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背伸びより身の丈

東証の市場再編からはや1年以上が経過したが、基準未達のまま最上位のプライム市場に残っていた269社の企業の中から、今年4月から6か月間限定で無審査にてスタンダード市場への移行を認める特例措置の期限を前にしてこれを使って同市場に移る意向を示した向きが48社に達した旨が先週の日経紙一面を飾っていた。

これらの面子をザッと見てみると東証に提出した計画に則し改善努力の末に何とかなるのではという企業もあれば、単に時間稼ぎにしか見えないような一寸難しい企業もありというところだ。いずれにせよ申請期限が切れるまでにはこれよりも更に倍増する見通しというが、いざ監理銘柄扱いにでもなろうものなら株価下落等でそれこそ時価総額基準達成が遠くなるリスクも孕むだけに背に腹は代えられないといったところか。

しかし当初でこそ経過措置も期限が明確化されず曖昧な救済措置と揶揄されたものだったが、期限を決めPBR改善要請と併せ名ばかりという汚名を返上し着実に絞り込みが始まった感がある。また今回の断念組も上記の通りそれなりに自社株買いや増配の実施に努めるなど曲がりなりにも具現化の動きがあった事はこれまでとは違った景色に映る。

こうしてみるとプライム市場の上場維持基準を十分満たしながら最初からあえてスタンダード市場を選んだ企業、取り敢えず未達でも猶予期間はプライム市場のブランドに噛り付いておこうという企業等々、この市場再編はこれまで見えにくかった個々の企業キャラが可視化されて面白い。この辺は総じて株価にも色濃く表れており今後も市場の目がより一層そうした部分に向かう事になるのは想像に難くないか。


ジェンダーギャップ2023

さて、先月はWEF(世界経済フォーラム)が恒例の「ジェンダーギャップリポート」を公表しているが、はたして日本は全146か国中125位であった。昨年の順位は116位であったがそれから9つ順位を落とし2006年の調査開始以来で過去最低、G7主要7か国で最下位のほか東アジア・太平洋地域でも最下位となった。

100位圏にすら入れないのは何とも情けないが、個別でも昨年1位に輝いた教育分野は女性の高等教育の就学率低下から47位に急落、また昨年139位でワースト10に入った政治分野は1ランク上がったとはいえ138位で依然世界最低水準となっており、昨年121位であった経済分野は賃金の男女格差や管理職の割合で改善が進んでいない事を反映し123位と2ランクダウンとなっていた。

この経済分野に関して政府は先月に東証プライム市場上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標等を盛り込んだ女性版骨太の方針を決定しているが、全体で2位のノルウェーは女性役員40%を達成できない企業には裁判所が解散命令を出すなどドラスティックな政策を取った結果わずか6年で40%超の水準を達成している。まあ今の政府に斯様な政策が真似出来ようも無いが、骨太といかにも頼もしい響きが骨抜きなどという事にならぬよう具体的な成果が望まれるところだ。


忖度市場

昨日LVMH傘下の高級宝飾ブランドであるブルガリが海外のウェブサイトで台湾を中国からの独立国のように扱っていると、中国のソーシャルメディア上で批判された事を受けて謝罪する声明文を出した旨をロイターが報じている。同社にとって戦略上重要な消費地だけに迅速な対応というところだろうが、ラグジュアリーブランドのこの手の問題はこと中国絡みでよく目にする。

今回と一番よく似タパターンではちょうど4年くらい前だっただろうか、あの香港政府に対するデモ活動で緊張が高まっていた中、伊のベルサーチがTシャツのデザインで北京と上海を中国として表記していた一方で、香港とマカオは中国ではなくそれぞれが別の国として「HONG KONG」などとプリントされていた事で炎上した一件がある。

これに続くかのように米コーチや仏ジバンシィも其々発売した同じくTシャツが同様のデザインであるとして謝罪文を各々SNSに掲載した経緯がある。迅速な火消し?を講じたものの、アンバサダーとして契約していた中国人の女優やモデルは契約解除などの声明を出すに至ったが、幾多の不買運動含め改めて政府と国民が外交関係で一体化し連動している踏み絵のような市場という事をこの手のニュースが出る度に思い知らされるものだ。


消費二極化

毎月初めにその月の食品値上げ等に触れているが、本日の日経紙一面では「低価格PB倍増160品目」と題しメーカー製のNB(ナショナルブランド)の食品・日用品など生活必需品の値上げが進むなか、セブン&アイ・ホールディングスが低価格品を倍増するなど大手流通のPB(プライベートブランド)商品が節約志向を強める消費者の受け皿となっている旨が出ていた。

今やPBは週1回以上購入するという向きが4割にも上りその存在感が高まっているが、業界団体の調査では食品スーパーでPBを扱う割合が昨年は前年比で5.9%上昇して76.5%に達し、比較できる過去6年で最も高い水準となっているという。上記のセブン&アイ・ホールディングス以外でもイオンなどPBを高価格帯・低価格帯で更に再編する動きも見られる。

斯様にPB商品については低価格志向を強めるモノと、ハレ消費や自分の拘りなど個性を重視する二つの方向が今後より明確化してくる可能性も見据えた企業の対応ともいえるが、終わらぬ値上げラッシュでスーパーの価格戦略の重要性が高まるなか、このプライベートブランドは競争力を左右する要因の一つとなるだけに各社の舵取りが問われる。


JPX150算出開始

JPX(日本取引所グループ)は先週から「JPXプライム150指数」の算出を開始している。この構成銘柄は東証プライム市場に上場する企業からROE(自己資本利益率)から資本コストを引いたエクイティスプレッドの上位75社を選び、これを除いた企業の中から当期PBR及び当期と1期前のPBR平均値が共に1倍を超える時価総額上位75社を選出したもの。

ザッとその面子を見てみると組み入れ比率上位にはソニーGはじめ先に大幅分割を実施したNTT、キーエンス等のほか日経平均には採用されていないニトリHDやZOZOなどが並んだが、一方で時間総額日本一のトヨタ自動車はじめパナソニック、ホンダやソフトバンクなどの日経平均高寄与度銘柄は除外されるなど忖度?しない作りに仕上がっている。

とはいえ選りすぐられた優等生勢のパフォーマンスに他指数をアウトパフォームする伸びしろが期待出来るのか?個人的にはPBRが0.6倍台から様々な株主還元を打ち出しPBR1倍に向ける過程で大化けした大日本印刷のような銘柄に大いなる魅力を感じたものだったが、JPX400の憶えもあるだけにこの辺は今後も注視してゆきたい。

しかしこれだけ篩にかけると銘柄もそれなりに絞り込まれるというワケだが、米のS&P500など絞ろうが無造作に切り取ろうがこのJPX150の条件を満たしているあたりが根本的に違う。JPXのCEOは記者会見で「構成銘柄に選ばれたいという指数にしてゆきたい」と述べていたが、いずれにせよエクイティスプレッドは企業価値創造の源泉でありこの新指数登場で幅広い企業がこの指標を意識してゆくようになるかどうかが鍵になるか。


5年ぶりの歓喜

さて、一昨日の日経紙夕刊・明日への話題は作家の林真理子氏の執筆で、「コロナが終焉を迎えるにつれ、海外のオペラ劇場が次々と来日し始めた。」という書き出しであったが、この手では先月に大盛況のうちに東京公演が終了した世界的エンタメ集団のシルク・ドゥ・ソレイユの5年ぶりの日本上陸が個人的に感慨ひとしおであった。

前回の「キュリオス」以来の日本公演になるが、思えばちょうど3年前の今頃に飛び込んできたシルク・ドゥ・ソレイユ・エンターテインメント・グループが会社更生手続きに入るとの報は本当に衝撃であった。そんなシルク・ドゥ・ソレイユがパンデミックの嵐のなか再建復活を果たし、その最初の日本上陸の演目が「アレグリア」=歓喜になったのは1996年のこの演目の第1回目からのファンにとって嬉しい限りであった。

今回はノベルティグッズのラゲージタグに旧ビッグトップテントの生地を使用するなどSDGs喧しい今ならではという感じであったがやはり各演技が圧巻、定番のパワートラックなど体操競技経験者だけについその目線で観てしまうのは毎度のことだが、エアリアル・ストラップなど初回公演及びアレグリア2とは異なる情趣に富む艶が非常に新鮮であった。そして生の歌や演奏もまさに歓喜、東京公演では来場者が50万人超となった模様だが新生シルク・ドゥ・ソレイユの今後の活動が楽しみで仕方ない。


節税包囲網

一昨日は相続税などの基準となる土地の価格「路線価」が公表されたが、全国の調査地点の平均は2年連続で上昇しその上げ幅も大きくなるなどコロナ禍からの回復傾向が鮮明になっている。ところでこの路線価などを基に計算しているマンション等の評価額に絡み国税庁はその評価額を見直し新たな相続税の算定ルールを先月末に発表している。

この所謂タワマン節税を巡っては当欄では2016年に「美味しいタワマン」と題し、富裕層を中心とした相続対策として高層階との値鞘を利用した評価額のトリックについて触れていたがあれから7年、漸く国税も重い腰を上げたという格好になっている。現在の評価額は全国平均で実勢価格の約4割に抑えられているが、最低でも実勢価格の6割とする方針となる。

しかし節税を巡ってはこのタワマンより前に会社経営者などに大ヒット?したモノに逓増定期保険もあったのを思い出す。保険特有の課税ルールの穴を利用したモノであったが、法人から個人への名義変更で自らの実質の支払い額に対して実に約4倍近くのものを受け取れるなんとも美味しい保険であった。相続税の裾野は富裕層に限らず広がってきており市場変化に対応する柔軟な運用が求められるものの、今後も抜け穴をつくいたちごっこは続くだろう。


22年通年超え

今年も早くも折り返して後半戦に入るが今月も値上げラッシュが止まらない。帝国データバンクによれば3500品目以上が値上げ予定だが、今年は現時点で記録的な値上げラッシュとなった22年通年を超えたという。とりわけ今月は輸入小麦の政府売り渡し価格が4月に引き上げられた事で、パン製品だけで1500品目以上と全食品分野で約44%を占め最多となるのが特徴的だ。

これらザッと挙げても日清製粉ウェルナが家庭用小麦粉・ミックス等で約2~4%、ニップンが同約3~15%、昭和産業が同約2~6%、パン類では山崎製パンが食パン・菓子パンなどの出荷価格を平均7.6%値上げ、フジパンも同約7.7%値上げ、敷島製パンも同約5~7%値上げする。こう書いてみるとちょうど1年前にも小麦値上げで同じ品目を当欄で書き綴っていたなと思い出される。

また外食系ではちゃんぽんのリンガーハットが5日から値上げ、マクドナルドでは19日から都心部の約180店舗で一部商品を値上げするが、1年も経たずに3度目の値上げとなる。そういえば電力会社からは料金値上げの知らせが過日届いたが、今月の値上げ品目のうち電気代を理由にするモノは2割超となっており今後こうした部分の負担も徐々に増してゆくのは想像に難くないか。


株主総会2023

国内の3月期決算企業の株主総会は先週に集中日を迎えたが、先に挙げたアクティビスト絡みの企業に続き注目されていた東芝株主総会では会社側提案の取締役が可決され投資ファンドによるTOBの受け入れ決定が一定の理解を得られた形となった。今後TOBが順調に進行するかどうか注目されるが、TOB絡みではもう一つ、TOBを目指す株主提案が一部可決されたマリコン大手の東洋建設の株主総会もなかなか注目度が高いものであった。

同社の大株主となり1株1000円でのTOBを提案していたのが任天堂創業家の資産管理会社YFOであったが、これが1年以上を経て決裂した結果この度の取締役候補を掲げた経営陣の刷新であった。これを迎え撃つ形で会社側も現在の経営陣を軸とした取締役候補を提案していたが、はたして接戦の末に選ばれた取締役候補のうち過半数をYFOが占め実質的な勝利を勝ち取ることとなった。

今後同社は新たな経営陣によってTOBを検討してゆく事になろうが、先週取り上げた日本証券金融もアクティビストファンドの提案こそ否決されたものの、同ファンドが日銀の天下りと批判をしていた社長人事に関して次期社長については同社上場以来続いてきた日銀などの公的部門出身からは選ばない方針を明らかにしている。まだ提案の否決が大勢のなかにあっても株主主導の経営改革が少しずつ具現化してきている胎動を感じた今年の総会であった。


分断の影

昨日の日経紙投資情報面には「ESG株主提案、支持低く」と題し、米国の株主総会で今年初めから今月12日までに米企業に出されたESG(環境・社会・ガバナンス)提案への平均賛成率が22年通年から低下し、ESG投資が本格化する前の16年以来の低さとなるなどこの推進を求める株主提案への支持率が下がっている旨の記事があった。

既に企業側も気候変動対策などESGへの対応を進めており株主提案に賛成する意義が薄れたと考える株主も増えているようだが、確かに過去最高益を叩き出しその株価も1年で4~6割の上昇を演じ過去最高値を更新した米エクソンやシェブロンなど、それぞれ二酸化炭素の排出削減や、二酸化炭素回収・除去技術開発への投資を拡大するなど脱炭素投資への拡大を既に表明している。

ESGを巡る社会的分断については当欄でも先月に取り上げていたが、賛成票の低下には共和党等による反ESGの主張が議決権に影を落とし政治的圧力から株主がESG提案への賛成に慎重になっている可能性もあるというが、反ESGを掲げるウェストバージニア州やフロリダ州から取引を停止されたり、運用資金を引き揚げられた米ブラックロックのCEOはESGという用語が攻撃材料として使われる為に自身としてはもう使うつもりはないと公言している。

運用会社が政治との距離感で苦慮する様がブラックロックCEOの発言に表れているが、それぞれの層からの圧力のなか最良のパフォーマンスに繋がるのは理想主義なのかどうか、上記の各企業の気候変動対策等の動きに引き続き注目しつつ今後米以外でもこの手の株主提案に頭打ち感が出てくるのかどうかも注視しておきたい。


業界と当局

来年からの新しいNISA(少額投資非課税制度)の「成長投資枠」で投資出来る第1弾が発表されているが、昨日の日経紙金融経済面にはこの選定基準を巡って詳細なその条件面などが厳しすぎるなどとして運用業界と金融庁との間で不協和音が生じている旨の記事が出ていた。

この中でも信託期間や毎月分配型など約款変更や追加などを施せば条件をクリア出来る状態になるものもあるが、除外商品を金融庁の条件に合うように作り替えるのが難しいモノとして挙げられるのがデリバティブ系か。侃侃諤諤の末にヘッジ目的に限定したデリバティブ使用の旨を約款に記載すれば条件を満たすことになった模様だが、デリバティブは現場で携わった人間でしか理解出来ない投機の解釈があるだけに何とももどかしい。

今後も上記のように約款を変更するなどして条件を満たしたファンドを毎月追加してゆくはこびとなるが、現場と当局の解釈を巡る温度差をどう縮めてゆくかも課題か。いずれにせよ新生NISAの厳しいとされる「ふるい」が投信の選別を今後加速させることになってゆくのかどうか、この先も注視してゆきたい。