半導体デジャヴ

今週アマタに書いた通りで日経平均ははれて34年ぶりに1989年に付けた史上最高値を更新、曲がりなりにも記録は記録なだけに当欄でも「祝」とは書いたものの、この史上最高値更新はエヌビディア一銘柄の功績と言っても過言ではないだろう。なにしろ年初から日経平均は先週まで約5800円上昇したものの、225構成銘柄のうちエヌビディアに刺激された東京エレクトロンなど半導体の主要関連株寄与度はたった3銘柄で実に2000円以上、これで約4割寄与している計算になる。

となると仮にこのエヌビディアの好決算が無かったら日経平均はいまだ史上最高値更新は叶っていないかもであったが、半導体に沸いているのは株式市場だけではなく今月に開所したTSMC熊本工場周辺もまたバブル化してきている。既に昨年秋に基準地価が約2割も急上昇した旨が報じられているが、地元民の中には固定資産税が2割以上も上がったと困惑しているものの、思わぬ借地料が転がり込み野良仕事の軽トラがベンツのSクラスに化けた話まで報じられている。

他、関連業者の稼ぎが倍になったなどそれこそ1989年のバブル当時の光景の再来ともいえるが、当時を知る者には土地バブルに沸いた当時の株式市場のテーマであった「ウォーターフロント相場」を彷彿させる。最近では蔵前エリアが東京のブルックリンなどと若年層に囃されているが、当時は隅田川がハドソン川、豊洲エリアはマンハッタンと囃されNYのウォーターフロント再開発に見立てられて東京湾岸の土地持ち企業がさんざん物色されて囃されたものだった。

その後見事にこのウォーターフロント相場は崩壊したワケだが、勿論この幻影を囃した土地バブルと今の実態を伴った半導体ブームを同一視には出来ない。バブル当時と時価総額ベスト10が様変わりしたが日経平均の中身も時代の趨勢を表す。昨年末から先週まで世界の株式時価総額は170兆円以上増加しているが、そのうちの50%を超える約90兆円が半導体関連だ。生成AIが社会や経済を大きく変えようとしているが、その根幹にある半導体は少なくとも幻影でないのは言うまでもない。


エグジット手段の変化

本日は東証グロース市場に不動産テックのココリブと、立ち飲み形態飲食店の光フードサービスが上場している。ココリブは買い気配でスタートし後場に公開価格の約2.2倍の3990円で初値を付け、一方の光フードサービスも買い気配でスタートした後も気配値上限まで値を切り上げたまま初値は明日以降に持ち越されるロケットスタートとなった。

ところで彼らはエグジットでIPOを選択したパターンだが、ちょうど一週間前の日経紙には「MA&で投資回収最多」と題し、スタートアップのエグジット手段として2023年は他社によるM&Aを選ぶ動きが前年比で5%増加して過去5年で最多となった旨の記事があった。もう一つの手段であるIPOと比較するに約5倍の水準という。

日本におけるエグジット手段でM&AとIPOの比率はベンチャー白書によると、2020年度でM&Aが24%、IPOが76%なのに対し、米は同M&Aが90%、IPOが10%となっており対照的だったものだが、米欧の金利上昇による市況低迷など環境の変化も背景となっているか。IPOはこれまで資金調達額等で小粒上場が批判対象になるケースが度々あったが、大企業等もM&Aに及び腰になっているという素地もあった。環境の変化が後押しして今後もこの比率が変わってゆく動きが継続されるのか否か注視しておきたい。


注目される春闘

本日も小幅ながら日経平均は続伸し連日の最高値となっているが、背景にあるのはデフレからの脱却と賃上げと物価上昇の好循環実現への期待がある。賃上げといえば昨日の日経紙夕刊の明日への話題でもミネベアミツミ会長CEOが賃上げについて取り上げていたが、来る春闘の交渉結果で国内消費に繋がるようなある程度の前向きな状況が出てくるかどうかがポイントか。

先に実質GDPのショッキングな内容が公表され、当欄でもこれを取り上げたが約半分を占めるのが個人消費。実質個人消費をみれば米が右肩上がりなのに対し日本はこれだけの金融緩和をしても息切れかせいぜい横這い状態である。斯様な状態で振るわないのは緩和維持策による円安で生活コストが上昇し、実質賃金が削がれて消費にも陰りが出てしまっているという構図か。

大どころの春闘の結果で昨年平均の3.58%を上回るものが出てくるかどうかだが、連合はベースアップと定期昇給分合せて5%以上を要求している。ただ日本の企業構造は全従業員の約7割が中小企業なだけに、大手の後に決まって来る中小企業こそが焦点。とはいえ厚労省によれば労組の推定組織率は今や16%台にまで低下、組合の無い中小企業がどの程度大手に追随してくるかが焦点になろうか。

連合の会長は先に開催された経団連労使フォーラムで中小企業の賃上げに向けては労務費を含む価格転嫁が重要だと強調している。中小企業の賃上げが難しければ個人消費も伸びず上記の実質GDPの足を更に引っ張る要因にもなろうが、ちょうど現在はデフレ脱却から金利のある世界に向かう転換点であり、そういった意味でも賃上げが必須の課題だけに春闘の行方が引き続き注目される。


祝 日経平均史上最高値更新

周知の通り先週末にとうとう日経平均はバブル経済期に付けた38915円(終値ベース)の史上最高値を更新してきた。終値でもザラバの過去最高値を更新しての引けであったが、振り返ればバブルが崩壊し山一證券廃業やリーマンショックを経てザラバでは6994.90円の安値まで沈み、その後第二次安倍政権のアベノミクスと日銀の異次元緩和策により立ち直りコロナショックを経て今日までこの34年を見てきた市場関係者はさぞ感慨深いだろうか。

関係者が一様に口にしているのは業績の裏付けが無いままに急騰したバブル期とは大きく違い、今は業績の裏付けがしっかりある健全な株高というもの。確かに数字では日本企業全体の純利益を比較するとバブル期の約18兆円に対し、2022年には約74兆円と約4倍に拡大しており稼ぐ力の高まりを表しているが、史上最高値更新でも一般人には関係無く恩恵も無いと肌で感じる経済とは違うと考える向きは少なくなく、景気が上向いている実感には程遠いとの声が多い。

それもその筈、バブル期当時はそれこそ入社間もない女性社員に数百万円のボーナスを支給する企業などゴロゴロし、ゴルフを楽しむばかりでなく会員権を株の如く売り買いする肉食女子も多く、夜もとにかくタクシーを捕まえるのに一苦労であった。株も仕手筋がやりたい放題で仕手株に提灯をつけても元金があっという間に10倍なんてザラな時代、そんなワケで時価総額上位企業には金融や不動産がズラリと並び、土地の狂乱が本業以外で企業を支え内需中心の企業が気を吐きそれに伴い賃金上昇も幅広く一般に実感出来たものであった。

上記の通り企業の純利益が約4倍に化けたとはいえこの34年で日本企業は海外進出で日本人以外の稼ぎで利益を伸ばした面は否めず、この辺も国内の賃上げに結び付き難い背景の一つか。先週末の日経紙・春秋ではこの史上最高値を更新した株高を取り上げ、その中で「~むしろ願うのは、株価に見合う豊かさを実感できる世の中。」との一文があったが、1989年当時はまさに株価に見合う豊かさを浮ついたカネながら実感出来た絶頂期であった。


表舞台に出るONIGIRI

今週月曜日の日経夕刊には「ONIGIRI 海渡る」と題し、日本のおにぎりが海外進出を加速している旨の記事が一面を飾っていた。おにぎりといえばぐるなび総研が一年の世相を反映し象徴する食を選ぶ年末の「今年の一皿」が、昨年は“ご馳走おにぎり”に決定している。今年の一皿でおにぎりは2015年にも握らないで家でおにぎりを作ることが出来る“おにぎらず”が選ばれているが、ご馳走おにぎりは握って出来たモノを敢えて外で食べるスタイル。

同総研によれば昨年は東京など都市部でのおにぎり専門店の開業は前年比で5割増になっているとのことだが、此処の近所に出来た冒頭の日経記事にも出ているおにぎり屋も“出汁パンチ”や“いぶりがっこ味噌チーズ”等々そのネーミングから惹かれるユニークな品々を揃え、オープン以降はTVでも度々取り上げられていることもあってかなかなかの盛況ぶりだ。

そういった事も背景に最近ではコンビニでもお握りの種類が増えて価格もそれと並行して高価格帯のものが増えてきている。またローソンなどは今年の2024年物流問題や食品ロス削減を念頭に冷凍おにぎりの実験販売も昨年夏に試みるなどしているが、最新技術を武器に東京オリンピックで好評を博した日本のおにぎりがこちらでも世界へ進出し易くなるかもしれぬ。

さておにぎりといえばコメだが、日本のコメの一人当たりの消費量はパンや麺類といった食の多様化により60年以上にわたりその消費が減少を続けて来たものだが、輸出は好調で昨年は前年比で3割増加している。恒常的な円安を背景に購買力も増しており世界で広がる日本食マーケットを追い風に海外へ販売先を持って行くことはリスクヘッジの一つとしても商機ともいえるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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