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基調的な物価上昇率の一部

さて8月入り。月初め恒例の値上げ状況だが、今月も値上げは続き帝国データバンクによる主な食品メーカーにおける今月の飲食料品の値上げは1010品目。単月の値上げ品目数としては3か月連続で1000品目以上の推移となり、1月からは8か月連続で前年同期を上回るなど依然として値上げの勢いは去年より強く連続増加期間としては記録的な値上げラッシュとなった2023年を上回り最長を更新する事となった。

個別では「調味料」の470品目が最多となり、次に「乳製品」の281品目となるが、明治や雪印メグミルクに森永乳業の大手三社によつ葉乳業は生乳価格見直しで牛乳やヨーグルト等を値上げする。この牛乳の他に朝食価格指数に影響を与えそうなモノでは7月に続いてコーヒー関連もネスレや外食ではタリーズ等で値上げ、またコメ価格高騰を背景に岩塚製菓では米菓10品の価格を改定し、サトウ食品も同様の理由で約11~20%の値上げをする。

斯様に依然として原材料費が値上げ要因となっているものも絶えないものの、冒頭に書いた値上げラッシュに沸いた2023年と比べるに人手不足に伴う人件費上昇などを背景にしたものも依然強い。こうした粘着性圧力を背景に価格上昇も一過性ではなく長期にわたり継続する可能性が高く、所謂日銀の言うところである“基調的な物価上昇率”の範疇にも既になってきているか。


ジャングリア沖縄開業

さて、先に飛鳥Ⅲの就航を取り上げたがリゾート関係ではこれに続いて今月はもう一つ、「ジャングリア沖縄」も先週に満を持して開業している。世界自然遺産に登録されている本島北部のやんばるを舞台に22のアトラクションに3つのレストラン、4つのショップなど都会では体験できない自然のなかでダイナソーサファリやスカイフェニックスなど本物の興奮や解放感が味わえるという。

これを手掛けたマーケティング企業「刀」のトップはこの場所にした理由として海というイメージが定着している沖縄は森林もある“二刀流”に着目したという。なるほどイメージでは先ず“海”が思い浮かぶが、ジャングルも負けず劣らずの魅力を有している点では「バリ島」とも似ているか。また今後のインバウンド増加を見込みパークやスパ等のチケットも国内の主要テーマパークとしては初の“二重価格”を採用している。

このジャングリア沖縄が狙っているターゲットゾーンは、沖縄から飛行機で4時間以内に広がるアジア圏の約20億人という。認知度の低い開業当初は国内客が大半と見込まれるものの、開業1年目の経済波及効果は約6583億円との試算が出ている。実に沖縄の年間予算の7割にも匹敵する額となるが、沖縄経済の新たな起爆剤となるかどうか期待のかかるところ。

ところで上記の「刀」は昨年に「イマーシブフォート東京」を開業させ、立て続けに今回のジャングリア沖縄をオープンさせているが、テーマパークがすっかり廃れた中国などとは異なり今後も日本はテーマパークへの巨額投資が見込まれる。強力なIPを武器に東京ディズニーシーやUSJでは新エリアの開業が相次ぎ、今後は横浜にも東京ディズニーランドと同規模の敷地に最先端技術を活用した次世代型テーマパークが開業予定となっており今後も各所の投資が注目される。


隅田川花火大会2025

猛暑のなか先週末は無事に隅田川花火大会が開催された。東京では足立の花火退会が2年連続で中止の憂き目に遭ってしまったわけだがこちらは予定通りの開催となった。隅田川はフィナーレも勿論圧巻だがやはり全国の匠が競うコンテストは外せない。今年は新潟煙火工業の飛遊星モノの「蛍」が優勝したが、個人的には絵画を花火で表現したというユニークさで勝負した斉木煙火本店の「モネの庭」が印象的だった。

ところで近年では花火に使う各種火薬類の高騰に加え、安全確保に不可欠な警備員の人件費高騰などによる運営費コスト増を背景に所謂有料席の導入が急増している。今年の場合主要の約100大会のうち約8割にあたる大会で有料席の導入が見られ、これは過去最多のデータという。隅田川の屋形船もひと昔前から比較するにその料金も随分と高騰したなと感じるが、毎年ベストな場所を提供してくれる人脈の有難みが一層増すというものだ。

ところで花火大会といえばかつてこの隅田川花火大会と共に“東京三大花火大会”の一つであった「東京湾大華火祭」だが休止からはや10年、この花火大会が来年には11年ぶりに復活開催とも報じられている。なんでも中央区区制施行80周年記念事業として開催されるということだそうだが、開催に期待を込めて今から楽しみに待ちたい。


新興不正

本日の日経紙ビジネス面には「オルツ粉飾 経営陣が関与」と題し、東証グロース市場に上場しているAI(人工知能)開発のオルツに関する粉飾疑惑について同社が第三者委員会による調査報告書を公開した旨の記事があった。所謂循環取引を巡っての不正が明るみになったわけだが、これを受けて昨日の同社株はストップ安に沈み今日も大幅続落となり値下がりランキングでは全市場で4位にランクインしている。

オルツといえば昨年10月にAI関連として鳴り物入りで上場したわけだが、上場半年そこそこでこの粉飾疑惑が持ち上がる異例の事態となっていた。斯様に短期で大規模な不正が発覚した例としては、グロース市場創設前の東証マザーズに上場していたエフオーアイが記憶に新しいところ。半導体製造装置を手掛けていた同社もやはり上場して半年そこそこで売上の9割以上の粉飾が発覚し上場廃止に追い込まれている。

今回のこのオルツには大手ベンチャーキャピタルのジャフコグループも出資していたわけだが、こうしたベンチャーキャピタルや監査法人に幹事証券の目を巧みに搔い潜っていたのが凄い。過度な規制強化は有望なスタートアップ企業の成長機会を削いでしまうという意見もあるなかこれを機に上場審査の在り方も今後変わって来るかどうかだが、市場の信頼がこれ以上揺らがぬよう再発防止の重要性がより一層問われるところ。


MBO最多更新か?

週明け本日の日経平均も高値警戒感から値嵩株の売り物が目立ち大幅続落となったが、そんな中で個別では東証プライム市場の太平洋工業が全般の地合いに逆行高となり年初来高値を更新していた。同社は周知の通り先週に創業家が出資する特別目的会社がTOBを実施、MBOで株式を非公開化すると発表しておりそのTOB価格にサヤ寄せする動きから先週末に続いての続急騰となっている。

その買い付け価格は1株2050円と発表されてはいるが、現在同社のBPSは約2900円となっているだけに本日はTOB価格を超えての大引となった。同社はタイヤバルブ関係首位だが、今後のハイブリッドやEVなど電動化の進展でこうした車部品業界は従前とは異なる製品開発の必要に迫られる。株式の非公開化で大胆かつ長期的な投資に取り組める体制が求められていたわけだ。

ところでMBOといえば本日はもう一つ、東証プライム市場の調剤大手の日本調剤も投資ファンドのアドバンテッジパートナーズがTOBなどを通じて買収し非公開化する方向の旨が報じられている。この業界でもまた再編の動きが広がっているが、ともあれ今年の株式非上場化の件数としては折り返しの6月上旬時点で27件となっており今回の件含め同じペースでいくとするなら過去最多の一昨年を更新してくる勢いだ。

こうした動きを鑑み先にみずほフィナンシャルグループも100億円規模のMBOファンドを立ち上げているが、東証の再編の動きや今後の東証改革も控えて上場コストがそのメリットと比較し高いと意識されるような企業勢としてはこれからMBOというものが一つのソリューションとして台頭してくる流れになるか。


飛鳥Ⅲ就航

先の日曜日の日経紙では郵船クルーズの「幸を編む至福の船旅 最幸時間」と題した「飛鳥Ⅲ」就航の全面広告が目を惹いた。同船は同社の飛鳥Ⅱを超える総トン数で日本最大級のクルーズ船となり、24時間利用出来るジムやプールが完備されており全室バルコニー付きでどの部屋からのオーシャンビューが楽しめる。初航海は横浜港から北海道の函館港や小樽港を巡る7日間の旅になるが、新造船の就航は同社として実に約34年ぶりとなる。

クルーズ業界といえばコロナ禍で一時翁落ち込みをみせるもののその後の回復めざましく一昨年は世界でコロナ前水準を200万人ほど上回ってきている。現在世界は関税リスクに晒されているが、クルーズ事業はこの関税リスクも少なくその需要に減速感が見られない。そういった事で大手のロイヤル・カリビアン・クルーズなどその株価が一時は関税ショックに連れ安したものの今月は特に鋭角的な上昇軌道を描き年初来のリターンは50%近くになる勢いである。

そういった中で日本のクルーズ人口はまだコロナ禍前の6割弱の水準に甘んじているだけに、この飛鳥Ⅲの他にも商船三井はにっぽん丸に加えて昨年末には「MITSUI OCEAN FUJI」の運行を開始し、オリエンタルランドも28年度にはクルーズ事業に乗り出す旨を発表するなど各社が商機とみて次々に投入を図っているわけだが、国交省も日本人クルーズ乗客数の目標として30年までに年100万人に増やしていくことを狙っている。

上記のオリエンタルランドも直営ホテルはバリュータイプ、モデレートタイプ、デラックスタイプ、そしてラグジュアリータイプに分けて展開しているが、クルーズ船も「カジュアル」、「プレミアム」、そしてこの飛鳥Ⅲのような「ラグジュアリー」に分けられる。この手は長年シニア層が牽引してきたものだが、各社共グレードに幅を持たせた戦略で各々今後の舵取りが注目される。


浮かれる裏の暗雲

劇場版「鬼滅の刃」無現城編第一章がロケットスタートとなっている。オープニング成績が歴代1位、初日成績も歴代1位、単日成績でも歴代1位と3つの記録を更新した模様だが、ところで3つの記録といえば衆院選に続き都議選、そして今回の参院選でも歴史的な大敗となった与党も3つの大敗で歴史に残る記録になりそうだ。物価高含め諸々の課題が山積みとなるなか、その対応に対する厳しい民意が表れた格好になったか。

一方で3連休中日の投開票となったことで猶予があったぶんマーケットは冷静に反応し連休明けの大引は小幅続落に終わったが、何とも絶妙なタイミングで日米関税交渉が合意したとの報で本日の日経平均は急騰、個別では大本命?の自動車セクターが集中物色されトヨタは約38年ぶりの日中上昇率を記録し、この合意で日銀も利上げをし易くなるとの思惑から銀行株も一段高、これらの動きからTOPIXも終値ベースで史上最高値を更新している。

ともあれかつて第1次安倍政権下で安倍総理に言った責任論が今回ブーメランのように自分に降りかかる格好になっているわけだが、当の首相は日米関税交渉が正念場な事を引き合いに大臣続投を表明。果たして今回の関税交渉合意という結果が出たことで市場の関心は首相の進退に移るわけだが、もはや自民党自体が総裁交代で復権が叶う構図でもなく乱立する多党制が続きそうな構図は浮かれるマーケットの裏に潜む混迷度合の深まりを表しているか。


法案成立

先週も当欄で少し触れていたが、米ドルに価値を連動させる暗号資産の一つであるステーブルコインの普及を目指すところの「GENIUS法」が先週末にトランプ大統領の署名で成立している。ドルの世界の基軸通貨としての地位を次世代にわたり確保することになると語った通りやはり米ドルの覇権維持の想いは強いと感じたが、国際送金などにおいては既存のネットワーク「SWIFT」を介した銀行間送金などと比較するに決済の高速化やコストも安く済むメリットが光る。

現在ステーブルコイン全体の時価総額は約38兆円、米では既に暗号資産交換業者のコインベースがECサイトの支払いにこのステーブルコイン対応の決済サービスを発表しているが、これが普及することになると手数料が障壁となり逡巡していた加盟店が挙ってこれを導入することも考えられ決済市場を独占してきた大手カード会社も今後は競争に巻き込まれることになるか。

競争といえばもう一つ、これらの動きで預金からの資金移動の増加を懸念する銀行業界も自前のコイン発行を検討する向きも出始めるなどざわつき始めている。一方でBIS(国際決済銀行)はステーブルコインについてさまざまなリスクを挙げ報告書で通貨として機能するには不十分と評価しているが、此処はCBDC(中銀デジタル通貨)が次世代の中心になると明示している。トランプ政権は大統領令でCBDC発行を禁止しているが、今後CBDCも発行が見えてくるにつれこちらの覇権を争う鬩ぎ合いも一層激化してくるか。


土用の丑2025

さて、明後日は土用の丑の日である。この丑の日といえばいわずもがなウナギだが、水産庁によれば今年のシラスウナギの国内漁獲量は昨年比で倍増しキロ当たりの平均価格も前年の約半値で推移しているという。そういった事で少し手頃になるのではとの期待もあるようだが、この辺は成育などタイムラグもあることから一部小売りではやや値下げを意識したところもあるようだが総じて足元では例年並みといったところか。

とはいえ今後はコメよろしく徐々に値段が下がって来る事に期待が募るというものだが、一方で不穏な空気も漂う。EUの動きがそれで、絶滅の恐れがあるということから先にニホンウナギを含むウナギの全種類について国際取引を規制するワシントン条約への掲載提案を正式に決定している。11月~12月に行われるワシントン条約の締約国会議で提案が採決されれば、キリン等の動物と同様にこのウナギも輸出する際に許可証の発行が必要になる。

許可証云々となるとこれまでよりも国際取引に時間がかかる可能性も浮上することになるがこの可否如何で供給量が減少した場合、ウナギに対する需要が現状のままであれば値段は上昇傾向になるか。当然ながら国内で捕獲し出荷する純国産であれば規制の影響はないが、ちなみに2024年の国兄のウナギの供給は約7割を輸入に頼っているのが現状なだけに日本としてはなかなかの打撃になる可能性が高い。

ただこうした保護意識が高まるなか国内でも動きが出ている。先に水産研究・教育機構は完全養殖のウナギを量産するのに必要な基幹技術の特許を取得しており、ここには大手民間企業や大学も協力し連携を図っている。これまでこの手では鯛やマグロなどで完全養殖の商業化が進んできたが、はたしてウナギもこれに続きいつでも堪能する事が出来るようになるかどうか今後の進展に期待したいところ。


覇権維持

今週はビットコインが12万ドルを突破しまたも史上最高値を更新している。この暗号資産といえば時を同じくして米下院議会は、ステーブルコインの信頼性を高める法案や暗号資産の包括的な規制枠組みを明確にする所謂ジーニアス法案など一連の法案の審議をはじめているが、この辺の動きが暗号資産業界にとっては追い風となることでビットコインの大台突破に一役買った格好か。

こうした普及を急ぐ?背景にはブロックチェーンの技術を用いた次世代資金決済網を世界の金融等におけるプラットフォームにし、米ドル通貨覇権を維持する狙いとの見方もある。現状世界で流通している米ドル連動のステーブルコインは約2400億ドルともいわれているが、数年後には約2兆ドルにも達するとの見方も出ている。ブロックチェーンも技術が成熟し規制も整備されつつあるので、金融業界のインフラも再設計されるとの指摘もある。

そういった事で既に暗号資産大手のコインベースなどはトークン化した株式の提供に向けてSEC(米証券取引委員会)に認可を申請している。上記のステーブルコインもそうだが、金融資産のトークン化も年間で5割のペースで増加してゆくとの試算もあるだけにそのポテンシャルへの期待は大きく、今後もこの手の分野へ海千山千が挙って参入してくることが予測される。


次のイグジット

本日の日経紙金融経済面には、日銀が金融システム安定策の一環として2002年から銀行から買い取ってきた2兆4000億円あまりの株式を、金融不安が後退したとして2016年から続けていた売却を完了した旨の記事が載っていた。当時は中央銀行としては極めて異例の措置といわれたものだったが、そこから20年余りをかけてようやくその役割を終えた形になるか。

さてこの保有株式の売却が完了した事で市場の関心は日銀が保有する簿価で37兆円、3月末時点での時価にして70兆円のETFの取り扱いに向かう。この扱いを巡っては野党の一部からはこれを政府が買い取ったうえで分配金収入を子育て支援の財源として活用する事などを求める案などが浮上しているが、このスキームと同じことを既に当欄では2年前に書いている。

他にも日銀勘定から別の機関等に移管・分離させてその出口を探るというバブル真っただ中の一時期に一部証券会社でも流行った?“飛ばし”のようなスキームも挙げたのを思い出す。また相応のインセンティブ付与を前提に売却制限を付けて個人へ譲渡する案などもあったがいずれにせよ一時期は170年かかるともいわれたこのETF処分、今後どういったペースで処理をしてゆくのかが焦点となる。


猛暑の経済損失

今月のアタマには気候変動から長期化しつつある「夏」で売れ筋の変化から1年を二季として商品構成を考えるアパレル各社の戦略などを書いたが、日曜日の日経紙・科学の扉では「世界で酷暑、損失600兆円」と題し、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書によれば気候変動による世界のインフラの損失額は平均気温が2度上昇した場合に2100年には約600兆円に上ると推計される旨の記事が載っていた。

世界レベルの損失といえばILO(国際労働機関)も暑さによって失われる労働時間が2030年までに全世界で2.2%に達しフルタイムで働く8000万人分の労働力が消失すると分析、その経済損失は2兆4000億ドル(日本円で約380兆円)になるとしている。また日本でいえば医学誌のランセットによれば23年は暑さで日本の労働生産性が低下、労働時間の損失は年間で約22億時間、潜在的な収入損失は年間で約5兆4000億円という。

それ以外でも同紙に出ていたように天候不順からさまざまな果実の収穫が減少、オリーブオイルやチョコレート製品は価格がここ数年で2倍以上に跳ね上がり、漁獲量などを見ても理解できないほど従来のバランスが大きく崩れている。そのほか洪水や干ばつ被害の頻発から一部では火災保険が続々と停止に追い込まれ各所で生活に大きな影響を与えている。

冒頭のIPCCだが、地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるためには2035年に2019年比で60%の温暖化ガス削減が必要としている。2050年には実質排出のゼロを実現しなければならないが、足元では第2次トランプ政策の壁が立ちはだかるなど停滞も懸念されるところ。とはいえこの手の取り組みは人々や生態系に関わって来る重要な事だけに流れとしては不可逆的なものになろうが、いずれにせよ各国による実効性のある対策が喫緊の課題といえるか。