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是非を諮る

さて、今年の株主総会シーズンに当欄が取り上げた企業の一つにアクティビストの買い増しに備えた買収防衛策発動の是非を諮ったコスモエネルギーHDがあったが、同社は一昨日に筆頭株主の村上氏側に対抗すべく買収防衛策を発動するために12月に臨時株主総会を開催すると発表している。これで村上氏らを相手に買収防衛策を総会議案にするのは二度目である。

ちなみに前回の買収防衛策決議ではMOM(マジョリティー・オブ・マイノリティー)を採用したが、今回は村上氏側が趣旨説明書を提出している事などを勘案し普通議決となっている。前回で仮に村上氏側も入れた普通議決だったら賛成比率は約46%にとどまり、村上氏側が反対票を投じていれば賛成票が過半数に届かず否決となる票差であっただけに今回の行方に関心が向かう。

しかし村上氏といえば今週月曜日の「資本の歪み」にも書いた通りかつてのフジテレビジョンとニッポン放送の「親子関係資本のねじれ」を狙い再編を果敢に仕掛けた経緯があるが、この石油業界でもかつて出光興産と昭和シェルの経営統合において泥沼化した出光経営陣と創業家側の間に入り対立緩和に一役買った存在でもある。

他に富士石油株の筆頭株主になっていた経緯もありこの石油業界再編にも思い入れがある様子だがこの富士石油などPBRは本日で0.3倍台、コスモエネルギーHDも村上氏らの保有が刺激となり8月には増配発表、中期経営計画では総還元性向目標60%以上とENEOSや出光を上回るものを出しているがなおPBRは1倍割れの状態にある。東証の改善要請も背景に先週書いたドラッグストア業界同様にこの石油業界の今後の動向にも注目だ。


現物ETF承認の可能性?

さて、某女性フリーアナウンサーが自身のX(旧ツイッター)でビットコインの500万円突破に喜びの声を上げていた件が報じられているが、この年初来高値更新の背景には一昨日の日経紙夕刊にも載っていた通り、ビットコインを使ったETF(上場投資信託)が誕生するのが時間の問題との見方が出てきたと報じられている件がある。

ビットコインのETFといえば既にSECが承認済となっているがこれは先物のETFのことであり、主流である現物のETFに関してはこれまで投資家保護の観点から問題があるという大きな障壁を前に数多の金融機関が幾度となく申請してはSECに撥ねられたり申請を自ら取り下げたりの憂き目に遭って来た経緯がある。

はれて価格操作や詐欺などの不正防止策の徹底がなされ、投資家保護にも一定のめどがたったのかどうかだが、米グレイスケール・インベストメンツが申請する現物ETFの承認拒否を取り消すよう命じられた米控訴審裁判所からの判決に対しSECが控訴しない方針としたことでETF申請が再検討される道が開かれる期待が出てきたという事らしい。

一定のめどがたった云々より政治的な事情も絡んでいそうな気がしないでもないが、いずれにせよ現在でもブラックロックやフィデリティなど超が付く大手勢が挙って現物ビットコインのETFを申請しているだけに彼らにとって少なからず追い風になることは間違いなくSECのどういった決定がなされるか待たれるところだ。


地政学リスクに同時高

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への地上戦の緊張が日々伝えられるなか、昨日の日経紙総合・経済面には「有事の買い 金に」と題しこれら情勢の緊迫を受けた買いがゴールドや原油に向かっている旨が出ていたが、今回の緊張では教科書的なドルと原油の逆相関も崩れドルも強いトリプル高の様相になっている。

上記見出しにもなったゴールドだが、最近では米長期金利の低下局面で金利の付かない実物資産を裏付けとする投資妙味から持ち直し傾向にあったが、これに加えた地政学リスクの表面化で先週は国内の先物価格は5日続伸し中心限月として9月下旬以来となる過去最高値を更新し、田中貴金属発表の現物もまた1g10233円と過去最高値を更新してきた。

ウクライナとロシアの戦いに漸くマーケットも耐性?が出てきたと思っていたところに今度はこの事態とカオスの様相になってきたが、国際社会の分断を背景に物色の矛先が彼方此方に向かう様がひと際不気味だ。金の過去最高値をチャンスとばかりに手持ちの金製品を買い取りショップで換金して帰る顧客の満面の笑顔と、戦闘の極限状態にある現地の恐怖に歪む人々の生々しい顔の対比が実に残酷に映る。


資本の歪み

先週末の日経紙ビジネス面には「京成電鉄株、一時8%高」と題し18日に突飛高を演じた京成電鉄株について書かれていたが、この背景には英投資ファンドのパリサー・キャピタルが京成電鉄に対し、筆頭株主として約2割を保有しているオリエンタルランド株の一部を成長投資や株主還元に回すべく一部を売却するように要求していた一件がある。

この京成電鉄、ほんの10年前は保有するOLC株より京成の時価総額が上回っていたものの今や保有するOLC株時価総額は約1兆7000億円、一方で同社のそれは本日の引け時点で約9300億円と1兆円にも満たない。斯様な資本の歪みを巡ってはフジテレビジョンと同社の筆頭株主であったニッポン放送を巡り、アクティビストの村上氏にライブドアも参戦した乱戦が記憶に新しいが「親」超えの上場企業は今も少なくない。

フジテレビとニッポン放送を巡る件ではニッポン放送が株式市場からは姿を消すことになったが、この一件で予てより資本の歪みを抱えている企業へその解消を掲げたアクティビストの出現が言われていたがはやはりという感じだ。上記の一件ではニッポン放送がフジテレビとの株式交換でフジテレビの完全子会社となったが、市場関係者の中には京成もOLCとの合併を推す向きも一部居る。

冒頭のアクティビストの提案通りに持ち株を売却し15%未満まで減らせば持ち分法適用会社から外れ会計上の歪みもはれて解消するワケだが、京成側もさまざまな事情で虎の子のOLCをすんなりと売るとは思えない。とはいえ東証の資本コスト等を意識した経営実現の要請はアクティビストにとって追い風で、目に見えるシナジー効果の無いままの保有継続に対して外部圧力の強まりは想像に難くなく今後の京成側の対応に注目が集まる。


スタンダードという選択

さて、昨年に東証が実施した市場再編だが約2200社あった旧東証一部企業のうち既に自主的にスタンダード市場へ移行したのは338社、これを経て東証はプライム市場への上場基準を満たさない企業に対して無審査でスタンダード市場への移行を認める特例措置を今年設けていたが、申請締切時点の速報から変更なく計177社が明日にスタンダード市場へ移行する。

当初よりプライム市場行きのチケットを手にしながらも敢えてスタンダード市場を選択した向きの株価は総じて主要株価指数をアウトパフォームしていた旨は以前書いた事があったが、取り敢えず未達でも猶予期間はプライム市場のブランドに噛り付きヤレヤレで移行表明した企業のそれは半数以上が下落したというが果たしてという感じだ。

とはいえこうした中でも株主還元はじめ成長戦略投資などに攻めの姿勢を見せている企業に注がれる視線は熱い。斯様に再編からはや1年半を経て絞り込みが進んでいるというところだが、当初よりプライム市場が招待席のような重厚長大企業の中でもJPX150のような新指数の誕生を背景に積極的な株主還元強化に動く向きも出てきているあたりは少しずつ潮流の変化を感じる。

日本の上場企業のROEは現状10%にも満たず、欧州の約16%はもとより米国の約23%よりはるかに低位に沈んでおり、実質PBRにしても現状2%にも満たず米の半分以下の水準に甘んじている。であるから上記のJPX150の基準など米のS&P500は選別せず何処を切り取ってもほぼ成立すると思うが、日本の企業価値を上げるためには引き続き全体の底上げが喫緊の課題か。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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