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序章の最多?

さて、前回は直近で民事再生法を申請したファッションブランドインポーター等を取り上げたが、帝国データバンクが本日公表した調査結果によればエネルギーや原材料など物価高の影響で倒産に追い込まれた所謂「物価高倒産」は、1-7月期で累計116件に達し過去5年で最多となっている。

業種別では燃料費の高止まり等を背景に運輸業の33件がトップとなっていたが、食品関連も26件に達しており直近では身近なところでGINZASIX等でも店舗を構えていた英のホテルショコラも先月末に民事再生法を申請している。SDGsにも意欲的でチョコはもとより美容品からフレグランスまで展開し、周りにもファンが少なくなかった店だったが輸入コストや物価高等には抗せなかったか。

斯様に7月は31件と前年から8割増加し単月では最多となったワケだが早ければ8月にも年間の最多件数を更新する可能性は高く、秋から年末にかけて原材料コストや原油高の問題が更に顕著化する恐れがあるだけに、価格転嫁が難しい中小・零細企業中心に今後卸売りや小売等で更なる負の連鎖をみせる前に政府側の物価高対策など事態は焦眉の急を要している。


ファッションストレステスト

さて、今週は週初めに欧米ファッションブランドインポーターの三崎商事が民事再生法を申請したとの報があった。法人名では業界人でなければピンと来ないが90年代にドルガバを、その後はディースクエアード等のハイブランドを日本に普及させた立役者でもあり、此処のファミリーセール等よく招待があったのでけっこうな驚きであった。

この手のインポーターとは違うがファッションの括りでは3年前にグッチ等のハイブランドを日本に介してきたセレクトショップのサンモトヤマが破綻したのがまだ記憶に新しいが、上記のインポーターなど近年の欧州ハイブランド勢の日本法人設立の動きや対ユーロでの円安進行などが背景となったと見られる。

そういえば欧州のハイブランドといえば先月はドイツのエスカーダがモノによっては8割引きなど信じられない値でセールの案内が来ていたが、果たしてというかそれと前後してココの日本法人の破綻の報が舞い込んで来た。先月の日経紙オピニオン頁ではハイブランドの雄ジョルジオ・アルマーニ氏が新型コロナ禍でのファッション業界についてコメントを出していたが、当に今は業界の慣習を見直すべく課されたストレステストの真っ只中なのかもしれない。


保険彼是

今日も昼間の外出が逡巡される暑さであったが、太平洋高気圧の影響で関東甲信では連日にわたり最高気温が40度に迫る記念な暑さとなっている。東京都心でも最高気温が35度を超えて今年13回目の猛暑日となり、1995年、2010年と並び年間の猛暑日の最多記録となったが、この猛暑で「熱中症保険」の加入件数が急増しているという。

俄かに出て来た保険の類といえばこのコロナ禍で一躍脚光を浴び当欄でも取り上げた事のある「コロナ保険」が記憶に新しいが、当日申し込み直後から適用になるというPayPay保険サービスが提供する熱中症お見舞金など既に真夏日を記録した6月下旬には前週比で約6倍にもなったそう。

ところで昨日は3年ぶりに青森のねぶた祭りが再開されたように全国で祭りの再開を見に行く向きも多いと思うが、2月にペイペイアプリで手軽に契約出来るコロナ保険で爆発的な加入件数を記録した損保ジャパン系では旅行の出発前から旅行先での感染というケースまでカバーした「コロナ安心旅行保険」なるモノが販売されこれまた先月は月初比で契約件数が7倍に急増したという。

コロナ保険では想定を上回る支払いから販売停止に追い込まれた向きや、保険金の大幅減額を止む無くされ中には関東財務局から業務改善命令を受けた向きも最近ではあったが、次々と打ち出される俄かお手軽保険はこれら踏まえた万全な商品設計になっているのだろうか?商機と勝算を巡る駆け引きは各社まだまだ続きそうだ。


急務の課題

ちょうど一週間前に当欄で取り上げた最低賃金を巡る厚生労働省の審議会だが、企業が労働者に支払うべき今年度の最低賃金の目安を現在から31円引き上げて全国平均で時給961円とする事が決まった。上昇率は3.3%となり昨年度の引き上げ額28円を上回って過去最大を更新することとなったが、それでもなお政府目標とした1000円の大台には殆どの地域で届かないか。

今年の議論は物価高の影響で労働者側と経営者側では引き上げ額等の主張に隔たりがあり時間がかかったが、先に書いたように原材料の値上がり分を製品価格に転嫁し切れていない中小企業に労働者の割合は集中しておりなかなか厳しい。言うまでも無く賃上げの原資は労働生産性という事になるが、日本の労働生産性はG7中で最下位という状況も変わらないまま。

長引いたデフレで製品やサービスの付加価値が高まらず、景気悪化時に落とし難い所定内給与の引き上げにも慎重で賃上げを進める余力は乏しい構図だ。下請け等で立場の弱い中小企業など企業間での従前の商習慣を見直し物価高を転嫁し易い仕組み作り等々、各企業が最低賃金を払えるだけの環境の後押しなど根本の課題に向き合う必要があるか。


葉月の値上げ

早いもので週末には立秋を迎える葉月入りだが、今月も食品を中心に値上げの波が加速する。本日納品分からでは味の素冷凍食品が家庭用製品47品目を約6~14%の値上げ、この冷凍食品ではニチレイフーズも本日納品分から家庭用冷凍食品の一部を約8~20%値上げし、日清製粉ウェルナもパスタやパスタソースを約2~8%値上げする。

他にも馴染の深いところで江崎グリコのビスコや東ハトのキャラメルコーン等がステルス値上げを併せて実施するほか、電気代も大手4社で更に揃って値上がりし東電では平均モデル料金で前月比247円増、前年同期比では2000円以上のアップとなり、6月に挙げた大手航空会社のサーチャージも過去最高の水準となる。

また街ではファミマも中旬以降に人気商品ファミチキの値上げに踏み切るものの、ココは明日から3週間にわたり惣菜やサンドイッチ類など全20商品を値段据え置きで中身を40%増量する「逆ステルス」?のようなキャンペーンを実施する。既にローソンが定期的に実施しているキャンペーンだが、消費者に如何に受け入れられるかコンビニ各社も戦略が問われる。

帝国データバンク調べでは上場する主要飲食料品メーカーで7月末までに累計1万8532品目の値上げが判明、このうち8月単月での値上げは2431品目に上り単月で初めて2000品目を越えることとなる。このペースで推移すると年内の累計値上げ品目は今月中に2万品目超えが確実視されるが、年初の値上げ実施組も円安を背景とした再再値上げ等が秋以降に集中しているだけにまだまだ身構える構図が続くか。


還元の軸足

さて、先週の日経紙投資情報面にて「トヨタ、株分割で31万人増」と題し、東京証券取引所の株式分布調査で2021年度の延べ個人株主数が手厚い株主優待や高配当利回りなどを背景に、日経平均が下落する中でも好機と見た買いを集め8年連続で増加する事となり過去最多となった旨の記事を見た。

毎年日経紙では年初めに恒例の「経営者が占う」シリーズがあるが、その中の今年の有望銘柄の頁では判で押したようにベストスリーに入って来る表題のトヨタ自動車は誰もが知っている優等生銘柄だが、如何せん単元購入単価が人によってはこれまで逡巡する金額であったが5株の分割実施で一気に手が届き易い存在になった事で個人株主増加ランキング1位となっている。

このパターンでは他にTDK等も挙げられていたが、今年は低PERかつ高配当利回りの海運株等も分割実施のパターンで増加組に入って来る事が予想される。斯様に手が届き易くなるケースの他には株主優待もまた重要なポイントで、同ランキング3位のキリンHD、9位のANAHDに同10位のJAL、同12位のオリックス等はどれも優待狙いといえる。

ただオリックスは好評だったカタログギフトを2024年3月末時点の株主送付で最後にするほか、同18位のJTも食品詰め合わせを廃止するなど優待廃止組もこのランクインしている中から出ている。JT等は優待廃止でもなお高配当という武器があるが、何れにしろ先の東証の市場再編での基準株主数引き下げの影響もあり今後は還元の軸足も配当等に移ってゆく事になるか。


価値と価格

本日の日経紙総合面には「鉄道運賃 変動制に」と題し、国土交通省が時間帯によって価格を変える所謂「ダイナミックプライシング」の導入に向け、鉄道各社が運賃を変えやすくするための法改正など制度設計に入る旨の記事があった。通勤時などの混雑緩和は長年の社会的課題となっているだけに斯様な柔軟性を持たせる部分で少し前進の期待がかかるか。

このダイナミックプライシングは既にこうした交通インフラの分野では航空会社や高速バスなどに導入され広く知られているところだが、他にも東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどレジャー施設からホテルの予約サービス、身近なところではアマゾン等のECまで幅広く導入されている。

近年ではこの動きはBtoBからCtoCサービスにまで広がりを見せてきているが、とりわけこのコロナ禍では行動様式の変化がこれまでとは違って顕著なだけにパラダイムシフトが求められ、社会の変化と共にこれまで以上に価格の在り方というモノが今後もますます変って来るのは想像に難くないか。


双方乖離の審議会

厚生労働省の審議会は昨日から企業で働く全ての労働者の最低賃金を決める協議を行っていたが、果たして労使双方の主張には隔たりがあり合意する事が出来ないまま次の日程も決まらないという異例の事態になっている。最低賃金に絡んでは本日の日経紙総合面でも取り上げていたが、欧米に比べると本邦の水準はまだ大きく見劣りするのが現状だ。

今年度の協議は物価高を背景に、労働者側が生活費の上昇等を訴えて賃金の大幅な引き上げを求める一方、経営者側は原材料費の高騰等が中小企業の経営に悪影響を与えているとしてこれに難色を示している構図となっている。確かに原料費高騰を背景に値上げが行われているものの、実際は一部転嫁に過ぎず賃上げ出来るほどこれが為されているかといったら甚だ心許ない。

上記の通り日経紙では「最低賃金、欧米に見劣り」と題していたが、確かに世界中が賃上げするなかその名目年間賃金は日本だけが横這い推移となっている。毎年3%の引き上げが続けば24年度には政府が目指す水準に近付く云々も記事にあったが、日本の労働者の約7割が中小企業に勤めているワケでそうしたところにコンスタントに3%賃上げの余裕はないのが現状か。昨日取り上げた日銀の継続緩和も虚しく見えて来るものだが、税制等含めた政府支援は喫緊の課題か。


其々の政策

さて、周知の通り先週はECBが理事会で11年振りの利上げを決めているが、先月に0.25%という予告をしていたもののインフレ加速を受け果たして実にその2倍にあたる0.5%という結果となった。一方で同じ日に日銀は金融政策決定会合で予想通りというべきか大規模緩和を維持する方針を示している。

既に日銀のこうした政策の限界を見込んだ外人投資家の国債売りにも拍車がかかっており、日本証券業協会の統計では6月の国債売りはこれまで過去最大であった4月の2兆7000億円を上回る4兆5839億円を記録している。確かに日銀の国債買いは理論上無制限に可能ではあるものの、何時の日か出口に向かわないといけないのは明白で根比べの行方は如何に。

一方で円安が収益を圧迫している一部の企業などからは緩和策の修正を指摘する声も上がっているが、会見で日銀総裁は金利を引き上げるつもりは全く無いとし、金利を一寸上げたからといってそれだけで円安が止まるかというものは到底考えられないとも発言していたが、確かにECBの利上げがコンセンサスとなっていた今月中旬にユーロは対ドル20年ぶりのパリティ割れを演じている。

そうなるとドルが強いという事になるワケだが、いずれにせよ見えてきた自身の退任まで引くに引けぬジレンマの展開がまだ続くのは想像に難くなく、目先は明後日のFOMCの金融政策発表での利上げ幅やFRB議長の定例記者会見ではどういったメッセージを出してくるのかこの辺にも注目したいところ。


土用の丑2022

さてこの週末は「一の丑」だが、今年は周知の通り梅雨明けが殊の外早く加えて酷暑という事もあり丑の日のウナギ商戦も各所で盛り上がっている。また一の丑が土曜日でコロナ禍のなか家族指向が強まっていることで、大手スーパー等では複数人でシェア出来る特大サイズの蒲焼を過去最大で用意したほか白焼きも去年の5倍に増やしたが、既に先月段階で予約数は去年を10%以上上回っているという。

とはいえ今年はシラスウナギの漁獲量が昨年比で30%超以上減った為に、仕入れ値は昨年比で約50%高いとか。卸売市場での平均価格もキロあたり前年比で20%以上高くなっており一部専門店ではGW明けから値上げに踏み切った向きもある。ちなみに昨年の丑の日当日には日経平均が冴えない中を需要期待から吉野家やG-FACTORY等ウナギ関連株が逆行高を演じていたが、今年は先の三連休前に吉野家が年初来高値を更新する一方でG-FACTORYは年初来安値を更新と明暗であった。

ところでかつて東証マザーズに上場していた発電所建設のエナリスは発電時の温水でウナギの養殖事業に進出と報じられた時期があったが、近年北関東の一部太陽光発電所建設会社も太陽光発電を利用したウナギ養殖を始めている。ウナギ相場を読むのもなかなか難しいが、電気のコストが大幅に安く低価格でウナギの提供が可能になるという。これら確かに二酸化炭素の排出もゼロで環境にも優しく、ESGにも適っている事で今後裾野の広がりも期待出来るか。


2次入札へ

本日の日経紙総合面では東芝の再編案について1次入札の株式非公開化と上場維持を含む10件以上の再編案の応募から、JIP(日本産業パートナーズ)はじめ米ベインキャピタル、欧州のCVCキャピタル・パートナーズ、カナダのブルックフィールドの4陣営が2次入札に進んだ旨の記事があった。

非公開化を提案しているアジア系の一部ファンドは1株7000円という高額な買収価格を提示し逆にこれが資金的に実現性に乏しいとの理由で2次へ進めなかった模様だが、意外?にも応募さえしなかった米KKRは買収ありきのプレミアムが1年以上ついた実態以上の株価に適正な買収価格を提示出来る状態ではないとしている。

いずれにせよ今後2次入札に進む4陣営は詳細なデューデリを始めより実現性の高い再編案を絞り込んでゆく事になるが、ファンド間や事業会社を含めた連携が進み新たな枠組みの中で離脱したファンドの再合流等の可能性もあるという。何れにせよ原発から量子技術まで国の安全保障の一翼を担い、他とは一線を画す側面を持つ企業だけに通常買収に比べ再編の枠組みは困難を極めるのは想像に難くないか。


G7中最下位の現実

さて、世界経済フォーラムでは政治参加、経済、教育、医療など四つの分野で各国の男女格差を分析し毎年報告書を纏めているが、先週13日に発表された2022年度版では日本のジェンダーギャップ指数が146ヵ国中で116位であった。昨年の120位からは僅かに順位を上げたものの、前回に続いてG7(主要7ヵ国)の中では最下位と何とも情けない順位となっている。

全4分野の内訳のうち1位に輝いた教育水準や、健康と生存の医療へのアクセス評価は63位と高かったものの、政治参加は139位と下から8番目、経済では女性管理職の少なさや収入格差が足を引っ張り121位と下から26番目となり足を引っ張った。当欄でも女性管理職比率については度々触れてきたが、近年漸増傾向にあるとはいえ管理職の女性比率は未だ130位に甘んじている。

また収入格差に絡んでは政府が今月から男女賃金格差のディスクロを大企業に義務付ける事を決めたが、外部からはなかなか見え難い男女の格差の存在が数字でもって明らかになればその是正を促すある種の圧力になるだろうか。毎度の事ながら上位の面子は北欧が常連となっているが、組織の成長には多様性が欠かせないのは今やコンセンサスとなっており世界標準に日本が少しでも近づくのは何時の日か今後も注目しておきたい。