其々の出口

週明けの日経平均は引けにかけて米MSCI株価指数採用銘柄入れ替えに絡んだ売り需要が発生するとの観測から急速に値を崩し5日ぶりに急反落となったが、売り需要といえば先週の日経紙経済面ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の7〜9月の売り越し額が数千億円と株高局面で日本株売りに転じている旨の記事があった。

背景には先週末まで日経平均は4日続伸で1991年4月以来、約29年半ぶりの高値水準まで値を上げて来ておりこれによって保有株式の時価が膨らみ運用資産に占める割合が目安とした25%を超過してくる事があるが、こうした動きが出ると気になるのがやはりETFの保有額が35兆円まで膨らんでいる双璧の日銀の存在か。

以前に当欄ではこちらの出口策に関して日銀勘定から別の機関等に移管・分離させイグジットを探るというさながらバブル時代に証券会社で大流行した所謂飛ばしのようなスキームも話題に挙がっていると書いた事があったが、過日の日経紙にはこのETF購入の立案に関った日銀OBから相応のインセンティブ付与を前提に売却制限付きで個人への譲渡案も出ている旨の記事も載っていた。

いずれにせよ冒頭のGPIFと合せ両者で実に東証時価総額の12%を優に超えるワケだからコーポレートガバナンスの観点も絡め常にランディングの在り方が議論の対象となるのは避けられないが、低迷期と環境も変わり昨今の株高がよりこうした出口策の一歩進んだ議論を後押ししているといえようか。


自社株買いにMBO

さて、今年はコロナ禍による業績悪化を受けて多くの企業が自社株買いによる株主還元に慎重であったものの、一週間ほど前の日経紙には10月以降に自社株取得枠を設定すると発表した企業は約100件と業績が底入れすると判断した企業が還元に動くなど自社株買いに回復の兆しがある旨の記事が出ていた。

もう一つの背景として昨今はアクティビストの存在が影響力を及ぼしている部分もあり、実際に株主提案を受けた経緯のある向きの中には実施を決めたところも出ている。本日の日経紙投資情報面にも4月から9月期に株主還元を増やした企業一覧が出ていたが、首位のソフトバンクGなどもこのパターンで株価が下がればいつでも再度の自社株買いに打って出る構えを見せている。

同社の場合巨額資産の売却により潤沢な資金力が背景になっている部分もあるが、それゆえ同時に此処はMBOの噂もまた喧しい。このMBOも非公開化で経営の自由度を高め機動的に意思決定を図る狙いで今年は9月までに届け出のあった件数・金額共に2013年以来年ぶりの多さとなっているが、環境が変るなか経営改革を進めようとする何れのパターンも今後は増加傾向を辿る可能性が高いか。


ボージョレ・ヌーヴォー2020

先週末は毎年恒例ボージョレ・ヌーヴォーの解禁であったが、ここ10年では2012年をピークに2013年以降減少傾向が続いていた輸入量が今年は新型コロナウイルスの影響から飲食店向け消費の減少を見込んで酒類大手などその輸入量を前年比で約2割減らしたという事もあって一段と減少する見込みだ。

とはいえボージョレ・ヌーヴォーは輸出量の半分を日本が占め、この時期の商機だけに各社共に巣ごもりに的を絞り有機栽培からビーガン対応等々その取り込みに工夫を凝らしている。こうした需要増を反映し今年は一部百貨店では事前ネット予約が前年比で1.7倍に増加し、専門店のエノテカでは解禁前までのネット予約受注が前年実績を15%上回った模様。

ハロウィーンからクリスマスまでの空白期を埋める商機の位置付けもあるこのボージョレ・ヌーヴォー、今年は新型コロナウイルスの影響でこれに絡むイベントもオンライン以外は大々的に出来る雰囲気とは言えずいつになく静かな商戦ともいえるが「お家ボージョレ」も今年限りで廃れるか否か来年の商戦はどうなっているのだろう。


持てる者と持たざる者

英アストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発する新型コロナウイルスワクチンの臨床試験で有効性が確認され、米ファイザーの新型コロナウイルスワクチン接種が来月にも始まる見通しとなるなど経済活動正常化への期待が高まり週明けの米株式は急反発となっていたが、個別ではやはりテスラの独走ぶりが目立ちまたも上場来高値を更新していた。

この背景には周知の通り来月後半からS&P500種株価指数に採用が決定した件が大きいが、それにしても今年の1月にその時価総額が独フォルクスワーゲンを抜き我らがトヨタ自動車に次ぐ2位に躍り出たと当欄で書いたのも束の間、その半年後にはトヨタ自動車を抜き、更に4か月後の現在ではその時価総額が実にトヨタ自動車の2倍超にまでなっているワケだからなんとも破竹の勢いである。

生産台数・販売台数共に世界各国の大手に大きく見劣りするにも拘らずそれらを束ねた時価総額をも上回るテスラがファンダメンタルズに見合っているのかどうかは市場関係者の間でも議論が分かれるところだが、複数の有力証券会社のアナリストは今なお挙ってその目標株価の引き上げに動いている。

トップ企業への一極集中が加速しS&Pによれば現在はアップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベットなど所謂GAFAM銘柄でS&P500種株価指数に占める比率が約20%というが、此処に新規採用銘柄として過去最大の同社が加わる事で一握りの企業が株式市場を大きく動かす構図が今後より顕著になるのは想像に難くないか。


ブランド農産物保護

さて、今の時期の風物詩といえばスーパーや巷の彼方此方で焼き芋が売られている光景を目にするが、焼き芋の中でも人気の「紅はるか」など知的財産として登録されたブランド品種の一つでもあるものの依然として不正に海外に流出し韓国などでいまだ堂々と栽培されているのが現状という。

これらは韓国で陳腐な名を付けられた挙げ句に今や生産者量の4割にも達するに至っているが昨年も取り上げた通り、他にもシャインマスカットはじめ林檎やみかんなどのブランド品種がアジア近隣国でやりたい放題に栽培そして販売され、登録の隙間を縫って生産が急増し価値を毀損させるような廉価攻勢をかけているだけに問題は深刻だ。

こうした現状を鑑みこれらに対する保護をより強固なものにしようという事で、新しいブランド品種を無断で海外に持ち出すなどした場合、生産・販売の差し止めや罰金の対象とする種苗法改正案が今週は衆院農林水産委員会で可決され本日にも参院に送付される見通しとなっている。

前国会では所謂「自家増殖」の絡みなどから生産者の反対に遭い先送りになった経緯があるなどこの辺の匙加減も難しいものがあるが、上記の通りで今年の9月時点でもブランド農産物の実に32品種が海外に流出し不当極まりない売られ方をされている現状など見るにやはり喫緊の課題ともいえようか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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