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アクティビストなき後

本日の日経紙投資面では「大日印「改革」進化問われる」と題し、これまでPBR改革などを掲げて自社株買いはじめ意欲的な経営目線で株価を上げ市場を沸かせてきた大日本印刷が、足元で物言う大株主が姿を消した事や自社株買いの減速などもあり、日経平均や競合他社等と比較するにアンダーパフォームするなどここ下落基調が目立っている旨が書かれていた。

同社株といえば物言う株主の米エリオット・インターナショナルやエリオットの関連会社とみられるザ・リバプール・リミテッド・パートナーシップらが大量保有し、当欄でもJPXプライム150指数が算出を開始した頃に「個人的にはPBRが0.6倍台から様々な株主還元を打ち出しPBR1倍に向かう過程で大化けした大日本印刷のような銘柄に大いなる魅力を感じた」とも書いたことがあったが、足元の低迷で同社株は本日の引け段階でPBRも0.7倍台に戻ってきてしまっている。

この手の株主はイグジットしてなんぼの世界で成果が上がれば売り抜けるのは自然な流れだが、米エリオットはそんな中でもオーセンティックな位置づけにあっただけにそれなりの“ロス感”も強かったか。物言う株主の中には取締役まで送り込んでも直後の株価急騰局面で全株を売り抜けたパターンもあり全てが経営にコミットするという期待感は持たぬ方がよさそうだが、構造改革促進という部分では間違いなく刺激となっており今後も彼らの参入で日本企業の株主還元等のスタンスが変わってくるのは間違いなさそうだ。


潮目を変えた同意なき買収

本日の日経平均は円高の進行を受けて3営業日ぶりに反落となっていたが、そんな地合いのなかでも温度センサー最大手の芝浦電子など本日は年初来高値を更新するなど堅調さが目立つ。同社株は2月の3000円水準からほぼ倍近くにもなっているが、同社といえば台湾の電子部品大手の国巨(ヤゲオ)から“同意なき買収提案”を受けていたのを撥ね、ホワイトナイトとして登場したミネベアミツミのTOBを受けると発表している。

同意なき買収といえば芝浦電子と並んで昨年末から報道が多いのがニデックによる牧野フライスへのTOBか。今回は牧野フライス側が一貫してこれに反対を表明し新株予約権等の対抗策を巡っては既に法廷論争にもなっているが、直近ではTOB終了までに投資ファンド等を含む“ホワイトナイト”がこれまた現れるとも報じられておりこちらは株主総会まで縺れそうな気配だ。

上記のニデックは既に工作機械メーカーのTAKISAWAに対して同意なき買収を成功させているが、日経紙が実施した国内主要企業の「社長100人アンケート」では経営者の45.8%が同意なき買収を受ける可能性や対応を取締役会で議論したと回答したほか、自社のM&A戦略で同意なき買収が選択肢に入ると回答した企業も4割近くに上った旨を同紙で見た。

前にも書いたが経産省は23年夏に、企業が買収提案を受けた際、企業価値向上に繋がる真摯な提案を理由なく拒んではならない旨の「企業買収における行動指針」を策定しており買収に関する潮目は確実に変わって来ている。そういった事もありこれら“同意なき買収”は不可逆的なもので今後もこうした流れが続いてゆこうが、経営陣も資本市場との向き合い方を変え以前にも増して緊張感を持った経営が求められようか。


あの時の面々揃い踏み

さてトランプ関税とは別のところで一連の騒動による問題を抱えているフジメディアHDだが、先週には旧村上ファンド代表であった村上世彰氏の長女である野村絢氏が個人で8.96%を保有する筆頭株主に躍り出たことが明らかになっている。そんなわけでこの米トランプ大統領の関税ショックで彼方此方の株価が急落するなかでも同社株はさまざまな思惑を乗せて先週には年初来高値を更新してきている。

同社株については当欄でも年明けに一度触れており、20年前のライブドアを介したニッポン放送株取得によるフジテレビ経営の関与を目論んだ実業家の堀江氏の同社株式取得を書いたが、この直後に同社株取得に動いていたのが運用会社のレオス・キャピタルワークス。そしてこのライブドア事件の騒動の時に堀江氏と共にインサイダー取引で逮捕されたのが村上ファンドの村上氏であったわけだが、20年の時を経てその村上氏の長女が筆頭株主に躍り出てきたあたり因果なものだ。

ところで直近では7.19%を保有する別の物言う大株主の米ダルトン・インベストメンツが同社に取締役候補としてSBIHDの北尾会長兼社長はじめ総勢12名を提案するとの報道があった。ちなみに上記のレオス・キャピタルワークスもSBIHD系だが、この北尾氏といえば上記のライブドア騒動では“ホワイトナイト”として登場し、ライブドアにニッポン放送株を手放させて和解に持ち込ませた人物。こちらもまた因縁を感じるが気が付けばかつての東芝並みにキャストが出揃っている。

株主提案というところでは筆頭株主の野村氏の場合、直近で急速に株式を取得しその保有期間から提案の要件は満たして無くその権利は無いだろうが、これまでも大量取得した上場株式のイグジットにおいて企業再編に絡んできた経緯は少なくない。ダルトンにしても認定放送持ち株会社特有の壁などあるが、いずれにせよ6月の株主総会に向けてそれぞれのキャストがどういった行動に出るのかまだまだ今後も目が離せない銘柄の一つだ。


揺らぐ安全資産の信頼性?

本日は金価格が1トロイオンス3291ドルを超えて週明けに記録したこれまでの最高値を上回ってきた。長年安全資産とされてきた天下の米国債価格が急落し長期金利の上昇幅は23年ぶりの大きさとなり、幅広いリスク資産に売りが出る一方でこのゴールドにマネーの逃避が進んでいる。しかし米国債といえば通常では株式の急落時などでは真っ先に矛先が向うものだが一緒くたに売られる今回の光景はなんとも不気味だ。

今後もこんな動きが続いて米格付け大手が米国債の格付け引き下げに動くようなら、自ずとヘッジファンドなども運用金融商品の入れ替え等で更に売られスパイラルに株安ドル安と連鎖しかねないがはたして何処が売っているのだろう?米ヘッジファンド説、中国政府説、はたまた日本の金融機関説まで出ていたがこの辺の憶測に関しては直近で農林中金の理事長は「そういった事実はない」と否定している。

海外投資家が直近で保有していた米国債は総額で約8兆5000億ドル、この規模は米証券業金融市場協会が推計した発行残高の約30%に相当するという。そのうち保有トップは日本の1兆793億ドル、2位に中国の7680億ドルと続くわけだが、この度の市時混乱にて米国債は或る意味アキレス腱との見方が出ている。日米の関税交渉ではヘッジファンド出身で金融市場を熟知したベッセント財務長官が担当だが、さてこの辺も交渉カードの一つになり得るのかどうか成り行きを注視したい。


前倒し統合

さて、2年ほど前だったか当欄ではイオンが9年前にウエルシアHDを子会社化したものの業界再編に関しては会社提案による経営体制の下で協議を進めることが適切と淡々と述べていた旨を書いた際に末尾では「今後も物言う株主の圧力が結果的にイオンの背中を押し更なる再編に向けての動きが起きるかもしれない。」と書いていたが、先週にはウエルシアHDとツルハHDが2025年内の経営統合を決めることとなった。

当初の計画では2027年までの経営統合を目指して協議していたものだったが、この当初計画を2年も前倒しするという事になる。この経営統合によって3年間で500億円のシナジー効果を見込むというが、いずれにせよこれまでドラッグストアの売り上げとして1兆円超えが1~3位まで横並びであったもののこれで業界では一気に2兆円規模のガリバーの誕生となる。

ところでイオンの社長が会見にて大きな競争力を持つドラッグストア云々と言っているくだりで、「唯一無二」を「ゆいいつぶじ」と読んでいたのがどうも気になってしまったが、まあその辺はご愛敬として3位のマツキヨココカラが両社の統合で当時飛躍的な経理効率の上昇がみられたように、この度の統合も圧倒的なスケールメリットを生かしていけるかどうか注目されるところだ。

この前倒し劇の背景の一つには昨年にアマゾンがスマホから処方薬の配送が出来るサービスを開始し楽天やGMOなど他のネット系大手もこの分野に参入してきている危機感等もあろうが、昨日公表があった総務省の人口推計でも日本の総人口が14年連続の減少となるなど人口減で今後も市場縮小が顕著になってゆくというベースがあるだけに今後もこのガリバー誕生で業界再編劇が終演することはないだろうか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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