最大手生保の買収劇

本日の日経平均は値嵩株への売り物から急反落となったが、そんな中で医療データ分析のメディカル・データ・ビジョンが引けで5700万株以上の成り行き買いを残し比例配分でストップ高に張り付き異彩を放っていた。これはいわずもがな日本生命が同社へTOBを実施し全株式を買い取る旨の一部報道によるもので、同社は昨年も国内介護大手のニチイHDを買収しているが国内の現役上場企業に対してのTOBはこれが初の案件ということになる。

ところで生命保険会社による上場企業の買収は、昨年に当欄でも取り上げた第一生命HDのベネフィット・ワンが記憶に新しい。パソナグループの子会社だった福利厚生代行サービスの同社へは第一生命より先に医療情報サイト大手のエムスリーがTOBを実施中だったものの、最終的には第一生命が同社を手中に収めている。その辺はともかくも他には住友生命も医療データ解析大手のPREVENTを買収している。

いずれにせよ日本生命はこの日本最大級のデータ蓄積量を誇る企業買収でヘルスケア関連事業の基盤を固め、保険事業の基盤を強化したい狙いだ。前回も書いたが少子高齢化・人口減少で国内の生保市場は中長期的な縮小が避けられず、収益の多様化を図るべくその事業開拓が急務となっており、生保トップに君臨する日本生命でさえ斯様な買収劇に動くさまはこの辺を象徴しているといえ今後もこうした動きが続くか。


株高下で二極化

本日の日経平均は続落となったが5万円の大台は維持、日経平均の関税ショックの安値からの上昇率は60%を超え斯様な株高資産効果から大手百貨店では外商等の売り上げが前年同期比で増加し、輸入高級車も販売も伸びるなど高額消費が盛り上がっている旨が今週アタマの日経紙総合面で報じられていた。同紙によれば物価高と賃金の伸び悩みが続く中でも株高に伴って1兆5000億円の消費押し上げ効果を見込むとの試算もあるという。

そういえば先にロールスロイスは100周年記念ファントムをアジアで初めてお披露目しているが、同社の日本国内の販売台数は今年上半期で昨年の185台に対して228台と前年同月比123.2%増となっており先月は単月で過去最高を記録、一昨年はフェラーリがアジア最大級のショールームをリニューアルオープンしているが、同社も先月の新車販売台数が単月として過去最高を更新している。

以前に当欄で書いた三越伊勢丹の「逸品会」に行った際にはコーンズがエントランス付近でこれら輸入車の展示・販売を行っていたが、この時も過去最高を更新していたからそれ以降も毎年のように塗り替えていることになるか。その「逸品会」だが今年も9月に開催されており外商さんが走り回る中で文字通りの逸品を見て回るだけでも楽しいが、同時期の開催としては過去最高の売り上げを記録した模様だ。

斯様な高額消費喧しい裏では、株高など無縁な向きの物価高と実質賃金の伸び悩みに伴う節約志向は根強い模様だ。数年前に逸品会を書いたあたりからこうした傾向は強かったが、当時から日経平均は今や8割高の水準、この分の資産効果も消費に乗ってくるわけだから上記の記録更新も納得だが、そういった意味でも今後はますますこうした二極化の光景も定着してこようか。


コンテンツ産業の主役交代なるか

米メディア産業に新たな動きが出ている。米動画配信大手のネットフリックスが米メディア大手ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの主要事業を買収するとの報だが、買収は報道されているところでは現金と株式交換を組み合わせ負債込みで820億ドル規模になる見込み。ネット動画配信の普及でテレビ部門は成長が鈍化、映画製作コストも膨らんだことで収益が低迷している構図を如実に反映した今回の買収劇だ。

この買収が叶うとなると動画配信サービスシェアは現在首位のアマゾンプライムビデオを抜き34%にのぼることで米司法省は独占禁止法に抵触しないか調査するとも報じられているが、多くの手が挙がったなかでネトフリが競り勝ったともみられていた今回の買収劇も、今週に入ってから米メディア大手のパラマウント・スカイダンスがネトフリを上回る額で対抗買収提案を出してきている。斯様なTOB合戦は日本でも今や見慣れた光景にもなってきたが、ここに政権の壁が立ちはだかる可能性も出てきた。

パラマウントCEOの父はトランプ大統領に近い献金者で同氏の介入観測もここへきて囁かれている。上記の通り米司法省の調査などこれだけの規模になると規制当局の承認が必要ともいわれるが、トランプ大統領が敵視するリベラル系のネトフリが予定としている来年の第3四半期にはれてこの案件を完了出来るのかどうか、ハリウッドの勢力図が塗り替わる案件だけに今後の動向に目が離せない展開になってきた。


金と悪魔の金属

米予測市場のポリマーケットでは昨日の段階でFRBが25ベーシスポイントの利下げを実施する確率を95%としている。斯様な利下げの観測やFRB議長人事を巡る思惑から現物資産の魅力が高まり、調整一服の金(ゴールド)や銀(シルバー)などの貴金属が再度投資マネーを引き付けている旨の記事を先週の日経紙で見かけた。ちなみに国内でも今月に入ってすぐに金の小売価格は約1か月ぶりに最高値を更新してきている。

また上記の通りゴールドと共に急伸著しいのが“悪魔の金属”とも称されているシルバーで、これまた今月に入ってアジア時間の取引で58.94ドルの高値まで買われ年初からはや2倍以上の水準にまで高騰している。シルバーについては当欄で10月に一度取り上げているが、国内ETFでも指標格の三菱UFJ純銀ETFは再度その10月に付けた高値をうかがう展開になっており、WisdomTree銀上場信託は先週に10月高値を更新してきている。

ゴールドに関してはステーブルコインを発行する企業がその裏付け資産として金を保有する動きが顕著になってきているが、今年7~9月期には中銀の中で最大の買い入れ額だったところを上回る額を購入している。これら新たな大口の買い手の存在の他にも一部ではAI関連株などからの乗り換えを指摘する向きもあり、こうしたセクターローテーションの一環として物色対象になるなども相俟ってまだまだ投資マネーを引き付ける動きは続きそうだ。


裏原系デザイナー創業が上場

先週末に東証グロース市場には株式投資型クラウドファンディングを展開する「FUNDINNO」がはれて上場の運びとなった。米では既にイーーロンマスク氏率いるスペースXなどの超が付く未上場ユニコーン企業株式の売買を仲介する整備が進んでいるが、未上場株取引を主力とする新興企業が上場するのは日本では初のこと。注目の初値は公開価格620円を42%上回る883円となりあと続伸し900円で引けたが2日目の今日は急反落となっている。

IPOでもう一つユニークなところで上場後も堅調持続しているのは、先月末に同じく東証グロース市場に上場したデザイナーのNIGO氏が創業したストリート系ファッションを代表するブランド「HUMAN MADE」か。アパレル以外にも雑貨から飲食事業まで手掛けるが、こちらの注目の初値は公開価格3130円を9.9%上回る3440円となり、今月に入ってからは上場5日目に4900円の高値まで買われている。

NIGO氏といえば90年代には裏原系のファッションブームもけん引した人物だが、HUMAN MADEの前にはAPEなども大ヒットさせている。斯様に一デザイナーが主導し上場までこぎつけた様を見るに、東証スタンダード市場に上場するフレンチレストランのひらまつが頭に浮かぶ。ここも料理人の平松氏が西麻布のレストランからJASDAQ、そして東証二部から東証一部にまで順次昇格させてきた企業だ。

HUMAN MADEはこれまでコカ・コーラ社やアディダスなど著名なカジュアルブランドから20年にはヴィトンなどラグジュアリーブランドともコラボを行ってきたが、コロナ明けから今年までその売り上げは6倍以上に伸びてきている。上記のヴィトンも擁するラグジュアリー複合企業よろしく、同社の事業の多角化が上場後にうまく回せてゆけるかどうか今後も株価と共に注目しておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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