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禁じ手

昨年11月に当欄ではSMBC日興証券の社員が、大株主等が時間外で一度に大量売却出来るブロックオファー取引に絡んで特定銘柄の株価を維持する目的で不正な株取引を繰り返した疑いがあるとして強制調査されている件を取り上げた事があるが、直近で報じられている通りこの事件は東京地検特捜部が同社の幹部ら4人を逮捕する事態にまで発展した。

これと同様の終値関与で事件になった件といえば、リーマンショックの年に今は市場からその姿を消したケイエス冷凍食品のIPOに絡んだ株価操縦で起訴された丸八証券が記憶にあるがこれ以来の事か。とはいえ今回の舞台は大手証券内で行われ、このエクイティ部門の中枢を担っていたのは何れも一流外資系証券出身者との事だが海千山千を潜って来た兵にしては脇が甘かったと言わざるを得ない。

そもそも同社は取引日を提示する特異な形式で空売りを誘発し易い状況を作り出しており、売り手・買い手・胴元の” 一見三方よし”にも見える同取引が公平に機能していたのか疑わしいところ。斯様な大手証券が同取引に対する売買監視部門が機能していない訳は無く、ここで同社側が組織的犯行の立証を回避?すべく個人の犯行として蜥蜴の尻尾切りに動くのか否か、市場の門番として言語道断の行為だけに特捜部の徹底した解明が待たれる。


米株マル信解禁

さて、年明けからネット証券などでは米国株式取引のラインナップが充実するなど同分野へのサービス強化が見られているが、若年層を中心に米国株への投資意欲が高まっており投資機会の多様化を進める狙いもあって更に今年の夏からは米国株式の信用取引が解禁される旨が先の日曜日の日経紙に出ていた。

これらのルール改正で日証協や金融庁を動かす原動力ともなったのが上記の若年層の動きで、あるネット証券大手ではここ2年程度で初めて米国株を取引する向きは約7倍に増加し売買代金も17倍に急増、また別なネット系大手では1年間で米国株の取引件数が3.5倍に増加し顧客数も約3倍に伸びたという。

とはいえ国内株のようにストップ制限など設けられていないなど流動性のリスクもあるだけにこのマル信も当初は時価総額条件を満たす大型株等に限定、保証金や維持率共に国内株式と比較して厚く設定される模様。そういった事で山っ気のある向きなど当初は小粒のミーム株など存分に堪能出来るというワケにもいかなそうだが、いずれはこの手のオプション取引なども手軽に出来る日も来るや否や近年の枝葉には隔世の感を禁じ得ない。


値決めにメス

さて、当欄では昨年の夏頃に公正取引委員会がIPO(新規株式公開)時に適切な資金調達が出来ているか否かの調査を始めた旨を取り上げた事があったが、先週末に同委員会は証券会社各社が主導しているIPO時における価格決定を巡る報告書をまとめ、現行の値決めの慣行は独占禁止法上の優越的地位の乱用にあたる恐れがあるとの見解を示している。

慣行とされているのは証券会社が個人投資家を呼び込む狙いで主幹事などが個人に売り易いように公開価格を下げる傾向にある点などで、この辺が欧米の機関投資家中心の売買主体との相違を如実に表しており、実際に公開価格の1.1~1.2倍という欧米の初値平均に対して日本のそれは約1.5倍という点で色濃く表れているというところ。

年末にも取り上げたように昨年度のIPOは前年比3割増の130社超と2006年以来の高水準となったが、例えば米ではたった一社でその時価総額が東証マザーズ全体にほぼ匹敵するリビアン・オートモーティブなどの上場に見られる通りその調達額において日本勢はこの米などと比較するに約10分の1程度にとどまり見劣り感は否めない。

値決めのみにスポットを当てる議論に違和感を覚える意見も一部にあるが、昨今のコロナ禍を背景にした市場の不安定化さも勘案し公開価格は従前よりも更なる低めの設定が必要との論も一部に出ている模様で、ロードショーの形骸化など構造的な問題含めスタートアップ企業が適切に資金を調達出来る環境整備は証券会社間の公平な競争等とも併せて促されるべきであろうか。


最終局面入り

さて、先に日立製作所は子会社の日立物流の株式売却を含めた選択肢検討と報じられていたが、先々週には同社が51%を出資する建機国内2位の小会社である日立建機株の保有株式の約半分を伊藤忠商事と投資ファンド日本開発パートナーズに売却する方針を固めた旨が報じられていた。

日立物流の方は思惑的な買いで急騰した一方で、日立建機の方は株式売却自体想定されていたものの一部には100%売却に伴うTOBの実施などが期待されていた事から思惑外れの投資家売りで急落と明暗を分けたが、それは兎も角もここへきて立て続けの子会社売却報道で同社のグループ再編も最終局面入りという感もある。

斯様に親子で共に上場する企業の解消が進み日経紙では昨年は年末段階で14社減少し265社となっており、5年前と比較するに2割超減少している旨を報じている。親子上場はコーポレートガバナンス改革の流れは言うに及ばず、ここへきて東証市場再編でも流通株式比率基準の問題もあり今後もスピードの差こそあれ解消が進んでゆくのは想像に難くないか。


骨抜き?市場再編

さて、今月は東証がこの4月に実施する株式市場再編後の全上場企業の所属先を公表している。再編によって各市場の特徴を明確にし企業価値向上から国内や海外投資家の活発な投資を呼び込むという東証の狙いのもと、結果として最上位に位置するプライム市場には1841社が上場、中核のスタンダード市場には1477社が上場、そして「グロース市場」には459社が上場する予定となっている。

とはいえ上記のプライム市場1841社中、うち296社はプライム上場基準を満たさず暫定的にプライム市場にとどまる経過措置の適用を受ける事になるが、これが期限も明確化されておらず曖昧なモノだけに一種の救済措置的な感も否めないところ。斯様に経営改善策まで出してプライムにしがみつきたい企業がある一方で、この基準を十分に満たしていても敢えてスタンダードを選択する明確なビジョンを持って臨む企業もある。

もう一つ、海外投資家の活発な投資を呼び込むとの狙いの割に流通株の時価総額の低さも指摘されているところ。先週の日経紙では運用規模の大きい海外投資家の多くは投資先企業の最低ラインが5000億円程度とあり100億円程度では甚だ心許ない。この度の再編は2部が新設された1961年以来60年ぶりというが、何やら看板だけ架け替えたと揶揄された今の岸田政権ともダブってしまうが、先ずはこの期限をしっかり決め企業成長を催促する事が喫緊の課題となりそうだ。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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