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出口戦略考

今週の日経紙グローバル市場面で「日銀、甘くない緩和出口」と題し、日銀がこれまでの金融緩和の大号令のもと買い入れたETFが時価53兆円にもなり先週公表された2022年度決算ではその分配金等が1兆1000億円に達し、保有割合が50%を超える国債からの利息収入に肉薄するほど膨張している旨の記事があった。

ここでは出口戦略についても言及されていたが、当欄でも既に3年くらい前に日銀勘定から別の機関等に移管・分離させイグジットを探るというさながらバブル期に証券会社で大流行した所謂「飛ばし」のようなスキームや、相応のインセンティブ付与を前提に売却制限付きで個人への譲渡案などの案を書いたことがあった。

この後者の案はここでも再度取り上げられていたが、文中で「日銀が持つ含み益を有効活用してほしい」と述べていたニッセイ基礎研究所の井出氏自身もETFの出口戦略については政府が財投債でもって日銀からETFを買い取ったうえで個別株に置き換え、入って来る配当金を子育て支援などの成長投資に充てる案などに言及している。

なるほどこれなら年間の少なくない信託報酬も削減出来、個別株となる事で優劣によるリバランスが効く規律も働くことで東証が求める活性化策との親和性も非常に高くなる。同頁では今後金利を上げる政策正常化を進めるのとこの処分という2つの出口政策の両立は簡単ではないとの指摘も書かれていたものの、いずれにせよこういったことを考えてゆく時期に来ていることだけは間違いなさそうだ。


踏み上げ

本日の日経紙マーケット総合面にはFX(外国為替証拠金)取引を手掛ける個人投資家が予想外の円安が継続しているために追い詰められている旨や、日経平均株価と逆方向に2倍の値動きをするETF(上場投資信託)の投資家が日本株の上昇が続いていることで戦略の見直しを迫られている旨が出ていた。

ドル売りのポジションに、日経平均ダブルインバースインデックスであるから日経平均の売りといういずれもショートポジションがこの度のドル高、日経平均高という上げ相場で「踏み」を強いられているという構図だ。確かにFXなど値幅もさることながらスワップポイントも昨年1-3月期に比較すると軽く10倍以上になっているから体力消耗の激しさは想像に難くない。

ちょうど株に置き換えて言ってみれば信用倍率が極端に低くなり高額の逆日歩が日々発生している銘柄を辛抱して抱えている状況という事になるが、日経平均ダブルインバースも円買い・ドル売りポジションも共にまだ踏み切れていないポジションが残っているとみられるだけに、双方共に相場が一旦のピークを迎えるのは最後まで残った向きが降参し踏んだ場面となるか。


株式インセンティブ彼是

さて政府が今月中に決める「新しい資本主義」の実行計画改定案の概要が明らかになっている。この辺はカギとなるスタートアップ振興では株式報酬の一つであるストックオプション(株式購入権)の従業員への付与期間の制約を撤廃するなど、購入権を発行し易くなる規制緩和を検討する旨などが日曜日の日経紙総合面に出ていた。

一方で多くの企業が使う信託型の株式報酬について、直近で国税庁が給与としての税務処理が必要だとの見解を示している。これまでも外資系企業の役員等がストックオプション絡みで国税とヤリ合う場面を多く見たが、企業側としては権利行使で得た株式売却に対し税金は譲渡所得で20%との認識であったものの、同見解では給与所得とし最大55%の税金が課される事で企業想定より税負担が増加する事になる。

冒頭のストックオプションの付与期間の制約撤廃など大企業に比較して福利厚生等の面で見劣りするスタートアップ企業の人材獲得には追い風となるものの、この度の国税の見解で信託型を導入している各社に見直しの動きが広がるのは想像に難くない。財務に余裕の無い企業でも活用し易い同制度を新たに導入する企業は近年増加し続けているが株式インセンティブの在り方が改めて問われるか。


アウトパフォームする値上げ企業

雨天の日も多くなり蒸し暑くなる鬱陶しい梅雨入りの水無月だが、この蒸し暑いなか経産省が大手電力7社による規制料金の値上げを認可した事で今月から電気料金の大幅値上げが始まっている。新電力の一部も追随する模様だが7社の引き上げ率は各社平均で15~43%、東京電力で標準的な家庭の場合ひと月でおよそ881円の値上がりとなる。

値上げといえば食品の値上げラッシュも止まらない。ちょうど1年前の6月には日清食品のカップヌードルが3年ぶり値上げした旨を書いていたが、同社はカップヌードルやチキンラーメン等をおよそ10%から13%再値上げする。またハウス食品もバーモントカレーなど家庭用食品205品目の値上げ、明治のきのこの山・たけのこの里も約8%値上げするなど今月は約3600品目が値上げ予定となっている。

しかし一寸前までスーパーなどで100円前後で買えたカップヌードルだが、今月の再値上げでいつの間にか2.5倍である。また再値上げといえば代名詞格なのがシーチキン類で、こちらはこの1年で4度目の値上げと凄まじい。それは兎も角もこうした価格転嫁力の強さが意識されてか、日清食品や伊藤園などの株価は日経平均をアウトパフォームしている。今後も各社の値上げと併せ、引き続き関連各社の株価にも注目が怠れないか。


池坊展2023

昨日は豊臣秀吉が戦国時代の武将、藤堂高虎に授けた褒美との伝承が残る「黄金の茶道具」一式のオークションを取り上げたが、豊臣秀吉といえば池坊専好が前田利家邸で秀吉に披露したといわれる「大砂物」から生まれた伝説に着想を得て作り上げた今から6年ほど前に公開された映画「花戦さ」が思い出される。

この年の「池坊展」は本当に圧巻で、この映画の公開記念という事で映画の中で描かれた様々な生け花のシーンなど実際に撮影で使われたものが展示されており特に昇竜松を主体にした大砂物の迫力は今でも鮮明に残っている。そんな池坊展だが、今週月曜日まで「とらわれのない美」をテーマに開催されていた池坊東京花展に行ってきた。

池坊展は19年の東京都美術館での花展以来で今回は初夏の花材を用いた延べ約440作が展示されていたが、毎度の事ながら器もひな壇のようなものからコルク栓を敷き詰めたものなど斬新で難しい和と洋の花の組み合わせと併せ縦横無尽であったが、次期家元の専好氏のスプリングを多用した作品もまたユニークなものであった。

そしてやはり圧巻は家元の専永氏の作品か。「隠れているもの秘されているもの、それらは無ではない。有を支える根源なのである。」と解説があったが、大きな竹筒下部から伸びる力強い根に「生の力」を改めて感じさせられた。コロナ禍で不安が世界を包み日々の生活や価値観も大きく揺らぐ時代の変化のなか、常に時代を感じて今をいける池坊に改めて力をもらった今回の展であった。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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