今年の日本伝統工芸展
さて、東京では今週初めに終了となったが毎年恒例の「日本伝統工芸展」を過日観てきた。今年で58回目になるこの展も、毎回作者が得意の技巧で少しずつ変化を持たせながらもシリーズで出してくるからお気に入りが居る向きには次の作品が待ち遠しいというものだ。
さて今回の展では個人的に惹かれたのが、漆芸の世界で有名な鳥毛清氏の沈金飾箱「緑風」。氏といえば確か知人にある絵本を見せてもらった際にその原画が氏の沈金作品だった覚えがあるが、これら全て動物のモチーフだっただけに今回の作品で「イトトンボ」が描かれ静謐な和の空間が展開されていたのは新鮮であった。特徴的であったのは通常は沈金加工するのが文様の部分なのをこれは背景部分に沈金を施すという反転というか逆転のデザインに仕上げておりこれが実に溜息が出るほど美しい。
象嵌なども逸品揃いであったが、この他にも原清氏の鉄釉草花文扇壺は上記の「緑風」と併せてエミール・ガレの世界を彷彿させ、また薮内江美氏の乾漆蒟醤箱「樹雨」はこれまたドーム兄弟の木立文を連想させるが、おそらくは西洋の彼らもこうしたジャポニズムへの熱い情景で幾多もの後世に残る名作を手掛けたに違いない。
昨年見た柴田是真の漆の数々も感動的であったが、今やこの蒔絵など世界に君臨するトップブランドが挙って取り入れ始めており、急速にライフスタイルが変化する中でもこうした世界に誇れる技術が絶えることなく伝承され続けているのは本当に素晴らしいことである。