9ページ目   株式

有報に見られる本気度

本日の日経紙投資情報面には「PBRが課題 最多44社」と題し、有報に示す経営課題の項目にPBRに関して記載する企業が2023年3月期決算の上場企業で44社と前期比で42社増え過去5年で最も多かった旨の記事が出ていた。この辺はひとえに東証による低PBR改善の要請を背景にして企業側が資本効率の向上等を目指す姿勢を明確にし始めた表れか。

業種別では平均PBRがそれぞれ約0.6倍、約0.7倍の「鉄鋼・非鉄」で記述する企業が業種全体の15%を占め最も多かった模様だが、昨日のM&Aの話で取り上げたTAKISAWAなど工作機械メーカーもPBR1倍を大幅に割り込んでいる銘柄が目立つ業種だ。他に万年低PBR業種といえば銀行業もあるが、この辺は構造的な違いから他と同じ括りには無理があるか。

とはいえ斯様な企業の本気度?からPBR1倍割れ銘柄は着実に減少傾向にあり、今年の期末で1121社あったそれは今月の上旬には1070社まで減少してきている。自助努力の自社株買い等では低PBR企業ほどバリュエーションが切り上がり是正が顕著であり、冒頭の通り資本効率の向上で水準訂正に動いた場合は指数に対する寄与度も大きくなるだけに今後も引き続き低PBR各社の動きに期待したい。


M&Aの矛先

本日の日経紙マーケット面には「市場同意得た予告TOB」と題しTOBを予告する手法がここ数年で増加しつつあるなか、東証スタンダード市場に上場している工作機械のTAKISAWAに対して同社と合意しないまま市場の同意を得るという新たな戦法で買収提案をした東証プライム上場のニデックが取り上げられていた。

ニデックといえば旧日本電産時代から国内外で上場企業を含む60件以上の企業買収を成功させてきたM&A巧者では有名な企業であったが、2008年には東証スタンダード市場に上場している東洋電機製造へのTOBは同意が得られず断念した経緯がある。TAKISAWAも同様に資本業務提携を提案し昨年断られた経緯があるが、今回は同意を得られずともTOBを開始する意向だ。

ところでM&Aといえばこのケースのように日本企業同士のM&A、所謂イン・イン型が増加してきており、今年上半期の買収額は6兆8000億円と前年同期比で8割も増えている旨がちょうど1週間前の日経紙に出ていた。1兆円を超えるところでは日本産業パートナーズによる東芝、産業革新投資機構によるJSR、また名の知れたところでDHC、SBI新生銀行など数多。

総じて長引く円安によりイン・アウト型のハードルが上がってきている面もあるが、東証のPBR是正要求もこうした国内型増加に一役買っている部分もあるだろうか。冒頭のTAKISAWAは来月にも賛否の意見表明を行うとしているが、いずれにしても今回の件が試金石となり他の買収対象となり得る企業の経営戦略にも影響を及ぼす事になりそうだ。


新NISAと旧回転売買

本日の日経紙金融経済面には「乗り換え勧誘悪用恐れ」と題し、来年から始まる新NISAに絡んで投信の販売業者等が手数料目当ての回転売買に悪用するのではとの懸念が浮上している旨が出ていた。現行制度では買った商品を売っても非課税の生涯枠は減ったままだが、これが新制度では売ると翌年に生涯枠が復活するのが特徴でこの構造が悪用されるのではというもの。

当欄でこの手の投信回転売買について書いた頁を調べてみたら、2010年の8月に証券取引等監視委員会が投信乗り換えを頻繁に勧める事例が増えているとして証券会社による投信の販売状況について立ち入り検査を通じ重点的に点検する旨を取り上げていたが、13年を経てもなおこうした問題行為の懸念が消えていないということか。

「貯蓄から投資」が喧伝されこの新NISAもその非課税枠が現行制度から数倍へと拡充されたうえに非課税機関の縛りも無くなるなどまことに都合良く器は改善されてはいるものの、先の仕組み債のようにこうした流れが削がれるような金融商品の問題はマズイという事で早めに芽を摘んでおきたい金融庁の姿勢を感じる。規制緩和の弊害で麻痺した販売側の意識改革は言わずもがなだが、それと共に受益者側の金融リテラシー向上も喫緊の課題か。


背伸びより身の丈

東証の市場再編からはや1年以上が経過したが、基準未達のまま最上位のプライム市場に残っていた269社の企業の中から、今年4月から6か月間限定で無審査にてスタンダード市場への移行を認める特例措置の期限を前にしてこれを使って同市場に移る意向を示した向きが48社に達した旨が先週の日経紙一面を飾っていた。

これらの面子をザッと見てみると東証に提出した計画に則し改善努力の末に何とかなるのではという企業もあれば、単に時間稼ぎにしか見えないような一寸難しい企業もありというところだ。いずれにせよ申請期限が切れるまでにはこれよりも更に倍増する見通しというが、いざ監理銘柄扱いにでもなろうものなら株価下落等でそれこそ時価総額基準達成が遠くなるリスクも孕むだけに背に腹は代えられないといったところか。

しかし当初でこそ経過措置も期限が明確化されず曖昧な救済措置と揶揄されたものだったが、期限を決めPBR改善要請と併せ名ばかりという汚名を返上し着実に絞り込みが始まった感がある。また今回の断念組も上記の通りそれなりに自社株買いや増配の実施に努めるなど曲がりなりにも具現化の動きがあった事はこれまでとは違った景色に映る。

こうしてみるとプライム市場の上場維持基準を十分満たしながら最初からあえてスタンダード市場を選んだ企業、取り敢えず未達でも猶予期間はプライム市場のブランドに噛り付いておこうという企業等々、この市場再編はこれまで見えにくかった個々の企業キャラが可視化されて面白い。この辺は総じて株価にも色濃く表れており今後も市場の目がより一層そうした部分に向かう事になるのは想像に難くないか。


JPX150算出開始

JPX(日本取引所グループ)は先週から「JPXプライム150指数」の算出を開始している。この構成銘柄は東証プライム市場に上場する企業からROE(自己資本利益率)から資本コストを引いたエクイティスプレッドの上位75社を選び、これを除いた企業の中から当期PBR及び当期と1期前のPBR平均値が共に1倍を超える時価総額上位75社を選出したもの。

ザッとその面子を見てみると組み入れ比率上位にはソニーGはじめ先に大幅分割を実施したNTT、キーエンス等のほか日経平均には採用されていないニトリHDやZOZOなどが並んだが、一方で時間総額日本一のトヨタ自動車はじめパナソニック、ホンダやソフトバンクなどの日経平均高寄与度銘柄は除外されるなど忖度?しない作りに仕上がっている。

とはいえ選りすぐられた優等生勢のパフォーマンスに他指数をアウトパフォームする伸びしろが期待出来るのか?個人的にはPBRが0.6倍台から様々な株主還元を打ち出しPBR1倍に向ける過程で大化けした大日本印刷のような銘柄に大いなる魅力を感じたものだったが、JPX400の憶えもあるだけにこの辺は今後も注視してゆきたい。

しかしこれだけ篩にかけると銘柄もそれなりに絞り込まれるというワケだが、米のS&P500など絞ろうが無造作に切り取ろうがこのJPX150の条件を満たしているあたりが根本的に違う。JPXのCEOは記者会見で「構成銘柄に選ばれたいという指数にしてゆきたい」と述べていたが、いずれにせよエクイティスプレッドは企業価値創造の源泉でありこの新指数登場で幅広い企業がこの指標を意識してゆくようになるかどうかが鍵になるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

カテゴリー

アーカイブ

2024

4

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30