値決めにメス

さて、当欄では昨年の夏頃に公正取引委員会がIPO(新規株式公開)時に適切な資金調達が出来ているか否かの調査を始めた旨を取り上げた事があったが、先週末に同委員会は証券会社各社が主導しているIPO時における価格決定を巡る報告書をまとめ、現行の値決めの慣行は独占禁止法上の優越的地位の乱用にあたる恐れがあるとの見解を示している。

慣行とされているのは証券会社が個人投資家を呼び込む狙いで主幹事などが個人に売り易いように公開価格を下げる傾向にある点などで、この辺が欧米の機関投資家中心の売買主体との相違を如実に表しており、実際に公開価格の1.1~1.2倍という欧米の初値平均に対して日本のそれは約1.5倍という点で色濃く表れているというところ。

年末にも取り上げたように昨年度のIPOは前年比3割増の130社超と2006年以来の高水準となったが、例えば米ではたった一社でその時価総額が東証マザーズ全体にほぼ匹敵するリビアン・オートモーティブなどの上場に見られる通りその調達額において日本勢はこの米などと比較するに約10分の1程度にとどまり見劣り感は否めない。

値決めのみにスポットを当てる議論に違和感を覚える意見も一部にあるが、昨今のコロナ禍を背景にした市場の不安定化さも勘案し公開価格は従前よりも更なる低めの設定が必要との論も一部に出ている模様で、ロードショーの形骸化など構造的な問題含めスタートアップ企業が適切に資金を調達出来る環境整備は証券会社間の公平な競争等とも併せて促されるべきであろうか。


聖地閉鎖

さて、銀座東急プラザの夜の景観も煌びやかになったが此処には昨年秋に天井までの高さが約27m、一面ガラス張りの窓からは銀座の夜景が一望出来るナイトクラブ「RAISE」がオープンしている。ところでクラブといえば一方で、これまでイベントシーンをリードしてきたあの「ageHa」が新木場スタジオコーストの閉館に伴い今月で同施設での活動に幕を下ろすことになる。

これまで営業を継続するべく土地所有者との協議、交渉を続けて来てクラファンなども行ってきたマザーエンタテイメントだったが、運営するスタジオコーストについて再契約には至らず定期借地権満了に伴い今月で終了の運びとなるようだ。ちなみに明日28日から30日までFINAL WEEKENDとして最後のパーティーを開催予定という。

政府の水際対策の緩和が一向に見込めない事で同パーティーでの来日を予定していた人気DJなどは来日を断念しバーチャルでの公演に変更になった模様だが、いずれにせよこれまで約20年にわたりさまざまなイベントを繰り広げてきた箱の閉鎖は寂しい限り、これまで湾岸エリアなど節目節目で大箱の閉店を幾つも見てきたがまた一つカルチャーが消える事となる。


最終局面入り

さて、先に日立製作所は子会社の日立物流の株式売却を含めた選択肢検討と報じられていたが、先々週には同社が51%を出資する建機国内2位の小会社である日立建機株の保有株式の約半分を伊藤忠商事と投資ファンド日本開発パートナーズに売却する方針を固めた旨が報じられていた。

日立物流の方は思惑的な買いで急騰した一方で、日立建機の方は株式売却自体想定されていたものの一部には100%売却に伴うTOBの実施などが期待されていた事から思惑外れの投資家売りで急落と明暗を分けたが、それは兎も角もここへきて立て続けの子会社売却報道で同社のグループ再編も最終局面入りという感もある。

斯様に親子で共に上場する企業の解消が進み日経紙では昨年は年末段階で14社減少し265社となっており、5年前と比較するに2割超減少している旨を報じている。親子上場はコーポレートガバナンス改革の流れは言うに及ばず、ここへきて東証市場再編でも流通株式比率基準の問題もあり今後もスピードの差こそあれ解消が進んでゆくのは想像に難くないか。


凍結継続? 

さて、明日にも公表される24日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均価格が170円以上となる事で、かねてより政府がガソリン価格値上げ緩和措置の発動条件とされてきた水準超えという事からこの発動方針を固めた模様。170円を超えるのは2008年9月以来、実に約13年4か月ぶりの事となるが、政府の異例な価格政策として初の試みとなる。

先に報じられたように政府は1リットルあたり5円を上限とし、元売りに補助金を出して卸値の上昇を抑える方針。但し店頭価格はガソリンスタンド等の各店舗の判断に委ねられており、競争激化を背景にギリギリの線で販売している向きも多いなかどこまで反映出来るのか不透明だが何れにせよこれが如何ほどの効果を齎すのか未知数だ。

政府は財源として2021年度補正予算で800億円を計上しているが、ガソリンを取り巻く環境といえばもともと二重課税の不条理が燻っているところへ斯様な状況に直面するにあたってすっかり凍結されているトリガー条項も今更ながら思い出される。法改正やら税収の絡みもあり政府としては使い勝手のよい?補助金を推したがるだろうが、今こそこの検討に値するタイミングではないか。


骨抜き?市場再編

さて、今月は東証がこの4月に実施する株式市場再編後の全上場企業の所属先を公表している。再編によって各市場の特徴を明確にし企業価値向上から国内や海外投資家の活発な投資を呼び込むという東証の狙いのもと、結果として最上位に位置するプライム市場には1841社が上場、中核のスタンダード市場には1477社が上場、そして「グロース市場」には459社が上場する予定となっている。

とはいえ上記のプライム市場1841社中、うち296社はプライム上場基準を満たさず暫定的にプライム市場にとどまる経過措置の適用を受ける事になるが、これが期限も明確化されておらず曖昧なモノだけに一種の救済措置的な感も否めないところ。斯様に経営改善策まで出してプライムにしがみつきたい企業がある一方で、この基準を十分に満たしていても敢えてスタンダードを選択する明確なビジョンを持って臨む企業もある。

もう一つ、海外投資家の活発な投資を呼び込むとの狙いの割に流通株の時価総額の低さも指摘されているところ。先週の日経紙では運用規模の大きい海外投資家の多くは投資先企業の最低ラインが5000億円程度とあり100億円程度では甚だ心許ない。この度の再編は2部が新設された1961年以来60年ぶりというが、何やら看板だけ架け替えたと揶揄された今の岸田政権ともダブってしまうが、先ずはこの期限をしっかり決め企業成長を催促する事が喫緊の課題となりそうだ。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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