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政治的公約>法の支配

退任まであと数日を残すのみとなったアメリカのバイデン大統領だが、周知のように年明け早々に日本製鉄による米鉄鋼大手のUSスチールの買収禁止を命じている。この案件が持ち上がった一昨年末から日本政府でもこれを後押ししていたものだが、早速当の日本製鉄は「結論ありきの政治介入」とこの命令を不服として連邦控訴裁判所に提訴を行っている。

ところで現在世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量ランキングを見てみると、ベストテンの1位、3位、5位、6位、8位、9位と中国企業が実に6社も入り世界を席巻している状況になっている。この中国が厄介な構造問題の元で、需要が縮小しているなかにおいも過剰生産を止めずに鉄鋼を安価で世界に継続売却しているので結果、スパイラルで鉄鋼価格の下落を招き世界中の鉄鋼業界が強い逆風に見舞われているのが現状となっている。

そんな環境下から自主再建を断念し身売り表明したUSスチールであったが、これを狙っていたのがランキング22位の米クリーブランド・クリフス社、ところが入札で日本製鉄に敗れた経緯がありこのまま同社に買われると米市場での優位性確保が危ぶまれる危機感から全米鉄鋼労働組合と結託し組合員85万人を有する強大な政治力を利用しバイデン氏に働きかけた一連の動きがあったというのが事の成り行きだ。

果たしてというかクリフス社は買収禁止令が出た後に待ってましたとばかりに再度のUSスチール買収に意欲を示しているが、今回も前回の入札で敗れた時同様にその買収額は日本製鉄を大幅に下回る額である。こうして見ると何とも最初から出来レース感は否めない感もするが、はたして事の真相は如何に?というところだ。

確かに「国家安全保障上の脅威」と謳うには先端半導体等ならまだしも鉄鋼をこれに嵌めるのは無理がある。そもそも日本は同盟国で且つ最大の投資国だが、この件が対米投資等に影響しビジネスを委縮させてしまわないかが懸念される。米当局は先週末に日本製鉄が要請していた買収破棄期限を当初の来月から6月までの延長を認めてきたが、ビジネス感覚に長けたトランプ氏の就任ではたして風向きは変わるや否や?今後もこの件から目が離せない。


DEIと日本企業

一昨日の日経紙一面・春秋では、近年多くの米国企業が掲げるDEI推進活動が日本に波及していたものの、本家のほうで急ブレーキがかかっている旨が書かれていた。DEIに関しては当欄でも年末に逆風が吹いている旨を書いていたが、昨日当欄で「世界10大リスク」を取り上げた文中でも米大手企業がDEIに否定的なトランプ氏に配慮しこれらの施策を廃止する動きも出ている旨を書いている。

既に昨年のうちにDEI関係への取り組みの廃止を表明している「ウォルマート」、「ボーイング」、「スターバックス」等々に加え、年明け早々には米「マクドナルド」もこれまで2025年までに世界で管理職に占める女性比率を45%、人種的・性的少数者の比率を30%に引き上げる事などの数値目標を取りやめることを発表し、その数日後には米「メタ」もDEIの実現を目的とする複数の施策を廃止すると明らかにしている。

また「フォードモーター」も昨年のうちにDEI評価のため外部組織が実施する企業調査への参加を中止しているが、この自動車業界では日本企業大手にもこの波が押し寄せてきている。例えば「トヨタ自動車」は性的少数者団体HRCが実施する企業平等指数への参加取りやめを表明し、「日産自動車」もまた企業平等指数への参加取りやめるほか、人種公平性を重視したイベントの資金提供も見送ることを表明している。

とはいえ日本企業でもDEIを廃止する事のリスクを考慮し商社や重電の一部はDEI方針の変更はしないと表明しているところもある。やりたい放題が懸念されるトリプルレッド状態の次期トランプ政権、確かに似通った属性の人が意思決定を担うこうした構図がそのまま大企業に続々波及してくるリスクも懸念されるが、今後もステークホルダーと保守層を天秤にかける苦悩の場面が出て来ようか。


世界10大リスク2025

さて年始恒例のモノは先週も書いてきたが、国際政治学者のイアン・ブレマー氏率いる米調査会社ユーラシア・グループが発表する「世界10大リスク」もまた年始恒例のものである。今年1位に挙がったのが「深まるGゼロ世界の混迷」で、世界的な課題対応を主導し国際秩序を維持する国家は存在しない状態で地政学的な不安定が常態化し、新たな世界大戦が発生するリスクが高まっているというもの。

そして2位に挙げられたのは「トランプの支配」、これまで明らかにされてきた政権人事においては司法省やFBIといった政治的に権力を持つ組織にトランプ氏に忠誠を誓う人物を据えようとしている。行政権力に対する独立したチェック機能が低下し法の支配が弱体化、加えて政治的に近い企業を優遇すれば市場競争ではなく権力への近さが成功を左右するシステムが生まれる可能性があるとしている。

この辺に関してはテスラのイーロンマスク氏はもう言わずもがなだが、株式市場を牽引してきたIT大手トップの“トランプ詣で”が喧しい。メタのザッカーバーグCEOは大統領選後にトランプ氏の自宅に訪問し100万ドルを次期大統領就任基金に寄付しているが、アップルのティムクックCEOも個人で100万ドルを寄付、他にもアマゾンの創業者ベゾス氏、グーグルのピチャイCEOやオープンAIのアルトマンCEOなどなど名だたる大手テック企業のトップ達がトランプ氏の邸宅を訪問し多額の寄付を表明している。

歩み寄りといえば直近ではDEIに否定的なトランプ氏に配慮し、上記企業の一部にもこれらの施策を廃止する動きも出て来た。確かに今回の大統領選でトランプ氏を再選に導いた最大の功労者はテック業界の起業家連中なのは疑いようも無い事実だが、手のひら返しでトランプ次期政権に歩み寄るスピードの速さを見るにユーラシア・グループの懸念も一層現実味を帯びてくるというものだ。

ちなみに冒頭のイアン・ブレマー氏は石破氏に関しては、「安倍元総理のようなトランプ氏と渡り合えるカリスマ性も無く、石破政権は1年も持たなそうだ」としている。


経営者が占う2025年相場

昨年の株式市場は能登半島地震を受けて大発会は鐘も鳴らさない異例の静けさで始まり、大納会は金融行政に対する信頼が大激震となった東証社員インサイダー取引発覚でその年に話題になったゲスト招待も見送るという最初も最後も異例な光景で終わった。その足取りは2月にバブル期の史上最高値を34年ぶりに更新、翌3月には初めて4万円の大台を突破し、更に7月には42000円超えの史上最高値を更新するも、翌8月には1日で4000円超えという過去最大の下げ幅を記録するというボラタイルな市場であった。

そこで今年もまた新年恒例の日経紙「経営者が占う」シリーズでこの株式市場を振り返ってみたい。昨年の日経平均の高値予想平均は37900円でその時期は年末との予想が多かったが、一昨年に続いて予想平均を4000円以上も上回る好パフォーマンスとなった。一方で安値平均は31250円であったが、こちらは8月の“令和のブラックマンデー”で示現した31156.12円と皮肉にもほぼドンピシャとなった。

有望銘柄とした個別企業は上記の通り日経平均が予想を4000円超も上回る上昇を演じたことで、2位の伊藤忠商事から6位の東京エレクトロンまでの5銘柄全てが上場来高値を更新するなど当然な結果に。今年の有望銘柄は昨年1位に選ばれながらも上場来高値更新が叶わなかったダイキン工業が3位に転落する一方、昨年2位の伊藤忠商事が1位になり昨年ベストテン圏外だった日立製作所が2位に急浮上している。

そして今年の日経平均高値予想平均は44450円、安値平均は37025円であった。昨年控えめに4万円の高値予想を挙げたSMBC日興証券の今年の予想は同業大手の大和証券の45000円を大きく上回る48500円と大きく上方修正してきた。ちなみにこの高値予想の平均44450円だが、大発会の日に買いた巳年平均上昇率を大発会の引け値に当て嵌めた値段44574円と奇しくもほぼ一致する。

いずれにせよ今年最大の注目点はトリプルレッドとなった予測不能なトランプ政権の動向、そしてやはり日銀の金融政策動向だろうか?いずれも日本経済の腰折れにつながるような政策が取られるようであればそれこそ昨年高値がしばらくハードルとなるリスクシナリオとして認識されてしまう展開になるだけにこの辺には特に注意しておきたい。


粘着性値上げ継続か

年が明けても物価上昇のニュースが喧しい。月初め恒例の今月の値上げ動向だが帝国データバンクによる主な食品メーカーにおける飲食品値上げは1380品目、特に原材料の高騰を反映したパンの値上げが目立ち、山崎製パン、フジパン、敷島製パンが主力の食パンや菓子パンの一部商品を値上げし1月としては調査開始の22年以降で最多となった模様。

昨年の食品・飲料の値上げは1万2520品目で年間の平均値上げ率は17%となり、年を通じて値上げが抑制され前年比で6割の減少となったが、今年はここから4月までに飲料など6121品目の値上げが既に決定しており昨年同期比でこちらは6割の増加となっている。総じて現状のぺ-スが続けば昨年を上回る1.5万~2万品目前後が値上げされる見通しとしている。

一部シンクタンクのエコノミストは今後円安の落ち着きや原油価格の下落が見られれば去年よりは値上げペースが鈍化すると予想しているが、この為替も物価上昇率が目標を超えてきているにもかかわらず当の日銀は基調的な物価上昇ではないと悠長に構えた出口戦略を取る姿勢だ。結局この物価目標未満のところで中途半端な利上げを続けていくつもりだろうが、そんな感じであればなかなか円の反転は期待出来そうにもなく粘着質な値上げが続く構図となるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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