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株主総会2023

国内の3月期決算企業の株主総会は先週に集中日を迎えたが、先に挙げたアクティビスト絡みの企業に続き注目されていた東芝株主総会では会社側提案の取締役が可決され投資ファンドによるTOBの受け入れ決定が一定の理解を得られた形となった。今後TOBが順調に進行するかどうか注目されるが、TOB絡みではもう一つ、TOBを目指す株主提案が一部可決されたマリコン大手の東洋建設の株主総会もなかなか注目度が高いものであった。

同社の大株主となり1株1000円でのTOBを提案していたのが任天堂創業家の資産管理会社YFOであったが、これが1年以上を経て決裂した結果この度の取締役候補を掲げた経営陣の刷新であった。これを迎え撃つ形で会社側も現在の経営陣を軸とした取締役候補を提案していたが、はたして接戦の末に選ばれた取締役候補のうち過半数をYFOが占め実質的な勝利を勝ち取ることとなった。

今後同社は新たな経営陣によってTOBを検討してゆく事になろうが、先週取り上げた日本証券金融もアクティビストファンドの提案こそ否決されたものの、同ファンドが日銀の天下りと批判をしていた社長人事に関して次期社長については同社上場以来続いてきた日銀などの公的部門出身からは選ばない方針を明らかにしている。まだ提案の否決が大勢のなかにあっても株主主導の経営改革が少しずつ具現化してきている胎動を感じた今年の総会であった。


捻れの賛否

今週は株主総会がピークを迎えるが、先週もいくつか注目された株主総会が執り行われた。21日は香港のオアシスマネジメントと創業家の対立が続くフジテックの株主総会があったが、前会長側が株主提案した社外取締役の推薦が否決された。またこの翌日22日には先週の当欄でも取り上げた日本証券金融の株主総会があったが、ストラテジックキャピタル側の提案はいずれも否決されている。

そしてこれと同じ22日に執り行われたコスモエネルギーHDの株主総会ではシティインデックスイレブンズの買い増しに備えた買収防衛策発動の是非を諮る議案が可決している。ココが注目されたのがその採決手法で、大株主であるシティ側を除外して採決をとる方式であるMOM(マジョリティーオブマイノリティー)という特別な手法を今回用いた点である。

これと同じパターンで記憶にあるのが東証スタンダード上場の東京機械が一昨年の買収防衛策導入時に実施した時の光景か。この時も最高裁まで争った結果認められたものだったが、今回も同様にシティ側が訴えた資本主義にあるまじき株主平等の原則に反するとの意見もあながち間違いではなく一般株主の利益保護をどこまで盾に出来るのかどうか賛否両論あろう。

今回の買収防衛策を巡っては米議決権行使会社のグラスルイスやISSも反対推奨しており、総会後に提出された臨時報告書によればMOMを用いなければ否決されていた賛成率であった事も判明している。経産省が取りまとめ中のM&Aに関する新たな指針の案ではこのMOMによる買収防衛策の発動は非常に限定的で例外的な場合に限られるとしているが、今後の日本の上場企業のコーポレートガバナンスを占う上でもこれらの事例は試金石となろうか。


株主優待廃止と創設

先日JTより株主優待品が届いた。同社にはこれまで長年にわたりレトルトカレーやカップ麺、魚沼産コシヒカリ等の自社商品を送っていただいていたが、残念なことに今回が最後の優待となる。これに伴い年末には優待事務局も閉局となるが、既に昨年にプレスリリースの通り株主への公平な利益還元の在り方という観点から廃止の決定に至った模様だ。

まあ確かに大株主級の法人などからすれば小口の株主に優待品を配るのは不平等だということになるワケだが、此処に限らずオリックス等も人気だった(ふるさと納税)ならぬ(ふるさと優待)を廃止するなどプライムの大手どころの廃止が近年目立つ。とはいえこのJT然りオリックス然り両社共に優待廃止と同時に増配を発表している。

当欄では昨年秋頃に「還元の在り方」と題し、「今後は企業側も還元の軸足が配当や自社株買いに移ってゆく動きが顕著化するかどうかこの辺の動向は注目しておきたい。」と書いていたが、4月以降に本決算を発表したプライム市場の企業で増配した企業は5割近くにのぼり、日経紙集計でも予想配当額は過去最大更新の見込みで、自社株買い計画の公表も過去最高に迫るペースという。

一方でグロース市場などの新興勢の中には株主優待を創設、または復活させる向きが目立つ。しかしこちらもまた東証絡みで再編により上場基準も厳しくなったことで何処も株価が欲しいところだが、機関投資家の資金が入ってくるのが限定的な中小型株では個人投資家の存在が大きくIRも重要になって来るというもの。再編を打ち出した当初は代わり映えのない市場と散々揶揄されたものだが、その景色が今まさに変わりつつある。


10年前と異なる株高

週明けの日経平均は先物への売りから反落して引けたが、それでも週末まで開いた日銀金融政策決定会合にて大規模緩和継続が決定した事を好感し序盤に年初来高値をまたも更新と騰勢は衰えない。昨年末から振り返ってみると本日の引けまで日経平均株価は約7,300円、率にして約28%も上昇してきている。

1990年以来、約33年ぶりの高値水準というフレーズが毎日のように飛び交った先週であったが、この間にこの間に時価総額日本一のトヨタ自動車も節目となるPBR1倍台を回復したのが話題に。斯様な動きから東証も2022年4月の市場再編でプライム市場が誕生してから初めてその時価総額が800兆円の大台を超えてきており、旧東証一部も含め最上位市場として過去最大となった。

これら時価総額増加が顕著な個別銘柄を見てみると、年初の日経紙恒例の「経営者が占う2023年」にて経営者が選んだ有望銘柄がズラリ、昨年末と先週段階での比較で上記の有望銘柄第3位のトヨタ自動車が5.8兆円増加、同1位のソニーGは4.8兆円増加、同7位の東エレクは3.2兆円増加、同4位の信越化学は2.9兆円増加、同8位のファストリは2.8兆円増加等々、嵌れば大ヒットのこの類である。

10週連続で前週末より高く終えた日経平均は第2次安倍政権時の12年末から13年にかけての12週以来、約10年ぶりの長さになったが、当時と比較するに今は予想PERも低く予想配当利回りも高い。トヨタのPBR一倍割れ解消現象は今後起こり得る局面変化を示唆すると日経紙の一文にあったが、資本コストを意識した経営の浸透による企業収益力の向上がいよいよ注目される段階になって来たか。


真摯なアクティビスト

さて、一昨日の日経紙にあったユニークな全面広告が目を惹いた。アクティビストファンドのストラテジックキャピタルによる投資先企業への株主提案や課題が綴られたものがそれで、そこでは東証プライム市場上場の日本証券金融、極東開発工業、文化シャッター、ワキタ、有沢製作所及び東証スタンダード市場上場のダイドーリミテッドの6社が挙げられていたがいやはやどれも辛辣な見解が述べられている。

このうち既にワキタの提案は否決されているが、とはいえこれら目を通してみるにその辺のディスクロを一瞥しただけではわからないようなデータや問題点が非常に簡潔に纏められており当該企業の株主なら一読の価値はあるだろう。おりしも東証が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等の要請を出しているなか、一部経営トップが株価はROEや純資産とは何の関係も無いなどの発言をしているのは残念でもある。

今月は3月期決算の上場企業が株主総会を開くが、先月末の段階で82社にこのストラテジックキャピタルはじめ314議案が提案されており本日段階で更に増加していることを勘案すれば過去最高を更新する見込みだ。それぞれ冒頭のストラテジックキャピタルの資本効率に関するものから、先月に当欄で書いたような環境に関するもの、企業統治に関するものなど多岐にわたっている。

ちなみに冒頭の6社は本日段階でPBRが低いところで0.60倍、一番高い企業でも0.83倍といずれも1倍割れに甘んじている。コーポレートガバナンスコードによりアクティビストファンドの提案は整合性を持つようになり、株主提案でも企業価値向上につながるとの判断なら賛成票を投じるなど機関投資家の姿勢もまた変わってきている。首の皮がつながった経営トップも賛成票減少が顕著になってきた事例も多く、真摯に彼らの意見に耳を傾けざるを得ない時代になったのは間違いのないところか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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