自社株とモチベーション

昨日の日経紙一面には政府が2025年にも企業が自社株を使って海外企業を買収できるよう会社法を改正する旨が出ていたが、自社株といえば先週末の日経紙一面にも「自社株、社員に無償譲渡」と題しこれまで役員に限っていた自社株式の無償譲渡の対象を社員にまで拡大する方針とした旨の記事があった。

株式報酬といえばストックオプションが頭に浮かぶが、この度念頭においているのはRSとよばれる譲渡制限付き株式で一定期間後に売却出来るタイプ。この手の動きではANAHDも先に社員持ち株会向けに譲渡制限付き株式を取得する為の特別奨励金支給を発表しているが、現行制度において社員の金銭的負担が実質的に生じないようにするためのもの。

こうした上場企業以外でも未上場の中小企業で、社員に仮想株式を付与して利益を還元するという新たな取り組みも出てきている。仮想株式の株価は業績と連動しており、実際に受け取れる株式数は役職に応じて変化するもの。この仮想株式も現金化出来る時期は付与から数年後に設定されていて現金化する前に退職するとこの株式は消滅してしまう仕組みだ。

いずれも譲渡制限が付くことで社員の離職を防止する効果も得られ当の社員も株主となるために経営や業績を向上する意識を高めやすくなり、また上場企業側も金庫株として保有が増える自社株活用と双方でメリットがある。雇用の流動化が進むにつれて退職者も増加傾向にあるなか、人材確保策として今後もこうした新たな動きが顕著になってくるか。


外圧の利用

本日の日経紙ビジネス面には、セブン&アイ・ホールディングスの株主総会が昨年のアクティビストによる取締役選任の株主提案が出されたものから、今年は一転して「無風」だった旨の記事を見掛けた。ところでアクティビストといえば今週アマタの同紙でも「日本株、外圧が起爆剤」と題し、来月の株主総会を前にして所謂アクティビストが保有している企業の株価が動意づく場面も出ている旨の記事があった。

しかしかつてのアクティビストといえば増配要求一辺倒もしくは強引なTOB仕掛けというパターンが主流?であったが、文中にも出て来た00年代にサッポロHDを標的にしたアクティビストは、リーマンショック前に裁判沙汰に発展したブルドックソース事件において濫用的買収者の烙印を押されあからさまなこの手のハゲタカ勢は総会屋と共に姿を消していった感が強い。

この時と前後してこの手のアクティビストが保有している株は精彩を欠き上昇どころか逆に下落傾向になるなど提灯勢の関心も引いていったものだが、近年カタリストとして東証の要請や政府の指針も後押しになり、アクティビストそのものの変貌と共に異端扱いで無くなり冒頭の通りアクティビスト保有判明株が再度脚光を浴びる世界に回帰してきた。

斯様に此度の東証要請はこれまで目の上のたん瘤扱いだったアクティビストの存在意義を大きく変えることとなったが、この辺は相手のあり比較的ナーバスな案件だった政策保有株問題に関してもまた話を持ち掛け易くなった点で大きく意味のあるものだっただろう。企業側も或る意味緊張感と引き換えに無料でもらえるアイデアをうまく構造改革に生かしはじめているが、今後もこれから出てくるであろう個別提案に注目したい。


Good Sleep

昨日の日経MJ紙では「睡眠ビズ革新へ目覚め」と題し、創業458年の老舗、西川の戦略などについて書かれた記事を見掛けたが、今月は三越銀座でも先週アタマまで「GOOD SLEEP FAIR」が開催され、体形等を計測し個別にマットレス等の寝具を提案するなどのイベントが行われるなど近年は睡眠をテーマにした催事を多く目にするようになった。

思えば2年くらい前だったか、睡眠の質が向上するとかのフレコミで「ヤクルト1000」がコンビニから駅の自販機に至るまで軒並みその姿を消すような現象が起きたあたりから睡眠関連のマーケットへの注目が高まったような気もする。ちなみに昨年2023年度の国内睡眠関連市場は前年比で4%増の1608億円にのぼる見込みという。

もともと日本人の平均睡眠時間はOECD30か国中の中でも最短と言われているが、睡眠不足などこの関連による経済損失は18兆円にものぼるとの試算も一部ある。社会保障費の増大や生産性の低さを問題に抱える日本の課題の一つにもなっていると指摘する向きもあるだけに、よりよい睡眠環境を求める需要を掘り起こす動きが今後もますます出てくるか。


安売りセット拡大

先週末の日経紙夕刊マーケット面では、マクドナルドの5ドルのセットメニュー導入に端を発しその後にウェンディーズやバーガーキングがこれに続くなどハンバーガーチェーンによる安売り競争が激化している旨が出ていた。ちなみにこの5ドルセット誕生の背景になったのが、米の一部店舗でマックのセットが18ドルで販売されていたことが話題になり顧客からの価格の高さに対する不満が出ていた事などいわれている。

マックで18ドル(約2800円)のセットなどちょっとピンとこないが、安売りでも780円かと一瞬思ってしまうほど我が国の購買力は沈んでしまったと実感するが、それはともかく、米消費者物価指数の全項目は2019年末から今年3月にかけ22%上昇したが、マックのようなファストフード等の限定サービス項目は31%増と、フルサービスの食事の25%増を上回る高い上昇率となっている。

マックで18ドルのセットが出るくらいだからフルサービスのレストランメニューがこれより安くなる逆転現象というケースも出始めていると思われるが、こうなると先週月曜日に当欄で、小売店中心に消費者が従来より低価格の商品を購入しようとする「トレードダウン」の動きが外食にも押し寄せてくる可能性もあり、米経済の先行きを占う意味でも今後もこれら含め個人消費の動向には注視しておきたい。


日本文化を海外に

さて、先週末は渋谷の宮下パークにて日本酒の飲み比べが楽しめる「SAKE PARK」が開催されていた。3回目となる今回は30の酒蔵や醸造所が出店したが、この中には年初に被災した能登の酒も初披露されていた。各地の日本酒はそれぞれの風土が育んだ味であり文化でもあるが、残念なのは販売量がここ50年で約75%も減少しているなど国内消費が振るわないという点か。

一方で昨今の近年の日本料理や日本文化の人気が海外で高まっているのと相まって、日本酒人気も世界各国で高まっている。こうしたブームに伴って日本酒の輸出額は米中を中心に2022年度まで13年連続で過去最高を更新している。上記の通り日本酒の国内消費の伸びが期待出来ないなか、成長を海外に求めてゆく必要にあってはこのタイミングをしっかり活かしたいところだ。

そういったところでは先に開催された食の最新トレンドを一堂に会した「FOODEX JAPAN 2024」でお披露目された世界初という日本酒専用の急速冷凍機などキーとなるか。生酒は冷蔵庫保存でも1日や1週間で味が変化してしまうが、これは日本酒をたった15分で急速冷凍させ解凍するまでその味が保たれるというもの。通常の冷凍方法では水分とアルコール分が分離して品質が悪化してしまうが、この最短技術によって搾りたての味の維持が可能になったという。

こうした技術により海外等にまで美味しい酒が流通出来る道筋が見えて来たわけだが、今後の成長は新たな市場の開拓に懸かっている。日本の場合、も高度経済成長期にワインなどが普及のきっかけとなったが、経済成長によって富裕層のボリュームが増えるところなどは消費量増加を睨んでねらい目か。この日本酒や日本料理など文化を通じた啓蒙が海外とのよい懸け橋となることを期待したいもの。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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