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効果と弊害

さて、先週の日経紙金融経済面では週末まで「ゼロゼロ融資残ったツケ」と題して連載があった。新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた企業を底支えした実質無利子・無担保のゼロゼロ融資は、今年9月末までに民間と政府系金融機関で計約43兆円の融資が実行されたが、その新規実行も今年で終わり23年には返済開始の山場を迎えることになる。

このゼロゼロ融資、当欄でもこれまで度々取り上げてきたがこうした政策を見ていて思うのが欧米とは違う新陳代謝の構図か。中小企業庁調べでは2019年度の廃業率はドイツ、英国が10%超え、米は8.5%なのに対し日本は5%未満、また開業率の方は英国が10%超え、ドイツやアメリカは9.2%なのに対し日本はこれまた5%未満と新陳代謝が進んでいないことがうかがえる。

こうしたデータから見られるように欧米はゾンビ企業の倒産が増加するたびに新陳代謝が進み経済が強くなってきた経緯がある。それらが整理され競争力があり生産性の高い企業が残ったり、新たに現れるなど結果的に賃金が全体として伸びてゆくという構図にもなっている。リーマン・ショック後にGM等の大企業が破綻したが、この時に返済猶予法を施行した日本と違い米などは事業再生を促すインフラが整っていた点もまた違うか。

おりしもアベノミクスの象徴だった異次元緩和が今週、10年目にして転換点に差し掛かった。長期金利は足元で変動幅の上限近くで推移し今後はゾンビ企業含め企業の利払い増加などを懸念する意見もあるが、低金利の長期化のもと痛み止め政策を続け停滞していた産業の新陳代謝が国際基準へと向かう切っ掛けとなる入り口に来たという感じか。


分割促進

本日も日経平均は5日続落となったが、そんななか特に寄与度の高いファーストリテイリング株が前場大幅続落のあと急速に切り返しの動きを見せていた。同社は先週末の日経紙投資情報面にも出ていた通り来年の3月1日付けで株式1株を3株に分割するとの発表をしているが、同社の株式分割は遡ること2002年の4月以来であるから実に20年11か月ぶりの事となる。

この手の所謂値嵩株では任天堂もまた数万円もするような値嵩株で最低単元買うにしても本日の終値で約550万円程度の資金が必要であったが、同社も31年ぶりに今年の10月1日付けで1株を10株に分割し約55万円程度の資金で購入できるようになった。そういった意味では今回のファーストリテイリングは分割してもなお購入に260万超の資金がかかる点で更なる分割が期待されるか。

斯様に値嵩モノの株式分割が今年相次いだ背景には政権の肝いり政策である「資産所得倍増プラン」を実現するために国民が広く投資出来る環境を作るべく政府や取引所による強い要請があったことは想像に難くないが、夢の国?はじめまだまだ単元数百万円の企業は数多あるだけに上記二社のような数十年ぶりの分割が他の企業に広がる切っ掛けになるかどうか今後も注視しておきたい。


日銀サプライズ

昨日は各国中銀が先週行われた金融政策会合で軒並み利上げペースを減速させてきた旨を書いたが、金融政策といえばサプライズだったのは本日開かれた日銀の金融政策決定会合の結果発表か。どうせまた無風だろうと高を括っていたところ長期金利の上限を従来の0.25%程度から0.5%程度に変更し金利上昇余地を広げた。日銀総裁は利上げではないと言っているが、事実上の利上げだろう。

これを受けて前場は凪のような値動きだった日経平均は後場に急落、一気に5円ほど円高が進み長期金利も約7年ぶり水準まで上昇した事で自動車セクターや不動産セクターはじめ実に東証プライム銘柄の9割が下落、一方で国内長期金利に上昇圧力がかかる事で利ザヤが一段と改善に向かうとの期待が膨らんだことから三菱UFJや三井住友、みずほなどのメガバンクが軒並み上げ幅を拡大させいずれも年初来高値を更新するなど明暗を分ける格好となった。

しかし来年の任期切れを控えてここでの大規模緩和修正は後任への政策オプションを増やす狙いか等と何かと思惑だが、現実的なところで急激な円安に歯止めがかかる事で輸入物価高鎮静の一助となるも、他方では長期金利に連動している住宅ローン金利の負担増や企業向け貸出金利の引き上げ観測などが懸念される。上記の銀行株の急伸がそれを先取りしているといえるが、孤高の異次元緩和継続も政策修正もどちらに転んでも其々に我々の生活に少なからず影響が生じることになりそうだ。


利上げペースも景気も減速

さて、世界的にインフレが高止まりするなか先週は主要な中央銀行による金融政策発表が目白押しとなったが、注目のFOMCでは0.5%の利上げを決め3月から始まった一連の利上げで初めてペースを減速させた。また英も9会合連続の利上げとなったが前回の0.75%から縮小し0.5%へ、ECBも利上げペースを前回の0.75%から0.5%に縮小させるなど世界各国で事情は違えど利上げペースを落としてきた。

先週に当欄では「~タイムラグをもってこれまでの利上げの影響が出ると考えれば今後の大幅な引き上げは微妙な感じもする~」としたが、FRB議長も記者会見では利上げペース減速の理由について「金融引き締めの累積効果が経済やインフレ率に与える時間差を考慮して0.5ポイントの利上げを決めた。」としている。

とはいえこの利上げ幅引き下げは想定通りだったが、発表されたCPIの連続下振れなどから前回9月時点より0.25%ポイント上昇にとどまると期待されていたドットチャートで示された2023年の政策金利見通しが5.1%となり市場想定よりも高めに出た感。これらから利上げが景気を冷やすと懸念した株売りが止まらず、週末までダウは3日続落しその下げ幅は1200ドル近くに達している。

声明文なども総じてタカ派の内容だったが、米小売売上高も軟調な結果となり今回の会合で併せて示された来年のGDP成長率も大幅に下方修正するなど世界的な景気減速への警戒が高まる。引き続き雇用統計やCPIで一喜一憂する展開が続きそうだが、景気の後退を引き起こすことなく経済を軟着陸させるというハードルは一段と高まっているといえるか。


宇宙ビジネス彼是

さて、今週はじめに米主導で日欧なども参加する月面探査「アルテミス計画」の第一弾として打ち上げた宇宙船が帰還した。また時を同じくして日本の宇宙ベンチャー(ispace)が開発した月着陸船が基地から打ち上げられ、打ち上げ用ロケットから着陸船の切り離しに成功した。民間企業としては世界初となる月の探査をするミッションを目指す。

ところで宇宙ベンチャーといえばちょうどここ日本橋では明日までの予定で、COREDO室町や三井タワー等で国内のスタートアップ企業を中心に宇宙ビジネスの最前線に立つ企業や団体が一堂に会する国内最大級の宇宙ビジネス展示会「NIHONBASHI SPACEWEEK」が開催されているが、参加団体は去年よりも5割近く増えたという。

これまで宇宙ビジネスといえばヴァージン・ギャラクティックやブルー・オリジンの無重力体験や、宇宙ステーションに滞在し宇宙遊泳を体験するスペース・アドベンチャーにイーロンマスク氏のスペースXなど既に海外勢が先行しているが、国内旅行会社もエイチ・アイ・エスが米ベンチャーの手掛ける気球型の宇宙船を使った宇宙旅行を年内に販売予定のほか、クラブツーリズム・スペースツアーズも上記のヴァージン・ギャラクテック社の宇宙旅行を扱う。

ところで宇宙産業の市場規模は現在およそ30兆円規模といわれているが、2040年までに100兆円規模に成長すると見られている。国としても今後発展が見込まれる宇宙ビジネスを経産省などでバックアップしてゆく考えで民間企業支援に乗り出している模様。今後どんなベンチャーが出てくるか楽しみだが、かつて遠い夢であった宇宙旅行も費用の問題はさて置きとうとう民間旅行会社が扱うレベルまで来たかと思うと隔世の感を禁じ得ない。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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