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新NISAと旧回転売買

本日の日経紙金融経済面には「乗り換え勧誘悪用恐れ」と題し、来年から始まる新NISAに絡んで投信の販売業者等が手数料目当ての回転売買に悪用するのではとの懸念が浮上している旨が出ていた。現行制度では買った商品を売っても非課税の生涯枠は減ったままだが、これが新制度では売ると翌年に生涯枠が復活するのが特徴でこの構造が悪用されるのではというもの。

当欄でこの手の投信回転売買について書いた頁を調べてみたら、2010年の8月に証券取引等監視委員会が投信乗り換えを頻繁に勧める事例が増えているとして証券会社による投信の販売状況について立ち入り検査を通じ重点的に点検する旨を取り上げていたが、13年を経てもなおこうした問題行為の懸念が消えていないということか。

「貯蓄から投資」が喧伝されこの新NISAもその非課税枠が現行制度から数倍へと拡充されたうえに非課税機関の縛りも無くなるなどまことに都合良く器は改善されてはいるものの、先の仕組み債のようにこうした流れが削がれるような金融商品の問題はマズイという事で早めに芽を摘んでおきたい金融庁の姿勢を感じる。規制緩和の弊害で麻痺した販売側の意識改革は言わずもがなだが、それと共に受益者側の金融リテラシー向上も喫緊の課題か。


背伸びより身の丈

東証の市場再編からはや1年以上が経過したが、基準未達のまま最上位のプライム市場に残っていた269社の企業の中から、今年4月から6か月間限定で無審査にてスタンダード市場への移行を認める特例措置の期限を前にしてこれを使って同市場に移る意向を示した向きが48社に達した旨が先週の日経紙一面を飾っていた。

これらの面子をザッと見てみると東証に提出した計画に則し改善努力の末に何とかなるのではという企業もあれば、単に時間稼ぎにしか見えないような一寸難しい企業もありというところだ。いずれにせよ申請期限が切れるまでにはこれよりも更に倍増する見通しというが、いざ監理銘柄扱いにでもなろうものなら株価下落等でそれこそ時価総額基準達成が遠くなるリスクも孕むだけに背に腹は代えられないといったところか。

しかし当初でこそ経過措置も期限が明確化されず曖昧な救済措置と揶揄されたものだったが、期限を決めPBR改善要請と併せ名ばかりという汚名を返上し着実に絞り込みが始まった感がある。また今回の断念組も上記の通りそれなりに自社株買いや増配の実施に努めるなど曲がりなりにも具現化の動きがあった事はこれまでとは違った景色に映る。

こうしてみるとプライム市場の上場維持基準を十分満たしながら最初からあえてスタンダード市場を選んだ企業、取り敢えず未達でも猶予期間はプライム市場のブランドに噛り付いておこうという企業等々、この市場再編はこれまで見えにくかった個々の企業キャラが可視化されて面白い。この辺は総じて株価にも色濃く表れており今後も市場の目がより一層そうした部分に向かう事になるのは想像に難くないか。


JPX150算出開始

JPX(日本取引所グループ)は先週から「JPXプライム150指数」の算出を開始している。この構成銘柄は東証プライム市場に上場する企業からROE(自己資本利益率)から資本コストを引いたエクイティスプレッドの上位75社を選び、これを除いた企業の中から当期PBR及び当期と1期前のPBR平均値が共に1倍を超える時価総額上位75社を選出したもの。

ザッとその面子を見てみると組み入れ比率上位にはソニーGはじめ先に大幅分割を実施したNTT、キーエンス等のほか日経平均には採用されていないニトリHDやZOZOなどが並んだが、一方で時間総額日本一のトヨタ自動車はじめパナソニック、ホンダやソフトバンクなどの日経平均高寄与度銘柄は除外されるなど忖度?しない作りに仕上がっている。

とはいえ選りすぐられた優等生勢のパフォーマンスに他指数をアウトパフォームする伸びしろが期待出来るのか?個人的にはPBRが0.6倍台から様々な株主還元を打ち出しPBR1倍に向ける過程で大化けした大日本印刷のような銘柄に大いなる魅力を感じたものだったが、JPX400の憶えもあるだけにこの辺は今後も注視してゆきたい。

しかしこれだけ篩にかけると銘柄もそれなりに絞り込まれるというワケだが、米のS&P500など絞ろうが無造作に切り取ろうがこのJPX150の条件を満たしているあたりが根本的に違う。JPXのCEOは記者会見で「構成銘柄に選ばれたいという指数にしてゆきたい」と述べていたが、いずれにせよエクイティスプレッドは企業価値創造の源泉でありこの新指数登場で幅広い企業がこの指標を意識してゆくようになるかどうかが鍵になるか。


株主総会2023

国内の3月期決算企業の株主総会は先週に集中日を迎えたが、先に挙げたアクティビスト絡みの企業に続き注目されていた東芝株主総会では会社側提案の取締役が可決され投資ファンドによるTOBの受け入れ決定が一定の理解を得られた形となった。今後TOBが順調に進行するかどうか注目されるが、TOB絡みではもう一つ、TOBを目指す株主提案が一部可決されたマリコン大手の東洋建設の株主総会もなかなか注目度が高いものであった。

同社の大株主となり1株1000円でのTOBを提案していたのが任天堂創業家の資産管理会社YFOであったが、これが1年以上を経て決裂した結果この度の取締役候補を掲げた経営陣の刷新であった。これを迎え撃つ形で会社側も現在の経営陣を軸とした取締役候補を提案していたが、はたして接戦の末に選ばれた取締役候補のうち過半数をYFOが占め実質的な勝利を勝ち取ることとなった。

今後同社は新たな経営陣によってTOBを検討してゆく事になろうが、先週取り上げた日本証券金融もアクティビストファンドの提案こそ否決されたものの、同ファンドが日銀の天下りと批判をしていた社長人事に関して次期社長については同社上場以来続いてきた日銀などの公的部門出身からは選ばない方針を明らかにしている。まだ提案の否決が大勢のなかにあっても株主主導の経営改革が少しずつ具現化してきている胎動を感じた今年の総会であった。


捻れの賛否

今週は株主総会がピークを迎えるが、先週もいくつか注目された株主総会が執り行われた。21日は香港のオアシスマネジメントと創業家の対立が続くフジテックの株主総会があったが、前会長側が株主提案した社外取締役の推薦が否決された。またこの翌日22日には先週の当欄でも取り上げた日本証券金融の株主総会があったが、ストラテジックキャピタル側の提案はいずれも否決されている。

そしてこれと同じ22日に執り行われたコスモエネルギーHDの株主総会ではシティインデックスイレブンズの買い増しに備えた買収防衛策発動の是非を諮る議案が可決している。ココが注目されたのがその採決手法で、大株主であるシティ側を除外して採決をとる方式であるMOM(マジョリティーオブマイノリティー)という特別な手法を今回用いた点である。

これと同じパターンで記憶にあるのが東証スタンダード上場の東京機械が一昨年の買収防衛策導入時に実施した時の光景か。この時も最高裁まで争った結果認められたものだったが、今回も同様にシティ側が訴えた資本主義にあるまじき株主平等の原則に反するとの意見もあながち間違いではなく一般株主の利益保護をどこまで盾に出来るのかどうか賛否両論あろう。

今回の買収防衛策を巡っては米議決権行使会社のグラスルイスやISSも反対推奨しており、総会後に提出された臨時報告書によればMOMを用いなければ否決されていた賛成率であった事も判明している。経産省が取りまとめ中のM&Aに関する新たな指針の案ではこのMOMによる買収防衛策の発動は非常に限定的で例外的な場合に限られるとしているが、今後の日本の上場企業のコーポレートガバナンスを占う上でもこれらの事例は試金石となろうか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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