インバウンド関連の憂鬱

さて高市総理が所謂「台湾有事」をめぐる件で、集団的自衛権の行使の前提となる「存立危機事態」に該当すると答弁したことに中国が猛反発を強め事態収束が一向に見えてこないが、そうしたなか懸念されるのが経済への影響か。早速中国のSNSではやはりというか日本製品の不買を呼びかける内容の投稿が激増、「北京日報」は日中関係の緊張が続けば中国はパンダの新たな貸出を停止し日本でパンダが見られなくなるとし、一部で“バシー海峡”封鎖思惑まで出る始末だ。

斯様な過剰反応を見るに2012年に日本が「尖閣諸島」を国有化した時の騒動をどうしても思い出してしまうが、この時には中国人観光客は約3割の減少を見た。日本政府観光局が先週に発表したところの1~10月までの累計訪日客数は約3500万人であったが、うち中国人訪日客数は820万人と国別ではトップ。その消費額は1.6兆円超とされているが、野村総研では渡航自粛が続いた場合、その経済損失は1兆7900億円にものぼると試算されている。

この辺を嗅ぎ取り株式市場でも関連株は急落の憂き目に遭った。インバウンド減少懸念から百貨店大手では三越伊勢丹、高島屋にJフロントリテイリングが揃って急落、冒頭の不買懸念では中国の売り上げ比率の高い資生堂をはじめとしてファストリに良品計画も急落、外務省が呼びかけた渡航自粛から航空券のキャンセルが54万件以上に上っていると報じられており日本航空にANAHDも揃って下落、他にもマツキヨに壽スピリッツから東宝等々挙げればきりがない。

懸念していた日本産水産物も事実上の全面輸入停止が判明するなど日に日に攻撃的な姿勢が強まっているが、日本に比べて切るカードが多い中国側は非難合戦で輸出規制とか次のステージに入ってくる可能性もある。とはいえ台風一過となった先を見据える動きもあり上記銘柄の急落が絶好の拾い場であったということになるのか否か、今後の動向も引き続き注視しておきたい。


高付加価値財の格差

昨日の日経紙投資面には「安全通貨 独走」と題し、スイスフランが株価調整リスクや経済への不透明感がくすぶる中、下落する円を尻目に唯一の安全通貨としてユーロなどの主要通貨に対しても連日で過去最高値を付けている旨の記事があった。スイスフランに関しては今からちょうど2年前に当欄では「堕ちた円?」として取り上げた事があったが、これを書いた時のスイスフランが168円台でそこから現在は更に30円近くも水準を切り上げている。

この時には一昔前にチューリッヒ国際空港で買い物をした時のフラン相場が80円台であった旨も書いていたが、日経紙にも書いてあったように2000年ごろに比べ円に対するフランの価値は3倍強になっている。各国の経済力を図るための指数でよく使われるところのマックのビッグマックはスイスで現在は日本の約2.9倍、スタバのアイスコーヒーも日本の約3.2倍であるが賃金の差がそれ以上で割高感は全くない。

労働生産性の高い企業が集まる中心地ジュネーブあたりの最低賃金は4000円台に乗っており、日本は最低賃金引上げが騒がれてなお全国加重平均で1100円台とそれでもなおスイスには3~4倍の差がある。ちなみに上記のフラン80円台の時の2004年の平均年収は日本が466万円、米が450万円と日本が米を上回っており、スイスは698万円と日本の1.5倍であったが、この20年で米にもスイスにも倍以上の差をつけられてしまった格好だ。

近年の円安がこの格差に貢献?している部分もあるが、スイスの生産性の高さを背景にした恒常的な貿易黒字国の構図はやはり大きな違いか。日経紙でも主要輸出品は医薬品と精密機器と書いてあったが、薬品ではノバルティスにロシュ、時計ではいわずもがなロレックスからオーデマ・ピゲ等々高付加価値のブランドが挙がり、このフラン高でも稼げる強みがある価格転嫁が容易な財での差別化戦略を改めて思い知らされる。


円安で変わるボージョレ・ヌーボー

さて、明日はボージョレ・ヌーボーの解禁日である。ボージョレといえば毎度「〇〇年に一度の」「〇〇年で最高」と最高の評価が恒例となっていたものだが、今年はこうした評価も聞こえないなか主要輸入元のサントリーでは「日当たりに恵まれ甘濃い味わい出来栄え」とのコメント。同社の輸入は前年比で2%減だそうだが、店頭想定価格は前年から据え置く模様だ。

上記のサントリーのように継続しているところもあれば前にも書いていた通り、採算が悪化したとのことで今年はキリンホールディングス傘下でワイン大手のメルシャンが自社輸入販売からの撤退を決めている。また他の大手ではアサヒビールもすでに昨年に撤退しているほか、サッポロビールも2年連続で休売しており事実上撤退という感じだ。

斯様に大手各社が挙ってボージョレ・ヌーボーから撤退するなか国内モノを推す光景も見られ始めた。このボージョレの時期にシャトレーゼは今年収穫の「甲州ヌーヴォー」なるワインを販売、以前の日本ワインは割高なものが多かったが、今やこの円安で輸入ワインの価格が上鞘になるという皮肉な現象も出ており量販店などで特設コーナーを設ける向きも出てきている。昨年の輸入量がピークの04年の7分の1まで落ち込んでいるなか、国産の品質向上や為替要因などで各社の舵取りも変わりつつあるようだ。


関税影響と個人消費

昨日内閣府が発表した2025年7月から9月までのGDP速報値は物価変動の影響を除いたところの実質で前期比マイナス0.4%であった。1年続いた場合の年率換算ではマイナス1.8%となり、6四半期ぶりにマイナスに転じることとなった。個別ではGDPの半分以上を占める「個人消費」はプラス1%で猛暑の影響で飲料が伸びたものの、秋物衣料の販売が振るわず小幅な伸びにとどまった模様。

さて個人消費といえば日本でもブラックフライデーの告知が彼方此方で見られるが、米でもホリデーシーズンとなりやはり年末商戦の動向が気になるところ。売り上げ予想ではやはりトランプ関税政策による物価上昇への警戒があり、前年実績のプラス4.0%からマスターカードではプラス3.6%、ICSCがプラス3.5~4.0%と、昨年の伸びと比べてわずかに減速するといわれている。

またビザではホリデーシーズン販売予想を名目で今年は前年比4.6%増と昨年の4.3%を上回る予想としているが、この伸びにはインフレが大きく貢献するとしておりこのインフレ調整後の所謂実質でもって見れば今年は2.2%と前年から減速する見通し。冒頭のGDPも先送りされてきたトランプ関税の影響が表れた形になったが、今回の数字が政府の財政運営に影響する可能性もあるなか本日も長期金利の利回りも約17年半ぶりの高水準で推移しており今後の日銀の動向とも併せ注視しておきたい。


今やカタリストに

先週末の日経紙総合面には「アクティビスト、日本で稼ぐ」と題し、資本効率の改善など株主提案を通じて企業価値の向上を求める“物言う株主”のアクティビストの投資対象となった企業の株価上昇で、今年のヘッジファンドのリターンは世界平均の1.7倍に達するなどその戦略が奏功して儲けが急増している旨の記事があったが、IRジャパンの纏めでは日本に参入するアクティビストはここ5年で6割増加している模様だ。

アクティビストといえばかつての「ブルドックソース事件」くらいまで“ハゲタカ”呼ばわりでネガティブ視されていた時代ももう懐かしくなってきているが、株主を意識した経営が普及していなかった市場は彼らにとってかっこうのターゲットだったのだろう。ただ近年は徹底したボトムアップリサーチで企業改革やガバナンスに踏み込んだ提案が企業の変革を促す原動力の一つともなってきており、これが併せて機関投資家の賛同をも誘っている。

こうした効果もあってTOPIX構成銘柄のうちPBRが1倍以上の割合は東証の企業改革要請があった一昨年の約47%から先月段階では約63%にまで増加してきており、ROEなどを見ても約9%近くまで改善してきている。とはいえ米S&P500では4割の企業でROEが20%を超えている現状があり、こうした部分ではこれらの指標面でも伸びしろはまだまだ残しているといえるか。

これまで当欄では日本の証券取引所を2010年代には「インサイダー天国」、その後に「アクティビスト天国」と形容していたが、インサイダー天国はかつての手薄な証券取引等監視委員会から今やマンパワーや技術も充実してほぼ挙げられるようになり、アクティビストも上記のようにかつての“ハゲタカ”時代から近年の東証の改革要請の追い風もあり今やカタリストとしてウィンウィンの構図を企業と共に創造しているあたりかつてのマーケットから隔世の感を禁じ得ない。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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