崩れる“時間の壁”

先週末の日経紙一面には「米株23時間取引、12月開始」と題し、NYSE(ニューヨーク証券取引所)にナスダックなど米市場に上場する株式を対象とした23時間取引が12月6日から始まる旨の記事が載っていた。一昨年にNYSEの通常取引時間延長計画を書いたことがあったが、この時間外取引延長で祝日を除く日曜から金曜にかけ午後9時から翌日午後8時までの取引も提供することとなる。

先に世紀のイベントといわれたスペースXのIPOがあったが、これまで米株に手を出したことがなかった多くの投資家も挙ってこの知名度抜群のIPOに参加するなど米国株式に関心を持つ向きが急増している。そうした中でのタイミングでの発表となったが、同時になんといってもポイントはこれで東証の前後場通じての取引時間中に売買が可能になるという点か。

これらが奏功してアジア圏からの米市場への投資が今後増加してくるとなると、IPOを考える企業の中にはより一層米への上場に関心を持つ向きも出てくるのは想像に難くないか。この辺に絡んでは今年の春先にスマートフォン決済大手のPayPayが米ナスダック市場に新規上場しているが、実際に9億ドル近くの資金調達に成功しており今回の件と併せて今後米市場に傾斜する動きが出てくるのかどうかこの辺も注視しておきたい。


個人の存在感

連休明け本日の日経平均は急反発となっていたが、先週はAI・半導体関連株がキオクシア株筆頭に最高値から軒並み半値水準に崩落の憂き目に遭っており、特に“マル信”での買い持ちが蓄積している銘柄ほど追証逃れの叩き売りから下げも鋭角になっていた。ところでこうした向きはそれとして、今月に入って東証が発表した6月第4週の個人投資家の買い越し額が9503億円に膨らみ過去最大になった旨が明らかになっている。

斯様に昨今の株式市場では個人が存在感を高めてきており、東証が今月に入って発表した昨年の株主分布状況では個人株主が前年度比839万人増加し過去最多となった模様。特に自動車や商社ポストなどの株主が増えており、有価証券報告書によれば総合商社大手5社の個人・その他の株主数は“バフェット効果”がかすむこともなく前年同月末比8%増の約190万人とここ3年で4割も増加した模様だ。

この辺に関してはNISA(小額投資非課税制度)を活用する若年層の増加なども大きく影響していると思われるが、近年急増している株主分割も背景にあると思われ上記の商社など一昨年に三菱商事は株式を3分割、また三井物産の方は株式の2分割を実施しており、今年に入ってからは伊藤忠商事も株式を5分割し、直近では今月に住友商事が株式を4分割している。

ひところの“オルカン”投信一辺倒といわれた状況を思い出すに個人マネーの潮流の変化を感じるものだが、個人株主の急増に伴い株主提案のハードルも下がりその資質も問われてくることにもなる。この辺に絡んでは直近で政府・自民党が臨時総会の請求権と共に株主提案権の行使についても「個数要件」を拝する方向との報道も出てきており、引き続き取り纏めに注視しておきたい。


単一銘柄ETF急拡大

さて、先週はETFが分配金を手当てするための日本株売りが計1.7兆円規模であるとの需給イベントが警戒される場面もあったが、ETFといえば当欄でひと月ほど前に「レバレッジの油」と題し、スペースX上場に合せレバレッジ型ETFの上場申請がなされた件や、韓国でも単一銘柄のレバレッジ・インバース型ETFが解禁され投機熱が警鐘を鳴らす領域に入ってきた旨を書いていた。

この韓国と言えば株式市場全体に占める割合の70%をサムスン電子とSKハイニックスの2銘柄でけん引しているが、SKハイニックスは今月に入って米ナスダック市場に上場し公募価格比13%高で初日取引を終えている。これに合せ上記のスペースX同様に複数の資産運用会社が同社株のレバレッジ型やインバース型のETFを投入、これにより米国市場をより直接的に揺さぶり得るとの懸念も出ている。

この辺の背景として米のレバレッジ型ETF残高は今年は2000億ドルに迫る勢いで10年間で6倍に膨張しているが、JPモルガン・チェースによれば投資対象の8割がナスダック上場銘柄で半導体やテック関連で市場が1%動くと約80億ドルの売買需要が発生するという。過熱したETF商品では度々市場価格が基準価格と比較して異常乖離するなどの場面があったのは見てきた通り。

既に上記の韓国市場ではSKハイニックス株でこのパターンが起きているが、投資家に影響を及ぼす弊害も顕著になってくれば新たな規制論もまた出てこようか。今後どういった予期せぬ動きが出てくるか知る由もないが、こうした新商品の拡大は市場のリクイディティーに大きく貢献するのか、それ以上に波乱の種をもたらすのか今後も注視してゆきたい。


官製相場食色彼方此方

本日の日経紙グローバル市場面には「金利急低下「GPIF」の影」と題し、昨日の20年物国債入札が異例ともいえる好調さを示したのを背景に金利が急低下した旨の記事があった。この辺は巨額の資金を動かすGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの所謂“クジラ”の買い観測が出ているわけだが、斯様なクジラを動員してまでも金利を低下させようとしているとの観測に警戒感も募る。

そういったことで昨日こそ長期金利も低下したわけだが、一向に霧の晴れない中東情勢の緊迫化を背景にして世界中で金利は再上昇傾向にあるのは周知の通り。とりわけ日本の場合はこうしたことに加え、先に所謂“骨太の方針”原案をきっかけに財政健全化と日銀利上げ日程の“ズレ”がより一層警戒され先進国の中でもかなり早いペースで長期金利が上昇してきた経緯がある。

斯様な状況が続けば国債が売られ、円に対する見方もどんどん厳しいものになってくるわけで冒頭のような思惑も湧いてくる。しかし最近はこういった“官製相場色”の話が良く出てくる。為替介入はもとより一寸前には原油先物市場介入の奇策が取り沙汰され、今回のGPIFによる国債購入観測だ。バブルを知る世代には崩壊後の“PKO”の失敗が記憶に新しいが、昨日のバブル期を彷彿させる時価総額光景と共にこちらもまた当時を彷彿させるものだ。


時価総額万華鏡

本日の日経紙では「三菱UFJ、時価総首位」と題し昨日の株式市場で三菱UFJ・FGの時価総額が、トヨタ自動車を抜いて初めてトップになった旨の記事が一面を飾っていた。株式時価総額といえばつい先月に当欄では「22年ぶり首位交代」として、時価総額トップを誇ってきたトヨタをソフトバンクGが上回り国内企業の時価総額トップに躍り出たことを書いていたが、その翌週にはキオクシアホールディングスがトップに躍り出ている。

そしてこの度の三菱UFJフィナンシャル・グループと、なかなかの勢いで首位が目まぐるしく入れ替わっている。現在この三菱UFJフィナンシャル・グループ、トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、そしてキオクシアホールディングスは仲良く?1位から4位に入っているが、しばらくは今後もこの4銘柄は場味如何でこの順位がコロコロ変わりそうな気配もある。

ところで三菱UFJのような銀行株が時価総額で首位に躍り出るのはバブル喧しい1986年の旧住友銀行以来という。いわずもがな現在の三井住友ファイナンシャルグループだが、当時住銀と時価総額上位を競っていた興銀や一勧などこうした旧名を見るにバブル期の不良債権問題からの公的資金投入を経ての再編劇を思い出すと同時に、金融株が上位であったバブル期を彷彿させる再びの光景は金融ポストの転機を物語っているか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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