松井冬子展を観る

さて、18日にとうとう終了してしまったが、昨年末から開催されていた「松井冬子展-世界の子と友達になれる-」を過日観て来た。十年近く前だろうか、彼女の季節感が存在しないさまざまな花が咲き乱れるなかで解剖図の如く全裸で横たわる女性が描かれた「浄相の持続」を観て以来、彼女の世界に引き込まれてしまい以降ほとんどの作品を彼方此方追いかけて観ている。

今回は横浜美術館であったが、今回のような日本画であれば此処へは東山魁夷展以来の記憶であるから随分ご無沙汰である。それは兎も角、今回は代表的な九相図の作品から三点、また昨年の物含めた作品三点などの初公開モノが含まれ、加えて珍しいデッサン段階の絵も見せてくれるという垂涎企画であったが、果たして以前観た物も含めやはり何度観ても素晴らしいの一言、何れも最終形を諦観して生きるのでなく生きる為に最終形を想うという世界だろうか。

もちろん、今回の題目「-世界の子と友達になれる-」も圧巻、咲き乱れる藤と夥しい数のスズメバチが狂気に変わる直前の崩壊の予兆に絡めて見事な演出をしていた。彼女の作品は比較的賛否両論がはっきり分かれる方だろうが、お約束の解剖図の如き作品でも夫々の臓物を鮮やかな花の如くの描画で纏めており、こんな高等感覚と下等感覚を相互に覚醒させるような形で自己確認を引き起こさせるのは彼女くらいだろう。まあ、こんなややこしい表現の前にこれらを描くことで真実を見つめるということなのだろうか。

もうじき千鳥ヶ淵も桜が咲き乱れるだろうがそんな光景を見る機会があったら、途端にきっと彼女の見事なシンメトリーの桜を描いた「この疾患を治癒させるために破壊する」が瞬時に思い出され、目の前に展開する光景と重なるのは想像に難くないことだろう。


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