度々登場しているのでその名前は知っているだろうか。老舗といえば過日銀座方面に行った際に152年の歴史を持つ「辨松」もまたこのコロナ禍の影響で昨年幕を下ろしたのを聞かされた。

他にもこの辨松の近所では作家の池波正太郎が好んで通っていた「銀座桜蘭」もひっそりと閉店、この手とは毛色が違うが同じ銀座では50年以上続いたあのアマンドも昨年末に閉店している。つい最近は30年以上続いたタカノフルーツバーもまた先月末で閉店したのも驚きだったが、いずれにせよ老舗の灯がこんなコロナのせいで消えゆくのは何とも忍びないもの。


新陳代謝の差

さて、先日私の友人が購入したテスラがはれて納車となったのだが、このEV大手テスラといえば先週末の日経紙には世界の上場企業約4万6000社の3月末の時価総額上位集計が出ており、主要IT企業GAFAの上位横並びと共に同社は1年前の81位から今年は8位へと大躍進を遂げていた。

これらGAFA勢は昨年の3位から首位に返り咲いたアップルを筆頭に2020年10〜12月期の純利益が最高益となるなどか収益力の高さが際立っているが、こうした背景があるにしろやはり驚くべきは米IT勢5社の時価総額が合計で約8兆ドルに達しこれらで世界の時価総額全体の7%を占める規模になっているという現実か。

以前に当欄でテスラの時価総額がトヨタ自動車の上鞘に出てからわずか半年足らずでトヨタ自動車含む日本を代表するトップスリーのそれをも上回った旨を書いた事があったが、改めてこうした勢力図を見るに主要株価指数構成の入れ替えにも見る事が出来るが如く積極的な新陳代謝がなされているか否か日米の積み重ねの違いを感じざるを得ない。


警鐘

先週は日経夕刊・注目ニュース番付にも出ていた通り米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントの報が話題になっていた。レバレッジ取引において追証要請に応じられず、これに絡んでいた日本勢ではプライムブローカーカレッジ取引で野村HDが約2200億円、ほどなくして三菱UFJ証券HDも英子会社で約300億円、新年度になってからやれやれ?とみずほフィナンシャルグループも約100億円規模の損失可能性の発表と報じられている。

このアルケゴス、かつてパラジウムの買い占めで名を轟かせたあのタイガー・マネージメントの出身者の資産管理会社であるが、報じられているところによればそのレバレッジは常識からかけ離れた実に800%とも2000%とも伝えられている。ヘッジファンドなら斯様に無茶なレバはかけられないが詳細のディスクロが求められないファミリーオフィスだからこそ出来た芸当といったところか。

当初は先のゲームストップ株のように個人勢によるポジション狙いの投機的動きがトリガーになったとされ第2のアルケゴスも出ると実しやかに喧伝されていたようだが、それは兎も角も今回上記のような異常なレバレッジ取引が出来たのも金融機関が多額の手数料収入を目当てに取引も人物も高リスクな物に多額の与信を行った点は否めない。

規制・監督当局も事態を注視しているというが、過剰流動性相場が続きボラが大きくなっているなか金融機関のリスク管理体制が問われそこに焦点が集まれば今後金融規制強化の議論に繋がる恐れもあるかもしれない。あのリーマンショックからはや10年以上が経過、当の米では主要株価指数が揃って史上最高値を更新するなか「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の諺を改めて思い出させるような事件が今起きたのは何かの警鐘か。


環境問題とPGM

さて昨日の日経紙商品面では「触媒貴金属 再び最高値圏」と題しガソリン車用触媒に使うパラジウムの国際価格が、自動車生産回復に伴う需要復調のなか主要生産国の供給懸念がにわかに強まった事を背景に、ニューヨーク市場の先物で昨年2月末に付けた史上最高値以来1年1ヵ月ぶりの水準まで急騰している旨が出ていた。

また同じくガソリン車の排ガス触媒に使うロジウムや、電子部品製造や水素生成の際の触媒等に使うイリジウムもエコブームのなか主要国の環境対策強化などを背景に急騰。同紙では5年前比で冒頭のパラジウムは約5倍、上記のロジウムは40倍を超える高騰とあったが、イリジウムもまた然りで約10倍に高騰している。

ところでこれら白金系レアメタルはプラチナの副産物として産出されるが、このプラチナもここ最近は値上がり急で昨年11月から直近までの騰落率では首位のビットコイン、2位の原油に次ぐ3位に付け注目を浴びている。上記レアメタルは電気自動車が本格普及するまでの間のガソリン車温暖化対策を背景としているが、プラチナもディーゼル車の排ガス浄化装置のほか燃料電池車の発電装置向け需要期待が背景にある。

金の下鞘に甘んじてはや数年プラチナも漸く覚醒かといったところだが、いずれにしろSDGsの掛け声が喧しい現代において今後一段と進む持続可能な社会への転換過程で常に付き纏うリスクとしてこれらに不可欠な資源不足の問題があり、これらに対応するべく更なる技術革新などが課題となってこようか。


サブスク彼是

さて鉄道各社の業績下方修正が相次いでいるが、先週末には小田急電鉄が再開発を巡る減損が響いて2021年3月期の連結最終損益が従来予想より赤字幅が拡大しそうだとの発表をしていた。ところでこの小田急電鉄といえば先月にアプリを利用した飲食・物販のサブスクチケットを発売している。

同サービスは税込み7,800円で30日間利用可能、小田急線ターミナル駅などに入る形44店舗が対象で飲食などは3時間間隔を空ければ何度でも利用可能で生花も期間中5回まで提供されるという。鉄道系では先にJR東が1日1本ペットボトル飲料を受け取れるサブスクを試みているが、初回は募集枠に対しその20倍近くの申し込みが殺到した経緯がある。

しかしサブスクといえば近年は上記のような食はもとより、ブランド品含めた服や時計、香水から美容サロンの類に最近ではラグジュアリーホテルに至るまで衣・食・住全てが網羅されている。外出も減るなか気に入れば継続、要らなくなれば解約と気軽に借りる感覚とモノを持たない暮らしが現代では本当に支持されるようになったとつくづくという感じだ。


PTSの課題

さて、先週末の日経紙金融経済面には「米CBOE、アジア進出」と題し、米取引所大手CBOE(シカゴ・オプション取引所)を運営するCBOEグローバル・マーケッツが手薄のアジア太平洋地域進出する狙いで、日本のPTS(私設取引システム)であるチャイエックス・ジャパンを米投資ファンドJCフラワーズから買い取り買収する旨が出ていた。

現在日本のPTSは上記のチャイエックス・ジャパンとジャパンネクスト証券だけであるが、日本の株式取引量で見るとPTSはこの2社を合計しても7〜8%程度と米国の約30%からしても見劣り感は否めない。近いところでも先に東証がシステム障害を起こし全銘柄の売買停止に追い込まれた際、渦中のJPXや同システムを請け負った富士通がPTS市場で売り物を浴びていたのを思い出すが如何せんリクイディティーの薄さが指摘されていた経緯がある。

PTSに絡んでは今月にSBIホールディングスと三井住友FGが共同で私設取引所運営会社を設立と先に報じられているが、上記のような不測の事態にこうした代替市場がバックアップになれる為には常日頃から幅広い投資家が参加しそれなりのマーケットシェアが活発に行われていないとこの辺は難しく、やはり取り扱い会員を増やし当欄でも何度か指摘したがマル信の解禁など投資家の裾野を広げリクイディティーを高めてゆくのが喫緊の課題か。


インバウンド下剋上

さて、先週は国土交通省から2021年1月1日時点の公示地価が発表されているが、全用途の全国平均は前年比で0.5%のマイナスと6年ぶりに下落に転じていた。特に都市部の商業地で下落が酷かったのが大阪の所謂ミナミの辺りで道頓堀や難波、心斎橋地区等で5位までは実に20%を超える下落率となっていた。

一方東京圏ではさすがに下落率20%とはいかないまでも、下落率トップであったクラブ街の銀座8丁目は12.8%と10%を超える下落率。これに台東区西浅草2、台東区浅草1、千代田区有楽町1、新宿区歌舞伎町2といずれも10%を超える下落率となっているが、上記のミナミ地区と共に観光地や飲食店などインバウンド需要が消滅してしまった部分が如実に表れた格好。

また同じ関東圏の住宅地もコロナ禍の影響で何所もマイナスとなるなかテレワークの普及で住環境のプライオリティ等から唯一上昇を見せたのが千葉、千葉といえば昨年もネット通販の好調を背景にした物流施設ニーズの高さを映し二桁の値上がりを見せた所もあったのを思い出すが、大手の本社移転や体験型施設等の引き合いもありコロナ禍でこの辺の勢力図も昨年からの塗り替りが継続されている。


成長市場

さて当欄でも何度か取り上げた植物肉だが、今月も大手などからのリリースが目立った。ザッと挙げてもおまめさんで有名なフジッコが「大豆ライス」を開発、いなり寿司やガパオなどに使用してネット通販で販売予定、またプリマハムも大豆を原料とした植物肉を今月から商品化し、ニップンも独自開発した「豆腐ミート」を使った冷凍ボロネーゼパスタを今月から発売している。

変り種ではマルサンアイも今月から豆乳を原料にしたスライスチーズのような「大豆スライス」の販売を開始しているが、これらに先駆け商品化されたモノも当然乍ら多く最近では大手スーパーなどでも本当によくこの手を目にするようになってきた。そのスーパー本体もイオンなど消費者の多様性に応える為に昨年からPBで植物肉市場への取り組みを拡大している。

この手の嗜好は以前でこそ宗教上の理由等が圧倒的であったものの、何れの商品も低糖質・高たんぱくという特性から近年では健康や美容の観点から需要の高まりが顕著だ。また近年のESGの考えが産業界でも広がりを見せ各社共に積極的な取り組みを見せるなか、世界的超低金利による運用難を背景にこうした環境負荷の低い代替食品需要から市場成長性に着目した機関投資家も食指を動かしてきており欧米の後追いが今後加速してくるかどうか注目である。