東証要請にファンドの影

先週末の日経紙夕刊では日経ヴェリタスから「マイクロ株に隠れた好機」と題し、日本の上場会社4000社のうち時価総額が300億円に満たないマイクロ株が6割を占める旨など書いた記事があったが、マイクロといえば次期東証改革ではグロース市場に適用する時価総額基準の厳格化があり、上場から5年経ってなお時価総額が100億円未満だった場合は上場廃止にする方針としている。

今年の3月末時点でこれに該当する企業は400社以上にものぼるが、中には株価2桁台からビットコイン事業に舵を切ってその株価が四桁台にまで大化けしたメタプラネットのような銘柄が出てきた事でこの手の財務活動が注目されている動きも見られるという。同社の場合は第三者割当で新株予約権をファンドに発行、株価上場時に新株を取得し市場売却した資金を払い込まれた企業がこれを以て再度ビットコインを購入する構図だ。

ちなみにこのケイマン諸島籍のファンドはエボリューション・ファイナンシャル・グループだが、商品先物業界とも縁があり代表的な案件としてはかつてジャスダックに上場していたあの「エース交易」を2013年末に傘下に収めている。その辺は兎も角も他のポストでも女性アパレル、ANAPホールディングスもビットコイン現物による第三者割当増資を国内初の事例として実施するなどファンド絡みの案件が目立つ。

新興勢が上場後に成長を着実に積み重ねてゆくとしても上記の東証が要請する基準に5年という期間では到底時間が足りないケースの場合、業種を広げてM&Aなどで時価総額を上げてゆこうという所謂ロールアップの動きの顕著化も一部予想されているが、ファイナンスを駆使したファンドが絡む財務戦略も出てきた事で今後も基準未満の銘柄群の動きが注目されるか。


爆益ETFの行方

本日の日経紙投資面には「日銀、ETF売却へ前進か」と題し、先週の日銀副総裁の公演で日銀が保有するETF(上場投資信託)の処分について触れていたことでこのETFの処分時期が近付いたとの思惑が書かれていた。これまではこの件に関して「時間をかけて検討する」との答えであったが、今回の講演ではこうした部分が無かった事でより一層思惑が募ったようだ。

7月に日銀絡みのETFについて書いた時にはその簿価で37兆円、3月末時点では時価にして70兆円と書いていたが、その時価もその後の株価上昇もあって先月末では初めて80兆円を超えている。上記の通りその簿価から見て含み益は40兆円以上と倍化しているわけだが、同紙では現在進めている重要な作業であるところの利上げが一段落した後に処分を始める観測が書かれている。

その扱いに関してはこれまでも野党の一部から子育て支援案を絡めたものや別機関への移管・分離案から個人への譲渡案など数多の案が出ているが、いずれにせよ先に日銀は金融システム安定策の一環として銀行から買い取ってきた2兆4000億円あまりの株式の2016年からの継続売却を完了させており、嫌でも次の一手に関心が向かうところ。


独自路線を評価

本日の日経紙投資面には東証プライム市場の西武ホールディングスが不動産を核とした成長戦略に期待が向けられ上場来高値を更新した旨が出ていたが、本日も日経平均が反落するなか同社株は続伸し連日で上場来高値を更新してきている。今年は虎の子の「東京ガーデンテラス紀尾井町」を米ファンドに売却しているが、株の方も上手い具合?に空売りを誘う格好になっているだけにこれも上げの原動力となっている格好か。

バブル世代には思い出深いあの“赤プリ”が鎮座していたところもすっかり様変わりして久しいが、再開発などでその価値を上げてイグジットするパターンでは此処は超ド級クラスの案件として話題になったものだ。鉄道業界も少子高齢化の煽りをうけ輸送人員減少などで先細りが懸念されるなか、私鉄大手各々の戦略が注目されるところだが同社の場合いち早く独自路線に舵を切った格好だ。

“西武”といえば上記とは関係ないが、ヨドバシが買収した西武百貨店の方も先に1700㎡のフロアに47ブランドを擁し国内最大の“美のテーマパーク”を誕生させている。面積は改装前の1.4倍、売上目標も同率で増やすべく美容部員も1.6倍に増やし客の買い物をサポートする。コスメ市場もコロナ禍でEC化が広がったが、5類移行でコト消費型のニーズが強くなっているだけにこちらも戦略が奏功するか見ておきたい。


デジャヴ感

衆院選、都議選、そして先の参院選と歴史的な3つの大敗でもなおこれまで続投の姿勢を崩さなかった石破首相だが、本日に予定されていた自民党総裁選を前倒しするかを判断する手続きギリギリのタイミングで自民党総裁を辞するとの表明をした。ちなみに次の総裁選にも出馬しない考えで、分断を避けるべく後進に道を譲る決断と聞こえはいいが政治空白が長引いた感は否めない。

一方でマーケットの方は自民党総裁選を巡る混乱がひとまず収束に向かった事や、次期政権が野党の協力を得る為に大規模な経済対策を打ち出すとの観測も高まり一気にリスクオンの流れから3日大幅続伸となった。個別でも双璧と言える次期首相候補で防衛力強化を訴える高市氏関連では三菱重工やIHIが大幅高、もう一人の小泉氏関連では同氏地盤で百貨店を展開するさいか屋が一時ストップ高まで買われる大幅高となっていた。

そういえば今回首相の説得に動いたのが菅副総裁小泉農相であったが、菅氏の時もやはり説得されての一転退陣表明だったなと。この時も日経平均は大幅に6日続伸し、TOPIXに至っては約31年ぶりの高値となったのが記憶に新しい。今回と併せてデジャヴ感だが、財政拡張への不安も一部出て超長期債は3日に付けた最高水準に並ぶなどしており後任候補の政策如何でまたこの辺にも注意が必要になろうか。


NISA変容期

先週に金融庁は2026年度の税制改正や組織再編を含む機構・定員に関する要望案を自民党部会などで説明しているが、NISA拡充が柱となり対象年齢を18歳未満の子どもにも拡充したい方針であることが報じられている。NISAに関してはこれまでも投資額の上限が引き上げられるなどしてきたが、子育て支援の一環としてこの年齢制限の撤廃などを提言している。

この辺はこれまで年80万枠で19歳以下の子どもを持つ親向けにジュニアNISAなるものがあったが、これは一昨年に撤廃されている。少子高齢化に伴う資産形成ニーズの多様化もあり形を変えての復活なるかというところだが、NISA創設当初の縛りから比べるに本当に緩く?なってきた感がある。このまま拡充の枝葉でそれこそ特定や一般との損益通算までやってくれるとありがたいがさすがにそれは無理か。

しかし新NISAになりそれなりに参入層の幅も出て来たのかその買い付け銘柄も当初の高配当一辺倒から最近ではベスト5に当欄でも取り上げたビットコインに賭ける東証スタンダード市場のメタプラネット株もランクインしている。ビットコイン高騰に歩調を合わせて取った6月の高値からはや今週アタマには半値以下にまで下落しているが、過去には破綻し上場廃止になった銘柄まで買い付け上位に入っていたこともある。

ひと昔前のように株式市場では派手な仕手戦は無くなったものの、SNSの発達で斯様なミーム株に人気が集中する現象も出て来た近年ならではといえるが、同じくSNSを駆使しNISAをネタにした投資詐欺も横行している折、制度自体が形骸化しないでしっかりとした実効性を持たせるようにするためにはやはり基本を押さえた金融リテラシーは最低限不可欠といえるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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