関税政策で二番天井?

本日の日経紙グローバル市場面には「コーヒー豆相場 収穫順調も高値」と題して、主要なコーヒー豆生産国の収穫は順調なものの、米国の関税政策によるコーヒー豆の流通にゆがみが生じていることで需給の逼迫が意識されアラビカ種を中心に再度上昇基調にある旨の記事があった。同商品のICE(米インターコンチネンタル取引所)先物相場は今年2月につけた最高値に迫る勢いとなっている。

このコーヒー豆もカカオ豆と共に近年の高騰の影響で国内でもネスレ、UCC上島珈琲、味の素AGF等の大手が度重なる値上げを敢行、これはチョコレートも同じだがコーヒーの方が肌感覚ではまだ値上げがマイルドな感じがする。もっとも収穫が順調ということであれば、関税自体の引き下げなど環境変化で収穫が戻ってきたオリーブオイル同様に相場が下落に向かう可能性もあるか。

相場下落といえば上記のカカオ豆も年初には二番天井を付けにゆくかっこうで再度の急騰を見せていたが、こちらも今年度の収穫量が前年度を上回る観測や所謂“レーショニング”もあり指標のロンドン先物相場は年初の高値からはや半値水準にまで急落している。とはいうものの世界の在庫自体は低水準であり、コーヒー豆とて所謂“コーヒーベルト”土地の半減観測も燻っていることなど再燃素地が残っているだけに今後も相場動向には注視しておきたい。


ミーム化でETF異常乖離

さて今週も金の国内小売価格が史上最高値を更新したが、そんな裏で東証が純金ETFに対して受益権1口あたりの市場価格が純資産額にあたる基準価格と比べて高い状態で推移する傾向が継続していることで注意喚起を実施している。同ETFが上場来の高値を更新した先週17日の金先物生産価格をベースにした理論価格に基づく1口(約0.94グラム)あたり基準価格は20,553.99円であったが、この日のザラ場高値は25,740円まであった。

また今週に入ってからはWisdomTree貴金属バスケットについて、同日取得した外国の主たる金融商品取引所における直近の値段を円換算した値が先週設定した基準値と大幅に乖離したことで20日の基準価格を変更して成り行き注文も金下旨を告知している。これで思い出したのが昨年はじめに日本株に連動するETF「チャイナAMC野村225」に中国の投資家が殺到し取引が一時停止に追い込まれた件か。

日経平均が約34年ぶりの高値を付けるなか、資本規制に縛られ海外株式の口座もないドシャ降りの本土株急落に見舞われた投資家が利便性の高いこのETFに我先に食いつき売買停止前には純資産に対するプレミアムが10%近くに上昇していたものだ。足元では先週も書いたように田中貴金属がスモールサイズの地金販売が停止に追い込まれるなどしているが、そうした向きの資金がETFに大挙している構図はなんともこれに似てはいないか。

そんな狂乱相場も21日のNYでは金先物価格は1日としては過去最大の下落幅を記録、上記の国内ETFもこれに加え東証や運用会社側の注意喚起の影響から一転して急落の憂き目に遭っている。FXもかつて“ミセスワタナベ”なる造語が闊歩していた時期があったが、なかばミーム化した「金」もイナゴ勢含めた投機買いの影響力が無視できない水準まで増してきており昨今の金需要の構成図も彼らによって比率が塗り替わりつつある。


プアマンズゴールド

今週は連休明けに金の小売価格が初めて22,000円を突破している。金といえば前回「初の20000円大台」と取り上げたのが先月末であったが、そこから2週間そこそこで10%高であるから上昇ピッチの速さがうかがえる。思わぬ高騰の余波か直近では10金製の都議会議員バッジがネットオークションサイトに出品され落札されていたとの報があったが、ちなみに今年6月に当選議員に配られたバッジの単価は47,355円と前回配布時の約3.6倍になっているという。

こんな話題の金の裏で同じく急騰しているのが「銀」か。米が銀にも関税を課すとの警戒感から米向けの輸出が急増しこれがロンドンでの品薄に拍車をかけた格好となり、先週には国際価格の指標となるロンドン現物1トロイオンスが1980年以来、45年ぶりに節目の50ドルを超え連休明けには53ドル超まで値を飛ばしている。銀といえば“ハント兄弟の買い占め”が有名だがそれをも塗り替えたことになるか。

そういえば数年前には米の“イナゴ集団”ロビンフッダー達がこの銀ETFを集中的に買い煽った事もあったが国内ETFも物色の矛先が向かい急騰している。代表格の三菱UFJの純銀上場投信は昨日にザラバ高値25465円まで大幅続伸し上場来の高値を更新、またETFSECのWisdomTree銀上場投信も連休明け日経平均が急落するなか初めて7000円の大台を超え、こちらも本日は3日大幅続伸し上場来高値を更新している。

金と比較し小粒な時価総額の銀はその規模から並行的に物色されるにしてもその上昇率は金を軽く上回る。そういった事で投機買いも少なくないだろうが、国内大手地金商では金同様にインフレヘッジや資産保全を目的とした購入が顕著化し現物の地金を発売すると数日で完売する現象が毎週続いているという。金地金も小サイズのインゴットの生産が追いつかず品薄状態になっているというのを見るに、購入層が末端まで拡大してきたさまがうがかえる。


データセンター銘柄乱舞

本日の日経紙一面には「日立、送配電1.5万人採用」と題し、電力を大量消費するAI(人工知能)向けデータセンター増加により世界的に送配電能力が不足していることで電力インフラの増強を支えAI普及を後押しする旨の記事があった。この報道を受けて本日の日立製作所の株価は3日ぶりに急反発していたが、こうしたマンパワーもさることながらデータセンター向けに需要好調で供給不足が鮮明となっているのが銅か。

銅の国際指標となるLME(ロンドン金属取引所)の3か月先物は先週段階で1トン1万820.5ドルと昨年に付けた史上最高値に迫っている旨も同じく日経紙のグローバル市場面にも出ていたが、これら関連株も暴騰している。三井金属は昨年の関税ショックで付けた安値3255円から昨日は14290円の上場来高値を付けているが実に株価は約4.4倍に大化けしており、住友金属鉱山も同じく昨年4月の安値から昨日の年初来高値まで約2.3倍に化けている。

こうなってくるとまた懸念されるが各所でのあらゆる銅製品の盗難事件か。私の知人も太陽光パネルの発電所で銅線ケーブル盗難の被害に遭い、会社ではエアコンの室外機も狙われた話をついこの間聞いたが、警察庁によれば昨年1~11月の金属盗難件数は暫定値で約2万件にものぼり既に20年以降で年間最高件数を記録しているという。需要急増に加え世界最大級の銅鉱山で事故も起きた事で投機筋も建玉を増加させており最高値更新を視野に各所対策が求められそうだ。


初の20000円大台

さて今月に入ってすぐの当欄では「初の18,000円台」と題し、金の国内小売価格が初めて1g18,000円を超えてきた旨を書いていたが、月が変わらぬうちにこの金の小売価格が昨日初めて1g20,000円の大台を超えてきた。なんとも上げのピッチが加速してきた気がするが、もう少し長いスパンで見ても金価格が初めてg10,000円の大台を超えたのが2023年、それからほぼ2年で価格が2倍になったわけである。

斯様な状況であるからNISAの成長投資枠でも使えるETF等も然るべしで、本日の三菱UFJの現物国内保管型の純金上場信託は19,000円の大台に乗せて高値引けし年初来高値を更新、老舗?のSPDRゴールド・シェアも年初来高値を更新し、iシェアーズゴールドETFや野村の金価格連動型上場投信、同じく野村の金先物ダブル・ブルETNなど揃ってどれも商いを伴って年初来高値を更新してきている。

思えばウクライナ侵攻が始まった頃に当欄では「金の過去最高値をチャンスとばかりに手持ちの金製品を買い取りショップで換金して帰る顧客の満面の笑顔と、戦闘の極限状態にある現地の恐怖に歪む人々の生々しい顔の対比が実に残酷に映る」と書いたものだったが、そうした地政学リスクも恒常的なものとなり、最近では値上がりにつれて当時と比較し新規購入の向きも大きく伸びているという。

気付けば世界の外貨準備に占める米ドルの比率も99年には7割を超えていたものだが、米ドルに対する信認低下も相俟って昨年はこれが6割を切る水準になっている。いまだトランプ政権とFRBのゴタゴタが続いているが、そういった事も背景に各国中央銀行は粛々と金を積み増しておりこうした“浮動玉”の吸い上げが近年のトレンドに寄与している面も否めないか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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