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業界再編第二弾

さて、先週の東証プライム市場での値上がりランキングトップとなり目を惹いたのはスーパーのいなげやであった。比例配分でのストップ高を交え一時は2,000円の大台変りを示現する急騰を演じたが、これは周知の通りイオンが同社を連結子会社化するとの発表から子会社化に向けイオンによるTOB実施も想定されTOBプレミアムへの期待が先行する格好になったことが背景にある。

しかしいなげや株の急騰を見るに思い出されるのはかつてバブル期に秀和が流通再編を唱え仕手戦さながらにいなげや株を20%超まで買い進んだ事件か。あの時はいなげやと共に忠実屋の買い占めも行われていたが、両社は相互の株式発行で抵抗し不動産融資総量規制も直撃し結局はこの仕手戦?に提灯を付けた一部投機家だけが儲かり同社が描いた再編劇の青写真は未達に終わった経緯がある。

結局この時の株がイオンに流れたワケだが、このイオンによるスーパー再編の動きは今から10年近く前にもあり当時も当事者のマルエツやカスミの株式が物色され急動意となったものだった。今や株式市場から両社の名前は消えたが、上記の秀和事件で助け舟を出して収拾したダイエーも今やイオン傘下に収まり市場からはその名前は消えている。

コロナ禍を経て巣ごもり需要の反動や物価高騰による買い控えを背景に足元厳しく、来るデジタルシフト化も睨み効率化待ったなしの業界再編第2弾といったところだが、上記と並行し買い占めの憂き目に遭った百貨店もその後再編が進んだ。いなげやも経営統合となれば市場からその名前が消えるはこびとなるが、そうなるとこれまでの再編劇において市場で戦った面子はイオン以外全て株式市場から名が消えるなんとも諸行無常な感だが今後も流通業界の合従連衡の波は続くか。


金庫株消却

本日の日経紙投資情報面には「自社株消却、過去最多に」と題し昨年度の自社株消却件数が前年比で18%増加し302件と2年連続で過去最多となった旨が出ていた。自社株買いで積み上がった株式を消却する事で株主資本は減額されROE(自己資本利益率)が上向く事となり、市場への再放出懸念も払拭され株価の底上げが狙える事などが背景にある。

予てより東証が低PBR企業などに対し資本効率の改善を求めるなか企業側も1株利益等を高めるべく余剰資金などで自社買いを加速させており、東証が今月に発表した投資部門別売買動向では昨年の事業法人の買越額は5.5兆円と前年度から約2倍に増加し1983年度以降で過去最高を更新している。

新しいところでは先々週にホームセンターのDCMホールディングスが総額50億円の自社株買いと発行済み株式総数の4.78%に相当する750万株の消却を発表しており、先月には双日が過去最大の300億円上限の自社株買いと同社としては初めてとなる約1500万株の自己株式の消却を発表している。

これらいずれもPBRは本日段階でDCMが0.82倍、双日は0.78倍と1倍割れだが、株価の方は水準訂正し今月に入って共に年初来高値を更新してきている。昨年の市場再編で上場維持基準として流通株式比率が導入されこの達成を狙った自社株消却の動きも見られるが、上記の通り株価も含め株主還元としては良いネタになるだけに今後も各社の動きが注目される。


楽天銀行上場

先週末に楽天銀行が東証プライム市場に新規上場となった。同日の日経紙にも上場を謳う全面広告があったが、注目の初値は前場に公開価格の1400円を約33%上回る1856円で初値形成しその後も堅調に推移し1930円で引けた。同行のIPOは今年最大の案件とも言われたが、本日も一時2000円の大台超えでセカンダリーでも一寸した回転が効いた堅調相場が続いている。

ところでこの案件、東証から先月に上場承認を受けた当初には想定仮条件の上限が1960円であったが、今月上旬には株式市場の市場環境を踏まえて仮条件を想定より約3割安い1300~1400円に引き下げその後公開価格が1株1400円に決まった経緯がある。これで楽天Gの売却額は当初想定の最大額より約300億円減ったことになる。

今回の値決めには背景に米銀の破綻や欧州銀の経営危機などの金融不安があったワケだが、今月はみずほ証券が公正取引委員会よりIPOの公開価格設定プロセスにおいて企業側が主張した価格を下回る想定発行価格や仮条件を設定し受け入れるよう要請するなど、独禁法違反につながる恐れのある行為があったと注意をしたとの発表が為されている。

予てより個人寄りの売買主体の相違や、ロードショーの形骸化など構造的な問題で初値平均は欧米の1.1~1.2倍と比べるに日本では約1.5倍と乖離しているのは否めないところ。こうした点を重く見て公取も今回初の注意に動いたとみられるが、今後もプロ投資家の呼び込みなど含め公開に臨む企業が適切に資金を調達出来る環境整備が課題となろうか。


割安?日本

さて、先週は米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が来日し、日本株への追加投資をする意向を明らかにした件が話題になっていた。バフェット氏の来日はこれで2回目となるが、19年から発行している円建て社債を今回も1644億円の発行を表明したことで日本株への一段の投資拡大も期待され、既に投資が知られているところの商社株中心に物色の矛先が向かうところとなった。

確かにバフェット氏の目から見れば世界の主要株価指数の中でも実績ROEは10%にも満たず、実績PBRも1倍そこそこ、世界株との益回りの乖離をみても割安感漂う日本株は魅力的に映ったのだろう。年利1%そこそこで発行出来るであろう円建て債で為替リスク無くこれを上回る魅力的な配当を享受出来るワケだからなるほどという感もある。

とはいえこの円建て債の調達には発行済み社債の借り換え(償還)に充てる金額も含まれるということで実際に日本株に充てる金額は1000億円一寸になる計算だが、それでも冒頭の通り株式市場では5大商社株が前回の憶えもあって一斉高に、中でも伊藤忠商事は昨年の上場来高値を約5か月ぶりに更新し、丸紅も先月に付けた上場来高値を更新してきた。

それもそのはず、前回に商社へ投資表明した際に殺到した提灯買いは三菱商事など既に大化けしており大ヒットとなった。今回もこれらへの保有比率を揃って高めたとの報でこれに対する提灯買いから先週は商社ポストが沸いたが、前回の商社株への投資表明報道の時から大幅に値位置が上がった今回もここで提灯を付けた二匹目の泥鰌狙いの向きがはたして報われるか否か見ものである。


ウルフパック戦術

一昨日の日経紙法税務面には「不意打ち買収に規制の隙」と題し、複数の投資家がひそかに協調して企業の株式を買い集め、時期をみて一気に経営権奪取を図るいわゆるウルフパック戦術なる動きが日本でも注目されている旨の記事があった。これと似た名のレストランが思わず頭に浮かんでしまうが、現在の大量保有報告制度などの制度の緩さが背景にあるとの指摘があるようだ。

買収防衛策として新株予約券の無償割当が盛り込まれこれが発動されるケースがあるが、このウルフパック戦術を使えば上記発動のケースでも一般株主を装って新株予約権を行使して株式が交付され、この経営権奪取を試みるグループ全体としては議決権の希釈化リスクを回避する事が可能になる構図だ。

会社側もこうした工作を暴くべく躍起になって証拠を押さえる作業に奔走するワケだが、日経紙に事例としてナガホリと共に挙げられていた東証スタンダードに上場するプラスチック成型の三ツ星のケースでは、新株予約権無償割当の対象外となる非適格者が広範に及んでいた事などが問題視され会社側の買収防衛策は裁判所から差し止めされた経緯がある。

斯様に株主間の協調行為を第三者が立証するのは難しさを極めるだけに、金商法の改正を視野に入れ大量保有報告制度含めたルールの見直しなども喫緊の課題となってくるが、これまでに狙われた企業などをみるに低PBRの中堅上場企業がターゲットにされているケースが多く企業側もこれらの指標向上を図るべく経営意識を変えるのに努めるべきだろう。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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