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その先の消却

先週末の日経紙投資情報面には「自社株の消却 倍増」と題して、同社調べで自社株を消滅させる消却額の合計が約5兆3000億円と前年度の2倍に増えて自社株買いの金額を上回るなど、自社株買いから更に踏み込んだ消却が相次ぎ斯様な動きは今年も継続しそうとの旨が書かれていた。

ところで当欄では先月に政策保有株を圧縮する動きを取り上げたが、先週は時価総額が上場時の3倍強になったリクルートホールディングス株に政策保有株として保有する幅広い取引先からの売り圧力が俄かに高まっているなか、この受け皿として自社株買いを検討している旨も報じられていた。

背景には国内外の投資家が資本効率の改善を要求しROEを重視する波に乗る動きがあるが、これが意識されるばかりに資金が刹那的にこれらに振り向けられているパターンも一部見られた。上記のリクルートも資金の使い道のプライオリティとしてはM&Aを軸とする成長投資としているが、今後其の先の余力の部分をどう生かしてゆくかこの辺が各社共に課題となりそうだ。


期待とジレンマ

本日の日経紙金融経済面にはゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが、世界でETF市場が拡大するなか日本でも需要が高まるとみて、月内にも同アセットが注目するテーマ関連に絞り込んで投資する5本の販売を始めるなど国内でETF事業に参入する旨が出ていた。

このETFといえば先月も日中のETF相互上場で想定を超える需要が集まっている事で中国マネーの取り込みが期待されているが、一方で個人投資家の人気が高い所謂ブルベア型ETFは昨年2月のVIXショックが尾を引いて金融庁や東証などの当局が新規上場に慎重になっている旨も報じられている。

言われてみれば確かにこの手の新規モノはパッタリと見かけなくなったが、当時はS&P500のVIXインバースETNが早期償還となり、インバース型のVIX短期ETNに至っては一気に17分の1まで暴落するなどオプション市場並みの大荒れの波が襲ったものだが、このボラこそ人気を集めている部分なだけに投資家保護と市場活性化というジレンマをどう解いてゆくかが課題か。


ESGとGPIF

さて、先週末の日経紙総合面には「ESG投資に3.5兆円」と題し、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が環境や企業統治などを考慮したESG投資を増やし、5日に発表した2018年度末の資産残高が3兆5銭億円に達し1年前の2.3倍に増えた旨が出ていたがこの辺は先月末の当欄でも少し触れていた。

ちょうど同日の投資情報面にもGPIFの3月末時点での保有銘柄リストが公表されていたが、なるほど2018年3月末比で上昇が目立った武田薬品工業はサステナブルバリューレポート2018が環境省や「地球・人間環境フォーラム」主催の「環境コミュニケーション」で優秀賞を受賞するなど取り組みやディスクロが高く評価され、三菱商事の方はESGの観点から企業のパフォーマンスを図る目安として多数の投資家に参照されているFTSERussellが開発したインデックスの構成銘柄になっている。

GPIFの18年度運用利回りは1.52%で運用指標である1.92%を下回ったというが、ESGは短期目線で顕著な効果が出る性質のものではない。短期といえば近年はヘッジファンドの中でも成績が思惑外れとなったところも見受けられたが、こうした短期指向の一部は企業へのプレッシャーを通じ実態経済への悪影響を指摘される部分もあった。

それだけにESGの流れはこれらショートターミズムの問題解決にもつながると期待の声も一部にあがっているが、何れにせよESG投資は投資先の長期的な成長機会を捉えることにあるため長期にわたって巨額な公的資金を運用するGPIFがESGに着目する事はやはり自然な流れということか。


12年ぶりの改定

さて先週末の日経紙投資情報面では「株主保護に重点」と題し、経済産業省が株主に不利とならぬよう独立性を担保した委員会を設置して買収価格の算定根拠などを議論する事を求めるなど、MBO(経営陣が参加する買収)に関する改定指針を発表した旨が出ていたが改定は12年ぶりのことという。

このMBOに関しては当欄で先月に一度取り上げているが冒頭で日本において買収価格が低く抑えられがちな旨を書き、これまでMBOの実現適わずに終わった中堅印刷会社の廣済堂はじめ東栄リーファライン、アサツーDKから日立国際電気等々そのMBO価格の低さをアクティビストらに指摘されてきた経緯も挙げた。

素地としては企業側が資金調達に困るという環境下に無くMBOの誘因が高まる半面、総じてこれまで経営陣らによるディスクロが不十分であった為に株主側から待ったがかかったパターンが多くMBO件数が低迷している背景があるが、特別委員会の設置でこの辺の透明度も高まり低迷から抜け出せる切っ掛けになるのかどうか先ずはこの辺に注目しておきたい。


MBO事情

本日の日経紙社説には「MBOにきちんとした規律を」と題し、上場企業の経営陣が株主から株を買い取って非公開化するMBO(マネジメント・バイアウト)が、日本においては買収価格が低く抑えられがちとの見方があるなかで実効性のあるルール作りが進みつつある旨が書かれていた。

MBOといえば最近では日本の企業ではないものの、あの幻に終わった米テスラモーターのMBO騒動が記憶に新しいところだが、同紙にもMBOが失敗に終った例として上記の通りそのMBO価格の低さを旧村上ファンド関係者らに指摘され幻に終わった中堅印刷会社の広済堂が出ていた。

これに限らず同じく旧村上ファンド系では同様に東栄リーファラインのMBOに対しても価格の低さを指摘していた経緯があり、同様の理由ではアサツーDKや日立国際電気も其々アクティビストから価格の低さを指摘されていた。経産省は特別委員会を設置し権限を持たせるなど実施指針の12年ぶり改定を目指すようだが、これでMBOもまた国際標準に近付くのかどうか引き続き注目しておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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