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株式インセンティブ彼是

さて政府が今月中に決める「新しい資本主義」の実行計画改定案の概要が明らかになっている。この辺はカギとなるスタートアップ振興では株式報酬の一つであるストックオプション(株式購入権)の従業員への付与期間の制約を撤廃するなど、購入権を発行し易くなる規制緩和を検討する旨などが日曜日の日経紙総合面に出ていた。

一方で多くの企業が使う信託型の株式報酬について、直近で国税庁が給与としての税務処理が必要だとの見解を示している。これまでも外資系企業の役員等がストックオプション絡みで国税とヤリ合う場面を多く見たが、企業側としては権利行使で得た株式売却に対し税金は譲渡所得で20%との認識であったものの、同見解では給与所得とし最大55%の税金が課される事で企業想定より税負担が増加する事になる。

冒頭のストックオプションの付与期間の制約撤廃など大企業に比較して福利厚生等の面で見劣りするスタートアップ企業の人材獲得には追い風となるものの、この度の国税の見解で信託型を導入している各社に見直しの動きが広がるのは想像に難くない。財務に余裕の無い企業でも活用し易い同制度を新たに導入する企業は近年増加し続けているが株式インセンティブの在り方が改めて問われるか。


分割に一石を投じる

昨日はトヨタ自動車株に触れたが、同社といえば3月末時点の株主数が1年で10万人以上増加したと先週明らかにしている。昨年も個人株主数が8年連続で増加した旨が報じられていたが、2021年9月末を基準に1株を5株に分割しており投資に必要な金額が20万円程度と大幅に下がった点が個人投資家に浸透したとみられる。

ところでこの5分割どころではない分割を最近発表していたのはNTTで、7月1日を効力発生日として1株を25株に分割すると発表している。東証が示す望ましい投資単位の水準として5万円以上50万円未満が挙げられているが、本日の終値を基準とすると株価は実に160円台となりこの基準以下まで逆に下がってしまう事になる。

更には同一単位で株主優待も維持される事も明言するなど、これほどまでに大胆な分割をした真意のほどが今一つ分からない部分もあるが、24年から新たなNISAが導入されることなどを踏まえ投資単位の引き下げで投資家層を幅広い世代に拡大することなどを狙ったのは間違いの無いところか。個人投資家の厚みがないのが東証の弱点ともいわれてきたが、相次ぐ分割でこの部分が改善されてゆくかどうか注目である。


不可解な引け商い

昨日まで4月以来の連騰記録の8日続伸を演じていた日経平均であったが、本日は年初来高値を更新した後さすがに息切れで9営業日ぶりに反落して引けた。各種テクニカル指標の過熱を横目に前日までの8日続伸で2000円近くも上昇しただけに漸くの一服といった感じだが、そんな中で本日はトヨタ自動車の引け際の急落が市場の話題となっていた。

寄り付き後早々に年初来高値を更新しあと後場は前日終値近辺での値動きで推移していた同社株だが、大引け商いで1400万株以上と日中の売買高の4割近くが集中し引けてみれば約5%安の急落での引けとなった。言わずもがな東証プライム市場で時価総額トップを誇る同社だけにこの引けの下落分だけで約1.5兆円が飛んだ計算。

これだけ纏まった売り注文であれば株価への考慮から時間外等の選択もあった筈という事で各所では誤発注の憶測まで飛び交っているが、引け後も特に何の発表もなされていないだけに思惑が募る。ここ相場の過熱感が意識されていたなかで思わぬ冷や水となったが、これだけでTOPIXの約4ポイントの下落に寄与するなど影響は少なくなかっただけに真相が待たれるところ。


33年ぶり

さて日経平均の騰勢は週が明けても衰えず本日で8日続伸となったが、大引けで31000円台をつけたのは1990年7月以来、実に約33年ぶりのことでバブル経済崩壊後の高値を更新することとなった。この日経平均の高値に先駆け同じく33年ぶりの高値を付けていたのはTOPIXであったが、斯様に今回の急騰は大型株が牽引している色合いが強い。

大きな節目の3万円大台を破った背景には先に発表されたGDPも一役買っている。内閣府発表の2023年今年1-3月のGDP速報値伸び率は年率換算で1.6%の増加、プラス成長となるのは3四半期ぶりで市場予想を上回った。全体を押し上げたのが内需の柱でGDPの半分以上を占める個人消費ともいえるが、こちらもまたバブル期並みの光景が徐々に復活してきた。

三越伊勢丹の購買データでは昨年の年間100万円以上の購買顧客が約50%とコロナ禍前を上回り、中でも年間1000万円以上の買い物をしている人の比率は倍以上に膨らんでいるという。なるほど確かに三越の逸品会など訪れた際には各ブースで高額品が次々と成約され、顧客が満足気にふるまわれたシャンパングラスを傾けている光景が彼方此方で見られたものだ。

今から3年前には米の所謂GAFAMのたった5社だけで東証上場全企業の時価総額を上回ったのが話題になっていたが、先週末には株式時価総額が1兆円超となった企業が過去最多となった旨が日経紙で報じられていた。33年ぶりの株価水準と併せいよいよ失われた30年を取り戻す時と期待は膨らむが、この間に欧米の主要株価指数は9倍~12倍に化けているのを見るに本邦はまだ東証改革のゴールに向け漸く緒に就いたばかりという感だ。


募る思惑

先週末は決算発表のピークであったが、なかでも目についたのがソフトバンクGの決算で2023年3月期決算は9701億円の赤字となっていた。2年連続の赤字は実に18年ぶりの事となったが、要因はやはり昨年に続いてのビジョン・ファンド。世界的な金利上昇による投資先の株価下落や、景気減速による業績悪化が決算に大きく影響を及ぼした。

昨年の決算会見を思い返せば徹底した守りに入る旨を強調していた経営トップであったが、虎の子のアリババGの株式放出で5兆円近くもの利益を出すも要のビジョン・ファンドの5兆円を超える損失によりこれをカバーするには至らなかったか。一方で今年の会見ではCFOが攻めのタイミングを見極めてゆくと守り一辺倒からニュアンスの変化も見られた。

ところで同社といえばアリババに取って代わる主要資産を狙い、直近で傘下の英半導体設計アームの米市場でのIPOを申請している。これが実現して高い評価を得られれば上記の経営方針変化とも併せ、予てより囁かれている同社を巡るMBO観測の現実味も一段と増すというものだがそれら含め今後も同社の動向には要注目としたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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