あの店のあの味
NEW
昨日の伝統工芸展に行った際に三越本店近辺を歩いていて思い出したのが、先月の日経紙ヒットのクスリの頁で「名店の味、MA&で承継」と題し、名店の味がなくならないようにレシピや屋号などを継承するミニM&Aを手掛ける企業を取り上げた記事。この冒頭では、東京・日本橋にツタが絡まった建物でスープ状のカレーを出す店があったが閉店しもう食べられなくなり“ロス”になった旨の書き出しであったが、これを読んで懐かしい想いが蘇った。
今のマンダリンオリエンタル東京とコレド室町テラスとに挟まれたとんでもない一等地にあったこの店は近所で私も何度か行ったことがあったが、同紙でも“ツタのカレー店”と「通称」で書いている通り建物の内外に店名が無く、外看板には「珈琲」と書かれていたものの店内でコーヒーを呑む客を一度も見たこともなく、店内は座ると否応なし?にカレーが出される一択のなかなか癖のある店だった。
斯様に日本橋には無くなってしまった名店が幾つもあるが、ここ数年でも幾つも思い浮かぶ。近所にあった「都寿司」は軽く創業100年を超える老舗であったものの5代目婿養子が起こした不祥事で突然閉店、鮪は言わずもがなランチの“にもの丼”も忘れられない味だった。TCATにあった唯一無二の味の担々麺が人気だった「龍鳳」も人手不足に苦しんでいたが力尽き、住宅街のクラシックな佇まいの中で海軍ゆかりのフレンチを堪能出来た老舗の「スコット」も消えた。
他にも創業家の内部分裂で本家の味の継承者が独立してしまったパターンや、名前は残っているが同業に買収され移転した例など日本橋には数多ある。これらは辛うじて同じ味を味わうことが出来るが、確かに上記の“消えた名店”の味の再現店がこの先現れるのか未知数だ。こうした無形資産だけを継承対象とする手法はこれまでにない新手といえようが、普及すれば“ロス”の寂しさも半減することになろうか。