東京再評価

昨年の9月に当欄では森記念財団都市戦略研究所が発表している「都市特性評価」を取り上げたが、同じく森記念財団が2008年から毎年発表している都市の力を6つの分野からなる72の指標で総合的に評価したところの「世界の都市総合力ランキング」が本日の日経紙の全面広告に出ていた。今回は16年以来9年ぶりに上位5都市の変動があり、東京が3位から2位へとランクを上げている。

16年から9年間にわたって3位に甘んじていた東京だったが、文化・交流における外国人訪問者数、環境における企業のサステナビリティ評価等がスコアを押し上げたかっこうだ。円安の恩恵が大きいと思われるが、観光地も充実し飲食店の豊富さやナイトタイムエコノミーへの取り組みも奏功しインバウンド客増加が寄与し、冒頭の都市特性評価で4年連続1位だった大阪は万博効果が寄与し大きく躍進した。

ところで森記念財団といえば森ビルだが、上記のサステナビリティに絡んではこの時期開催されている同社が手掛けた麻布台ヒルズのクリスマスマーケットでは、廃棄予定だった昨年の各所ヒルズでクリスマスを彩った広告宣伝用バナーフラッグをバッグに再利用し販売している。資源循環の活動の一環という取り組みだが、大手企業も循環の輪を日常の暮らしの中に広げて行く活動が増加傾向にあり今後も各社の取り組みには注目しておきたい。


金利上昇でも逆行高

2026年度の与党税制改正大綱が決定したのと日を同じくして日銀は金融政策決定会合で政策金利を30年ぶりの高さとなる0.75%に引き上げると決めた。この利上げや現政権下で財政悪化が進むとの懸念から債券売りが加速しているが、昨日の長期金利は一時2.1%に上昇し1999年2月来、約27年ぶりの高水準を付けている。

そういった中で日経平均の強さが目立つが、順当にこういった金利上昇局面で本命なのはなんといってもその恩恵が直接及ぶメガバンクなど銀行株で三菱UFJは15日に上場来高値を更新、三井住友FGも連日で上場来高値を更新している。一方で分が悪いとされる有利子負債の多い不動産ポスト等も堅調を保っている。丸の内の大家こと三菱地所は上記の三菱UFJが上場来高値を更新した日に年初来高値を更新、住友不動産に至っては先週末に上場来高値を更新してきている。

支払利息の増加云々より保有資産価値向上や今後の賃料上昇が収益改善に寄与するとの見方が勝り、何より実物資産を保有するインフレ耐性が買われているか。こうなると何でも理由が付きそうだが、実質金利がマイナスに沈む状況が続き緩和的な金融環境が続くとの見方が株価の追い風になる一方で利上げペースは遅いとの観測でダラダラとした円安が続いている。市場によって利上げに対する反応が其々だが、既に日銀離れし一人歩きの様相を見せている長期金利の不気味さが増す。


税制大綱の金融彼是

先週末に2026年度の与党税制改正大綱が決定した。物価高対策や経済成長に向けた企業支援を意識した内容と謳われているが、ザッと我々に関係のあるところではNISAの「つみたて投資枠」を18歳未満も利用できるように広げる点や、暗号資産(仮想通貨)取引で得た所得については金額に関係なく現状の総合課税から分離課税で一律で20%と株式や投信と同等の扱いになる点などか。

この暗号資産もこれまで総合課税で最高税率55%だったことで、売却し難い点を付いてこれを売却することなく資金需要に対応するべく暗号資産担保ローンビジネスなど登場したものだったが、これが叶えばまたビジネスの景色も変わってくるか。この辺は富裕層において暗号資産投資の裾野が広がっているのが背景にあったが、富裕層といえば27年の寄付からふるさと納税も上限無しだった控除額に193万円の上限を設けるという。

一方で中所得層には国民民主党の悲願であった年収の壁の178万円引き上げが叶う見込みだが、試算してみると年収665万円とそこから1万円多い666万円とでは控除額急減の壁があり手取りが逆転してしまう歪な構造も指摘されている。またこの税制大綱では税収が集中する東京都がターゲットにもされているが、企業や人の集中という特異な構造上この辺は致し方ない部分もありまだ課題が残るか。

ただ28年にも分離課税開始が叶うかどうかという冒頭の暗号資産だが、諸外国をみれば既に金融資産としての地位が高まっておりその税制も米国が最大20%(1年以上の保有)、英国が20%、ドイツに至っては非課税(1年以上の保有)となっている。斯様に国際比較をしてみると金融課税扱いしていないのは先進国で日本くらいであったわけで、こうした部分においては国際標準に漸く一歩近づいた感もあるか。


廃止という選択

今週は米投資ファンドのカーライル・グループが医療用不織布首位のホギメディカルに対してTOBを実施し全株式を取得、同社は非公開化される見通しとの報道があった。これでプライム市場からまた一つプライム市場から銘柄が消えることになるが、3日連続ストップ高から本日も続急騰を演じている同じくプライム市場のメディカル・データ・ビジョンも週明けに書いたように日本生命が全株式を取得しこちらもプライム市場から消えることになる。

上記は他社や投資ファンドによる買収ということになるが、他に今年は当欄で先月も取り上げたところのスタンダード市場のアヲハタのように親会社のキューピーが完全子会社化するパターンや、はたまたプライム市場のプロトコーポレーションのように創業家によるMBOというパターンのようにさまざまだが、そういったことを背景に今年は東証上場廃止の企業は昨年より30社多い124社となる見通しと昨日の日経紙一面でも報じられている。

東証といえば市場区分再編から順次基準を設け経過措置を講じている最中だが、未達企業としては来年の秋口以降には各々の身の振り方が迫られることになろう。9月にも一度書いた通り他のポストでも要請期間内に達成しようとすれば所謂“ロールアップ”などの動きや、ファンドが絡んでファイナンスを駆使した時価総額拡大計画の動きなども予測されるがこれは冒頭のファンドとはまた異質のモノか。

いずれにしてこれで昨年に続き2年連続で上場廃止は過去最多となる見通しだが、一昔前は「上場廃止」と聞くと今年の夏にグロース市場から上場廃止になったオルツの粉飾のような不祥事やら業績不振から破綻し上場維持出来なくなるような“後ろ向き”な撤退というイメージのほうが強かったが、昨今は東証要請などもあり企業も投資家と共により“前向き”な退出イメージのほうが強くなっているあたり東証の目指す質の変化は着実に進んでいるといえようか。


3度目の上場

さてSBIのグループ入りした段階で3500億円あった公的資金を今年7月に完済し農林中央金庫との提携も発表した「SBI新生銀行」だが、本日はれて東証プライム市場へ上場となった。注目の初値は公開価格の1450円に対し9.4%上回る1586円となりあと1680円の高値まであった。引けは1623円でその時価総額は約1兆4500億円となり今年のIPOでは最大規模となった計算だ。

思えばこのSBI新生銀行、かつての新生銀行時代にSBIホールディングスと繰り広げた熾烈なTOB劇が記憶に新しい。初の銀行を対象とした“敵対的TOB”として注目されたが、当時の新生銀行はこれに猛反対しSBIホールディングス以外の株主が無償で株式割り当てを受けられる新株予約権を発行する“ポイズンピル”などの買収防衛策を発表するも、分の悪さから後にこれが取り下げられ臨時株主総会も中止されあっけない幕切れでTOBが成立した。

いずれにせよ90年代に国有化されて以降も紆余曲折あったこの銀行も、東証への上場は長銀時代からこれで3度目となる。おりしもマイナス金利から脱し金利のある世界に突入した環境下での再上場はその舵取りもとりわけ注目されることになろう。ところで今年のIPOは数としては全体的に減少傾向だが、今回のSBI新生銀行、それに今年はJX金属やテクセンドフォトマスク等々の大型案件が調達の総額押し上げに寄与している。小粒量産時代から景色が変わってゆくのか今後この辺も見ておこう。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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