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株主優待廃止と創設

先日JTより株主優待品が届いた。同社にはこれまで長年にわたりレトルトカレーやカップ麺、魚沼産コシヒカリ等の自社商品を送っていただいていたが、残念なことに今回が最後の優待となる。これに伴い年末には優待事務局も閉局となるが、既に昨年にプレスリリースの通り株主への公平な利益還元の在り方という観点から廃止の決定に至った模様だ。

まあ確かに大株主級の法人などからすれば小口の株主に優待品を配るのは不平等だということになるワケだが、此処に限らずオリックス等も人気だった(ふるさと納税)ならぬ(ふるさと優待)を廃止するなどプライムの大手どころの廃止が近年目立つ。とはいえこのJT然りオリックス然り両社共に優待廃止と同時に増配を発表している。

当欄では昨年秋頃に「還元の在り方」と題し、「今後は企業側も還元の軸足が配当や自社株買いに移ってゆく動きが顕著化するかどうかこの辺の動向は注目しておきたい。」と書いていたが、4月以降に本決算を発表したプライム市場の企業で増配した企業は5割近くにのぼり、日経紙集計でも予想配当額は過去最大更新の見込みで、自社株買い計画の公表も過去最高に迫るペースという。

一方でグロース市場などの新興勢の中には株主優待を創設、または復活させる向きが目立つ。しかしこちらもまた東証絡みで再編により上場基準も厳しくなったことで何処も株価が欲しいところだが、機関投資家の資金が入ってくるのが限定的な中小型株では個人投資家の存在が大きくIRも重要になって来るというもの。再編を打ち出した当初は代わり映えのない市場と散々揶揄されたものだが、その景色が今まさに変わりつつある。


10年前と異なる株高

週明けの日経平均は先物への売りから反落して引けたが、それでも週末まで開いた日銀金融政策決定会合にて大規模緩和継続が決定した事を好感し序盤に年初来高値をまたも更新と騰勢は衰えない。昨年末から振り返ってみると本日の引けまで日経平均株価は約7,300円、率にして約28%も上昇してきている。

1990年以来、約33年ぶりの高値水準というフレーズが毎日のように飛び交った先週であったが、この間にこの間に時価総額日本一のトヨタ自動車も節目となるPBR1倍台を回復したのが話題に。斯様な動きから東証も2022年4月の市場再編でプライム市場が誕生してから初めてその時価総額が800兆円の大台を超えてきており、旧東証一部も含め最上位市場として過去最大となった。

これら時価総額増加が顕著な個別銘柄を見てみると、年初の日経紙恒例の「経営者が占う2023年」にて経営者が選んだ有望銘柄がズラリ、昨年末と先週段階での比較で上記の有望銘柄第3位のトヨタ自動車が5.8兆円増加、同1位のソニーGは4.8兆円増加、同7位の東エレクは3.2兆円増加、同4位の信越化学は2.9兆円増加、同8位のファストリは2.8兆円増加等々、嵌れば大ヒットのこの類である。

10週連続で前週末より高く終えた日経平均は第2次安倍政権時の12年末から13年にかけての12週以来、約10年ぶりの長さになったが、当時と比較するに今は予想PERも低く予想配当利回りも高い。トヨタのPBR一倍割れ解消現象は今後起こり得る局面変化を示唆すると日経紙の一文にあったが、資本コストを意識した経営の浸透による企業収益力の向上がいよいよ注目される段階になって来たか。


真摯なアクティビスト

さて、一昨日の日経紙にあったユニークな全面広告が目を惹いた。アクティビストファンドのストラテジックキャピタルによる投資先企業への株主提案や課題が綴られたものがそれで、そこでは東証プライム市場上場の日本証券金融、極東開発工業、文化シャッター、ワキタ、有沢製作所及び東証スタンダード市場上場のダイドーリミテッドの6社が挙げられていたがいやはやどれも辛辣な見解が述べられている。

このうち既にワキタの提案は否決されているが、とはいえこれら目を通してみるにその辺のディスクロを一瞥しただけではわからないようなデータや問題点が非常に簡潔に纏められており当該企業の株主なら一読の価値はあるだろう。おりしも東証が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等の要請を出しているなか、一部経営トップが株価はROEや純資産とは何の関係も無いなどの発言をしているのは残念でもある。

今月は3月期決算の上場企業が株主総会を開くが、先月末の段階で82社にこのストラテジックキャピタルはじめ314議案が提案されており本日段階で更に増加していることを勘案すれば過去最高を更新する見込みだ。それぞれ冒頭のストラテジックキャピタルの資本効率に関するものから、先月に当欄で書いたような環境に関するもの、企業統治に関するものなど多岐にわたっている。

ちなみに冒頭の6社は本日段階でPBRが低いところで0.60倍、一番高い企業でも0.83倍といずれも1倍割れに甘んじている。コーポレートガバナンスコードによりアクティビストファンドの提案は整合性を持つようになり、株主提案でも企業価値向上につながるとの判断なら賛成票を投じるなど機関投資家の姿勢もまた変わってきている。首の皮がつながった経営トップも賛成票減少が顕著になってきた事例も多く、真摯に彼らの意見に耳を傾けざるを得ない時代になったのは間違いのないところか。


株式インセンティブ彼是

さて政府が今月中に決める「新しい資本主義」の実行計画改定案の概要が明らかになっている。この辺はカギとなるスタートアップ振興では株式報酬の一つであるストックオプション(株式購入権)の従業員への付与期間の制約を撤廃するなど、購入権を発行し易くなる規制緩和を検討する旨などが日曜日の日経紙総合面に出ていた。

一方で多くの企業が使う信託型の株式報酬について、直近で国税庁が給与としての税務処理が必要だとの見解を示している。これまでも外資系企業の役員等がストックオプション絡みで国税とヤリ合う場面を多く見たが、企業側としては権利行使で得た株式売却に対し税金は譲渡所得で20%との認識であったものの、同見解では給与所得とし最大55%の税金が課される事で企業想定より税負担が増加する事になる。

冒頭のストックオプションの付与期間の制約撤廃など大企業に比較して福利厚生等の面で見劣りするスタートアップ企業の人材獲得には追い風となるものの、この度の国税の見解で信託型を導入している各社に見直しの動きが広がるのは想像に難くない。財務に余裕の無い企業でも活用し易い同制度を新たに導入する企業は近年増加し続けているが株式インセンティブの在り方が改めて問われるか。


分割に一石を投じる

昨日はトヨタ自動車株に触れたが、同社といえば3月末時点の株主数が1年で10万人以上増加したと先週明らかにしている。昨年も個人株主数が8年連続で増加した旨が報じられていたが、2021年9月末を基準に1株を5株に分割しており投資に必要な金額が20万円程度と大幅に下がった点が個人投資家に浸透したとみられる。

ところでこの5分割どころではない分割を最近発表していたのはNTTで、7月1日を効力発生日として1株を25株に分割すると発表している。東証が示す望ましい投資単位の水準として5万円以上50万円未満が挙げられているが、本日の終値を基準とすると株価は実に160円台となりこの基準以下まで逆に下がってしまう事になる。

更には同一単位で株主優待も維持される事も明言するなど、これほどまでに大胆な分割をした真意のほどが今一つ分からない部分もあるが、24年から新たなNISAが導入されることなどを踏まえ投資単位の引き下げで投資家層を幅広い世代に拡大することなどを狙ったのは間違いの無いところか。個人投資家の厚みがないのが東証の弱点ともいわれてきたが、相次ぐ分割でこの部分が改善されてゆくかどうか注目である。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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